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風呂で寛ぐオーガスタスとローフィス、ディングレーとギュンター

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 共同浴場は、四つの宿舎が建ち並ぶ正面の小道を、真っ直ぐ東へ行った先にあり、そのまま進むと草原が開け、その向こうに岩場があった。

冬は、行きも帰りもが冷え込む。

岩場に着くと、岩をくり抜いて作られた階段が有り、その上にかなり広い浴場がある。
が、岩を掘って広げられた温泉だったから、気をつけないと岩に肌を擦って、擦り傷を作る。

灯りと言えば、ほぼ月明かり。
暗ければ自分達で、見窄らしい屋根の下の用具入れの中の、たいまつに火を付け、岩壁にかける。

が、40人は軽く一気に浸かれる広さの浴場の、更に上へ続く階段を示し、ディングレーが皆に告げる。
「俺も居るから、上に行かないか?」

上は、大貴族専用。
広くは無いが、それでも14・5人は浸かれる。
風呂もその周辺も、全部美しいタイルが貼られ、湯も水も、洒落た彫刻から浴場に流れ込む。

更にランプも火打ち石もが、洒落た東屋あずまやの綺麗な棚に用意されていた。

ディングレーを先頭に、オーガスタスもローフィスも。
そしてギュンターもが、下の大浴場と違い、あまりに綺麗な浴場を見て、思わず無言で呆れた。

東屋の下の洒落た白塗りのベンチに、脱いだ上着をかけ、ディングレーが他も脱ぎ始めるのを見て、オーガスタスもローフィスもが衣服を脱ぎ出す。

月明かりだったが、それでも脱いだオーガスタスの上半身の裸体は流石さすがに迫力。
あちこちに古傷を作り、それがまた彼を強者に見せていた。

盛り上がった肩と広い胸。
なのに腹も腰も引き締まりきっていて、ギュンターは思わずチラ見して見惚れた。

片やローフィスは、すんなりして見えたけど、どこにも贅肉は無く、傷も少なめの綺麗な体をしている。
ディングレーは…やはり筋肉で盛り上がる肩。胸。引き締まった腹。
と見事。

ついギュンターは、やっとちょっとアバラの骨が肉に隠れた、自分のひょろりとした裸体を見、ローフィスに寄って囁く。
「…あいつらと一緒で、ひけを感じないか?」

が、ローフィスは肩すくめる。
「何年あいつと同学年やってると思う?
今更だ」

ギュンターは変に納得行って、思わず頷く。

けれどやはり…湯に浸かり上半身出してると、オーガスタスとディングレーの男らしさはど・迫力。

一方オーガスタスとディングレーは、向かいに浸かってるギュンターの視線が、チラチラ自分達の体に向けられ、居心地悪げにそっとギュンターに視線を送る。

「…俺、どっか変?」
ディングレーのその言葉は、ギュンター横のローフィスに向けられた。
ローフィスは
『俺に言った?』
とチラとギュンターを見た後、答える。

「別に。
太ってない」

ディングレーは、ほっとしたように頷く。
オーガスタスがこそっとディングレーに顔寄せ、耳元で囁く。
「…だから。
女があいつより、俺の胸に飛び込んで以来。
あいつ、いつも俺の体、チェックしてる」

ディングレーがそれを聞いて、思わず顔を下げた。
そしてチラ…と、まだ痩せてるギュンターを見る。

「…だが、入りたてよりかなり肉、付いたんじゃ無いか?」
ディングレーの言葉に、ローフィスは呆れた。
「あんだけ食って。
なんで太らないで、これだけしか増えてないか疑問だ」

オーガスタスが顔下げた。
「講義の最中は寝てサボって。
それ以外はずっと忙しく、動き回ってるからじゃ無いのか?」

ディングレーがギュンターを見る。
ギュンターは頷きながら言った。
「贅肉は付けたくないから。
毎朝、腹筋と腕立てしてる」

そして改めて、ディングレーとオーガスタスの広い肩幅見て、尋ねた。
「どうしたらそう…」
と言い、両手を胸元で、横に広げるゼスチャーをした。

ディングレーは
「?」
だったが、オーガスタスは頷いて言う。
「喧嘩で拳振り回し、暇さえあれば剣、振ってたら。
自然と肩が張ってきた」

ディングレーはやっと理解出来て
「出来るだけ両手で剣振れ。
右だけで振ってるヤツは、右肩ばっかデカくなる」
と付け足した。

ギュンターは項垂れる。
「…剣か…」

ディングレーがその様子を見て、目を見開く。
「苦手なのか?」

ギュンターは無言で頷いた後
「拳で殴る方が、慣れてる」
そう、ぼそりとつぶやく。

オーガスタスが頷くと
「俺も、拳の方がいい。
剣だと、殺しちまうからな」
と同調した。

ディングレーが斜め向こうに浸かってるローフィスをチラと見ると、ローフィスはため息交じりにぼやく。
「拳でもヤバいから、剣じゃ一撃だもんな」

ギュンターが顔を上げてオーガスタスを見ると、オーガスタスは頷く。
「…正直、あんまり剣は真面目にやる気無かったが。
ディアヴォロスを見てたら、そうも行かない」
「なんでだ?」
ギュンターの疑問に、オーガスタスが顔を上げる。

「ディアヴォロスの殺法だと、斬られた敵は、気づかぬうちに絶命してる。
…くらいの腕だ」

ディングレーも頷く。
「ディアヴォロスの敵は、毎度野生の大型獣で。
それですら“悪戯に痛めつけず、出来るだけ痛みが少なく殺す”で。
俺なんかだと、自分が喰い殺されないので精一杯。
敵の痛みなんて、気遣ってる間なんて無い。
相手は…喰うためにいつも戦いに慣れ、しかも人間より俊敏な獣で。
後ろ立ちすると大抵、俺よりデカい。
爪も牙も鋭いから、剣振り回しても、避けられたら最期。
襲われて、喰われる」

ギュンターはそれ聞いて、無言。
が、その後ぽそりとつぶやく。
「俺も旅の途中、人間よりデカい灰色狼に出会って。
そりゃあ、怖かったな」

オーガスタスが顔上げる。
「お前が怖がるんだから、よっぽどだな」

ギュンターは殊勝しゅしょうに頷き
「まだ旅に出たばかりで14に成りたての…餓鬼の頃だったしな」
と言った後、気づいて眉寄せ
「…なんかお前の言い方。
俺に普通の神経、通ってないみたいな言い方だな?」
とオーガスタスを睨む。

オーガスタスは首を振り、頷いてため息交じりに告げた。
「だって普通の神経、無いじゃないか」

ギュンターは、横のローフィスに振り向く。
ローフィスは頷いていて、ギュンターの視線に気づくと、悪びれなく言って退ける。
「お前もしかして。
自分は普通だとか、思ってたのか?」

言われた途端、ギュンターは不機嫌に言い返す。
「…何だその、開き直り発言」

けれどディングレーも口添えする。
「普通の神経なら、オーガスタスに牙剥いて剣振らない」

ギュンターはディングレーに言われ、初めてほうけた。
「…そうなのか?」

横のローフィス、斜め前のオーガスタス、そして向かいのディングレー全員に頷かれ、ギュンターは呆けたまま、三人を眺めた。
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