森と花の国の王子

あーす。

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エルデリオンの幸福な始まり

エウロペの帰還

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 エウロペは後に続くテリュスに振り向く。
相変わらず、馬を駆って突っ走っていた。

テリュスの乗馬の腕は自分と並ぶ程。
だからピタリ…!と遅れず付いて来てる。

浅瀬を水を蹴立てて渡った後。
エウロペは手綱を引いて速度を落とし、叫んだ。

「一戦交えるのと、迂回するのと。
どっちがマシだ?!」

テリュスは思わずエウロペを追い抜きそうになり、併走する彼を見て叫ぶ。
「何?!」

「来た道を戻れば、奴らが待ち構えてる!
東門を避けて南門に回れば!
トラーテルにも近い!」
「だがそっちのが!
遠回りなんだろう?!」

エウロペは、頷く。

が、テリュスは酔いが回り、頭がタマに、ぐら。ぐら。
と揺れてるのを自覚する。

「迂回」

言うなりエウロペは笑い、岩場を南に走り始めた。

「行きよりマシか?!」

テリュスの叫びに、エウロペは叫び返す。
「どっこいどっこいだ!」

テリュスは手綱を繰って岩場を駆け抜けながら、ぼやいた。
「…キツくて更に、時間も長いか…。
内臓が保つ間に、着いて欲しいぜ!」

エウロペは先を疾風のように駆けながら、怒鳴った。
「男らしさを見せる為、大ジョッキなんて一気飲みするからだ!」
「だってそうでもしなきゃ、あの熊共!!!
いつまで経っても俺の事馬鹿にする!」
「髭を剃らなきゃ、マシだったぞ?!」

テリュスはムカついて怒鳴った。
「…だってオーデ・フォール中央王国では!
毎度“なんで髭を剃らないの?!”
ってしつっこく女達に、付きまとわれる!!!」

はーーーっはっはっはっ!

とうとうエウロペに声立てて笑われ、テリュスはムキになって背後からエウロペを追い立てた。


ロットバルトはエリューンにグラスを差し出され、また注ぐ。
もう殆ど、残ってなかった。

エリューンはまた、飲みながらぼやく。
「…どうしてこの国の男達は。
少年とかを相手に、情事しようとか、思ったんでしょうね?」
「…エリューン。
それはこの国に止まらず、大陸の流行りだ。
君の森と花の王国《シュテフザイン》が、他国の流行りなんて取り入れず…閉鎖状態で独自の習慣を保ち続けてるから…」
「だってそれは。
大事な事じゃ無いですか!
流行りで少年を手込めにするんですか?!」

エリューンはかなり飲んでるのに、顔色も変わらずろれつも回らない。
ただ、いつもより饒舌になってるくらいで、酔ってるように見えない。

ロットバルトもため息を吐いた。
「…確かに…愛していれば、相手の気持ちも状況も考えず、手なんて出すべきじゃ無い。
しかも馬車の中で。
君の言いたい事は、そういう事なんだろう?!」

エリューンは頷く。
「やっと私が!
姉の一人…と、言っても従姉ですけど!
話を付けて、レジィの手ほどきの段取り、付けてた矢先なんですから!
これが怒らずにいられます?!」

「…君…絡み酒?」

「貴方は、マトモです!
最初は凄く腹が立ってましたけど!
でも一番、マトモ」

全然褒め言葉に聞こえず、ロットバルトは顔を下げてぼそりと言う。
「…それは、どうも」

その時、9点鐘の鐘が聞こえ、エリューンは立ち上がる。
主寝室の扉を開け、寝台を覗き込んだ。

レジィは丸くなって…子供のように眠っていた。

エリューンは昼間の事を考えると、泣きたくなって来た。
ロットバルトが背後から、そっと覗いて
「良く、眠ってますな…」
と囁く。

エリューンはロットバルトの肩を掴み、扉を閉め。
また椅子に腰掛け、グラスに果実酒を注ぐ。
ロットバルトのグラスにも。

ロットバルトは高級酒の中に、果実酒を混ぜられ、口をあんぐり開けた。
けれどエリューンはグラスをあおり、また喋り始める。

「今日デルデ殿と一緒…に……。
デルデ殿が忙しくなったら、彼の代わりに私を…ってその、手ほどきで」

ぶっ!ごぼっ!ごぼごぼ…。

ロットバルトは咳き込んだ後、暫くピタリ!と動きを止めて喉の様子を見、やっと言った。
「…つまり…デルデと一緒にレジィ殿を…その…」

そう言って、ようやくエリューンがずっと何を言いたかったのかが、分かった。

「辛いお役目ですな…」
そう呟くと、エリューンはテーブルに乗せた、ロットバルトの手の上に自分の手を乗せて呻く。
「…私の一物なんて嬉しそうに舐めて…。
理由、知ってます?!
誘拐したど腐れ共が、無理にレジィにそれをして…!
それから比べたら、私のは平気…って…!
彼は、王子ですよ?!
誇り高い王族が、私なんて下っ端の一物を………」

エリューンの瞳が潤み始めて、ロットバルトは心底、焦った。

ちょうどその時、扉が開く。
エウロペとテリュスが、くたびれきって、帰って来た。

ロットバルトはびっくりして振り向く。
「…早かったな…」

エウロペはやって来ると、向かい合うロットバルトとエリューンの、横の椅子を引いて腰掛ける。
テリュスは
「美味い酒、まだ残ってる?」
と聞いて、ロットバルトの横に腰掛けた。

ロットバルトは頷くと、椅子を立って暖炉の横の棚に向かう。
そして、立てかけてあった絵画の後ろから、瓶を取り出し、戻って来た。

「…隠してた?」

エウロペに聞かれ、ロットバルトは頷き、テーブルの上に瓶を置く。
サイドテーブルからグラスを二つ取ると、酒を注いで二人に手渡した。

が、エリューンもが。
グラスを差し出す。

ロットバルトは暫くエリューンのグラスを見て、固まった。

「…私にも下さい」

エリューンに催促されたものの、果実酒と混じっては、折角の高級酒が台無し。

エウロペはため息と供に果実酒をエリューンのグラスに注ぐ。
エリューンは
「どうも」
と言って、グラスを煽り始める。

「…かなり、飲んでる?」
エウロペに問われ、ロットバルトは頷いた。

「…土産に持って来た高級酒を…混ぜてしまって」

テリュスは美味い酒に舌鼓打って、説明する。
「エリューンは一見酔ってるように見えないけど。
実はかなり酔ってるから。
どの酒飲ませても、味は分かってない」

ロットバルトはそれを聞いて、頷きながら椅子に座る。

「…デルデ不在の代理に…エリューンを?」

エウロペはロットバルトに聞かれ、頷いて言う。
「彼が、出来ると」
「でも、泣きそうでした。
王子のレジィ殿がその…彼の…男の印をその…」
「舐めた?」

エウロペが、さらっと言うので、ロットバルトは目を見開く。
「…まさか貴方が。
デルデロッテと同類の人種だったとは!」

エウロペは笑顔で告げた。
オーデ・フォール中央王国に合わせたつもりだったが…。
貴方は一番、我が国の男に近い」

テリュスも大いに頷く。
「国の男達に会ってきたが。
男の…しかも子供に手を出すヤツは、全員ブッた斬る勢いで激怒してた」

ロットバルトは頷く。
「…でしょうな…。
我が国でも全部が全部、そういう者ばかりじゃない。
…まあ…。
私の家系は代々無骨な男ばかりだから、無縁のせいもあるが」

エウロペが尋ねる。
「デルデロッテ殿は少年の頃、大層な美貌だったんでしょうね?」
ロットバルトが頷く。
「ただ彼の父親は、名の知れた騎士だったので。
彼もなかなかの剣の腕で。
女々しくは、ありませんでしたが。
むしろ、エルデリオンの方が…優しげな美少年で。
一時紅蜥蜴ラ・ベッタにしつっこく狙われていまして」

そして、テリュスに振り向く。
「貴方もとても18には見えない。
気をつけた方がいい」

エリューンは頬杖ついていたけど。
それを聞いて表情を変えず、言い放った。

「テリュスを手込めにする相手が、不幸だ」

エウロペも頷く。
「彼、接近戦では短剣を使うので」
エリューンが付け足す。
「しかも、身軽」

ロットバルトにじっ。と見つめられ、テリュスは睨んだ。
「そう見えないんだろう?」

問われてロットバルトは、うん。うん。と、頷いた。

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