森と花の国の王子

あーす。

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ゾーデドーロ(東の最果て)

秘境アースルーリンドからの来訪者

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 ラステルは、王宮内の護衛連隊棟三階、連隊長アッカマン侯爵の執務室の一翼、特別客人用宿舎の客間に。
たった今着いたばかりのアースルーリンドの…特殊能力者専門の騎士らを通したと部下に告げられ、扉を開ける。

栗毛でヘイゼルの瞳の堂とした態度のスフォルツァは室内を見、つかつかと入ってソファにへたり込む二人に、話しかけた。

が、ラフォーレンの方は室内に入るなり歩を止め、片手を腰に。
片手で頭を掻いて、様子を見守っている。

ので、ラステルとアッカマン侯爵は少し離れた場所に立ちすくみ、顔を見合った。

「…つまりこの…オーデ・フォール中央王国の東の果ての…。
王家の血を引くとんでも大公の、からくり屋敷に囚われてるって?」

真っ直ぐの、肩まである跳ねた明るい栗毛の。
青い瞳の感じ良さげな美青年は顔を上げ、スフォルツァにそう尋ねてる。
スフォルツァは年下らしく、その青年に丁寧な言葉使いで返答していた。
「こちらのお方にご案内頂けると。
貴方がたが着いたので、もう発ててます」

が、もう一人の…目鼻立ちの整った綺麗系の美青年、グレイッシュブロンドのカールした肩までの短髪。
ブルー・グレーの瞳の青年は。
面倒くさそうに横の青年に顔を振って、文句垂れた。

「着いたばっかで!
しかもエルデルシュベイン大陸一の豪華な城に来て!
直ぐ辺境行きかよ!」

ラステルもアッカマン侯爵も。
美形の宝庫、秘境アースルーリンドの凄い美青年のそのやさぐれた口調に、思い切り目を見開いた。

アッカマン侯爵が、口に手を当て、ぼそりと囁く。
「外見と口調と…かなりギャップありますね」
ラステルも頷いて囁く。
「かなり…じゃなく、凄く?」
アッカマン侯爵は黙して同意し、頷いた。

スフォルツァは振り向き、二人に仲間を紹介する。
「こちらは神聖神殿隊付き連隊騎士、ローフィス。
そしてこちらがゼイブン。
ローフィス、ゼイブン。
こちらはオーデ・フォール中央王国の諜報部隊の長、ラステル殿と。
王宮護衛連隊のアッカマン侯爵」

跳ねた真っ直ぐの明るい栗毛の爽やか青年、ローフィスは直ぐ椅子を立つので。
ラステルとアッカマン侯爵は寄って行って、握手した。
「よろしく」

ローフィスはとても感じ良く微笑むラステルに、爽やかな笑顔を返し、挨拶した。
「よろしくお願いします」

が、ゼイブンは片腕背もたれに乗せ、片足ソファの上で曲げ、崩れきった姿勢で項垂れてる。
ローフィスが立とうとしない仲間に声かけた。
「…ゼイブン。
お前一応、俺の先輩だろう?!」

ゼイブンと呼ばれた綺麗系美青年は、億劫そうに顔を向けると
「…だがあんたは年上だ」
と対応を、一切ローフィスに任せる構えで、だれきってる。

ラステルはとうとう苦笑する。
「あの高い絶壁を超え、樹海を抜けてここまでいらっしゃったのですから。
ご苦労はお察し致します」

が、優しげな美青年のラフォーレンが、ぼやく。
「違いますよ。
彼は凄いタフです。
多分ここまでずっと美女とまったり出来る機会が無かったので…ふてきってるんです」

ラステルもアッカマン侯爵も、その言葉に目を見開いた。

スフォルツァが凜とした表情を崩さず、言って退ける。
「彼は大変ナマケモノで、呆れる程女好きなんですが。
いざとなると、大変有能で」

ローフィスは呆れた視線をゼイブンに向けてたけれど、オーデ・フォール中央王国の重臣二人に顔を向け、言葉を更に付け足した。
「私は神聖神殿隊付き連隊騎士に、入って9ヶ月で。
彼は私より3…年だっけ?
在歴が長いので」

けれどゼイブンは、とうとう肘掛けに両手乗せ、両手の手の甲に顎を乗せ、全員に背を向けながら呻く。
「…が、ローフィスは父親が神聖神殿隊付き連隊騎士だったので、在歴短くとも知識はある上。
大変大変大変、有能な男なので。
できれば全て、その男に任せて…」

その時、バタン!と隣の控え部屋の扉が開くと。
つかつかと金髪の凄い美青年が、歯を剥いて近寄り、ゼイブンを怒鳴りつける。
「で、お前は身分高い美女を紹介して貰って、この豪華極まりない城で女遊びする気か?!
お前、何のためにここまで来たんだ!!!」

金のカールした腰近くまである長髪。
珍しい紫の瞳の、美麗そのものの凄い美青年で。
ラステルもアッカマン侯爵も
“流石美形の宝庫、アースルーリンド”
と感心した。

スフォルツァは直ぐラステルとアッカマン侯爵に
「付き添いの護衛、近衛連隊、隊長のギュンターです」
と紹介し、その背後からびっくりする程背が高く、赤毛で素晴らしく体格のいい美丈夫が姿を見せて、言った。
「…馬をしまわせ、荷物を運ばせ。
道中、戦う場面で俺達ばっかに剣振らせ。
それでもまだ不満で、仕事しない気か?」

アッカマン侯爵は直ぐ気づいて、とても背の高い赤毛の青年に寄って行く。
「失礼致しました。
荷物は部下に言って頂ければ、運ばせましたのに」

赤毛で鳶色の瞳の、大変長身の青年は、その言葉に太陽のようなおおらかな笑顔を見せ、にっこり微笑む。
「着いたばかりで、厩を尋ね、ここを尋ねで…気が回らなかった。
次回からはそうさせて頂く」

スフォルツァはその赤毛の青年を見るなり、一気に表情を引き締め、二人に紹介する。
「近衛連隊、左将軍補佐、オーガスタス殿です。
…どうして貴方が?
もっと下っ端の…他に幾らでもいるでしょう?」
そう側に駆け寄り、恐縮しながらも小声で囁く。

オーガスタスと呼ばれた赤毛の若者は、肩を竦める。
「乗馬が巧みな、神聖神殿隊付き連隊騎士の護衛で。
更に剣の腕が立つのは、ギュンターぐらいしかいなかったし。
ギュンターとゼイブンの、二人の手綱を締めることが出来、ローフィスの能力を存分に引き出し。
更に左将軍と…心話で繋がり状況報告できると言う理由で…無理矢理俺が、任命された」

ラフォーレンも寄って行くと、項垂れて囁く。
「ご愁傷様です…」
オーガスタスは大きく首を縦に振って、頷いた。

ラフォーレンは更にこそっ…と
「貴方が来るなら、ゼイブン…来なくても、良かったのでは?」
と尋ねる。
オーガスタスは腕組みし、顔を下げて囁く。
「…だがあれで彼は、神聖呪文が使える」
「そういう理由ですか…」

二人はお通夜のように、頷き合って顔を下げる。

それまで凜とした表情を崩さなかったスフォルツァが、初めて眉を下げ
「…出来うる限り、ご迷惑をおかけしないように致します」
と、ラステルとアッカマン侯爵に告げるので。

二人はまた、顔を見合わせ合った。


アッカマン侯爵の計らいで、アースルーリンドからの客人六人は、隣部屋の食堂でご馳走を振る舞われた。

ラステルも混ざってなごやかな食事…の筈だった。
が、六人の中の特に綺麗系美形のギュンターとゼイブンが…。
凄い勢いで食べ物を口に掻き込み、まるで飢えた孤児のようなその食事風景に、滅多に驚かないラステルも、アッカマン侯爵までもが、絶句した。

銀髪に近い栗毛の、優しげな美青年ラフォーレンは顔を下げきり。
スフォルツァも居心地悪げに顔を下げる中。
流石この中で一番身分が高いであろう、凄い長身のオーガスタスだけが。
笑顔で告げる。

「とても行儀が悪いので、こんな豪華な城に住むお方に、大変申し訳ないが。
これで金髪のギュンターは、大変勇猛で戦いに強く。
ゼイブンはこちらで言う、“魔”を退ける神聖呪文が使える、いざとなれば勇敢な男。
大目に見てやって頂きたい」

スフォルツァが、こそっ…と囁く。
「そこじゃないです。
オーガスタス。
こちらのお国で我々は“美形の宝庫”と呼ばれる国から来たと。
つまり…」

ローフィスが顔を下げ、頷きながら呟く。
「…つまり、よりによって我々の中でとても顔が綺麗な二人が。
食いっぷりがめちゃくちゃ汚いので、驚いてるんだな?」

スフォルツァも、ラフォーレンもが、頷いた。

ラステルも、ナプキンで口元を拭きながら尋ねる。
「…この国で美形は大変ちやほやされるので…食事も滅多な事が無い限り、余裕で食べていますけど…。
お国は…美形だらけで、彼らぐらい綺麗な青年でも、ちやほやされないんでしょうか?」

オーガスタスが、爽やか笑顔のローフィスに笑顔で囁く。
「…ちやほやは、されてるよな?」
ローフィスは頷き
「単に育ちが、悪いだけです」
と言って退けた。

ローフィスが、スフォルツァとラフォーレンに顔を向け、説明した。
「こちらの二人は、王室と繋がりのある名家の出。
我々四人は…家柄は良くないので、実力でのし上がった者ばかり」

ラステルが、納得して笑顔で頷く。

が、ゼイブンが皿から顔を上げ、怒鳴った。
「俺は家柄はそこそこだぞ!
そこの二人ほどは良くは無い!
が、お前らよりは名家だ!」

ローフィスはそれを聞いて顔を下げ
「…彼は家の教育方針が、良くなかったようだ」
と告げるので。

ラステルもアッカマン侯爵も、顔を下げ気味で、頷いた。
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