アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第五章『冒険の旅』

神聖騎士アーチェラスとホールーン

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 中庭にある、古い大木の裏に回る。
そこには白い石で出来た美しい彫刻の柱が立ち並び、月明かりに青白く照らされて、神秘的な光景を醸し出していた。

その奥の、やはり白い石で出来た階段が、湯の中へと続く広い浴槽に、階段横の白壁に飾られた黄金の獅子の口から、温泉が注ぎ込まれていた。

白石で出来た浴槽からは湯が溢れ、浅く湯に浸る石段に、一人が腰掛け、そして浴槽の中にもう一人が。
月明かりを浴び、湯に浸かっていた。
二人共が『光の王』の血を引くと一目で解る、ウェラハス同様のほの白い肌を際だたせ、長身で整いきった容貌をしていた。

ウェラハスが一同を導くと、二人は振り向く。
その親密な視線で、二人は神聖騎士団の騎士だと、皆に解る。
石段に腰掛けている一人は、白っぽい金の巻き毛をしていたし、もう一人は殆ど銀色の、真っ直ぐな髪をしていた。
袖の無い、白く透けた浴衣を身につけ、その裸体は透けて見え隠れしたが、二人ともとても白い肌をしていて、その色は不思議な輝きを帯び、“人外の者"を思わせる。

テテュスもレイファスも、ファントレイユもつい、ウェラハスと彼らを見比べた。
ウェラハスのような人は初めて出会ったのに、そんな人物がもう、二人も居る。
子供達はウェラハスと明らかに同族と解る二人の神聖騎士を目にし、一気に興奮した。

石段に腰掛けてた金髪の巻き毛の騎士は、子供達を見て、その青い大きな瞳を輝かせる。
「子供だ!三人も!」
その様子で彼が、人懐っこくて子供好きだと、皆に解った。
が、湯に浸かる銀髪の青年は、美しく整いきった面を微塵も動かさず、じっとウェラハスに視線を注いだままだった。

ウェラハスは一行に告げる。
「団員も居るが、浸かってくつろいでくれ。
飲み物はアーチェラスに貰うといい」
アーチェラスと呼ばれた金髪で巻き毛の騎士は、彼の座る石段の、一つ上の段に置かれた飲み物の入ったガラスのデキャンターを、体を空けて見せ、一同に微笑みを浮かべて頷く。

ウェラハスに促され、石柱の陰の、白石に彫刻の施された美しい幾つかのベンチに、彼らの衣服がかけられているのを見、皆がやれやれと衣服を脱ぎ始め、その脱いだ衣服を団員同様、ベンチに投げかけた。
が、ウェラハスはギュンターの横に来て顔を傾け、耳元でささやく。
「君はこちらだ。
騎士団長、ダンザインが面会する」
ギュンターは無言で頷く。
ローランデの視線が降り注がれ、ギュンターは気づくと、そっと彼に、大丈夫だ。と頷く。
ローランデの青の瞳が揺らめき、ギュンターはやっぱり、彼の横へ寄って腰を抱き、その瞳を見つめて話したかった。
が、直ぐ隣のシェイルの、きつい射る視線に一つ、吐息を付くと。
促すウェラハスの、後に続く。

ディンダーデンは行こうとする二人の背に、唸った。
「俺は、風呂の後でいいんだろう?」
ウェラハスは振り向くと、すっかり上半身は裸で、ベルトに手を掛けるその駄々っ子のような、濃い栗色の巻き毛の美青年を見つめ、くすり。と笑った。
「ああ。それでいい。
君の家柄の事は、ダンザインもよく知っている。
君の兄ライオネスが、中央護衛連隊所属の、公領地隊長である事も。
ゆっくり湯に、浸かっていてくれて構わない。
水はずいぶん、冷たかったようだな?」

ディンダーデンはそれを聞いた途端、淡いふんわりとした栗毛を肩で揺らしてズボンを足先から滑らせ屈むゼイブンに、いきなり振り返ったし、ギュンターはウェラハスの横で、眉を寄せて言った。
「…やっぱり、心を読むのか?
初対面なのに俺がギュンターだと、紹介も受けず解ったろう?」

ゼイブンはディンダーデンの問いかける青の瞳に気づき、脱ぐ手を止め、軽く首をすくめた。
「その上、連中同士で心話してる。
口に出す必要がないのに、言葉に出すのは俺達の為だ」
ウェラハスはゼイブンに微笑むとささやく。
「『神聖神殿隊』に、いつも随分(ずいぶん)、煩(わずら)わされているようだ」

ゼイブンはウェラハスの高貴に感じる視線を受け、屈めた身を起こし、言った。
「あんたら“西”(神聖騎士団)は。
『光の王』の血を継ぐ者達だからお行儀がいいが。
“東”(『神聖神殿隊』)は王に仕える護衛騎士の末裔だから、結構向こう気は強いし、荒っぽい」
ウェラハスは目を細めて笑う。
アーチェラスはそっとささやく。
「我々は必要以外、あまり人の心は覗かない」
ゼイブンは頷いた。
ウェラハスが、ディンダーデンを見つめる。
「でも君達から要求が発せられたり、私に対して感情が向けられたら。
無意識に読み取ってしまう。
それは、覚えて置いてくれ」
ディンダーデンはその、便利な男を見つめ、思い切り頷いた。
ウェラハスはくすくす笑う。
「アーチェラス。
彼にデキャンターからグラスに、その酒を注いで渡してくれ。
ディンダーデン。
私を試すのと欲望を叶えるのを、同時にしたのか?
ご覧の通り君は今私に向けてそれを発したし、アーチェラスは読み取っていない」

アーチェラスはズボンを脱ぎ捨てようとするディンダーデンを見つめ、一つ吐息を吐くと、デキャンターからグラスにその液体を注ぎ始めた。
が、湯の中に居た銀髪の青年が、表情を崩さぬまま告げる。
「ああ、『喉が渇いた』と心の中で大声で叫ばれ、聞くなと言う方が無理だ」

ディンダーデンは手を止め、ついそうつぶやく銀髪の青年の、整いきった無表情の顔を、呆然と見つめる。
だがウェラハスは低く抑えた声で、注意を促す。
「…それでもだ。
ルールで礼儀だ。ホールーン」
が、ホールーンと呼ばれた銀髪の白面の青年は、ウェラハスをその焦げ茶に近い金の瞳で、真っ直ぐに見た。
ウェラハスは彼の無言の言葉を聞いている様子で、ギュンターは
『これが心話か』
とつい、口も開けず会話する二人を、見つめる。

がアーチェラスが、二人の会話に戸惑うように、ホールーンを見つめてささやく。
「…だが客人だ。
確かにここは内館だが。
相手は人間なんだから、それなりに対応しないと、彼らが戸惑うだろう?」

それで、シェイルにもローランデにも、ホールーンが深夜、内輪に土足で上がり込むような客人を、無礼で礼儀を取る必要は無いと、考えていると思った。
が途端、ホールーンは二人に振り向くとつぶやく。
「君達を歓迎しないと、言っている訳じゃ無い」
ローランデもシェイルも途端、その鈍い胴色の瞳に見つめられ、頬を染めて俯いた。

ゼイブンがぼやく。
「可愛いもんだ。
その上、礼儀正しい。
『神聖神殿隊』だったらとっくに、個人の秘密をべらべら人前で、しゃべられてる所だ」

ローランデはいきなりギュンターを見つめ、真っ赤に成ってウェラハスに質問した。
「全部、解るんですか?
そんな個人的な事も?」
ウェラハスの困ったような表情で、シェイルは彼が、ローランデとギュンターのいきさつを全て、とっくに読み取ってるな。と感じた。

が、ウェラハスは恥じ入るローランデを見つめ、柔らかな声音でささやく。
「我々はあなた方が口に出して欲しくない事柄を、口にする事は無い」
ホールーンも頷いたし、アーチェラスも顔を縦に振って同意した。

テテュスも思ったが、レイファスが先にそれを言葉にした。
「人の心が読めるって、どんな感じ?」
アーチェラスがその可愛らしい小さな子供の、無邪気な質問に微笑むと、つぶやく。
「君達だって、相手の表情を読むだろう?
それを見ないで、解る感覚に近いと思う」
「空気の、振動のようなもの?」
テテュスが尋ねると、レイファスもファントレイユも、アーチェラスを見つめた。
アーチェラスは柔らかく微笑み、頷いた。
「それに、うんと集中しなきゃ解らない事もある。
君達も、何かに気を取られたら、見逃す事があるように」
ファントレイユが無邪気に微笑んだ。
「全部が全部、まるっきり解る訳じゃ、無いんだ!」
だがホールーンはその美麗な無表情で告げる。
「強い感情は直ぐ読み取れる」
三人は呆気に取られ、ホールーンを見つめた。
途端、アーチェラスがホールーンの言葉を補足した。
「…ホールーンは読み取る力が、他の者より卓越してるから」
テテュスは、頷いた。
「じゃ、聞きたく無くても、聞こえちゃう?」
その小さな子供の心配げな言葉に、ホールーンはようやく冷たい態度を少し崩すと、焦げ茶の長い髪を背に垂らす、誠実な濃紺の瞳をした、素直で優しい子供に頷いた。
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