赤い獅子と淑女

あーす。

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花祭り

花祭り 3

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「…どうしたんだ」
ローフィスが、両手いっぱいの飲み物と食べ物を持って、そう声かける。

マディアンは顔を上げると、ローフィスに告げた。
「オーガスタス様ったら。
ご自身は無骨だから、ご婦人への気配りはローフィス様の方が上で、旦那にしたいなら貴方が一番だっておっしゃるのよ?」

オーガスタスは、振り向くローフィスから、さっ!と顔を背ける。
妹達はローフィスの腕の中の物を、次々とテーブルの上に並べながら、口々に喋り始める。

「ローフィス様と結婚したら、毎日がとても楽しいと思うわ!」(アンローラ)

「ええ私も、ローフィス様は理想の旦那様だと思うわ」(エレイス)


三女ラロッタだけが、反論した。


「でも、オーガスタス様くらい男らしい方だと、側に近づかれただけでドキドキしちゃうわ!
お姉様、抱き上げられてて、良く平気ね!」

ローフィスはそれを聞いて、大袈裟に溜息を吐き、場のみんなを笑顔にさせた。

皆が椅子にかけ、テーブルに並ぶ、ポテトフライのチーズがけ。
すみれの砂糖漬け。焼いたウィンナー。
かぼちゃの揚げ物。メレンゲのお菓子。
アーモンドのチョコレートがけ。
を、次々手を伸ばして摘まみながら、アンローラが隣に腰掛ける、ローフィスに尋ねる。
「…やっぱりオーガスタス様って、いつも一番、男らしかった?」
ローフィスが、その問いに笑顔で頷く。

「左将軍補佐だなんて、ご身分の高いお方だから、恐縮しちゃったけど…」



末っ子のアンリースが口開き、皆が彼女に注目する中、アンリースはそっ。と言った。

「…あの…とてもお優しくて…お話し易いわ」

マディアンがそれを聞いて
「あら…!
アンリースともお話しされたの?」
そうオーガスタスに尋ねる。

オーガスタスは、引っ込み思案の末っ子、アンリースに親しげに微笑んで告げる。
「肩掛けが見つからなくて困ってた所を、助けてくれた」

アンリースはオーガスタスに笑いかけてもらって、嬉しそうだった。
ラロッタが、揚げたチーズがけポテトを摘まみながら、つぶやく。
「そうよね。こんな大きな体のお方が、婦人用の肩掛けが無い。
って困ってらしたりしたら…なんだかとっても…」

「可愛い?」
マディアンに言われ、妹達は一斉に笑顔になり、ローフィスが視線振るとオーガスタスは、所在無さげに横を向いていた。

ローフィスは途端笑う。
「近衛じゃ、彼が通るとどんな身分の男も顔を引き締め、身構えるものなのに。
ご婦人達にかかると“可愛い”にされちまう…!」

女性らはそう言うローフィスの言葉に、声を立てて笑った。



 再び、街道の両側に色とりどりの咲き乱れる花が飾られている様子を、皆が感嘆して眺めながら歩く。

次女エレイスと四女アンローラは、ローフィスの両側で彼を引っ張りながら、あちらの花。
こちらの花の美しさを、はしゃいで語り続ける。

マディアンは自分を抱き上げたまま、綺麗な花を見かけると、彼女が見やすいように体の向きを毎回変えてくれる、オーガスタスの首に抱き付きながら。
綺麗な花を見つめては、彼に微笑みかける。



その都度、オーガスタスは花で無く、嬉しそうなマディアンに、暖かい微笑みを返す。

マディアンはその時、毎回彼に見惚れている自分を自覚した。
だってオーガスタスの微笑は…本当に心暖まる、優しい微笑だったから。

「…それでも、楽しい事はたくさん…あったのでしょう?」

唐突なマディアンのその言葉に、オーガスタスは気づく。



「…つまり暴力沙汰以外に。
と言う事ですか?」

マディアンは首に抱きつく自分を、顔を傾けて見つめるオーガスタスを見つめ返し、目を、見開く。
「暴力沙汰が…楽しいんですの?」

オーガスタスは、苦笑した。
「思い切り、体を動かすので。
そうでもしなければこの体格だ。
荷運びくらいしか、用途が無い」

マディアンはじっ…と、オーガスタスを見た。
「ご自身の体格については…どんな風に感じていらっしゃるの?」

オーガスタスは微笑んだ。
「恵まれてる…と…男ばかりの場所では思います」
「…女性が居ると、そう思われないの?」

オーガスタスは、少し躊躇(ためら)う。
が口開く。
「…初対面では怖い男。
と勘違いされる事が多い。
乱暴者にそう、見られるのは願ったりですが」

「でも…私が初めて貴方を拝見した時。
…その、とても遠目でしたけれど…。
とても好ましいお方。
って印象でしたわ」

オーガスタスは目を、見開く。
「どこかで俺を、見かけたんですか?」
「やっぱり園遊会で。
女性に絡むヨーンを、その体格で遠ざけていらっしゃったわ」

マディアンは思い出しながら、微笑む。

「…近くで初めて会った時は?」
オーガスタスに聞かれ、マディアンは彼を見る。
「…とても、頼もしいお方だと」

オーガスタスは、吐息吐く。
が、その後彼が何だか嬉しそうで、マディアンはついずっと、オーガスタスの様子を見守ってしまった。

「頼もしい。と言われると…嬉しいですか?」

オーガスタスはマディアンに聞かれ、腕の中の彼女を見つめる。
「…そりゃあ…。
よく野郎にも言われますが。
こんな綺麗な女性に言われて、嬉しくない男はいないでしょう?」

素っ気無く言ってるけど…少し照れてるようで…けれどやっぱり嬉しそうで、子供のように喜んでる気がして。
マディアンはつい、そんな彼を見つめてしまう。

“こんなに…単純で素直で…子供っぽい所もお有りなんだわ”

マディアンはこの祭りの話をしてくれた、ローフィスに感謝した。
だって…身分を取り払った素の彼の、こんなに色々なオーガスタスの表情を見られて。
マディアンはうきうきしたり、新鮮で見とれたり、思わず微笑ましくなったり…。

とても楽しくて、オーガスタスの事がもっともっと、好きになったから。

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