35 / 44
庭園
庭園 4
しおりを挟む
オーガスタスの手を借り、マディアンは再び椅子に座る。
オーガスタスが横に座るので、マディアンは顔を寄せて囁いた。
「彼、まるで貴方の弟のようね?」
庭の向こうで、花や草を摘む妹達や母といる、ギュンターに視線を向ける。
オーガスタスは気づいて、囁く。
「あいつは義兄が二人もいるし…俺もよく子供の頃、年下の悪餓鬼の面倒見ていたので」
その笑顔が大らかで、やっぱりマディアンは彼に、見惚れた。
視線のかなり先。
花が咲き乱れた庭で、ギュンターは屈むように言われ、髪に花を飾られそうになって、慌てて身を起こし、ぼやいてた。
「俺に付けるのは勘弁(かんべん)してくれ!」
女性達は彼のそんな反応に笑い、けれど無邪気に花を摘み髪を飾る女性達に、ギュンターが笑顔を見せ、彼女達は嬉しそうに笑い返していた。
オーガスタスはそんなギュンターの様子に笑顔を浮かべ、マディアンはオーガスタスの笑顔を見つめて、微笑んだ。
間もなくコックがやって来て
「昼食は皆さん、こちらで食べられるんですか?」
と尋ね、母は慌てて叫んだ。
「今日は確か、ご招待があったわね?!」
妹達はマディアンを見つめながら
「でもお姉様がいらっしゃらないなら、お断りするわ」
「ギュンター様がここにいるから。
わざわざ出かける必要なんて、無いわ!」
と口々に言って、母は一つ、溜息を吐くと言った。
「お断りの使者を出して、ここに居る人数分の昼食を、作って下さる?」
コックは頷いて、顔を引っ込めた。
やがて玄関で、シェダーズの声がする。
取り次の女中が後ろに彼を伴い、やって来て
「マディアン様がサティアン婦人の昼食会にいらっしゃる、お迎えにいらしたそうです」
そう告げる。
シェダーズは帽子を脱いで、庭で寛(くつろ)ぐ皆へと顔を、上げた途端。
そこに左将軍補佐オーガスタスと、新兵ギュンターの姿を見つけ、いっぺんに固まる。
「…補佐殿…。
いつも忙しくていらっしゃるが、今日は…お見舞いに来られてるのですか?」
ギュンターがオーガスタスを見ると、オーガスタスは項垂れて見えるほど、顔を下げて言った。
「いや。
左将軍に彼女が怪我をしたのは私の不手際だから、治るまでお手伝いをして、彼女に不自由かけるなと。
命令されている」
ギュンターはすかさずその後を継ぐ。
「俺は彼の手伝いで駆り出された。
新兵で暇だろう。と言われて」
シェダーズは彼女達にすっかり入り込み、馴染んでる二人を、言葉無く見つめる。
オーガスタスの横。
柔らかな栗色の、ほつれ毛が優しい愛しの淑女、マディアンを目にし、シェダーズは恋い焦がれる彼女を、遠い瞳で見つめた。
途端、ギュンターが口開く。
「どう見ても彼女はオーガスタスに惚れてるから、さっさと諦(あきら)めた方があんたの為だ。
俺だって、オーガスタスが恋仇だったら、悔しいが諦める」
場の皆が、一斉に金髪美貌のギュンターを注視する。
シェダーズは、彼程モテモテの美男でもそうなのか?
とギュンターを見つめ、囁く。
「君でも…その、君ですら、諦めるのか?」
言ってオーガスタスを見るが、オーガスタスは
『嘘付け』という、半ば睨み顔でギュンターを見ていた。
オーガスタスと自分の顔を、交互に見るてシェダーズに、ギュンターは頷く。
「…俺は教練(王立騎士養成学校)で、こいつとずっと一緒だった。
が、男らしさを比べられたが最後、もの凄く、落ち込むぞ」
ギュンターが真顔で、シェダーズは思わず、思い切り納得いって、俯いた。
そしてさっ!と顔を上げ、マディアンを見る。
が、彼女を諦めなくてはならない…。
そう思った途端、瞳が潤(うる)む。
ギュンターが立ち上がると、シェダーズの横に立ち
「やけ酒だったら、いつでも付き合うからそう言ってくれ。
あんたの気持ちが解るのは、俺くらい、適任者はいない。
と断言出来る」
と素晴らしい美貌の、けれど無表情で慰めていた。
マディアンが見ていると、オーガスタスは横で頬杖(ほおづえ)付いて白(しら)けていて、ギュンターを呆(あき)れて見、ぼやいた。
「…お前、そんなに俺に恥かかされてたっけ?」
オーガスタスの言葉に、ギュンターがムキになって怒鳴る。
「お前といると俺は男に見られなくて、情けなくて何度も泣きたくなったんだぞ!」
シェダーズがギュンターの横で頷きまくり、ギュンターはシェダーズと一緒に頷きまくって、オーガスタスを更に、呆れさせた。
女性達はギュンターとオーガスタスとを交互に見つめ、見比べて、呆けた。
どう見てもギュンターは綺羅綺羅していて、側に寄るとドキドキする程素晴らしい美貌だし、男らしい色香に溢れてる。
抱き寄せられたりしたら、頬が真っ赤に染まってしまうのは、間違いなくギュンターの方。
オーガスタスはとても大きくて逞しくて、やっぱり側に来られるとその男らしさにドキドキはするものの。
いつも親しみやすい笑顔を浮かべていたから、ギュンターのように所在なく落ち着きを無くすような事には、成りそうに無かった。
オーガスタスは彼女達の考えを察し、ぼそり…と呟く。
「大抵の男が恋仇と睨(にら)むのは、間違いなくお前(ギュンター)だ」
シェダーズは思わず横に立つギュンターを見た。
が、ギュンターは顔色も変えず言い放った。
「マディアンに惚れた男の恋仇は、間違いなくお前(オーガスタス)だ」
女性達が見ていると、ギュンターは真っ直ぐオーガスタスを見据(す)え。
そんなギュンターから、さっ。
と横向き目を背けたのは。
オーガスタスの方だった。
オーガスタスが横に座るので、マディアンは顔を寄せて囁いた。
「彼、まるで貴方の弟のようね?」
庭の向こうで、花や草を摘む妹達や母といる、ギュンターに視線を向ける。
オーガスタスは気づいて、囁く。
「あいつは義兄が二人もいるし…俺もよく子供の頃、年下の悪餓鬼の面倒見ていたので」
その笑顔が大らかで、やっぱりマディアンは彼に、見惚れた。
視線のかなり先。
花が咲き乱れた庭で、ギュンターは屈むように言われ、髪に花を飾られそうになって、慌てて身を起こし、ぼやいてた。
「俺に付けるのは勘弁(かんべん)してくれ!」
女性達は彼のそんな反応に笑い、けれど無邪気に花を摘み髪を飾る女性達に、ギュンターが笑顔を見せ、彼女達は嬉しそうに笑い返していた。
オーガスタスはそんなギュンターの様子に笑顔を浮かべ、マディアンはオーガスタスの笑顔を見つめて、微笑んだ。
間もなくコックがやって来て
「昼食は皆さん、こちらで食べられるんですか?」
と尋ね、母は慌てて叫んだ。
「今日は確か、ご招待があったわね?!」
妹達はマディアンを見つめながら
「でもお姉様がいらっしゃらないなら、お断りするわ」
「ギュンター様がここにいるから。
わざわざ出かける必要なんて、無いわ!」
と口々に言って、母は一つ、溜息を吐くと言った。
「お断りの使者を出して、ここに居る人数分の昼食を、作って下さる?」
コックは頷いて、顔を引っ込めた。
やがて玄関で、シェダーズの声がする。
取り次の女中が後ろに彼を伴い、やって来て
「マディアン様がサティアン婦人の昼食会にいらっしゃる、お迎えにいらしたそうです」
そう告げる。
シェダーズは帽子を脱いで、庭で寛(くつろ)ぐ皆へと顔を、上げた途端。
そこに左将軍補佐オーガスタスと、新兵ギュンターの姿を見つけ、いっぺんに固まる。
「…補佐殿…。
いつも忙しくていらっしゃるが、今日は…お見舞いに来られてるのですか?」
ギュンターがオーガスタスを見ると、オーガスタスは項垂れて見えるほど、顔を下げて言った。
「いや。
左将軍に彼女が怪我をしたのは私の不手際だから、治るまでお手伝いをして、彼女に不自由かけるなと。
命令されている」
ギュンターはすかさずその後を継ぐ。
「俺は彼の手伝いで駆り出された。
新兵で暇だろう。と言われて」
シェダーズは彼女達にすっかり入り込み、馴染んでる二人を、言葉無く見つめる。
オーガスタスの横。
柔らかな栗色の、ほつれ毛が優しい愛しの淑女、マディアンを目にし、シェダーズは恋い焦がれる彼女を、遠い瞳で見つめた。
途端、ギュンターが口開く。
「どう見ても彼女はオーガスタスに惚れてるから、さっさと諦(あきら)めた方があんたの為だ。
俺だって、オーガスタスが恋仇だったら、悔しいが諦める」
場の皆が、一斉に金髪美貌のギュンターを注視する。
シェダーズは、彼程モテモテの美男でもそうなのか?
とギュンターを見つめ、囁く。
「君でも…その、君ですら、諦めるのか?」
言ってオーガスタスを見るが、オーガスタスは
『嘘付け』という、半ば睨み顔でギュンターを見ていた。
オーガスタスと自分の顔を、交互に見るてシェダーズに、ギュンターは頷く。
「…俺は教練(王立騎士養成学校)で、こいつとずっと一緒だった。
が、男らしさを比べられたが最後、もの凄く、落ち込むぞ」
ギュンターが真顔で、シェダーズは思わず、思い切り納得いって、俯いた。
そしてさっ!と顔を上げ、マディアンを見る。
が、彼女を諦めなくてはならない…。
そう思った途端、瞳が潤(うる)む。
ギュンターが立ち上がると、シェダーズの横に立ち
「やけ酒だったら、いつでも付き合うからそう言ってくれ。
あんたの気持ちが解るのは、俺くらい、適任者はいない。
と断言出来る」
と素晴らしい美貌の、けれど無表情で慰めていた。
マディアンが見ていると、オーガスタスは横で頬杖(ほおづえ)付いて白(しら)けていて、ギュンターを呆(あき)れて見、ぼやいた。
「…お前、そんなに俺に恥かかされてたっけ?」
オーガスタスの言葉に、ギュンターがムキになって怒鳴る。
「お前といると俺は男に見られなくて、情けなくて何度も泣きたくなったんだぞ!」
シェダーズがギュンターの横で頷きまくり、ギュンターはシェダーズと一緒に頷きまくって、オーガスタスを更に、呆れさせた。
女性達はギュンターとオーガスタスとを交互に見つめ、見比べて、呆けた。
どう見てもギュンターは綺羅綺羅していて、側に寄るとドキドキする程素晴らしい美貌だし、男らしい色香に溢れてる。
抱き寄せられたりしたら、頬が真っ赤に染まってしまうのは、間違いなくギュンターの方。
オーガスタスはとても大きくて逞しくて、やっぱり側に来られるとその男らしさにドキドキはするものの。
いつも親しみやすい笑顔を浮かべていたから、ギュンターのように所在なく落ち着きを無くすような事には、成りそうに無かった。
オーガスタスは彼女達の考えを察し、ぼそり…と呟く。
「大抵の男が恋仇と睨(にら)むのは、間違いなくお前(ギュンター)だ」
シェダーズは思わず横に立つギュンターを見た。
が、ギュンターは顔色も変えず言い放った。
「マディアンに惚れた男の恋仇は、間違いなくお前(オーガスタス)だ」
女性達が見ていると、ギュンターは真っ直ぐオーガスタスを見据(す)え。
そんなギュンターから、さっ。
と横向き目を背けたのは。
オーガスタスの方だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
