赤い獅子と淑女

あーす。

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オーガスタスの介抱

オーガスタスの介抱 2

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 午後、マディアンはオーガスタスに抱き上げられ、庭のあずまやで、陽を浴びる緑の木々と、咲き誇る花を眺めながら、心地良く吹く風に微笑を浮かべた。

オーガスタスは気づいたように
「肩掛けを取って来る」
とその場を外し、ローフィスは盆にティーセットを乗せて、マディアンの目前の石でできたテーブルの上に置き、カップにお茶を注ぎ始める。

ローフィスの差し出す、カップの乗った皿を受け取り、マディアンは尋ねた。

「本当に、そうお思い?
あの方が…私に気があると」

ローフィスは気づくと、真顔で言った。
「私は長く彼の友人をしている。
彼は貴方を“高嶺の花”だと思ってる。
彼の、生い立ちをご存知ですか?」

マディアンは、頷く。
ローフィスはその青い瞳を透けて陽に浮かび上がらせ、マディアンを真っ直ぐ見つめる。

「それでも貴方は、彼を侮蔑(ぶべつ)しない?」

マディアンは少し、悲しくなった。
「きっと…私では想像もつかないほど、過酷な体験をされていらっしゃったんでしょうね」

ローフィスは真顔で。
それでも低く抑えた、声音で告げた。
「たった五歳の時に。
自分の亡くなった両親の、布に巻かれた遺体が、地に掘った穴に滑り落とされていくのを。
奴隷小屋の窓から、見たそうです」

マディアンはそれを聞いて、カップを持つ手が一瞬で震った。

ローフィスが見ていると、みるみる内にマディアンは涙ぐんで、俯く。
「あの…ごめん…なさい…」

ローフィスは無言でハンケチを取り出し、差し出す。
涙を拭うマディアンを見つめ、そっと言った。

「人にそれが言えないほど…本当は深く傷付いてる。
時折…彼が戦場で、あの赤い髪を靡(なび)かせ戦う姿を見ると。
彼の心の内が、大変な傷を負っていて…その、痛みを忘れる為に剣を振っているのでは。
と錯覚(さっかく)する程です」

マディアンはようやく、涙を堪(こら)えて、聞き返す。
「…貴方は…彼と長くお友達でいらっしゃる?」

ローフィスは俯く。
「出来るだけ、彼の本心を聞きだそう。
とはしていますが…口では否定しているものの…。
あの男は無意識に両親の元へ、行きたがってる」

「つまり…天国へ…ですか?」

ローフィスは見惚れるほど綺麗に微笑むと、言った。
「そうです」

マディアンは、戸惑ったが尋ねてみた。
「貴方は…どうお思い?」
「彼に、誰より幸福になって欲しい」
「つまり…天国へ行って欲しいのですか?」

ローフィスはその時、顔を上げて真っ直ぐ、マディアンを見つめる。
「私の思い込みかもしれないが…。
死者を追いかけ、生を捨てても。
彼の両親は、喜ばないと思う。
私の我が儘を言えば、彼に、決して命を捨てて欲しくない」

マディアンは、顔を揺らした。
先日、オーガスタスと話した際、彼が言っていた
“死んで欲しくない”
と思ってる級友とは、ローフィスの事だ…。
そう、思い当たって。

そんなマディアンを見ながら、ローフィスは言葉を続ける。
「左将軍は、その辺の所は解っている。
だから私を寄越した。
彼を、自身の気持ちと、向き合わせる為に。
あいつは…」

ローフィスは少し、居ずまいを崩すと、ぼやく。

「自分が貴方をふれば、一時(いっとき)貴方は悲しむ。
が、自分が貴方に“愛してる”と告げて深く付き合った後、自分が死んで、貴方が長く悲しむよりマシ。
とか、計算してる。
計算で人の感情がどうこう出来るなんて、ナメきってませんか?」

マディアンはそう、少し軽やかに告げるオーガスタスの親友に、微笑んだ。
「ナメきってますわ!」

「淑女にこう言うのも何ですが…」
マディアンが彼の言い出す言葉を、目を見開いて、待つ。

「貴方に迫られたりしたら、あの男はオタついて、決して逆らえません」

片目瞑(つむ)ってウィンクされ、マディアンは心から、微笑(わら)った。

ローフィスは、同様オーガスタスに死なれたくない。と思ってる、同志のようにマディアンを見つめ、マディアンも彼を見つめ返し、頷く。

オーガスタスが、ゆっくり…歩を運び、やって来て。
自分に振り向く二人を見つめ、心から怖気(おぞけ)て囁(ささや)く。

「…二人で何か…。
俺を陥(おとしい)れる謀(はかりごと)を、してないか?」

ローフィスは大袈裟(おおげさ)に肩を竦め、マディアンは声を上げて微笑った。


間もなく、食事を告げる四女、アンリースの声に、オーガスタスはマディアンに寄ると、彼女を抱き上げようと、身を屈める。
マディアンは彼の首に腕を回し、危なげなく抱き上げられて。
とても安心で。
やっぱり彼の事が、大好きなんだと自覚した。

ローフィスはそんな彼女の心が、分かってるみたいに横を歩きながら、にこにこと微笑んでいた。

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