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シャクナッセルの秘かな恋心を暴くギュンター

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 デルアンダーは召使いに言付けられ、ディングレーの私室を訪れた。
召使いに扉を開けられ
「失礼します」
と告げて一歩踏み入れた途端、中を見てギョッ!とする。

四年のボス、オーガスタスと爽やかな外観の割に、肝の据わってるローフィス。
二人の背後に、隠れるように座ってるギュンター。
彼らの反対側のソファには、マレーと一年のアイリスが座り、側の長椅子に二年筆頭ローランデと大貴族のシュルツ。
そして一番手前に立つ、呼び出した張本人の、ディングレーが振り向く。

が、そこは顔に出さない大貴族の特技で、デルアンダーは顔色も変えず乗り切り、頷くディングレーに会釈し、室内に足を踏み入れる。
その時初めて。
ディングレーの立つ、直ぐ横の椅子の背から、シャクナッセルが振り向き、更に驚いたものの…。
やはりデルアンダーは表情には出さず、にこやかに微笑む。
「ご用ですか?」

ディングレーは言い淀むように頷いてから、口を開く。
「実は、保護して欲しいとシャクナッセルに申し出られたが、現在客間を一年達が使ってるので、一部屋空けなければならない。
部屋を用意するのに、暫く時間が欲しいので…」

デルアンダーは目を見開く。
「つまりそれまでは、私の部屋の客間に彼を?」

ディングレーは、かなりすまなそうな表情で、頷く。

デルアンダーは改めて、主と仕えるディングレーを見た。
真っ直ぐの黒髪背に流し、きりりとした目元。
引き締まった口元。
鋭いブルーの瞳は、迫力そのもの。

その、堂とした王族の男が。
たったそれだけの命令で、部下である自分に恐縮してる。

「…その程度の事でしたら、いつでもお役に立ちます」

デルアンダーの返答に、明らかにディングレーはほっとした様子を見せ、ローフィスとオーガスタスは
『そうだろう』
と頷いてる。

「…だがシャクナッセルを泊めると言う事は…つまりグーデン一味からしたら、目の敵になるから…」
言葉が混乱してるディングレーに、デルアンダーは頷く。
「リスクも承知しています」

ディングレーは穏やかで男らしいデルアンダーを、改めて見る。
毛先に少し癖のある、身分の高い者特有の、腰近くまである長い栗毛。
緑がかったヘイゼルの瞳は、信頼感を醸し出して輝く。
色男に見える甘いマスク。
が、いつでもきっぱりし、毅然きぜんとした態度。
柔軟さもあり、仲間を率いる決断力もある。

女性には柔和な態度が取れて、気品もあり騎士然とし。
どの女性も、彼にそっと手を取られ、手の甲にキスされると、決まって頬染める。

正直、デキ過ぎた男。
ディングレーはついも
“俺が王族で無ければ、俺に仕えたか?”
と聞きたいのを、じっと我慢していた。

“デルアンダーが、待ってる”ぞ。
とローフィスに顎をしゃくられ、示され。
ディングレーはデルアンダーに向き直ると、囁く。
「数日、頼む」

デルアンダーは感じ良く微笑む。
「良ければずっと、私の私室に泊めましょうか?
貴方の所は、もう三人も居る」

ディングレーはその申し出に、言葉を詰まらせ…そっ…と、シャクナッセルを見る。
ディングレーは気づかなかったが、オーガスタスもローフィスも。
ギュンターですら、気づいていた。

シャクナッセルが明らかに…デルアンダーが入って来た時から、頬を染め、意識したように俯いてる姿に。

アイリスは気づいていたけど、ローランデとシュルツはマレーに話しかけ、気づいてなかった。

「…つまり、意中の人か」
ギュンターの言葉に、意味の分かってるオーガスタスとローフィスは慌てた。

が、ディングレーは
「?」
と振り向く。
「誰が、誰の?」

ギュンターはシャクナッセルに顎をしゃくった後、デルアンダーに顔を振る。
ディングレーは示されたが、シャクナッセルとデルアンダーを、交互に二度見した。

シャクナッセルはもう真っ赤に頬を染め、顔を隠すように深く俯く。
「…私だったら…意中の相手の部屋に泊まれたら、喜びますが」
アイリスが言い、オーガスタスとローフィスは
“フォローしないぞ”
とそっぽ向いた。

ようやく、ディングレーにも意味が分かって
「つまりシャクナッセルは…」
と言って、デルアンダーを人差し指で指す。

デルアンダーはディングレーの自分に向けられた指先を見、両目を寄せたのち、その意見に異を唱えた。
「どうして、私なんです?
直ぐ側に居るのは、ディングレー殿だ」

オーガスタスとローフィスは、デルアンダーの鈍さにほっとした。
が、ギュンターが混ぜっ返す。

「ディングレーはずっと側に居たが普通で。
あんたが部屋に入ってきたら、赤くなった。
…もっと説明が必要か?」

とうとう我慢出来ず、オーガスタスが怒鳴る。
「本人が口にしない事を、ズバズバ言うな!」
ローフィスは、だれきってつぶやく。
「お前に繊細な気遣いは、無理だと思い知った」

言われてギュンターは、条件反射で…それまで極力見ないようにしていた、ローランデに振り向く。
色事だとか恋愛関係に初心うぶなローランデは、シャクナッセルの秘めた恋心を衆人環視の中暴かれ…気の毒そうな視線を送りつつも、頬を染めていた。

オーガスタスもローフィスもフォローしないので、ディングレーは慣れない様子で
「デルアンダーは大抵の相手に、頬染めて憧れられる男だからな」
と、フォローになってるのか、果てしなく疑問なフォローした。

デルアンダーはシャクナッセルを見る。
が、シャクナッセルはデルアンダーが見られず、さっ!と髪を振って顔を隠した。

デルアンダーは気遣う表情で囁く。
「…私の所に…泊まれるか?
もし…不都合なら…」

けどアイリスが、すかさず口挟む。
「異論なんて、あるハズ無いでしょう?
さっさとシャクナッセル殿を連れて、退室して頂けないでしょうか?」
と、言って退ける。

デルアンダーはこの場に、オーガスタスもローフィスも。
ディングレーもローランデまで居るのに。
一番年下のアイリスの言い切りに、目を見開いた後、顔を下げた。

ディングレーがこっそり、小声で囁く。
「…あいつの言い草は、俺も気にくわないが。
言ってる内容には、俺も同意する」

デルアンダーは頷くと、シャクナッセルの横に立ち、手を差し伸べる。
「…一緒に、来て頂けるとありがたい」

男らしくも遠慮がちな、その言葉を聞いて。
シャクナッセルは立ち上がり、差し出すデルアンダーの手を取り、扉へ歩き出す。

「お前、あれ少しは見習え」
オーガスタスに言われ、ギュンターはデルアンダーの、宮廷貴公子のようなマナーを持ちながらも、毅然とした男らしさを見た。

「…どうせ俺は、姫とは縁が無いから、男らしさだけ見習う」
それを聞いたローフィスは
「マナーも少しは、見習っといた方がいいぞ?」
と忠告した。

二人が出て行くと
「では私もそろそろ」
と、ローランデとシュルツが揃って席を立つ。

ディングレーはマレーが、アスランとハウリィの待つ部屋へ、行きたそうに腰浮かす様子を見て
「行って、報告してやれ」
と促した。
マレーは半分泣きながら。
それでも嬉しそうに頷いて、三人で使ってるディングレーの客間の扉へと、消えて行った。

オーガスタスはギュンターが、シュルツと並んで扉へ歩くローランデの後ろ姿を盗み見、ローランデが振り向いてディングレーに会釈した途端。
さっ!と顔を、俯けるのを見た。

扉が閉まるとオーガスタスは
「お前な。
もしローランデの居る場で、お前はローランデに惚れてるだろう。
とバラされたら、どんな気分だ?」
と、ギュンターにぼやく。

途端、しーーーーーーーん。
と静まり返る室内に気づき、オーガスタスが顔を上げる。

横のローフィスも、シャクナッセルが座ってたソファに、腰下ろそうとしていたディングレーもが、一瞬で固まって居た。

けれどギュンターは、オーガスタスを見ると
「俺は、ローランデに惚れてるのか?」
と聞き返した。

聞かれて、オーガスタスは顔を揺らす。
「…自覚、無いのか?
デルアンダーを見た時のシャクナッセルと、反応一緒だったぞ?」

ギュンターが、両手を頬に当て
「赤くなってたか?」
と聞き、そこでようやくディングレーが自分を取り戻し
「赤くなってない」
と、ほっとしたように告げ、ソファに腰下ろした。

アイリスだけが、ギュンターを睨み付け
「垂らしの自覚、無いんですか?
ローランデ殿を、まさかどうこうって…考えてませんよね?!」
と語気強く、言い放った。

オーガスタスとローフィスは顔を見合わせると
「お前も、退場したらどうだ?」
とオーガスタスが勧め、ローフィスも頷く。
「これ以上、混ぜっ返すヤツが居座ると。
話がこんがらがって、疲れる」

アイリスは目を見開き、二人の最上級生を見た。
「…参加、したいんですけど」

けれどオーガスタスに、手で払いのけるゼスチャーされ、仕方無く椅子から立ち上がる。

扉を開け、未練たっぷりに振り向くアイリスに、ディングレーは素っ気無く
「行っていいぞ」
とダメ押しした。

アイリスはがっかりしたように肩を下げ、ため息吐きつつ、扉の向こうにその姿を消し、扉が閉まった。

閉まった途端、ローフィスが髪振ってオーガスタスに振り向き
「どこをどう見て、ギュンターがローランデに惚れてるって、出てくる?!」
と勢い込んで聞いた。

オーガスタスは暫く沈黙した後、背後のギュンターに髪振って振り向き
「だってローランデに見つめられると、固まるんだろう?」
と、問う。

ギュンターは聞かれた途端、心臓がバクつき始め、固まった。

ディングレーはそんなギュンターを見、首捻る。
「?
聞かれたダケでも、固まってないか?」

ローフィスは不穏な雰囲気を感じ、鋭く忠告する。
「…ローランデを手込めになんてしたら。
全校生徒を敵に回すぞ?
…絶対、止めとけ!」

ギュンターはローフィスに振り向く。
「なんで、全校生徒?」

ディングレーが酒の入ったグラスを持ち上げ、呆れて告げる。
「そりゃ、去年の学年無差別剣の練習試合で。
ディアヴォロスと果敢に戦い、四年の連中ですら、ローランデに一目置くわ。
三年も、好感持ちまくり。
同学年なんて、彼をあがめ奉り。
一年のアイリスですら、あの有様」

オーガスタスも肩落とす。
「グーデン一味に加え、ローランデの信奉者まで敵に回したら。
教練キャゼ』での味方は、俺くらいだ」

それを聞いてギュンターは、ローフィスを。
次いで、ディングレーを見た。

ローフィスはギュンターの視線を感じた途端、項垂れて
「考えさせてくれ…」
と呟き、ディングレーは目を見開き
「だって、惚れて、無いんだろう?」
と確認取った。
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