森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

ラステルの促す決意

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 デルデロッテはノックの音に、ガウンを羽織る。
寝台から立ち上がり、横たわるエルデリオンに振り向くと、優しいキスをした。

エルデリオンの瞳は潤んでいて、デルデロッテは努めて微笑んで見せる。
“大丈夫”
そう言うように。

寝室を出、居間を通って扉を開けると、ラステルが断りも入れず入って来る。
「起きてて、良かった」

デルデはラステルの急襲に、無言で頷く。
ラステルは室内に入りると歩を止め、デルデロッテに振り向く。
「で?
エルデリオンと…やりまくった?」

突如問われ、デルデはじっ…と、ラステルを見た。
目が赤く、徹夜したのだと、なんとなく見て取れた。

「…もしかして、一睡もしてない?」
「寝ようとしたけど、その都度目が覚める。
いても経ってもいられず、ここに来た。
で?
やりまくったのか?」

デルデはため息吐いた。
「…エウロペ殿に…聞いた?」

ラステルは頷く。
「困ったら君に相談しろと勧めたのは、私だ。
君、隠してたろう?
エルデリオンに惚れてる事」
「言えないだろう?普通」

ラステルは暫く俯き、沈黙した後、顔を上げた。
「で、当然エルデリオンは君を受け入れた?」
「…振られて無いね。確かに」
「話せる?」
「エルデリオンと?
いいけど…。
多分彼は、恥ずかしがるな」
「じゃ、ここで待つから。
ガウンくらい、着せてきて」

デルデは頷いた。
が、戸口で振り向く。
「彼を説得するのか?」

ラステルはため息吐いた。
「彼から直接、気持ちを聞きたい。
君に思いっきり本気で可愛がられた相手が。
君に惚れない様子なんて、見た事無いから。
ただ、流されてるだけか。
本気で君に気持ちがあるのか」

「…もし、あったら?」
「王に報告する」
「何て?」
「結婚相手が見つかったと」

デルデロッテが戸口で棒立ちになるのを見て、ラステルは怒鳴った。
「レジィ殿を解放してやりたい!
今、お国が大変な時期だから!
国王だって、それは承知!」
「ええと…」
「君の気持ちを後押ししてやると言ってるんだ!」

ラステルは叫んだ後、デルデロッテを見て呆けた。
「…まさか反対されたら。
エルデリオンを連れて逃げる気だった?」

デルデロッテはまだ棒立ちのまま、ぼやく。
「だってそれしか…無いだろう?」

ラステルは手を払いのけ
「さっさとエルデリオンを呼んで来い!」
と怒鳴った。

デルデロッテはバタン…と寝室の扉を後ろ手で閉め、思った。

“まだ夢の中?”

けれど寝台の上で振り向く、艶やかで愛らしく、綺麗な裸のエルデリオンは、本物。

ガウンを手に取ると、エルデリオンに歩み寄って告げた。
「…ラステルが…君と私を結婚させると言ってる」

エルデリオンがヘイゼルの瞳を見開いたまま…暫く固まってる。
デルデロッテはため息を吐いた。
「…だよね。
そういう反応になるよね…」


扉が開いて、髪が乱れまくってるエルデリオンは、けれどとても艶やかで…。
デルデにたっぷり愛されたと、傍目にも明らか。

少し頬を赤らめ、ラステルの座る向かいのソファに、腰掛けた。

ソファの横に突っ立つデルデロッテに、ラステルはエルデリオンの横に座れ!
と手を振って合図する。

デルデは無言で、腰掛けた。

「デルデロッテは貴方に、言いました?
自分の気持ちを」

エルデリオンは途端、真っ赤になって、横のデルデロッテの冴えた美貌を見つめ、視線を落として頷く。
「で、貴方は?
彼が床上手なのはよぅく、知ってる。
だが情事の相手だけなら愛人に据え、貴方はレジィ殿を花嫁に出来る」

エルデリオンは躊躇いながら、告げた。
「…それは…出来ない。
レジィ殿に、申し訳無い。
私は彼に恋してたけど。
愛してると分かったのは…デルデだから………」

デルデロッテはそう呟く、エルデリオンの俯く色白の整った顔を見つめた。

「つまりレジィ殿に惚れ込んでいたのは、幻影だったと」

ラステルに問われ、エルデリオンは頷き…はっ!と気づいて顔を上げる。
切なげな…悲しそうな表情。
「本当に…彼に申し訳無い…。
デルデに気持ちを告げられて…分かった。
ずっとデルデが昔のように接してくれなくなって…どれ程寂しく、息が詰まってたか。
王子であろうと…無理してたのか。
そんな…窮屈さを忘れたくって…ひたすら突き進んでレジィ殿を求めて…。
…彼を、酷い目に遭わせた」

ラステルはため息吐いた。
「…それで周囲が引くほど。
ご自身を責めてたんですね?
自身の罪を、知っていらしたから。
それで…本気でもし私が反対してたら。
デルデロッテと王子の座を捨て、逃げる気だったんですか?」

「…一応…彼と一緒なら…他国と一切国交無く、樹海と高い崖に囲まれ、容易に入国できない、アースルーリンドへでも逃げようかと」

ラステルはぐっ!と詰まった。
「…貴方はお利口だ。
唯一あの国だけは。
私の部下はいませんから」

エルデリオンが頷く。
が、デルデロッテは目を見開いた。
「…辿り着く前に。
紅蜥蜴ラ・ベッタに掴まる。
樹海には奴らの本部があって、崖の周囲は奴らの縄張りなのに!
…せめてエルドシュヴァン草原大国ぐらいに…」

ラステルは即座に言った。
「あの国にも、私の息のかかった者はいる」

デルデロッテはがっくり、首下げた。
エルデリオンはそんなデルデを見つめ、囁く。
「でも…貴方と一緒なら…。
アースルーリンドだろうが…行けるでしょう?」

ラステルは顔下げきって言った。
「御覚悟はしかと、聞きました。
なら、デルデロッテを夫に据える事なんて、それと比べたら楽勝でしょう?」

エルデリオンはヘイゼルの瞳を見開く。

ラステルは喋り続ける。
「勿論、花嫁の方が男としての威厳は保てます。
夫を迎えるとなれば。
寝室の様子をこぞって皆に想像され、貴方が恥ずかしい思いをされる事でしょう。
が、夫がデルデロッテであらば!
誰もが“抗えなかった”と納得済み」

「………………………」

デルデロッテが俯いて固まる。

いつも平気で言い返す、頭の回転の速いデルデロッテが無言なので、ラステルは更に畳みかける。
「しかも現在、紅蜥蜴ラ・ベッタと全面戦争に成りそうな雲行き。
そんな折り、守り刀として名を馳せるデルデロッテが夫であれば。
結婚相手がレジィ殿より、うんと心配事は減る」

やっと、デルデロッテが口開く。
「そう言って…王を説得する気か?」

ラステルは頷く。

デルデロッテは尚も問う。
「勝算は?」

ラステルは呆れた。
「誰に言ってる?」

デルデはラステルのその自信に、心底呆れ返った。

「それより君、エルデリオンの夫となれば。
王子の特別な人シュウトルレーゼの身分となり、王族に加わる。
覚悟は出来てる?!」

ラステルに語気強く言われ、デルデロッテは言い返した。
「私の神経は鋼鉄で出来てると、言ったのは君だ。
エルデリオンを連れて紅蜥蜴ラ・ベッタの一味や盗賊だらけの樹海を抜け、道なんてほぼ無い途方も無く高い崖超えて、化け物が出ると言う幻の国、アースルーリンドに逃げる事思えば。
君の言葉を借りれば、王族になるなんて楽勝」

ラステルは
「…やっぱり…」
と呟いた後。
首振ってエルデリオンを見た。

「王に提言致します。
私が言う以上、デルデロッテとの婚礼は間近。
お覚悟は?!」

エルデリオンは、焦った。
「け…け…け…」

デルデロッテに腕を握られ、エルデリオンは落ち着きを取り戻すと、言った。
「だって気持ちを告げられ、まだ一日経ってない…。
少しは、付き合う期間だって欲しいん…だけど…」

ラステルは言い捨てた。
「そんなの!
ハネムーンでなさい!」

言ってラステルは立ち上がる。
「結婚の儀は直ぐ出来る。
貴方がレジィ殿と直ぐ式を挙げるつもりで、一通り手配済みですからね!
貴方は日取りまで勝手に決めていた!
相手をレジィ殿で無く、デルデロッテにすり替えるだけ。
手間は殆どかかりません。
あ、夫から妻への変更もありますが…。
ともかく、王に告げに参りますから!
二人ともとっとと覚悟、決めといた下さいね!!!」

ラステルはだかだか靴音を鳴らし、バタン!と扉を閉めて出て行く。

残された二人は、顔を見合わせ合った。

「おおおおおおお・夫?!」

エルデリオンの驚きに我を無くす顔を見つめ、デルデロッテは肩を竦めた。
「貴方と居られるんなら、肩書きなんてなんだって構わない」

エルデリオンはそれを聞いた途端、顔を下げた。
「それも…そうだ」
「逃げなくて、いい。
アースルーリンドなんて物騒な国に」

エルデリオンは、頷く。

「どれだけでも貴方を手込めにしても、国の公認」

エルデリオンは頬を真っ赤に染め、異論を唱えた。
「貴方に好きなだけ…されたら!
私は腑抜けになる!」

デルデロッテはエルデリオンに顔を傾け、素晴らしい微笑を見せて、呟いた。
「…新婚なら、許される…」

エルデリオンはまだ何か、言いかけたけど。
デルデロッテに甘く唇を、唇で塞がれ。

そのキスにうっとりし。
言い返す言葉を失った。
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