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図らずも身の危険を回避したギュンター

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 ローフィスは、マレーとアスランを連れて戻ったディングレーの所でハウリィを交え、早めの豪勢な夕食をいただいた後、王族私室を出る。

階段を降りた一階の平貴族大食堂には、まだ生徒は居ず、まかない担当の料理人らが端のテーブルの上に、湯気立つ料理の大皿を並べていた。

アスランはハウリィの姿を見た途端、本当に嬉しそうで、抱きついていたのを思い出すと、つい顔がほころぶ。

ほっこりしてると言うのに、宿舎の外階段を降りきった所をフィンスとヤッケルに呼び止められ、何事かと振り返る。

内心凸凹コンビ。と呼んでる通り、フィンスは長身で穏やかな紳士に見え、ヤッケルは小柄。
ヤッケルは確かに整った丸顔の女顔だったが、どー頑張っても日頃のヤッケルの性格を知ってるだけに。
カップルには見えない。

「…その…今日、ギュンターはオーガスタスと出かけましたよね?
午後の授業をサボって」

フィンスに切り出され、ローフィスは目を見開く。

「見てない」

フィンスとヤッケルは、顔を見合わせた。

「…オーガスタスって…とうとうギュンターに、オチたのか?」

ヤッケルに、聞かれた途端。
ローフィスは吹き出しそうになるのを、必死に堪えた。

「…いや知らない。
そうなのか?」

フィンスとヤッケルはまた、顔を見合わせる。

「その…オーガスタスですし。
今まで彼はその…男には全く興味が無いと言うか…」

「(今でも無いと思うが)…だから?」

「祝福しよう。と言う動きと、オーガスタスが男にオチるなんて、あんまりだから、いくらギュンターが美貌でも。
今までの姿勢をつらぬいて欲しい!
と言う動きと。
後は…本人同士の問題だから、黙して見守ろうと言う動きと…」

「動きって?」

ヤッケルが、ため息交じりにつぶやく。
「ちょうど講義室に出向く、二年と三年のほぼみんなが。
オーガスタスと寄り添い歩く、ギュンターを目撃してるから…。
オーガスタスが、ディングレーからギュンターを奪い取った説と。
ギュンターが、ディングレーより大物の、オーガスタスに乗り換えた説と。
ギュンターが、ディングレーとオーガスタスの二股かけてる説とが、ぶつかりあって…」
フィンスが、その後を引き継ぐ。
「今どこでも議論沸騰してるんです」

ローフィスはもう少しで「ヒッヒッヒッ!」と下品に笑い転げる所だった。
が、我慢して尋ねる。
「それで俺に、真偽しんぎを尋ねに来たのか?
あいつ、そんな事一言も俺に言わない」

フィンスとヤッケルが、がっかりして顔を下げるので、つい悪乗りって、ローフィスは言ってしまった。
「が。
俺とディングレーが親しいこと、オーガスタスのヤツ知ってるから。
ディングレーからギュンターを奪い取った事、俺に知られると気まずい。
と思って、口を閉ざしてるのかも」

フィンスとヤッケルが、顔をぱっ!と輝かせ、挨拶もそこそこ、さっさと二年宿舎に戻っていく姿を見送った後。
ローフィスは我慢の限界で、ひっひっひっ!と笑い声を漏らし、四年宿舎に辿り着くまで笑い続けた。


 ギュンターが、がばっ!と身を起こす。
横の…確か名前はリィラ…は、眠そうに何事かと、ギュンターを見つめてる。

「…悪い、帰らないと!」

返事も聞かず、一気に服を身につけ、部屋を出て階段を駆け下りる。
流石に夕食時なのか、『教練キャゼ』の生徒の姿は無い。

しかも、オーガスタスの姿も無い。
古びた古木のカウンターに駆け寄り、酒場の親父に尋ねる。

「『教練キャゼ』の…赤毛の大柄な…」
「オーガスタスか?
あんた、ギュンターだろう?
彼から、伝言だ。
『支払いは済ませたから、そのまま宿舎へ戻れ。
俺は先に帰る』」

ギュンターが、あたふたと財布を出しかけ…親父を見ると、親父は笑って頷く。
「…部屋代と酒代…」
「もらってる。
返すんなら、オーガスタスに返せ」

カウンターの向こうで、酔っ払いが叫ぶ。
「正直者だな!親父!
貰ってないって言や、儲けたのに」

親父は手を振り上げ、怒鳴り返す。
「害虫駆除してくれる大恩あるオーガスタスに、そんな事出来るか!」
他の酔っ払いが、いっせいに囃し出す。
「だよな!
あいつが出入りするから、ごろつき共は入って来ない!」
「お陰で安心して来られるって、女客も増え、それ目当てに男客も増えて、商売繁盛だもんな!」
「喧嘩っ早い『教練キャゼ』の、タチの悪い奴も!
ここではあいつのお陰で、大人しいしな!」

やがて
「オーガスタスに、乾杯!」
「乾杯!」
とあちこちで盃が上がって、ギュンターは目を丸くした。

酒場を出て、ほぼ日の落ちた、薄暗い林道を駆け昇る。
少し小高い場所にある『教練キャゼ』に、この酒場は一番近かった。

石で出来た高い塀を、指を石と石の隙間の凹みに入れて強引によじ登り、飛び降りて着地。
そこからは宿舎が近かったから、宿舎前の広い道へと出て、立ち並ぶ建物の一つの、階段を駆け上がり扉を開ける。

が、長細いテーブルの長細い椅子にかけた生徒らに一斉に、まだ少し少年っぽい顔で振り向かれ、ギュンターは呻く。

「…三年…?」
一人が、フォークで横を指す。

「ここは…二年?」
一人が、口をもぐもぐさせながら、頷く。

ギュンターが言葉も無く扉を閉め、立ち去った後。
広大な二年平貴族食堂は、一気に騒がしくなった。

「絶対!ヤってる!」
「髪、艶々じゃ無かったか?!」
「頬もピンクだった!」

食事の席は、裸のオーガスタスに組み敷かれた、やっぱり裸でオーガスタスに抱きつく、美貌のギュンターの妄想で満たされた。


次にギュンターは隣の建物の、階段を一気に駆け上がり、扉を開く。
皆、木のトレー片手に皿に料理を盛り付け、大食堂内はごった返してた。

ギュンターは一気に空腹を思い出し、トレーを掴むと料理の並ぶテーブルへ駆け寄り。
次から次へと、料理を皿に乗せた。

ダベンデスタが椅子に座り、こっちを見ている姿が目に入り、ギュンターは人混みを、トレーを庇いツバメのようにすり抜け、テーブルに無事護り切った料理満載のトレーを置き、ダベンデスタの横に勢いよく腰下ろす。

下ろすと同時、一気にフォークを掴んで口に掻き込むギュンターを。
ダベンデスタは目を見開いて見た。

ラッセルダンもロッデスタも、やはり無言でがっつくギュンターを見る。

「オーガスタスと…一緒だったのか?」
ダベンデスタがやっと、そう聞くと。

ギュンターはテーブルに置かれた水の瓶を…本当は木のコップに注いで飲むのを、構わずそのまま飲み干し、頷く。

また直ぐ、がっつくギュンターに、ダベンデスタはぼそり…と尋ねる。

「その…お前、ディングレーと………」

ギュンターはまた、そのテーブルで共用の水を、瓶から一気飲みし、頷く。
「身分凄いのに、中身割といいヤツだよな?」

「………………………………………………………………」

全員が、がつがつがつと音立てて食べ物を口に掻き込むギュンターに、それ以上ナニも聞けず。
押し黙って、ただ、見つめ続けた。

山盛り料理の皿が、あっという間に空になり、ダベンデスタがまた、口を開きかけると。
ギュンターはすっ!と立ち上がる。

また、料理の盛られた端のテーブルから、山盛り皿に料理を乗せて戻り、だん!と音立ててテーブルに置き、座ると同時に猛烈に食べ始めた。

「……………………………」

テーブルの皆は、そのがっつき具合にまた、沈黙して見つめる。

皿が再び空になり、ギュンターが立ち上がるので、ダベンデスタが声かける。

「あのな…」
「悪い。
疲れてるから、もう寝る」

「……………………………」

ギュンターはトレーと汚れた皿を、端の置き場に戻し、さっさと食堂の裏扉を開け、自室に戻って行った。

「…疲れた…って、言ってなかったか?」
ロッデスタが呟くと、背後を通るデラロッサが、大声で叫ぶ。

「オーガスタスと、くんずほぐれずして!
ギュンターはたいそうお疲れだそうだ!」

三年、平貴族食堂もそれを機に、一斉に、わっ!と噂話と妄想の、花開いた。

唯一、ギュンターを疎ましく思ってる、グーデン配下らの集うテーブルでは。
ちょうど集団でギュンターに闇討ちかける、計画の真っ最中だった。

が、ヘタにギュンターを叩けば、オーガスタスが出て来る。
と知って青ざめ、誰とも無しに計画のそれ以上は話せず。

結局、計画実行の日時不明のまま、皆口を閉ざした。
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