赤い獅子と淑女

あーす。

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庭園

庭園 3

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 やがて母が、庭園の少し奥まった場所に視線を送り、そこに大きな石が並んでるのを眺めながら、呟く。
「あの大石の、後ろの雑草が抜けなくて…」

皆が一番背の低い、アンリースと同じ位の高さの大石と、その左右にもかなりの大きさの石が並ぶ風景に、視線を向けると。
「夫が誰か寄越(よこ)す。と言ったっきり、忙しくてそのまま…」
そう言って、チラ…と、オーガスタスを見る。

オーガスタスが気づいて椅子を立つ、その前にギュンターが一瞬で席を立つ。

大きな石が幾つも転がっており、確かに両側に綺麗な花が植えられている中。
景観として、良くは無い。

ギュンターは袖をまくると
「全部、どかしていいのか?」
と尋ねる。

彼が両腕いっぱいの石を持ち上げると、その筋力にアンローラもエレイスも感嘆(かんたん)の声を上げる。

母親もギュンターの横で
「こちらへお願いします」
と指示を出し、ギュンターはその都度持ち上げては運び、幾つかの大石はどけられて、残るはアンリースの背丈並みの、かなり大きな…石と言うより、ほとんど岩のみ。

オーガスタスがのそり。と横の席を立つのを、マディアンは見上げる。
大きな…赤い髪のその若者は、ギュンターの反対側から岩を持ち、二人は頷き合って、同時に大きな岩を、持ち上げた。

娘達は、その大岩が持ち上がるのに、目を見開き。
母親は、感激の声を上げる。
「まあ…!」

「父様が、この岩は細かく砕かないと、どかせられないって、おっしゃってたわ…」



末っ子のアンリースがそう囁き、二人の長身の若者は、その岩を持ち上げ、母親にどこに降ろすのか?
と顔で、尋ねていた。

「持ち上げる時の、ギュンター様のお背中が素敵…!」(アンローラ)
「逞しいわぁ…」(エレイス)
「オーガスタス様って流石でいらっしゃるわ!」(ラロッタ)

はしゃぐ娘達を横目に、母もはしゃぎたいのを我慢して、その岩の落ち着き先を指示する。

それは庭の遙か先で、マディアンはもう少しで
『幾らお二人でも、そんな距離を運ぶのは無理よ…!』
と叫びかけて、腰を浮かした。

ギュンターはその重さに、歯を食い縛っているようで。
オーガスタスは彼に二度
『大丈夫か?』
と目で確認を取り、頷くギュンターに告げる。

「限界だったら、いいから怒鳴って降ろせ」
ギュンターは頷き、二人で両手いっぱいの岩を、そろそろと動かし始める。

娘達はきゃあきゃあ言って後を付いて行き、二人は母親の指示通り、庭の奥へと歩を運ぶ。

途中、ギュンターがぐら…と岩を横へ揺らし、落ちかけたのを。
オーガスタスが手を添え、力尽くで戻す。

ギュンターはオーガスタスに感謝の視線を送り、オーガスタスはやはり、彼を気遣うように囁いてた。
「大丈夫か?」
ギュンターはその質問に、頷きながら小声で呟く。
「クソ重いな…」
言った後。
女性達に聞こえてないか?と我に返る。
「大丈夫だ。
気をそらすな」
オーガスタスの声に再び頷き、そろそろと歩を進める。

マディアンはまだ、いきなり動くと痛むので、椅子の肘掛けをきつく掴み、二人が大岩を持ち上げ歩く姿を、はらはらしながら見つめる。

オーガスタスはまるで危なげなく、重さに腕を微かに震わす、ギュンターに気を配ってるように見えた。

母が、ここに…。
と手で指し示す場所まで来ると、ギュンターとオーガスタスは頷き合って。
ドスン!!!
と大岩を、その場に下ろす。

女性達は揃って歓声を上げ、オーガスタスとギュンターは母親に労(ねぎら)いの言葉をかけられ…。

マディアンは汗を頬に伝わせる、オーガスタスをもっと近くで見たくて、気づくと細い木に掴まって、そろそろと歩き出していた。

オーガスタスは彼女の様子に気づくと、一気に飛んで来る。
マディアンはかなり遠目に見えたオーガスタスが、真横で真剣な眼差しで手を差し伸べるのを、呆けて見た。

直ぐ、背に腕が回って、その安心感に涙が溢れそうだった。
「あの…私…」
「痛みは…?」

マディアンは彼の切羽(せっぱ)詰まったような声に、もう一度顔を上げてオーガスタスを、見る。

怖いくらい真剣な表情で、マディアンはまた、うっとりとした。
「お陰で、ゆっくり歩く分には、痛みません」

言った途端、オーガスタスがほっ。とした様子で、次にあの、朗(ほが)らかな笑顔を見せた。
「それは良かった…!」

けれどマディアンがそれ以上動かなくて。
オーガスタスは屈むと、尋ねる。
「どちらに行こうとされていたのです?」
「私…その…」

マディアンは真実を言うべきか迷い…じっ…と、岩を降ろした場所で立ってこちらを見ている、金髪美貌で紫の瞳の、ギュンターを見つめ返し。
彼がいつも素っ気無い言葉で…けれど素直に自分の感情を、告げているのを見習って、囁く。

「貴方をもっと、近くで見ようと…」

言った途端、オーガスタスの頬が見る間に赤くなる。
「俺ですか?
彼では無くて?」

そう、ギュンターに髪を振る。

「…だってそんな風に汗をかかれてる貴方のお姿って…初めて拝見したしその…。
そうしていると、左将軍補佐様って思えなくて、何だかとっても近いお方に見えて…」

オーガスタスは、困ったように俯く。
「言ったように近衛では、年下だと舐められると事が進まないから、偉そうにしてるが…。
俺は貴方より二ヶ月年下の、悪餓鬼だ」

マディアンがその言葉に、いっぺんに笑顔になるので。
オーガスタスは照れたけど、彼女のその笑顔に、ほっとしている様子だった。

アンローラとエレイス、母に代わる代わる感謝や賞賛の言葉を受けながら。
ギュンターは二人の様子を見て、内心思った。

「(…ラブラブだな…。
あんな風に、思いっきり女を意識してるオーガスタスは、初めて見た)」

ふいにオーガスタスの視線が向けられ。
ギュンターは顔をそらして、バックレた。
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