森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

デルデロッテの従者になりたての頃の事情

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 テリュスが呆けて尋ねる。
「ロットバルトさんは…デルデロッテがてっとり早く昇進できるチャンスがあるの、羨ましかった?」

デルデが直ぐ、呟く。
「そうじゃない…」
言い淀むデルデの後を、ラステルが継いだ。
「デルデは最年少で、ロクな鍛錬も積まず特例で従者になったので。
年上の従者らの、当たりがかなりキツくて。
殆どの雑用や、キツくて本来交代でするような仕事を、一人でやらされて。
ロットバルトはいつもデルデに同情し、こっそり仕事を手伝ってたから」

それを聞いて、テリュスもエリューンも微笑む。
「それなら、ロットバルトさんっぽくて安心だね」
テリュスが言うと、エリューンも頷く。
「他人の昇進に、嫉妬するように見えなかったから。
納得ですね」

ロットバルトはため息を吐く。
「…毎度バレては、怒られたな。
鍛錬不足だから鍛えてやってるのに、甘やかすな。と。
だがあれは鍛錬じゃ無く、明らかに虐めに…俺は思えた」

ラステルは思い出し、くすくす笑う。
「怒られても、堂々と年上の強面に喰ってかかってましたよね。
大した度胸だった」

テリュスとエリューンだけでなく。
レジィリアンスまで、ロットバルトを尊敬の眼差しで見つめ始める。

が、ロットバルトだけでなく、デルデロッテまでが。
揃って顔を下げている。

ロットバルトは顔下げたまま、小声で囁いた。
「…意見した俺が、凄まじい声で怒鳴り返されてると。
君は毎度巧みに、上の連中を言いくるめ。
デルデロッテのキツい仕事を、減らしてたな。
正面切って意見するのが、馬鹿らしい気分にさせられたよ」

デルデロッテも、無言で頷く。

エリューンとテリュスも顔を見合わせ、顔を下げかけた。
が、ラステルは肩すくめる。

「貴方の、正面切っての申し入れがあったから。
私の意見が通ったんですよ。
貴方の迫力に、年上の強面どもは内心ビビってたけど。
自分達がらくしたい本音は、バレたくないわ、年上の体面は保ちたいわで。
意見を曲げたくても、曲げられなかったから」

デルデも頷く。
「渡りに船。
私を虐めてると、思われたくなくて。
ラステルの意見に懐柔かいじゅうされた」

テリュスが思わずラステルに尋ねる。
「なんて、懐柔したんです?」

ラステルは笑った。
「“デルデは王子のお気に入りですから。
万一王子が見たら…貴方方は好意で鍛えてると言っても、ロットバルトの言ったように、虐めてると。
王子に取られかねませんから。
そういった仕事は、減らしてはどうです?"」

デルデロッテは頷き、ロットバルトは顔を下げて呟く。
「微塵も、曇りも他意も無い、この陽気で爽やかな笑顔で提言した」

テリュスは頷く。
「なる程」
レジィリアンスはラステルを見て、感心したように呟いた。
「曇りも他意も無い笑顔が…功を奏したんですね」

エリューンはレジィに振り向くと
「そこ?!」
と叫んだ。

途端、エウロペ始め、ロットバルトもデルデロッテもラステルも、テリュスもが笑い。

笑われたエリューンは頬を染め、レジィリアンスも楽しそうに笑い声を立てた。


食後、ラステルがデルデに寄ると
「昼前には、西の王宮内コテージ、トラーテルの準備が整うから。
昼食はそちらに用意させる。
出かけられる準備をして、玄関広間に二点鐘後、来てくれる?」
と告げ、部屋を出て行った。

レジィはエウロペ、テリュス、エリューンとそれは楽しそうに話してたけど。
やはり突然、内股になって、頬を真っ赤にするから。
エウロペが二人に告げる。

「さて。
そろそろ失礼しよう」

テリュスとエリューンは気づき、揃って頷く。
テリュスは扉まで見送るレジィに振り向くと
「直ぐ後で」
と笑顔で告げ、レジィの羞恥心を軽くした。

レジィが振り向くと、デルデは寄って来る。
それでレジィリアンスはデルデに抱きついて、囁いた。

「…僕…変………」

デルデはレジィの背に腕を回し、口を開こうとして…躊躇う。
けど結局、言って聞かせた。

「それ…その年では、確かにちょっと早いけど。
もう二年したら、当たり前になるから」

レジィが、びっくりして顔上げる。
「…っえっ?!」

デルデはため息交じりに囁く。
「もう、そんな年頃は。
股間が衣服に擦れるだけで…ヤバくってねぇ…。
けど私の場合、王子の護衛で、場は外せない。
周囲はお偉いさんだらけ。
何度、困りまくったか」

レジィリアンスは真剣に、長身のデルデロッテを見上げ、問う。
「どうしたの?!
そんな時!」

「…ええと…。
出来るだけ、色っぽくない事を考えて…収まるのを待った。
けどあんまり一生懸命、色っぽく無い事に集中してたから。
毎度、命令を聞きそびれて…かなりな頻度で、怒られた」

レジィリアンスは目を見開いた後。
俯く。
「えっ…と………」

一生懸命、色っぽく無い事を考えようとしてるのが。
デルデにも解った。

「(…でも今は。
薬の影響だから…簡単には無理だろうけど)」

そう思いつつも、レジィリアンスが自分のガウンに指を食い込ませながら、一生懸命色っぽくナイ事を考えようとしてるので。
くす…と笑い、助け船を出す。

「ほら。
さっき食事中は。
気が紛れてたから、大丈夫だったろう?
ほっとして…気が抜けたら…ならなかった?」

レジィリアンスは真剣な表情で、こくん。と頷く。

「(…ホントに素直…)
ともかく、随分体が汚れてるから。
湯に浸かってみない?」

レジィはデルデの提案に、こくん。と頷いて言った。
「そう言えば、体がベトベト…」

デルデもため息交じりに、囁いた。
「…だよね」


浴室は広くて、半分は屋根があり、その向こうは屋外だった。

「…陽が煌めいてる…!」

レジィリアンスは陽が差し込む場所の湯面が、きらきら光ってるのに瞳を輝かせ、ガウンを脱ぎ捨てる。

けど駆け出しかけて、咄嗟屈んだ。

裸で頬を真っ赤にし、ガウンを脱いだ裸のデルデを見ると、更に頬を染める。

デルデロッテは笑った。
「そう言えば、裸で抱き合ってなかったっけ。
恥ずかしい?」

レジィは屈み、股間を隠しながら、こくん。と頷く。
金の長い髪が肩と背を覆い、とても綺麗な顔立ちのレジィが、恥ずかしがって股間を隠そうとする姿は、あんまり可愛らしく見えて。
デルデは微笑んだ。

「うーん、そんなに意識されると、嬉しくなるな」

レジィはまた、きょとん!とした。
「…嬉し…いの?」

デルデはレジィの横を通り過ぎ、さっさと湯船に入り、ざばざばと、屋根の無い方へと歩き出して振り向く。
「そりゃ。
男として意識されるの、嬉しいよ。
君も私ぐらいの年になれば、解る。
一人前の男として、見られてる証拠だから」

デルデがあんまり快活な笑顔でそう言うから。
レジィはまだ、内股だったけど。
歩き始めて湯船に浸かり、デルデの後を追って、陽の差す場所へと。

湯の中を、歩き始めた。
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