森と花の国の王子

激突

窮地

「矢を抜け！」
「抜くな！」

ガベンツァ公爵を支える騎士らが、意識を失って行く公爵を目にし、激しく言い争う。

先頭の大将からそれは見えず、異変を感じ取って怒鳴った。
「ガベンツァ!!!」

返事は無く、代わって伺う騎士の一人が怒鳴り返す。
「矢を射られ、瀕死です!!!」

それを聞いたテリュスは目を見開き
「…胸筋が、よほどぶ厚いんだな。
…しぶとい」
と呻いた。

ラステルは目前の大将が、目を剥くのを見た。
「刃向かう全員、たたっ斬って王子らを捕らえろ!!!」

その激しい咆吼に、取り囲む騎士らが一斉に剣の柄を握りしめ、詰め寄る。

先頭切って襲いかかって来る敵騎士に、ローフィスが即座に短剣投げた。
しゅっ!!!
が、敵騎士は首を横に振り、喉に突き刺さる筈の短剣を避ける。
「がっっ!!!」
背後から突進して来た敵騎士が、代わって肩に喰らい、肩に手を当て顔をしかめた。

避けた敵騎士が間近に詰め寄り、剣を振り上げローフィスへと襲いかかる。
振り下ろそうとした瞬間
「ぐぁっ!!!」
突然胸に突き刺さる短剣に姿勢を崩し、そのまま崩れ落ち、後ろから突進してくる敵騎士に踏みつけられた。

ローフィスはかなり後方から、ゼイブンが短剣投げ、援護してくれたと察した。
が、振り向く間もなく、倒れた騎士を踏みつけた敵騎士の剣が、再び自分に襲いかかるのに身構える。

瞬間ロットバルトが、背後からローフィスの背を押し退け叫ぶ。
「援護を頼む！」
ローフィスを背に回すなり、向かって来る敵騎士に、ロットバルトは剣を振り切った。

ずばっ!!!

ゼイブンは前方を、圧倒的強さのオーガスタスにしっかり護られ、左右に視線を振る。
今やラフォーレンまでもが左側面後方で、向かって来る敵に剣を振り切ってる。
背後のエリューンはレジィの手を左手で握り、奪い取ろうとやって来る敵に剣を振って牽制してる。

ゼイブンは立て続けに、その隙に陣営に入ってこようとする敵に短剣投げつけ、ラフォーレンとエリューンの負担を減らした。

ロットバルトは左右から二人の敵騎士が、ほぼ同時に剣を振り被り襲い来るのを見、柄を握り込んでどっちを先に斬るか。
握り込む手をぴくぴくさせ、視線を左右に振る。

「がっっ!!!」
左の敵騎士が胸に短剣喰らって崩れ落ち、ロットバルトは容赦無く、横の仲間が崩れ落ちるのに気を取られてる右の敵騎士に、剣を振り切った。

ざっっっ!!!

敵を倒して振り向くと、ローフィスが夜闇にくっきり浮かび上がる、射るような青の瞳を向けていて。
ロットバルトはナイスな援護に、思わずにっこり微笑み、会釈を返した。

テリュスは右後方みぎこうほうを護るエウロペに襲い来る、敵に次々矢を射る。
エディエルゼに視線を向けるが、流石日頃人食い化け物と戦い抜いてる男だけあり、隙なんてまるで無く、どれだけ多数を相手にしても、全てあっと言う間に斬り殺し、次に標的を定め、瞬時に斬りかかって行った。

ノルデュラス公爵に襲いかかる敵二人の、一人を矢を持ち上げ射殺すと、後方全てに視線を送り、戦うエウロペ、スフォルツァ、ノルデュラス公爵の隙を狙い、襲い来る敵に次々矢を放っては、テリュスは三人を助け続けた。


ラステルは立て続けに短剣投げ続け、後ろに下がってエルデリオンを背に庇う。
エルデリオンは横を護るデルデロッテを助け、反対横からデルデに剣を振る騎士の剣を、剣で受け止めた。

がっっ!!!

ギュンターがエルデリオンの元に駆けつけ、敵騎士の剣を剣で受け止めてるエルデリオンの隙を狙い、襲いかかる敵を引き受ける。

がちっ!!!

エルデリオンへと振りかかる剣を弾き返し、瞬速で剣を返し、斬りつける。

ずばっ!!!
「ぎゃあっ!!!」

エルデリオンは横の金髪長身、美貌の騎士が、まるで獣のような圧倒的強さを発揮するのを、目を見開いて見る。
間違いなく、金の髪散らし敵にしなやかに襲いかかるその姿は、野生の豹を彷彿とさせた。

牙のような剣は、月明かりに銀にギラリと光って弧を描き、敵の騎士の血を撒き散らす。

反対横ではデルデが、敵の大物達に目を付けられ。
腕自慢の大柄な豪傑二人に、交互に剣を浴びせられ、避け、弾き返し、二人相手に反撃の機会を狙ってた。

エルデリオンは合わせた剣を、押し来る敵に視線を戻す。
一瞬押し返し、次に思いっきり後ろに引く。
いきなり剣を引かれて前へつんのめる敵から、エルデリオンは一瞬で合わせた剣を外し、そのまま倒れ込もうとする敵の背に、剣を振り切った。

ずばっ!!!
「ぐぅぅぅぅっ!!!」

倒れ伏す敵を見もせず、デルデに視線を戻す。
デルデは右の剣豪の腕を斬ったばかりで剣を下げ、腕を斬られた剣豪は剣を握る腕から血を滴らせ、左手で傷口を押さえてた。

左の剣豪が剣を振り被るのを見、デルデが剣を、振り被りかける。
その瞬間、斜め横からデルデ目がけ突進して来る騎士をエルデリオンは見つけ、阻止しようと駆け寄った。

ラステルはデルデの横に駆けつけるエルデリオンの動向に気を配りながらも、前方からやって来る敵に次々短剣を投げ、近づく敵には長剣を振りながら、自分を始めデルデやエルデリオンの背後に回り込もうとする敵を、尽く退けた。

二人の剣豪と相対すデルデの、隙を狙い斜め横から急襲する剣が、デルデに届くその前に。
エルデリオンは間に入り、デルデの胴へと振られた剣を、激しく弾き返した。

がっっっ!!!

エルデリオンが振り向くと、デルデは既に左の剣豪の胴に、剣を振り切って振り向く。
剣豪は腹から血をまき散らし、デルデの背後に崩れ行く。

濃い栗色巻き毛が散り、整いきった美貌と美しい濃紺の瞳。
身震いするほど男らしく美麗に見えて、エルデリオンは一瞬、デルデに見惚れた。

けれどデルデは突然、駆け寄って来る。
咄嗟腰に腕を回され、抱き寄せられてエルデリオンは目を見開いた。

がっっっ!!!

デルデはエルデリオンへと振り下ろされた剣を、剣を振り上げ一瞬で止める。

エルデリオンは敵に隙を見せた自分に内心舌打ちながらも、抱き寄せ庇うデルデの体温を感じ、歓喜が湧き上がった。

“また…助けてくれた！”

前面の敵と戦いながら、エルデリオンの動向を覗ってたラステルとギュンターは。
エルデリオンを庇うデルデの頼もしい姿を見、ほっとした。

がエルデリオンは咄嗟、デルデが剣を受け止めてる敵騎士の、左腰辺りに突然。
ギラリと銀の閃光が走るのを目にし、総毛立った。

敵騎士の横すれすれを、すり抜けるように真っ直ぐ剣を突き立て、突進して来る敵が突然視界に飛び込む。

「デル…」

エルデリオンは止めようと、剣を持ち上げる。

どすっっっ!!!

間に合わず、突進する剣はデルデの腹に突き刺さった。

「…っ…」
瞬間デルデは苦痛に顔を歪めたものの、剣を合わせてた敵騎士を、足を振り上げ思いっきり蹴りつけ、後ろに吹っ飛ばす。

どぉぉぉっ!!!

吹っ飛ぶ敵の左横に、剣を握り込んでデルデの腹へ、更に突き刺し剣を貫き通そうと押し来る敵騎士の姿が、くっきりと浮かび上がる。

エルデリオンは咄嗟剣を引き、その敵の腹へと剣を突き刺し返す。

ざっっっっ!!!
「ぐっ!!!」

敵は腹を刺され、握る剣から手を放す。

カラン…！

刺さった剣は、デルデが身を屈めた拍子に抜け落ち。
エルデリオンは泣き出しそうな表情で、デルデを見上げた。

ラステルが立て続けに短剣投げつけ牽制した後のち、すっ飛んで来てエルデリオンとデルデの間に割って入る。

ロットバルトは横にずれ、ラステルが消えた右前方をカバーし、たった一人で敵を迎え討つ。
背後からローフィスが左右に短剣を投げつけ、ロットバルトを決死で援護した。

ラステルがデルデの体を支え、長身の彼を見上げた時。
デルデは真っ青な顔で、それでも
「大丈夫」
と言った。

ラステルは殺気に反応し顔を上げ、デルデが護ってた右前方斜め横からやって来る敵を睨めつけ、短剣を時間差で二本投げつけ、駆け来る二人の敵を倒し、怒鳴る。

エルデリオンも剣を持ち上げるものの、泣きそうな表情でデルデに幾度も振り向く。

「ギュンター!!!
エルデリオンを頼む！」

ギュンターは直ぐ背後に引く。
追いかけて来る敵の剣を、歩を止め頭を思いっきり下に沈めて避け、瞬間後ろに足を蹴り出し、剣振った敵を背後に吹っ飛ばして駆け寄る。

飛んだ敵は背後から突進してきた敵、二人にぶつかり、三人共背から地面に、倒れ込んだ。

どっすん！

ギュンターはラステルとエルデリオンの元に駆け寄った後、くるりと身を返し二人を背に回し、剣を構え、向かい来る敵を睨めつけ、尋ねる。
「…傷は深いのか?!」

ラステルは腹から血が吹き出す傷口を、押さえてるデルデの手を退け、呻いた。

「…かなり…」