アースルーリンドの騎士 幼い頃

あーす。

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第五章『冒険の旅』

遅れて湯に浸かる神聖騎士達

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 アイリスが戸口から姿を現すと、ディングレーが白石の浴槽の中から振り向き、呆然とささやく。
「…早かったな」

シェイルの横で湯に浸かるローランデの、不安げな青い澄んだ瞳を受け、アイリスの背後に姿を見せたギュンターは、一つ、頷いて見せる。
途端、ローランデの瞳が明るく輝き、ギュンターはその美しい微笑みに見とれた。
シェイルはすかさず隣から、ギュンターを押し止める、射るような視線を投げかけたが。
ギュンターは気づき、素早く衣服を脱ぐと仕方無しに、先に湯に入るアイリスの横に、滑り込んだ。
ローフィスもオーガスタスも、物も言わずさっさと衣服を脱ぐと、浴槽に浸かる。

皆が皆、ここに辿り着く道筋で水に浸かり、滝のシャワーを浴び、洞窟の冷気に曝され、深夜の夜露に濡れて体が冷え切っていたので、湯の温かさがじんわりと疲労をほぐしていくのを、目を閉じ、ただ黙って享受していた。

ホールーンが、彼らの疲労を読み取って、そっとささやく。
「この後、直ぐに食事が取れる」
オーガスタスは一目で、神聖騎士だと解るその青年に顔を上げて微笑むと、感謝を告げる。
「深夜にも関わらず、有り難い気遣いだ」
アーチェラスは石段に座ったまま、首を一瞬、傾(かし)げて言った。
「神聖騎士達もたった今、帰還した者がいる事だしな」
ローフィスが、呆れてアーチェラスを見つめる。
「神聖騎士団も、24時間体制なのか?」

が、直ぐに奥の戸口から、白っぽい金の髪を揺らす白い肌をした長身の二人が、姿を現す。
白の隊服に、金のベルト、金の胸と腰飾りを垂らし、白地のブーツにも金の装飾が施されていた。
やはりほの白い肌をした整いきった顔立ちで長身の、崇高な感じのする若者達で、レイファスもテテュスもファントレイユも、神聖騎士達のその隊服と、彼らの格好良さと美しさに見惚れた。

先に入って来た、毛先が緩やかにくねる白金の髪の青年は、くっきりとした緑の瞳を上げると、無造作に腰に下げた金の飾りの施された素晴らしい剣をベンチに置き、顔を上げて目を丸くして自分を見つめる子供達を、見つめ返す。
彼は一つ、吐息を吐くと背後に居る、やはり白っぽいけれど、ほんの少し赤味のある、奔放にくねる髪の、素晴らしく勇ましい印象の、くっきりした青の瞳の青年に振り向く。
彼は途端、前の青年の視線を受けて、笑った。

アーチェラスが、緑の瞳の青年につぶやく。
「それは、まずいぞ?ムアール」
ホールーンも、赤毛の青年を見つめる。
「…悪趣味だな、ドロレス」

皆は一斉に、何が起こったのかと、神聖騎士達を見つめる。
緑の瞳のムアールは笑うと、隊服を脱ぎ、やはり薄衣一枚で湯に入って来るし、赤毛のドロレスも、悪戯っぽい微笑みを消さなかった。

どんっ!
ハデな音を立て、もう一人、白っぽい金髪を派手に揺らし、グレーがかった薄茶色の瞳の青年が、戸口の向こうから飛び込んで来る。
彼は肩で息をし、さっ!と湯の中に居る子供三人を、ぎょっとして見つめる。
子供達は飛び込んで来た青年の様子に、びっくりして互いを見回す。

ドロレスは顎に手を付き、血相変える彼を見つめ、ムアールも、背を向けたままだったが、何かを彼に、告げているみたいに見える。

「…連中、何くっちゃべってるんだ?」
ディンダーデンがアーチェラスに尋ねると、アーチェラスは俯く。
血相変えた青年はいきなり浴槽に駆け寄ると、一番落ち着いたオーガスタスの、浴槽に掛けた肩を掴もうとするので、ホールーンは顔を上げ、青年に心話で何か告げたようだった。

途端、その青年は歪めた顔をほっ、と緩め、先に湯に浸かる二人に振り向き、怒鳴る。
「何が、三人共俺の隠し子だ!
ふざけるにも、程があるぞ!」

ファントレイユもレイファスもテテュスも、びっくりした。
皆が呆れ返る中、ムアールとドロレスは笑い転げ、ドロレスが口を開いた。
「だって覚えがあるから、慌てて飛んで来たんだろう?!」
薄茶色の瞳の青年はそう言う、仄の赤い髪の勇ましげなドロレスを睨んだ。
「新人虐めは楽しいのか?!」
白金の髪のムアールは緑の瞳を彼に向けると、微笑む。
「親睦が深まっただろう?エイリル」

エイリルと呼ばれた若者は、憮然と先輩二人を睨み付けた。
「俺が、ヘマやって帰還が遅れた腹いせだろう?!」
ムアールはドロレスに肩をすくめると、ドロレスがささやく。
「お前がヘマをするのは、別に構わない。
だが我々は皆で一つだ。
お前の調和が乱れると、我々に力を送る輪の中心、ミューステールが苦しむ」
ムアールも、少し厳しい緑の瞳を向けてつぶやく。
「和の中心の彼(ミューステール)が弱れば、我々も力を失う。
肝に据えとけ」
ホールーンが、吐息混じりに俯く。
「確かにそれだと、皆が危険に曝されるな。
だが今回の事は、君達が十分補える失敗だろう?
ムアール。…ドロレス?」
アーチェラスも頷く。
「どう考えても、エイリルをからかって楽しむ為の狂言としか、思えない。
一緒に後見人が大勢付き添って来ている。
だなんて、言い過ぎだ」

オーガスタスは、エイリルがどうして自分に問い正そうとしたのか、理解出来た。
それで一番若く見えるエイリルに言ってやった。
「ファントレイユはゼイブンの息子で、テテュスの父親はアイリスだ。そっくりだろう?
レイファスもちゃんと父親が居る」
レイファスは頷く。

エイリルはレイファスの横のテテュスと、手前で湯に浸かるアイリスを見比べ、そっくりな髪と瞳とその顔立ちに、納得したと頷く。
エイリルは随分素直そうで、明らかに他の者より人間っぽかった。

「糞!」
隊服を脱ぎ捨て、やはり薄衣でそう、怒鳴って湯に浸かる彼を、やっぱりムアールとドロレスは笑って迎える。

ホールーンがエイリルに向くと、その整いきって冷静な表情を崩さずつぶやく。
「お前が感情的になるから、二人共面白がって構うんだ」
アーチェラスはエイリルにそっと尋ねた。
「隠し子に、心当たりがあるのか?」
途端、ドロレスとムアールは笑いこけ、エイリルはしどろもどろって言葉に詰まる。
ホールーンは呆れてエイリルを見つめる。
「簡単に、確認が取れるだろう?
どうしてそうしない?」
エイリルはぶすったれると、年上の賢者を見つめる。
「…来たばかりで休暇が取れない」
ホールーンは一つ、吐息を吐くと、知恵を授けた。
「ウェラハスに“気"を送って、危ない相手の情報を知らせ、確認を取って貰え」
アーチェラスも頷く。
「気になってる事をそのままにして置くと、またムアールとドロレスの、からかいのネタにされるぞ」
ムアールとドロレスはやっぱり笑いこけ、エイリルは二人を睨み、アーチェラスとホールーンは俯いてため息を付いた。

皆は、アーチェラスとホールーンはとても常識的で、ムアールとドロレスは神聖騎士達の中でも、どちらかと言えば、人が悪いんだな。と感じた。

だがドロレスは、何かを受け取ったように顔を上げ、隣に居たローフィスを見つめる。
「食事と寝所の用意が出来たと、ウェラハスが告げている。
湯から上がり、もう休め」
ローフィスは頷くと、オーガスタスを始め他の者も一斉に湯から立ち上がり、ファントレイユもレイファスもテテュスも、慌てて立ち上がった。

出る時、エイリルの薄茶の瞳と目が合い、三人は思わず軽く頭を下げて挨拶をすると、頭の中に声が、飛び込んで来た。
『騒がせて、悪かった』

三人はびっくりし、ホールーンがエイリルをジロリと見つめた。
「人間に口を使わない言葉を、いきなり送るな!」
エイリルは途端、またヘマをした。と言わんばかりで、湯面に顔が付きそうな位俯き、ムアールとドロレスはやっぱりそれを見て、笑った。

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