赤い獅子と淑女

あーす。

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オーガスタスの介抱

オーガスタスの介抱 3

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 食堂に入ると、長いテーブルに皆が寄り集まって席に着き始め、オーガスタスはローフィスが引いてくれた椅子に、マディアンを下ろす。

ざわついていた室内は、一瞬皆がその様子を見つめ、しん…となる。
オーガスタスは屈めた背を伸ばすと、突然の静寂に、周囲を見回した。

「…本当に、背がお高いのね」
三女、アンローラが口を開くと、他の姉妹達も慌ただしく椅子の背を引きながら、次々に話出す。
「私、こんな立派な身長のお方は、初めてだわ!」
次女、エレイスが言うと、三女ラロッタも追随する。
「全っぜん、危なっかしくないんですもの!」
母も椅子の背を引きながら、横の椅子に腰下ろすラロッタに、相づち打つ。
「本当に、安心で頼もしいですわ!」

オーガスタスはマディアンの横に腰掛け、ローフィスがオーガスタスの隣に座り、二人が顔を上げると、そこにはずらりと並ぶ、華やかな女性の姿。

ローフィスが、微笑んで告げる。
「近衛宿舎とは、真逆です。
あそこはむさい男の、顔ばかり」

姉妹達は互いに振り向き合って、笑顔を見せる。
「近衛のお話、お聞きしたいわ?」(エレイス)
「本当に、女性はいないの?」(ラロッタ)
「男ばかりなんですの?」(母)

けれど皆が席に着くと、母がマディアンに視線を送る。
「お願い」

マディアンは一つ、頷くと、両手をテーブルの上に乗せ、手の平を上に向けて、目を閉じる。
オーガスタスが、その様子を見て、神妙な顔付きになる。
ローフィスが視線をテーブルに座る女性らに向け、小声で囁いた。
「天への祈り?」

母が、微笑んで告げる。
「わたくしども、女神アウフラーラに、いつも祈りを捧げてますの」

オーガスタスもローフィスも、合点がいった。
女神アウフラーラは、女性の守護神と言われていたから。

マディアンが、静かな優しい声音で祈りを捧げる。
「いつもご守護頂き、感謝の印として、この慈しみ深い食卓の席を捧げます」

優しげな言葉の響きが、余韻としてオーガスタスの耳に残り…。
オーガスタスは横のマディアンに振り向きたいのを、我慢した。
代わりにその響きを、心に刻むように…抱きしめた。

ローフィスはそんなオーガスタスの様子が、分かってるみたいに、小声で囁く。
「見たいなら、見れば良いのに」

オーガスタスは一辺にローフィスに振り向くと、歯を剥いた。
が、ローフィスは
「やせ我慢は体に悪い」
と告げて、テーブルの女性達の、疑問を誘った。

問う視線を向けられ、ローフィスは朗らかな笑顔を向け、横で睨むオーガスタスの心情を思いやって、話題をそらす。
「近衛宿舎では。
祈りを捧げる者は少ない上、あっても男神ダーンデューカルか、ダウナッソですからね」

母は給仕から料理を受け取り、頷きながらオーガスタスに視線を向ける。
「あなたは、どちらを信仰されてるの?」

オーガスタスはとっくに料理を置かれていたから、ナイフとフォークで肉を切り分け、口に運ぶ、ちょうどその瞬間で。
一瞬、咽せかけてマディアンに背をさすられ、ローフィスに水を差し出された。

オーガスタスは水の入ったグラスを煽り、ごくん。と喉を鳴らした後。
「私は…信仰とは程遠くて」
と言い訳した。

皆、あまりにも男らしくて立派なオーガスタスが、見慣れなくて。
目を見開いて彼のそんな様子を見守っていた。
が、四女アンローラがローフィスに微笑む。

「ローフィス様は、ダウナッソですわよね?
彼は武器と知恵の神ですもの」

けれどローフィスは、すました顔でワイングラスを持ち上げると
「私の守護神は、ターリア(盗人の神)です」
と言うものだから、あちこちで食べ物を喉に詰まらせる音が響いた。

けほん、けほん。
ごほん。

マディアンは、オーガスタスの向こうに座るローフィスが、軽やかな仕草でナイフとフォークを巧みに使い、次々に料理を頬張るのを、呆れて見て、問うた。
「冗談では無くて?」

オーガスタスが、苦笑して告げる。
「ターリアは、窮地を救う神でもあるので…」

皆がそれで納得し、やっと落ち着いて食事を始める。

まるで小鳥がさえずってるような、ご婦人達の楽しげなやりとりが行き交い、オーガスタスもローフィスも微笑を浮かべ、食事しながら、その楽しい光景を見つめていた。

マディアンが、二人の微笑を見つめ、そっ…と問う。
「あの…騒がしいでしょう?」

ローフィスは即座に言い返した。
「とんでもない!
やっぱり食事は、女性が多いと、華やかで楽しいものです」

オーガスタスも、心から同意し
「野郎ばっかの食事が、どれだけ味気ないか。
思い知ってるところです」
と言うものだから、マディアンは全開で微笑んだ。


夕食が終わり、オーガスタスがマディアンを寝室に運ぼう。
と抱き上げた時、彼女の母は、オーガスタスに笑顔で近寄る。



「頂き物の高級酒がございますの。
この後、飲んで行かれません事?」

オーガスタスは少し、困った顔をし
「いや、俺は…」
そう、断ろうとする。

マディアンは母が、彼の身分が近衛の左将軍補佐だと知って、愛想を振りまいてる。
と解り、母に、オーガスタスに代わって告げた。

「彼は忙しい身なのに、こうしてお世話して下さるんだから、無理は言っちゃ駄目よ。
お母様」

母は、そうね。
と意見を引っ込め、食卓の席に残る近衛の隊長ローフィスに、残り四人の娘の名を次々と上げ、勧めていた。

ローフィスは
「婚約者がいるので」
と、丁寧な断りを入れ、テーブルの母と娘達を、がっかりさせていた。


マディアンを抱いたまま階段を上がり、二階の彼女の、部屋へとオーガスタスは運ぶ。

寝台にマディアンを乗せ、身を起こすオーガスタスに、彼女はそっと謝罪する。
「母はその…娘が五人も居るものですから…皆嫁(とつ)がせないと。
と必死なんです」
「貴方がたを、とても愛していらっしゃる」
「ええ。
幸福を願ってますわ」

オーガスタスが暗がりの中、胸痛む表情を見せ、マディアンはもう少しで…身体の痛みも忘れ、彼に駆け寄りそうになった。

少し…動いたところで背中と腿に痛みが走り…それで、呟く。
「…天国に居るご両親もきっと…天国に居るからこそ、余計に…貴方が幸福になることを、願っていらっしゃると思うわ」

オーガスタスはそれを聞いて俯き…そして…ぼそり。と言った。
「俺の中で二人は未だ、青い顔をし、目を瞑(つむ)って、冷たい石の床の上に横たわっている」

マディアンはそれを聞いて、激しく泣き出しそうになった。
だけど彼が、女の涙が辛いのだと思い直し、必死で…告げる。
「それは…肉体だわ。
魂はきっと…ずっと貴方を見つめているわ」

オーガスタスはそっ…と顔を上げ、掠れた声で囁く。
「そうかもしれない。
俺は…かなり、運がいい。
それを思うと…二人が俺を必死で…悪運から、引き上げようとしている。
とは…感じている」

マディアンは、ほっ。として、囁き返した。
「きっと…そうだわ」

そう言った時、子供の頃のオーガスタスが、両親に心から愛されて育った…その様子が、目に見えるようで、マディアンは涙が滴った。

そんなにも愛してる幼い息子を、この世にたった一人残し、逝(い)かなくてはならなくて、どれ程辛かったでしょう…。

そう思うと、マディアンは扉が閉まり、オーガスタスの足音が遠ざかるのを聞きながら、涙で頬を、濡らし続けた。

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