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四年グーデン配下の大貴族に立ち塞がれるオーガスタスらと、合流するローフィス一行

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 オーガスタスが三年宿舎に向かい始めると。
滅多に顔を出さない、四年グーデン配下の大貴族二人が、偉そうに立ち塞がる。

ギュンターはあまりお目にかからない、その二人に目を見開いた。
背後に、さっき逃げたダランドステらが、群れて覗っている。

「…シャクナッセル!
こっちに来い!!!」

濃い栗毛の、顔立ちは整ってるが冷酷そうな背の高い一人が、吠える。



シャクナッセルは横のオーガスタスを見上げ、顔を下げて歩を進めようとする。
が、オーガスタスがその腕を、掴み止めた。

「…滅多に顔を見ないな。
コルスティン」

呼ばれたコルスティンは、冷笑を浮かべ、体格いい自分よりも更にデカい、オーガスタスを見上げて言い放つ。
「…お前のような平貴族とは違い。
我々は近衛に上がった際の、色々と準備する事が在って忙しい。
お前も…近衛だな?
俺が隊長になった際は…せいぜいお前の戦闘能力に期待する」

シャクナッセルはそれを聞き、俯いてオーガスタスに掴まれた腕を振りほどき、コルスティンの元へ行こうと試みる。
が、頑としてオーガスタスはシャクナッセルの腕を、離さなかった。

ギュンターが見てると、オーガスタスは口を開き、言葉を吐きかけ…。
けれどその時背後から、かなりの大声で、言い返す者がいた。

「残念だな!
お前が隊長になる前に!
ディアヴォロスがオーガスタスを、もっと高い地位に引き立てる!」

オーガスタスが、赤味の勝つ栗毛を振って、声の方…背後に振り向く。

背後に立つシュルツもローランデもが、横を通り過ぎ、更にまくし立てる、ローフィスを呆けて見た。

ローフィスはシャクナッセルの横に来ると、言い放つ。
「…その時。
こうべを下げるのは、お前の方だ!
いい加減、近衛は実力第一!
幾ら身分が高かろうが、実績無くしては出世は出来ず、どれだけ身分が低くとも!
准将にだって成れる事実を、忘れるな!」

横に居たもう一人…コルスティンよりわずかに体格劣る四年大貴族は…慌ててコルスティンに振り向く。
コルスティンは顔色も変えず、言い放つ。
「吠えてろ。
シャクナッセル、戻らないと…どんな目にあうか、分かっているのか?
グーデン殿の庇護を失えば、父親はお前を見捨てるぞ!」

ギュンターがズイ!と、睨み付けて胸を迫り出すので、オーガスタスが腕を伸ばしてギュンターの胸を押さえ、制す。

反対横のシャクナッセルが、けれど小声で言葉を返す。
「…父の兄…子の無い伯父が、私に財産を分けてくれましたから。
贅沢をしなければ生活は出来ます」

シャクナッセルの反論に、グーデン一味の四年らは、ざわついて顔を見合わす。
コルスティンが厳しく告げる。

「…我らと共に近衛に進んで、奉仕するのがお前の務めだ!」

が、ローフィスは吐き捨てるように言った。
「“夜付き人”(近衛の性処理担当の、男の付き人)扱いか!」

ギュンターが更に、目を剥いて迫り出すので、オーガスタスはかなり乱暴に、ギュンターの胸を押し戻した。

そして、やっと口を開く。
「先の事なんてどうだっていい。
こいつはお前らとは行かない。
承知しなければ、拳で話を付けるコトになるが、どうする?!
ギュンターはいきり立って、やる気満々。
これ以上抑えるのも、正直面倒だから、ヤツの好きにさせたい。
俺も課題で机にへばり付き、鬱憤溜まりまくりで、ちょうど暴れたかったところだ」

オーガスタスがゆらり…と肩を迫り出した途端。
あれ程偉そうに吠えてたコルスティンが、血相変える。

「い…今は一旦、引く!
だが、諦めた訳じゃない!」

コルスティンは吠え続けるが、オーガスタスは抑えてるギュンターの胸から腕を下げようとし、更に自身もローフィスにシャクナッセルを抑えてろ。
と顎揺らして合図送り、シャクナッセルを掴んでいた腕を放して拳を握る。

コルスティンともう一人の四年大貴族は、もう浮き足立ちながら逃げ出す構え。
「…い…いか!シャクナッセル!
後で戻れば、お前が後悔するお仕置きを…!」

けれどとうとうオーガスタスはギュンターを解き放ち、ギュンターが駆け出した途端。
四年大貴族二人は背を向けて駆け出し。
背後のダランドステらと、ぶつかりそうになって怒鳴りつける。
「どけ!どけ!!!」
「お前ら、盾になれ!!!」

二人は背後の平貴族らを押し退け、逃げて行き…ダランドステはギュンターを、迎え撃とうとしたが、ギュンターの背後に突進して来るオーガスタスを見、目を見開いて逃げ出す。

「待て!!!
俺に捨てゼリフした癖に、逃げるのか?!」
ギュンターが、歯を剥いて怒鳴りつける。
が、背後からオーガスタスが
「全くだ。
一発ぐらい、殴らせろって話だよな?」
とぼやき…ギュンターは後ろに振り向き、歩を止めるオーガスタスを見た後。
脱兎の如く逃げ出すグーデン一味の四年らを見た。

ギュンターは俯いて立ち止まると、オーガスタスの斜め後ろにシャクナッセルの腕を捕まえて立つ、ローフィスと。
ローフィスに追いついて、横に並ぶディングレー。
シュルツとローランデの横に、マレーとアイリスの姿を見て、問う。

「…やっぱり…俺で無く、オーガスタスが怖くて逃げたのか?」
ディングレーが即答する。
「当然だろう?」

ローフィスは横に来る、ディングレーに眉間寄せて言う。
「…少しは、ギュンターも怖くて逃げたと。
嘘ぐらい言ったって、害は無いだろう?
お前に、男のプライドを気遣えと言っても、無理なのか?」
と異論を唱え、けれどギュンターに
「嘘…」
と呟かれ、ディングレーにぼそりと
「あんたの言葉の方が、キツくないか?」
と反論された。

ディングレーとローフィスはその途端、背後からの忍び笑いを耳にし、振り向く。

アイリスとシュルツ、ローランデまで、顔を下げてこっそり笑っていて、一番深く顔を下げてたマレーですら。
肩と髪が揺れ、笑ってる様子に見えた。

オーガスタスが戻って来て、皆に言う。
「おかしいか?」

アイリスが、肩揺らし笑いながら頭を振り、シュルツも頷く。

ディングレーが、オーガスタスの背後に項垂れてやって来るギュンターを見
「俺達もなかなか大変だったが。
こっちも、大変そうだな」
と、ローフィスが腕掴んでる、シャクナッセルに首振った。

「補習中は、ラナーンが姿を見せて、ギュンター殿に会いたいと」
ローランデがそう、補足した途端。
ローフィスとディングレーが二人揃って目を見開き、ギュンターを見る。

ギュンターはふてくされて
「ラナーンが誰かも知らないし。
なんでかなんて、俺に聞くな!」
と吠えた。

オーガスタスが俯くシャクナッセルの腕を掴んでるローフィスに
「保護して欲しいと」
と告げると、ローフィスはディングレーを見る。

ディングレーは突然ローフィスに見つめられ
「…今現在、一年が三人居るし。
部屋の用意が出来るまで、デルアンダーに頼んでどこかに…」
と、躊躇ためらいながら告げた。

ローフィスは頷くと
「デルアンダーは信頼出来る」
と言い、オーガスタスも
「いいアイディアだ」
と同意する。

途端、シャクナッセルは凄く躊躇う様子を見せ、ギュンターが気づく。
「彼の意見は無視か?
本心は、ディングレーのとこが、いいんじゃないのか?」
と聞く。

シャクナッセルは俯いたまま躊躇いながらも…掠れた声で囁く。
「たった今…ご迷惑をおかけしたばかりなのに…贅沢は、言えません…」

ギュンターはシャクナッセルの前に立つと、腰に手を当て背の低い彼を見下ろし、囁き返す。
「ディングレーは王族で一見怖そうだが。
話は分かるから、言いたい事は言っといた方がいいぞ?」

ディングレーが
「…一見…怖そう…?!」
と呟き、ローフィスに喰ってかかる。
「俺に、男のプライドを気遣えと言うのなら!
コイツにも言え!」

けれどローフィスは顔を揺らし、オーガスタスも揺らしながら、告げる。
「お前が気遣わないから。
言い返したんじゃ無いのか?」

ディングレーは即座に、ギュンターに問う。
「そうなのか?!」

ギュンターは呆れて、ディングレーを見た。
「“怖そう”が、悪口か?
…俺も、怖がられてみたいぜ…」

ギュンターが、声を落としてそう呟くので。
“ヤワに見えるギュンターの、心の傷を抉ったか?”
と、オーガスタスとローフィスは顔を見合わせ、ディングレーはもうナニも言い返せず、顔を下げた。

そんな中。
背後の下級ら、四人…アイリス、マレー、シュルツ、ローランデだけは。
顔を下げて忍び笑い続けた。
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