森と花の国の王子

あーす。

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大国オーデ・フォール

ラステルの提案

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 エルデリオンは一緒に眠った、女官に揺り起こされ、慌てて衣服を着て、ロクに挨拶もせず部屋を飛び出し、オレシニォン西の客用離宮に向かって走り出す。

共同の居間に辿り着くと、皆食堂に居るらしく、賑わしい声がアーチ型の仕切りの向こうの、食堂から聞こえた。

背後、召使いに
「お衣装を、整えましょうか?
お着替えになられますよね?」
と尋ねられ、頷いて自室へ駆け込む。

間もなく、やっぱり男らしく見える紺の上着では無く、クリーム色の華美な上着を選んで着ると、おもむろに食堂へと、向かった。

まだ食事半ばのようで、デルデロッテに開いた横を指し示され、腰を下ろすと。
ラステルが笑顔でエルデリオンに勧める。

「レジィリアンス殿の、希望をお聞きしていたところです。
剣を習いたいとか。
それで…」
エルデリオンはつい、フォークとスプーンを取り上げ、反射的に言葉を返す。
「デルデロッテはたいそう、教え上手だ」

けれど途端、言葉を途切れさせたままのラステルと、横のデルデロッテに睨まれ、ロットバルトにこほん!こほん!とわざとらしい咳払いをされ、口に運ぶフォークの手を止め、ラステルを見つめる。
「…貴方が剣の、達人で。
教え方もたいへんお上手だと。
勧めていたんですが、デルデロッテに頼むべきですか?!」
ラステルの言葉の最後の方は、怒り混じり。

エルデリオンは折角のラステルの気遣いを台無しにし、気まずい表情で、フォークを持ち上げた手を止めたまま、俯く。

デルデロッテがナプキンで口元を拭い、エルデリオンを軽く睨んで囁く。
「私では背が高すぎて。
レジィリアンス殿と剣を合わせるのに苦労するので。
辞退したい」

エルデリオンはほっとすると、そっ…と、レジィリアンスを見つめる。
天井からの朝陽をその身に受け、光にぼやけた愛らしくも美しいレジィリアンスは、昨日なんかより更に倍以上美しく見え、エルデリオンはつい自分が、女官を彼だと思い、四人相手に次々と、激しく突き続けた事を思い返した。

が、デルデロッテの忠告通り、しっかりヌいたせいか…。
以前より興奮状態はかなり抑えられていた。

「私で良ければ…お教え致します」
いつもの…さらりとした紳士口調で、レジィリアンスに告げる事が出来た。

レジィリアンスはそんなエルデリオンを、ほっとしたように見つめ…そして、ゆっくり表情を、笑顔に変える。

「ほんとですか?!」

けれどレジィリアンスは、エルデリオンと剣を交わした、出会った初日に。
森の中で彼に唇を奪われた事を、思い返す。

恥じらうように俯くと、小声で尋ねた。
「…あの…あの時貴方は、私を少女だと…思ってらした?」

不思議だったが、それがいつの事の話か。
エルデリオンは直ぐに理解出来、笑顔で頷く。
「なんてお美しい少女かと。
てっきり…あまり表に出られない、深窓の令嬢と、勘違い致しました」

ロットバルトもラステルも…デルデロッテから聞き、初回にエルデリオンがレジィリアンスの唇を奪った事を、知っていた。
なので相手が少女なら、怒られながらも内心は好かれ、大恋愛に発展したろうな。
と、揃ってため息を吐く。

レジィリアンスが俯くのを見て、エルデリオンは直ぐ言葉を足した。
「あの時は…少女と間違えてしまって…本当に、申し訳ございません。
少年と、知っていたなら…」
エルデリオンはその後の言葉が、思いつかなかったので、レジィリアンスが口を開き言葉を発し、救われた。

「…あの…。
でも今度は、ちゃんと少年として…剣をお教え頂ける?」
エルデリオンは笑顔で請け負った。
「勿論…!
それに、ちゃんと貴方が扱える大きさと重さの、練習用の剣もご用意致しますから」

それを聞いて、レジィはぱっ!と顔を輝かせた。

ラステルは、素早く告げる。
「エウロペ殿はお国の情勢について、使者を送りたいとの事で、私と共に宮廷の策謀室へとこの後、出かけるので。
エリューン殿とテリュス殿が付き添われます」

エルデリオンは言い渡され、けれどエリューンに視線を送る、勇気は無かった。

ラステルはにっこりレジィリアンスに微笑むと
「では直ぐ、貴方の手に馴染む剣を用意致します。
ここに来る途中の、西庭園をお使い下さい。
王宮の庭園ですから安全ですし、剣の練習の出来る、広い場所もございます」

そしてエルデリオンに振り向き、念押すように頷く。

エルデリオンはそこは。
宮廷の女官や貴族の子弟らが、休憩用に使う場所だと思い出す。
…つまりレジィリアンスを、他の宮廷人らに、会わせる機会を作る。
と言う魂胆だった。

食後、レジィリアンスは仕立ての良い白いシャツに白いベスト。
茶のズボンとブーツ姿で、エルデリオンを横に。
テリュスとエリューン。
そしてデルデロッテと連れだって、玄関ホールを出た。
渡り廊下を外れ、見事な庭園の、奥へ続く小道を歩く。

デルデロッテはギンギンと、エルデリオンの背に鋭い琥珀色の瞳を向けるエリューンに、少し背を屈め、囁きかける。
「そう、睨まないで。
どの道レジィリアンス殿が、エルデリオンが怖いと、貴方に縋り付いた時点で、エルデリオンの剣の講師の資格は、剥奪されます」

エリューンはそううそぶく、背の高い美丈夫を首を傾げ見上げた。
濃紺の瞳の流し目。
ずいぶん麗しい…けれど一旦剣を抜けば、凄腕の美男。

エリューンはぷい。
と顔を背け、素っ気無く言葉を返す。
「…そういう色目は。
女性には通用するでしょうが…」
けれどデルデロッテは、快活に笑って言った。
「ああ…失礼。
つい顔立ちの整った美青年に、色目を送る癖がついてしまって」

テリュスは宮廷一の美丈夫に、“美青年”と呼ばれたエリューンを見た。
確かに美しい顔立ちだったけれど、シュテフザイン森と花の王国では逞しく男らしい男が一番、もてはやされる。
顔が綺麗なだけで、木が切り倒せなければ。
単なる軟弱男。

現にテリュスなんかは。
髭を剃ればまるっきり女顔の、愛らしい系の美青年だったから。
舐められないため、鼻髭と口髭を生やしまくっていた。

やがて小道の先に、広い芝生が見えて来ると、デルデロッテは少し手前の、白く洒落た庭園椅子に、エリューンとテリュスを促した。

間もなく召使いが、皆の居る反対側の小道から姿を現し、エルデリオンの剣とレジィリアンスの剣を二本ずつ。
美しい金飾りの剣立てに刺し、運び入れる。

エルデリオンの横に置いて一礼すると、庭園椅子に座るデルデロッテ、エリューン、テリュスの前にやって来て
「お飲み物をお運び致します。
ご希望はございますか?」
と丁寧に、尋ねた。
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