26 / 44
花祭り
花祭り 3
しおりを挟む
「…どうしたんだ」
ローフィスが、両手いっぱいの飲み物と食べ物を持って、そう声かける。
マディアンは顔を上げると、ローフィスに告げた。
「オーガスタス様ったら。
ご自身は無骨だから、ご婦人への気配りはローフィス様の方が上で、旦那にしたいなら貴方が一番だっておっしゃるのよ?」
オーガスタスは、振り向くローフィスから、さっ!と顔を背ける。
妹達はローフィスの腕の中の物を、次々とテーブルの上に並べながら、口々に喋り始める。
「ローフィス様と結婚したら、毎日がとても楽しいと思うわ!」(アンローラ)
「ええ私も、ローフィス様は理想の旦那様だと思うわ」(エレイス)
三女ラロッタだけが、反論した。
「でも、オーガスタス様くらい男らしい方だと、側に近づかれただけでドキドキしちゃうわ!
お姉様、抱き上げられてて、良く平気ね!」
ローフィスはそれを聞いて、大袈裟に溜息を吐き、場のみんなを笑顔にさせた。
皆が椅子にかけ、テーブルに並ぶ、ポテトフライのチーズがけ。
すみれの砂糖漬け。焼いたウィンナー。
かぼちゃの揚げ物。メレンゲのお菓子。
アーモンドのチョコレートがけ。
を、次々手を伸ばして摘まみながら、アンローラが隣に腰掛ける、ローフィスに尋ねる。
「…やっぱりオーガスタス様って、いつも一番、男らしかった?」
ローフィスが、その問いに笑顔で頷く。
「左将軍補佐だなんて、ご身分の高いお方だから、恐縮しちゃったけど…」
末っ子のアンリースが口開き、皆が彼女に注目する中、アンリースはそっ。と言った。
「…あの…とてもお優しくて…お話し易いわ」
マディアンがそれを聞いて
「あら…!
アンリースともお話しされたの?」
そうオーガスタスに尋ねる。
オーガスタスは、引っ込み思案の末っ子、アンリースに親しげに微笑んで告げる。
「肩掛けが見つからなくて困ってた所を、助けてくれた」
アンリースはオーガスタスに笑いかけてもらって、嬉しそうだった。
ラロッタが、揚げたチーズがけポテトを摘まみながら、つぶやく。
「そうよね。こんな大きな体のお方が、婦人用の肩掛けが無い。
って困ってらしたりしたら…なんだかとっても…」
「可愛い?」
マディアンに言われ、妹達は一斉に笑顔になり、ローフィスが視線振るとオーガスタスは、所在無さげに横を向いていた。
ローフィスは途端笑う。
「近衛じゃ、彼が通るとどんな身分の男も顔を引き締め、身構えるものなのに。
ご婦人達にかかると“可愛い”にされちまう…!」
女性らはそう言うローフィスの言葉に、声を立てて笑った。
再び、街道の両側に色とりどりの咲き乱れる花が飾られている様子を、皆が感嘆して眺めながら歩く。
次女エレイスと四女アンローラは、ローフィスの両側で彼を引っ張りながら、あちらの花。
こちらの花の美しさを、はしゃいで語り続ける。
マディアンは自分を抱き上げたまま、綺麗な花を見かけると、彼女が見やすいように体の向きを毎回変えてくれる、オーガスタスの首に抱き付きながら。
綺麗な花を見つめては、彼に微笑みかける。
その都度、オーガスタスは花で無く、嬉しそうなマディアンに、暖かい微笑みを返す。
マディアンはその時、毎回彼に見惚れている自分を自覚した。
だってオーガスタスの微笑は…本当に心暖まる、優しい微笑だったから。
「…それでも、楽しい事はたくさん…あったのでしょう?」
唐突なマディアンのその言葉に、オーガスタスは気づく。
「…つまり暴力沙汰以外に。
と言う事ですか?」
マディアンは首に抱きつく自分を、顔を傾けて見つめるオーガスタスを見つめ返し、目を、見開く。
「暴力沙汰が…楽しいんですの?」
オーガスタスは、苦笑した。
「思い切り、体を動かすので。
そうでもしなければこの体格だ。
荷運びくらいしか、用途が無い」
マディアンはじっ…と、オーガスタスを見た。
「ご自身の体格については…どんな風に感じていらっしゃるの?」
オーガスタスは微笑んだ。
「恵まれてる…と…男ばかりの場所では思います」
「…女性が居ると、そう思われないの?」
オーガスタスは、少し躊躇(ためら)う。
が口開く。
「…初対面では怖い男。
と勘違いされる事が多い。
乱暴者にそう、見られるのは願ったりですが」
「でも…私が初めて貴方を拝見した時。
…その、とても遠目でしたけれど…。
とても好ましいお方。
って印象でしたわ」
オーガスタスは目を、見開く。
「どこかで俺を、見かけたんですか?」
「やっぱり園遊会で。
女性に絡むヨーンを、その体格で遠ざけていらっしゃったわ」
マディアンは思い出しながら、微笑む。
「…近くで初めて会った時は?」
オーガスタスに聞かれ、マディアンは彼を見る。
「…とても、頼もしいお方だと」
オーガスタスは、吐息吐く。
が、その後彼が何だか嬉しそうで、マディアンはついずっと、オーガスタスの様子を見守ってしまった。
「頼もしい。と言われると…嬉しいですか?」
オーガスタスはマディアンに聞かれ、腕の中の彼女を見つめる。
「…そりゃあ…。
よく野郎にも言われますが。
こんな綺麗な女性に言われて、嬉しくない男はいないでしょう?」
素っ気無く言ってるけど…少し照れてるようで…けれどやっぱり嬉しそうで、子供のように喜んでる気がして。
マディアンはつい、そんな彼を見つめてしまう。
“こんなに…単純で素直で…子供っぽい所もお有りなんだわ”
マディアンはこの祭りの話をしてくれた、ローフィスに感謝した。
だって…身分を取り払った素の彼の、こんなに色々なオーガスタスの表情を見られて。
マディアンはうきうきしたり、新鮮で見とれたり、思わず微笑ましくなったり…。
とても楽しくて、オーガスタスの事がもっともっと、好きになったから。
ローフィスが、両手いっぱいの飲み物と食べ物を持って、そう声かける。
マディアンは顔を上げると、ローフィスに告げた。
「オーガスタス様ったら。
ご自身は無骨だから、ご婦人への気配りはローフィス様の方が上で、旦那にしたいなら貴方が一番だっておっしゃるのよ?」
オーガスタスは、振り向くローフィスから、さっ!と顔を背ける。
妹達はローフィスの腕の中の物を、次々とテーブルの上に並べながら、口々に喋り始める。
「ローフィス様と結婚したら、毎日がとても楽しいと思うわ!」(アンローラ)
「ええ私も、ローフィス様は理想の旦那様だと思うわ」(エレイス)
三女ラロッタだけが、反論した。
「でも、オーガスタス様くらい男らしい方だと、側に近づかれただけでドキドキしちゃうわ!
お姉様、抱き上げられてて、良く平気ね!」
ローフィスはそれを聞いて、大袈裟に溜息を吐き、場のみんなを笑顔にさせた。
皆が椅子にかけ、テーブルに並ぶ、ポテトフライのチーズがけ。
すみれの砂糖漬け。焼いたウィンナー。
かぼちゃの揚げ物。メレンゲのお菓子。
アーモンドのチョコレートがけ。
を、次々手を伸ばして摘まみながら、アンローラが隣に腰掛ける、ローフィスに尋ねる。
「…やっぱりオーガスタス様って、いつも一番、男らしかった?」
ローフィスが、その問いに笑顔で頷く。
「左将軍補佐だなんて、ご身分の高いお方だから、恐縮しちゃったけど…」
末っ子のアンリースが口開き、皆が彼女に注目する中、アンリースはそっ。と言った。
「…あの…とてもお優しくて…お話し易いわ」
マディアンがそれを聞いて
「あら…!
アンリースともお話しされたの?」
そうオーガスタスに尋ねる。
オーガスタスは、引っ込み思案の末っ子、アンリースに親しげに微笑んで告げる。
「肩掛けが見つからなくて困ってた所を、助けてくれた」
アンリースはオーガスタスに笑いかけてもらって、嬉しそうだった。
ラロッタが、揚げたチーズがけポテトを摘まみながら、つぶやく。
「そうよね。こんな大きな体のお方が、婦人用の肩掛けが無い。
って困ってらしたりしたら…なんだかとっても…」
「可愛い?」
マディアンに言われ、妹達は一斉に笑顔になり、ローフィスが視線振るとオーガスタスは、所在無さげに横を向いていた。
ローフィスは途端笑う。
「近衛じゃ、彼が通るとどんな身分の男も顔を引き締め、身構えるものなのに。
ご婦人達にかかると“可愛い”にされちまう…!」
女性らはそう言うローフィスの言葉に、声を立てて笑った。
再び、街道の両側に色とりどりの咲き乱れる花が飾られている様子を、皆が感嘆して眺めながら歩く。
次女エレイスと四女アンローラは、ローフィスの両側で彼を引っ張りながら、あちらの花。
こちらの花の美しさを、はしゃいで語り続ける。
マディアンは自分を抱き上げたまま、綺麗な花を見かけると、彼女が見やすいように体の向きを毎回変えてくれる、オーガスタスの首に抱き付きながら。
綺麗な花を見つめては、彼に微笑みかける。
その都度、オーガスタスは花で無く、嬉しそうなマディアンに、暖かい微笑みを返す。
マディアンはその時、毎回彼に見惚れている自分を自覚した。
だってオーガスタスの微笑は…本当に心暖まる、優しい微笑だったから。
「…それでも、楽しい事はたくさん…あったのでしょう?」
唐突なマディアンのその言葉に、オーガスタスは気づく。
「…つまり暴力沙汰以外に。
と言う事ですか?」
マディアンは首に抱きつく自分を、顔を傾けて見つめるオーガスタスを見つめ返し、目を、見開く。
「暴力沙汰が…楽しいんですの?」
オーガスタスは、苦笑した。
「思い切り、体を動かすので。
そうでもしなければこの体格だ。
荷運びくらいしか、用途が無い」
マディアンはじっ…と、オーガスタスを見た。
「ご自身の体格については…どんな風に感じていらっしゃるの?」
オーガスタスは微笑んだ。
「恵まれてる…と…男ばかりの場所では思います」
「…女性が居ると、そう思われないの?」
オーガスタスは、少し躊躇(ためら)う。
が口開く。
「…初対面では怖い男。
と勘違いされる事が多い。
乱暴者にそう、見られるのは願ったりですが」
「でも…私が初めて貴方を拝見した時。
…その、とても遠目でしたけれど…。
とても好ましいお方。
って印象でしたわ」
オーガスタスは目を、見開く。
「どこかで俺を、見かけたんですか?」
「やっぱり園遊会で。
女性に絡むヨーンを、その体格で遠ざけていらっしゃったわ」
マディアンは思い出しながら、微笑む。
「…近くで初めて会った時は?」
オーガスタスに聞かれ、マディアンは彼を見る。
「…とても、頼もしいお方だと」
オーガスタスは、吐息吐く。
が、その後彼が何だか嬉しそうで、マディアンはついずっと、オーガスタスの様子を見守ってしまった。
「頼もしい。と言われると…嬉しいですか?」
オーガスタスはマディアンに聞かれ、腕の中の彼女を見つめる。
「…そりゃあ…。
よく野郎にも言われますが。
こんな綺麗な女性に言われて、嬉しくない男はいないでしょう?」
素っ気無く言ってるけど…少し照れてるようで…けれどやっぱり嬉しそうで、子供のように喜んでる気がして。
マディアンはつい、そんな彼を見つめてしまう。
“こんなに…単純で素直で…子供っぽい所もお有りなんだわ”
マディアンはこの祭りの話をしてくれた、ローフィスに感謝した。
だって…身分を取り払った素の彼の、こんなに色々なオーガスタスの表情を見られて。
マディアンはうきうきしたり、新鮮で見とれたり、思わず微笑ましくなったり…。
とても楽しくて、オーガスタスの事がもっともっと、好きになったから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる





