森と花の国の王子

あーす。

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記憶を無くしたレジィリアンス

エルデリオンの計画

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 王妃はラステルに尋ねる。
トラーテル西のコテージを…レジィリアンス様の回復のため、使いたいとおっしゃってたけど。
準備はもうよろしくて?」

ラステルはにこやかに微笑むと
「許可を頂けて、本当に感謝しております」
と告げるので、王妃は本当に嬉しそうに笑った。

「レジィリアンス様には、お国の雰囲気を味わって頂いて…。
回復されると嬉しいんですけれど」

ラステルは請け負う。
「レジィリアンス様始め、従者の皆さんも。
とても気に入った様子。
落ち着かれて記憶が戻りましたら。
レジィリアンス様に王妃様の御好意を伝えますので」

王妃は心からラステルを信頼しきって、頷く。


王妃の部屋を退室したエルデリオンは、両側にラステルとロットバルトに付かれ、二人に尋ねた。

「…レジィ殿とシュテフザイン森と花の王国の従者らは…今トラーテル西のコテージに…もう着いてる?」

ラステルは頷く。
「お昼には、到着されて。
現在、寛いでいらっしゃる」
エルデリオンは囁く。
「ご挨拶したい」

ラステルとロットバルトは、エルデリオンを挟んで顔を見合わせる。
ロットバルトがおもむろに口を開く。
「エルデリオン。
レジィリアンスに拒絶された記憶はおありか?」

エルデリオンはロットバルトに振り向く。
「記憶はある。
だが…思い出しかけていると…」
ラステルは囁く。
「では、今朝のことは?」

途端、エルデリオンは青冷めて項垂れる。
「…湯殿で…レジィリアンス殿はデルデロッテと……」

ロットバルトが、顔を下げるエルデリオンを覗き込む。
「では、その後は…?」

エルデリオンはふ…と、顔を上げる。
「嫌な…夢を見ていたが…エウロペ殿が…」
ラステルは目を見開く。
「…殿が?」

「…助けてくれた」

ラステルはロットバルトに見つめられ、ため息を吐き出す。

「エルデリオン。
レジィリアンスはまだ、あなたの事を思い出していない」

エルデリオンは途端、項垂れる。
ラステルは畳みかけた。
「…貴方に国を連れ出された頃と。
さらわれた晩の記憶が戻らない。
デルデロッテの、名前と顔は思い出せても。
話した内容も覚えて無いんです」

エルデリオンは更に項垂れた。
「………オレシニォン西の客用離宮に、レジィ殿が戻られないのなら。
私は、城の自室へ戻る」

ラステルとロットバルトは顔を見合わせた。
「では、私達もそうします」

ラステルが告げると、ロットバルトも頷く。
エルデリオンは俯くと
「それで…ヨランダ伯を寄越してくれないか?」
と、小声で依頼した。

ロットバルトもラステルも、突然の提案に目を見開く。
ラステルがエルデリオンの意図を図りかね、尋ねた。
「確か少年相手の…性技の教授ですよね?貴方の」
ロットバルトも、エルデリオンの顔を覗き込む。
「…つまり…レジィは今、デルデロッテと寝てるから。
デルデより上手くなろうと?」

エルデリオンは頬染める。
「デルデより上手くなるなんて…どれだけ教授を受けようが、無理だろう…?」
そして、顔を上げてラステルに告げる。
「どうせ君には、いずれバレるから言うが。
私はレジィリアンス様の体験されたことが、つぶさに知りたい。
報告書を私の自室に、持って来てくれ。
レガートのした事…。
そして、侯爵とやらのした事も。
その後、私がトラーテル西のコテージに出向くのが、不都合なら。
エウロペ殿を…自室に寄越してくれ。
夕食後でいい」

「……………バレてませんよ?
何をする気です?」
ラステルに問われ、エルデリオンは顔を下げた。
「…ともかく、今言ったことを頼む」

ラステルは腑に落ちない表情で、一応頷く。

エルデリオンは気落ちした表情で、二人に告げた。
「私は部屋に戻ってる」

ラステルとロットバルトは、ふらつきながらも城の南翼。
四階の広いテラスに面した自室に、エルデリオンが戻って行くのを見守った。


テラスに続くエルデリオンの部屋は角にあり、南の掃き出し窓と東の掃き出し窓から、美しい庭園の広いテラスに出て行けた。

東の、テラスへと出て行ける部屋に、ロットバルトが。
その隣の、テラスに面していない小部屋に、デルデロッテの部屋。
そして南側の、テラスに続くエルデリオンの部屋の横。
書斎や客間のある広い部屋にラステルが。

王子と従者らの部屋がある一角は、出入り口は一つで扉前には見張り付き。
余所者よそものは、許可が無ければ入れない。
四階のテラスは高く、やはり忍び込むのは不可能。

非常用の階段は幾つかあった。
が、鍵は従者らが持っていて、普段は開けられること無く、掃除の者が入る程度。

エルデリオンは自室の居間の、ソファに腰掛ける。
客間、書斎、広い暖炉付き寝室。
浴室…。
寝室の続き部屋に衣装部屋。
その横に…いざと言う時の、隠れ部屋があった。

間もなくノックの音が聞こえ、ヨランダ伯が姿を見せる。
真っ直ぐの銀髪。
細いグレーの瞳の、細面で顔立ちの整った美男。
隙の無い所作。
銀刺繍が華やかな、白い上着と白いドレスシャツ。
体付きも、一見細く見えた。
が、筋肉質で鍛えられていることを、エルデリオンは知っていた。

ヨランダ伯の直ぐ後から、ノックと共にラステルがやって来て、室内に入って来ると真っ直ぐエルデリオンに近づき、報告書の羊皮紙を差し出す。

エルデリオンは受け取ると、ラステルに告げた。
「すまないけど、ヨランダ伯と話すので…」

ラステルは頷くと
「では場を外します」
そう軽く頭を下げるので、エルデリオンは羊皮紙の文字を目で追いながら、囁く。
「忙しい君が、わざわざ持って来なくとも…。
君にはたくさん、部下がいるのに」

ラステルは戸口に歩きながら振り向き、返事を返さず戸を開け、出て行った。

扉が閉じると。
エルデリオンはヨランダ伯を、隠し部屋へと案内する。
豪華絢爛な王子の部屋の中で、一番地味な部屋。
窓はあるけど開かず、その向こうは部屋に囲まれた中庭。
…つまりこの部屋では。
どれだけ声を上げても、人に聞こえない。
室内は明るかったが、レンガの壁。
質素なテーブルと質素な椅子。
物を置く木製の棚。

エルデリオンはヨランダ伯に、羊皮紙を見せる。
「…これをこの部屋で再現するには、何が必要だ?」

ヨランダ伯は手渡された羊皮紙を眺め、囁く。
「…薬が使われている。
強い媚薬だ。
薬坪が要る。
それに三人の犯す男」

エルデリオンは俯いた。
「男が一人でも…何とかなるか?」

ヨランダ伯は頷く。
「感覚だけを再現するのなら、道具を使えば」

エルデリオンは頷いて、指令した。
「その道具を用意し、ここに運び込んでくれ」

ヨランダ伯は口を開きかけ…言いたかった言葉を飲み込む。
「…以前同様…秘密厳守ですね?」

エルデリオンは頷く。
ヨランダ伯は請け負った。
「では隠してこっそり、運び入れます」

エルデリオンも請け負った。
「君と道具を運び入れる者は、手荷物検査をせず通すよう。
見張りに申し渡しておく」

ヨランダ伯はエルデリオンを見つめる。
「いつまでにご用意致しましょう?」
「直ぐに。
夕食前に済ませてくれ」
「御意」

ヨランダ伯は一礼して、部屋から出て行った。
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