森と花の国の王子

あーす。

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バルバロッサ王邸宅の安らぐ一時

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 エリューンは、テリュスが慌ただしく出て言った後。
バルバロッサ王の、褐色の肌の逞しい騎兵らが、次々黒装束の死体を片付けてるのを、ぼんやりソファに座って眺めてた。

向かいのソファでは、スフォルツァがまだ放心状態で。
横の豪奢な銀髪巻き毛のラウールが、心配げに濃いサファイア色の瞳を向け
「お風呂にでも浸かる?
それとも、何か飲む?」
としきりに気遣ってた。

俯き加減の、緩やかなウェーブのかかる長い栗毛に顔を伏せてるスフォルツァは。
一見小生意気に見えるけど、整いきった卵形の顔立ちと品在る風情で、好感持てる。

ヘイゼルの瞳を伏せてる彼を見てると、エリューンは大群に囲まれた時。
横で戦うノルデュラス公爵の、その向こうで勇ましく剣振る姿を思い出す。

品良くお行儀良く、お坊ちゃんに見えたのに。
いざと言う時は、とても勇敢で頼りになった。

一方、後ろの長椅子に視線向けると。
真っ直ぐの長い透けた銀髪。
青の挑戦的な瞳の、勇猛果敢で素晴らしい美貌の王子エディエルゼが。
眉下げて、生気を吸い取られ、まだぼうっとしてる愛らしい緩やかなウェーブかかる銀髪の弟、ミラーシェンを気遣ってた。

脳裏にしきりに呟いてる。
“で、いつこっちの治療にかかれる?
そっちはまだ、済まないのか?”
と。

その都度、大柄な神聖神殿隊騎士、シュテフが
“…もう少し待ってくれ”
と告げていた。

ミラーシェンの向こうに座る、ぼうっとしてるレジィに目を向ける。
レジィは薄い色の白い光に包まれてるように見え、目を閉じてる。
金の素晴らしく綺麗な前髪はほつれて額を伝い、綺麗な鼻筋、愛らしい赤い唇は僅か、開いてる。

以前の…可愛らしい大事な弟。
のような無邪気さから、色香を含む風情に変わっていて。
エリューンは胸が、チリ…!
と痛むのを感じた。

レジィが宝石のように煌めく、青い瞳をゆっくりと、開ける。
そして視線を、見ている自分に向けるのを、エリューンは見た。

レジィは会ったばかりの、とても綺麗で理性的な少女のようなエリューンが、一瞬重なって見えた。
長い、毛先にウェーブのある栗毛。
茶の勝つ、琥珀色の瞳。

近寄りにくかったけど…エウロペに紹介を受け、にこっ。
と笑った時。
あんまり感じの良い笑顔で。
もうそれだけで、彼が大好きになった…。
ひょろりとした体は、今は筋肉が付いて…しなるように剣を振る彼は、気迫溢れ…。
けどしょっ中テリュスにからかわれ、ムキになって怒ってる顔は、まだとても若く見えて…。
なのに危険な時。
一生懸命手を握り、いつも決まって、守り抜いてくれる。

エリューンが心配してる。
と感じたレジィは、笑顔を向ける。
『だ・い・じょ・う・ぶ』
口を動かし、声を出さず伝える。

昔、敵が近くに居た時、やってた伝達方法。
それを見て、エリューンは懐かしそうに、微笑った。

間もなく、白いエプロン着けたコックが
「お食事、運びますか?」
と聞きにやって来る。

けど皆が皆、動く死体に放心状態だったので。
誰もが首を横に振り
「要らない」
「入らない」
と断った。

コックが行こうとすると、スフォルツァが顔を上げ
「強い酒。
あったら持って来てくれるかな?」
と頼む。

少し腹の出た、白い肌のおっさんコックは、栗毛髭面ひげづらの笑顔で
「樽でお持ちしますよ」
と言葉を返し、出て行った。

途端、ラウールが呻く。
「なんで死体が動くんだ」
エディエルゼもしゃべり出す。
「私も大概化け物や残虐な光景は、見慣れたと思ったけど。
あれは絶対、あり得ない」
エリューンも思わず、言った。
「死人を、どうしたらまた殺せる?」
ミラーシェンも、気落ちした声で呻く。
「…だよね…。
死んでるもんね…」

レジィは億劫そうに腕をソファの背もたれに乗せ、囁く。
「シャーレがね…。
あれは操られてるだけだって。
操り人形だよって。
でも何も、死体操らなくても、いいと思う…」

その言葉に、その場の全員が同意し、頷いた。


階下では。
長い金髪で青い瞳の、女顔ながら『光の里』で一番腕の良い治療師のミラーレスは、やっとデルデに治療のため、かざした手を下げ、治療を終えた。

カールした焦げ茶の長い髪を枕に散らし、濃紺の瞳を僅かに開けてるデルデロッテは。
放射された光が止まり、苦悶の表情をほっ…と、やわらげる。
途端、横で伺ってた、さらりとした真ん中分けの明るい栗毛を額に垂らし、ヘイゼルの瞳を瞬かせてるエルデリオンは、横たわるデルデロッテに抱きついた。

まるで、痛みを癒すように。

デルデはまだ、息を荒げていたけれど。
エルデリオンの温もりに、少しずつ痛みが軽減され、荒い呼吸が落ち着いてくるのを感じ、優しい濃紺の瞳を、抱きつくエルデリオンに向けた。

真っ直ぐな栗毛で光を弾くグレーの瞳の、この中で誰よりも長身で体格良く、男らしいシュテフは。
ソファにへたりこむふらふらなローフィスを抱き上げると、開いてる寝台に横たえ、オーレに頷く。

僅かにくねる銀髪、ブルーグレーの瞳の美貌のオーレは頷くと、両手を広げ、さらりとした明るい栗毛を散らし、横たわり目を閉じるローフィスの周囲に、光の結界を張った。

その後シュテフは、ぐったりソファにもたれかかり、気絶寸前で目を閉じてる、緩いウェーブのかかった金髪の美少年ラフィーレと、真っ直ぐの明るい栗毛の美青年レンフ。
更に気絶してる、縮れた金髪で大柄な美少年シュアン。
そして真っ直ぐの金髪、理知的なエドウィンに、光送って回復を促し始めた。

皆、光で包まれるなり、本来自身で光を呼べる回路が回復し始め、自身で光を呼び込みながら、自身を癒し始める。

シュテフがしきりにエディエルゼに、上の階のミラーシェンやレジィ、シャーレを診ろと言う要請を受け、眉間寄せて光送る手を、下げようとした。

が、シュアンに脳裏で
“もう少し…”
と要請され、下げかけた手を上げ、光を送る。
暫く後、光を止めようとすると。
今度はエドウィンに
“まだもうちょっと…”

それで仕方なしに、全員が納得するまで、光送る手を上げ続けた。

デルデの寝台の横の椅子に、緩やかなウェーブの艶やかなグレイシュヘアに、顔を半分隠すノルデュラス公爵が、腰掛けてた。
その隣の椅子に、栗毛で温かな茶の瞳をしたロットバルトが座る。

明るい跳ねた栗毛、空色の瞳のラステルが、そんなロットバルトへと、酒瓶を手渡す。
自身も一本手にし、珍しく疲れた表情で、ぐいと瓶に口を付け、一気にあおる。

ロットバルトは自分も煽ろうかと、手にした瓶を見た後。
ノルデュラス公爵の腕を肘で押して振り向かせ、瓶を差し出す。

公爵は一瞬瓶を見、その後顔を上げてロットバルトの、ゴツめの重臣らしい威厳持つ顔を見、誠実な茶の眼差しを見つめ、瓶を受け取り、ぐい!と一口煽った。

その後、瓶をロットバルトに返す。
まだ飲んでなかったロットバルトは、受け取り、一口飲んで喉を潤し、喉を滑るアルコールに一瞬身を浸し、緊張を解く。
その後また、ノルデュラス公爵に瓶を手渡し、公爵もまた一口飲んだ。

ラステルが気づくと、二人は一口飲んで相手に手渡す。
を交互に繰り返していたので。
入り口近くのテーブルに乗ってる、何本もある酒瓶見つめ、寄って行って一つ取って…。
思い直し、二本目も取ると戻って来て、二人に手渡した。

「…二人で分け合いたかった?」
さりげなく、そう尋ねる。

ロットバルトは茶の瞳を細めて微笑み
「いや、ありがたい!」
と礼を言い。
ノルデュラス公爵も、瓶を手に持ち
「我慢しなくても、がぶ飲みできるな」
と呟き。
再び、一気に煽って喉に流し込んだ。

けどその時、寝台の上のエルデリオンに、デルデが囁く。
「…勃ってる?もしかして」
エルデリオンは頬を染め、もぞ…と腰を揺らし、呻く。
「…なん…か…そんな気に…」

デルデが微笑んで
「私に任せて」
と抱き寄せようとした時。

黒髪のヤッハ族の長に光放射してたミラーレスが、真っ直ぐな金髪散らし、きっ!と青い瞳向けて叫ぶ。
「ダメですよ!
情事なんて、まだ無理です!!!」

エルデリオンが顔起こし
「じゃ…私が勝手にするのは?」
と問う。

ミラーレスはきつい青の瞳を向け続け
「つまりここで。
下半身脱いで彼の上に、貴方が跨がる?!
エドウィンもラフィーレも、シュアンもいるのに?!!!!」
と鋭い口調で言い切った。

シュテフが呻く。
「こっちみんな、回復途中で意識も混濁してるから。
多分平気だ」

オーレはミラーレスに、きっつい青の瞳の、視線向けられ。
しどろもどろで呻く。
「…眠らせて、夢の中で発散させろ?
可能だが…上でも、要請出てるしな…」

シュテフが呻いた。
「もう少ししたら、俺が行ける」

ノルデュラス公爵が、きっっっ!!!
と背後に振り向き、エルデリオンに怒鳴りかける。
「貴方がどうしてもシたいなら!!!
わたし…」

けどそこで。
立ち上がったロットバルトに腕を掴まれ、引かれ。
もう片方の腕をすかさずラステルに掴まれ。
二人に半ば引きずられながら、部屋から扉へと強制連行されかけながら。
怒鳴った。

「…が幾らでも!!!
して差し上げるのにィィィィィィィ」

バタン!!!

扉が閉まってその叫び声の語尾は。
扉の外からくぐもって聞こえた。

ミラーレスに顎しゃくられ、オーレがデルデとエルデリオンの、脳裏に囁く。
“体動かすと、傷が開くので。
これから二人を眠らせる。
夢の中で、したい事全部、二人でやってくれ”

間もなく、デルデもエルデリオンもが、突発的に眠りに誘われ。
二人は目を閉じ眠りに落ちた後。
夢の中で再会し、出会った途端、抱き合った。

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