182 / 418
記憶を無くしたレジィリアンス
コテージの朝
しおりを挟む
トントン!
ノックの音がして、デルデが
「どうした?」
と声かけると、扉は少し開き
「こちらの居間に、朝食の準備をさせて頂きました」
と召使いが告げる。
デルデは身を跳ね起こすと、ゆっくり身を起こすレジィに囁く。
「…実は、ぺこぺこなんだ」
レジィはくすっ!と笑うと、寝台から降りて手を差し出す、デルデの手に掴まって、寝台から出た。
部屋履きを履いて居間の扉を開けると。
既にエウロペも、テリュスもエリューンもが。
ソファに座って、がっついてて。
ラステルもロットバルトまでもが居て、食事してて。
皆が一斉に振り返る。
レジィリアンスは自分だけが葡萄茶色のガウン姿で、見つめられて恥じ入り、慌ててしっかり、ガウンの前に手を添え、隙間を閉じる。
恥ずかしげに俯くレジィリアンスは、艶やかな色香を纏って見え。
ロットバルトは目を見開き、グラスを持つ手を宙に浮かせたまま、見入って固まった。
が、テリュスに肘で小突かれ、はっ!と我に返る。
デルデも濃紺のガウン姿で、レジィの肩に軽く触れ、ソファへと押す。
レジィは横の椅子に座るエウロペを、チラ…と見ると、とても嬉しそうに微笑んだ。
エウロペも直ぐ、素晴らしい笑顔をレジィリアンスに披露する。
デルデはレジィの、エウロペとは反対横に腰掛けると、ラステルから肉と野菜の乗った皿を手渡され、直ぐフォークで突き刺して、口に運んだ。
レジィがテリュスとエリューンに視線を向けた時。
二人共、とても嬉しそうに微笑むので、レジィはすっかり恥ずかしさを忘れた。
「デルデにいっぱい、話をして貰った!」
はしゃいで、シュテフザインの皆に報告する。
ぶっっ!
突然食べた物を吹く、厳格そうなロットバルトに…。
一斉に皆が、視線を送る。
ロットバルトは吹いた食べ物で胸を汚し、デルデロッテにナプキンを手渡され、受け取りながら…汚れた胸を拭きつつ、しどろもどる。
「…デルデロッテって…彼の事が、分かってるんですね?」
エウロペも。
テリュスも、エリューンもがレジィリアンスに視線を送る中。
レジィの代わりに、デルデロッテが説明した。
「私だけで無く、君もラステルも、思い出した」
レジィはこくん。と頷く。
が、暫く思い巡らすように俯いた後。
顔を上げてロットバルトとラステルに告げる。
「…でも…まだ、顔と名前だけ。
話した内容とかは…え…と…。
頭の中で、貴方方の口元は動いてるのに…。
何て言ってるのか、わからなくって…。
もう一人…とても綺麗で高貴な…人が思い浮かび始めると、頭痛が酷くて…。
それで………」
エウロペが直ぐ
「それだけ思い出せれば、上等だ!」
とレジィを褒めた。
けれどロットバルトは、汚れた胸を拭き終わった後、複雑な表情を見せた。
「…つまり…。
でも貴方は、私がどんな人物だと思うんです?」
尋ねるロットバルトに、レジィは微笑む。
「とても立派で…威厳のある方だけど、とってもお優しい方…。
間違ってます?」
ロットバルトは照れると
「優しい…そうですか?」
とテリュスやエリューンに、首振って尋ねる。
テリュスはフォークを口に運ぶと
「うーん…。
優しいかもだけど」
テリュスが言った後、エリューンも
「意外と…抜けてますよね?」
と相づち打ち、二人は頷き合って、ロットバルトの顔を下げさせた。
エウロペはレジィが、そんな三人の様子を見て、くすくす笑うのを見た。
やつれが抜け、明るく輝いて見え、目を見開いてデルデロッテを見る。
「…エルデリオンが大変な時。
ロットバルトとラステルが、決まって君に彼を押しつける理由が、凄く分かった」
デルデロッテは興味が無いように、またフォークに肉を刺しながら、尋ねる。
「ほう…。
どんな風に?」
肉を口に運びつつ、デルデに濃紺の瞳で見つめられ、エウロペは気づいてレジィリアンスに、視線を振る。
テリュスも唸った。
「記憶が朧で、どこか不安そうだったのに。
昨夜は」
エリューンも頷く。
「今は不安げな様子が、まるで消えてる」
レジィリアンスは笑顔で、エウロペ始め、テリュスやエリューンに告げた。
「この国では、注意しないと少年でも犯されるんだって!」
エウロペは顔を下げ、テリュスとエリューンはそんな物騒な事を笑顔で言う、レジィリアンスを凝視した。
ラステルは呆れて呟く。
「…デルデがそう言った?」
レジィリアンスは頷く。
「デルデも八歳の頃、犯されて。
お父さんが凄い勢いで、悪い奴らを蹴散らして助けたんだ!!!」
テリュスとエリューンが、びっくりしたように。
今では一番長身の美丈夫を、呆けて眺める。
それを見てレジィは困惑し、小声で横のデルデに囁いた。
「言って、まずかった?」
デルデは無言で口をもぐもぐさせながら、フォークでロットバルトとラステルを指し示す。
二人は全く気にせず、食事をしていた。
ラステルは苦笑する。
「そりゃ…デルデが年少の頃なら。
当然、ありそうですよね?」
ロットバルトも頷く。
「逆に男との経験ある男の方が。
女性の気持ちが分かり、喜ばせ方も知ってるので。
モテまくるのが、我が国の不思議」
デルデは平気で言い返す。
「ツボを外し、相手の女性がまるで喜んでナイのに。
自分はテクニシャンとか自慢する男は。
決まって少年の頃ですら、男に相手にされない男なのも。
確かに、我が国の不思議ですよね」
ロットバルトはまた、食べ物を喉に詰まらせそうに成り、慌てて水のグラスに手を伸ばしながらぼやく。
「俺はテクニシャンだと、自慢してない」
デルデは静かに言い返す。
「あなたの事だなんて、言ってない。
が、貴方は少年の頃、同年の華奢で可愛い顔の少年達が。
こぞって犯された悲劇に出会うのを。
自分は関係無い。
と横目で見てたのは、事実でしょう?」
ロットバルトはやっと水を飲んで、喉に詰まりかけた食べ物を飲み込み、頷く。
「…私には無縁の世界だった」
テリュスとエリューンは、顔を見合わす。
「…無縁だったな」
テリュスの言葉に、エリューンも頷く。
「殺そうとする男には、たくさん会いましたけどね」
レジィリアンスが、ロットバルトとラステルに尋ねる。
「…みんな、10才以下?」
ラステルもロットバルトも、同時に頷く。
レジィリアンスはぽつり…と呟く。
「じゃ、僕なんてずっとマシ…」
言った途端、全員がそう呟いた、レジィリアンスを凝視した。
皆が黙り込むので、レジィは顔を上げる。
そして、暫く思い巡らした後。
「…ハッキリは思い出せないんだけど…。
頭が痛くなるから。
でもそんなに乱暴じゃ無くて…痛くも、血も、出てなかった気がする…」
ラステルが、すかさず聞いた。
「デルデロッテは…血が出たんですか?」
レジィは顔を上げる。
「お父さんの顔色が、真っ赤から一瞬で真っ青になるぐらい、血が出て…。
お父さん『死んじまう!!!』って動揺しきって、叫んだんだって」
ロットバルトは、ため息交じりに囁く。
「それで、従者の一員になって以来。
王子の護衛で舞踏会に出る度、あらゆるいい男の身分高い男達に口説かれ続けても。
首を縦に振らなかったんだな?」
デルデは眉間を寄せた。
「あれは違いますよ。
護衛の任の途中、男に口説かれたからって…場を外せます?」
ラステルが、朗らかに笑った。
「間違いなく、クビになる」
けれどロットバルトは顔を下げて言った。
「だが…ラウール大公、ジュウド公爵…。
誰もが王家の血を引く大金持ちで…しかも容姿端麗、尊敬もされてる。
王子の護衛より…そんな男達と付き合った方が。
もっと楽に、出世出来たのに」
デルデロッテは目を見開くレジィに、肩を竦めて言った。
「側で聞いてたロットバルトは、私が断ると毎度。
『もったいない』
と言わんばかりの、大きなため息を吐いていた」
レジィはまた、青い目をキラキラさせながら、楽しそうに笑った。
ノックの音がして、デルデが
「どうした?」
と声かけると、扉は少し開き
「こちらの居間に、朝食の準備をさせて頂きました」
と召使いが告げる。
デルデは身を跳ね起こすと、ゆっくり身を起こすレジィに囁く。
「…実は、ぺこぺこなんだ」
レジィはくすっ!と笑うと、寝台から降りて手を差し出す、デルデの手に掴まって、寝台から出た。
部屋履きを履いて居間の扉を開けると。
既にエウロペも、テリュスもエリューンもが。
ソファに座って、がっついてて。
ラステルもロットバルトまでもが居て、食事してて。
皆が一斉に振り返る。
レジィリアンスは自分だけが葡萄茶色のガウン姿で、見つめられて恥じ入り、慌ててしっかり、ガウンの前に手を添え、隙間を閉じる。
恥ずかしげに俯くレジィリアンスは、艶やかな色香を纏って見え。
ロットバルトは目を見開き、グラスを持つ手を宙に浮かせたまま、見入って固まった。
が、テリュスに肘で小突かれ、はっ!と我に返る。
デルデも濃紺のガウン姿で、レジィの肩に軽く触れ、ソファへと押す。
レジィは横の椅子に座るエウロペを、チラ…と見ると、とても嬉しそうに微笑んだ。
エウロペも直ぐ、素晴らしい笑顔をレジィリアンスに披露する。
デルデはレジィの、エウロペとは反対横に腰掛けると、ラステルから肉と野菜の乗った皿を手渡され、直ぐフォークで突き刺して、口に運んだ。
レジィがテリュスとエリューンに視線を向けた時。
二人共、とても嬉しそうに微笑むので、レジィはすっかり恥ずかしさを忘れた。
「デルデにいっぱい、話をして貰った!」
はしゃいで、シュテフザインの皆に報告する。
ぶっっ!
突然食べた物を吹く、厳格そうなロットバルトに…。
一斉に皆が、視線を送る。
ロットバルトは吹いた食べ物で胸を汚し、デルデロッテにナプキンを手渡され、受け取りながら…汚れた胸を拭きつつ、しどろもどる。
「…デルデロッテって…彼の事が、分かってるんですね?」
エウロペも。
テリュスも、エリューンもがレジィリアンスに視線を送る中。
レジィの代わりに、デルデロッテが説明した。
「私だけで無く、君もラステルも、思い出した」
レジィはこくん。と頷く。
が、暫く思い巡らすように俯いた後。
顔を上げてロットバルトとラステルに告げる。
「…でも…まだ、顔と名前だけ。
話した内容とかは…え…と…。
頭の中で、貴方方の口元は動いてるのに…。
何て言ってるのか、わからなくって…。
もう一人…とても綺麗で高貴な…人が思い浮かび始めると、頭痛が酷くて…。
それで………」
エウロペが直ぐ
「それだけ思い出せれば、上等だ!」
とレジィを褒めた。
けれどロットバルトは、汚れた胸を拭き終わった後、複雑な表情を見せた。
「…つまり…。
でも貴方は、私がどんな人物だと思うんです?」
尋ねるロットバルトに、レジィは微笑む。
「とても立派で…威厳のある方だけど、とってもお優しい方…。
間違ってます?」
ロットバルトは照れると
「優しい…そうですか?」
とテリュスやエリューンに、首振って尋ねる。
テリュスはフォークを口に運ぶと
「うーん…。
優しいかもだけど」
テリュスが言った後、エリューンも
「意外と…抜けてますよね?」
と相づち打ち、二人は頷き合って、ロットバルトの顔を下げさせた。
エウロペはレジィが、そんな三人の様子を見て、くすくす笑うのを見た。
やつれが抜け、明るく輝いて見え、目を見開いてデルデロッテを見る。
「…エルデリオンが大変な時。
ロットバルトとラステルが、決まって君に彼を押しつける理由が、凄く分かった」
デルデロッテは興味が無いように、またフォークに肉を刺しながら、尋ねる。
「ほう…。
どんな風に?」
肉を口に運びつつ、デルデに濃紺の瞳で見つめられ、エウロペは気づいてレジィリアンスに、視線を振る。
テリュスも唸った。
「記憶が朧で、どこか不安そうだったのに。
昨夜は」
エリューンも頷く。
「今は不安げな様子が、まるで消えてる」
レジィリアンスは笑顔で、エウロペ始め、テリュスやエリューンに告げた。
「この国では、注意しないと少年でも犯されるんだって!」
エウロペは顔を下げ、テリュスとエリューンはそんな物騒な事を笑顔で言う、レジィリアンスを凝視した。
ラステルは呆れて呟く。
「…デルデがそう言った?」
レジィリアンスは頷く。
「デルデも八歳の頃、犯されて。
お父さんが凄い勢いで、悪い奴らを蹴散らして助けたんだ!!!」
テリュスとエリューンが、びっくりしたように。
今では一番長身の美丈夫を、呆けて眺める。
それを見てレジィは困惑し、小声で横のデルデに囁いた。
「言って、まずかった?」
デルデは無言で口をもぐもぐさせながら、フォークでロットバルトとラステルを指し示す。
二人は全く気にせず、食事をしていた。
ラステルは苦笑する。
「そりゃ…デルデが年少の頃なら。
当然、ありそうですよね?」
ロットバルトも頷く。
「逆に男との経験ある男の方が。
女性の気持ちが分かり、喜ばせ方も知ってるので。
モテまくるのが、我が国の不思議」
デルデは平気で言い返す。
「ツボを外し、相手の女性がまるで喜んでナイのに。
自分はテクニシャンとか自慢する男は。
決まって少年の頃ですら、男に相手にされない男なのも。
確かに、我が国の不思議ですよね」
ロットバルトはまた、食べ物を喉に詰まらせそうに成り、慌てて水のグラスに手を伸ばしながらぼやく。
「俺はテクニシャンだと、自慢してない」
デルデは静かに言い返す。
「あなたの事だなんて、言ってない。
が、貴方は少年の頃、同年の華奢で可愛い顔の少年達が。
こぞって犯された悲劇に出会うのを。
自分は関係無い。
と横目で見てたのは、事実でしょう?」
ロットバルトはやっと水を飲んで、喉に詰まりかけた食べ物を飲み込み、頷く。
「…私には無縁の世界だった」
テリュスとエリューンは、顔を見合わす。
「…無縁だったな」
テリュスの言葉に、エリューンも頷く。
「殺そうとする男には、たくさん会いましたけどね」
レジィリアンスが、ロットバルトとラステルに尋ねる。
「…みんな、10才以下?」
ラステルもロットバルトも、同時に頷く。
レジィリアンスはぽつり…と呟く。
「じゃ、僕なんてずっとマシ…」
言った途端、全員がそう呟いた、レジィリアンスを凝視した。
皆が黙り込むので、レジィは顔を上げる。
そして、暫く思い巡らした後。
「…ハッキリは思い出せないんだけど…。
頭が痛くなるから。
でもそんなに乱暴じゃ無くて…痛くも、血も、出てなかった気がする…」
ラステルが、すかさず聞いた。
「デルデロッテは…血が出たんですか?」
レジィは顔を上げる。
「お父さんの顔色が、真っ赤から一瞬で真っ青になるぐらい、血が出て…。
お父さん『死んじまう!!!』って動揺しきって、叫んだんだって」
ロットバルトは、ため息交じりに囁く。
「それで、従者の一員になって以来。
王子の護衛で舞踏会に出る度、あらゆるいい男の身分高い男達に口説かれ続けても。
首を縦に振らなかったんだな?」
デルデは眉間を寄せた。
「あれは違いますよ。
護衛の任の途中、男に口説かれたからって…場を外せます?」
ラステルが、朗らかに笑った。
「間違いなく、クビになる」
けれどロットバルトは顔を下げて言った。
「だが…ラウール大公、ジュウド公爵…。
誰もが王家の血を引く大金持ちで…しかも容姿端麗、尊敬もされてる。
王子の護衛より…そんな男達と付き合った方が。
もっと楽に、出世出来たのに」
デルデロッテは目を見開くレジィに、肩を竦めて言った。
「側で聞いてたロットバルトは、私が断ると毎度。
『もったいない』
と言わんばかりの、大きなため息を吐いていた」
レジィはまた、青い目をキラキラさせながら、楽しそうに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる