若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

文字の大きさ
13 / 307

アイリスの企み

しおりを挟む
 夕食は大貴族らの召使い達が、当番制で大貴族専用の食事を作り、共同の食堂で食す。

その前にシェイムがこっそり案内した、サフォーシャ達四人は、アイリスの部屋に通された。

いずれ劣らぬ美人。
暇を持て余し、まだ大人になりきらぬ少年と遊ぶのが大好きな、だが誰もがちゃんとした家柄の貴族の、育ちの良い貴婦人達。
年はアイリスより四つ年上の、18才前後。

サフォーシャは通された寝室に入るなり、アイリスの姿を見つけ抱きつき、耳元でささやく。
「大好きよ!
約束、忘れないでいてくれたのね?」

代表でそう告げるサフォーシャを、後の三人も微笑んで見つめる。
が、アイリスはその腕を首から解くと彼女を見つめ、微笑んで告げる。
「でも今回招いたのは一人なんだ」

サフォーシャは口を尖らせる。
「じゃ、足りない分は貴方が、穴埋めするんでしょうね?
勿論」

と、三人の女性に視線を送る。
三人とも年頃でぴちぴちの弾けそうな肉体を豪奢なドレスで包み込み、不満そうにアイリスを睨んだ。

アイリスは吐息混じりにささやく。
「勿論…彼が応じきれなかったらそうするさ…。
けど………」

「応じきれなかったら?
…じゃ彼、貴方並なの?」
三人の内の一人が、そう尋ねる。

アイリスは眉を下げる。
「それ以上かも。
ともかく、年の割には成熟してる。
君達の好みに合う筈だ。
凄くいい男だし、遊び慣れてて上手そうだ」

三人は顔を見合わせる。
内一人が口を開く。
「上級生なの?」
「同学年」
「じゃ、14才?!」

三人は思わず顔を、見合わせた。

サフォーシャが吐息を吐く。
「いいわ。貴方の見立てを信じるわ」

アイリスは笑うと
「私はこの後食事に行く。
君達はここで、シェイムの料理を摘んでいてくれ」
そう告げて戸口へと歩く。

サフォーシャは途端、笑った。
「シェイムの料理は大好き!
じゃその後、招待客を連れて来るのね?!」

アイリスは肩を竦める。
「放って置いても、あっちが押し掛けて来る」

それを聞いて、サフォーシャ達は色めきたった。

「…もしかして彼、貴方にご執心なの?」
「噂の、教練のいけない実態なのね?!
もしかしてその彼、貴方を食べようと来るんじゃなくて?」

アイリスは騒ぐ女性達にげんなりし、ささやく。
「だとしても、食われちゃまずいんだ。
初日から飴を与えると、後が続かない」

彼女達はクスクス笑う。
「じゃ、私達はムチ?」

アイリスは魅力的なご婦人四人に視線を送り、ささやく。
「…こんな魅力的で楽しいムチは、他には絶対無いと思うし、当然不満は出ないだろう?」

美女の一人、レイオスが燃えるような赤毛を揺らし、ささやく。
「もし好みだったら、私が頂いてもいいのね?」

アイリスは笑った。
「誘惑してくれたら、凄く助かる」

サフォーシャがアイリスを見つめる。
「相当、貴方にご執心の様子ね?」

アイリスは苦笑した。

シェイムが戸口でそっとアイリスにささやく。
「食事の支度が、出来たようです」
アイリスは頷き
「もう行かないと」
そして女性達に頷き、扉にいるシェイムに微笑む。
顔を寄せると、小声で指示を与える。
「彼女達の、世話を頼む」

シェイムは大人の余裕で微笑み返し
「お任せ下さい」
そう告げた。

女性の一人、シーランスが出て行くアイリスの背に言葉を投げる。
「その間、シェイムを摘み食いしても構わない?」

アイリスは振り向くと頷き、隣のシェイムにそっと告げる。
「接待の内だ」
シェイムは笑うと
「光栄です」
そう、丁寧に告げた。

アイリスは軽やかで器用で、召使いとしても申し分無く、そして男性としても、とても魅力的で美男の、グレーがかった栗毛と茶の瞳の背の高いシェイムを見上げる。

もう一人の、キネッシュがささやく。
「宿舎に籠もるからって。
その為に、シェイムを連れて来たんでしょう?
彼を独り占めする気だったのに、初日から私達を呼ぶんじゃ、ゆっくり彼を堪能出来なくて、残念ね?」

アイリスは微笑を浮かべる。
「今夜は君達を楽しませるさ!」

その笑顔がとても青年らしくてチャーミングで。
彼女達は、色めき立った。

アイリスが扉を閉めかけると、背後から彼女らの声が聞こえる。
「年頃になったら彼、凄いわよ?」
「今からあれじゃね」
「あの年であの気配りったら、老練な執事並だわ?」

アイリスはくすくす笑いながら、共同の食堂へと続く、扉を開けた。


皆が私室から出て、ぞろぞろと席に着く。
生徒はアイリスを入れて全部で七人。
だがもうとっくにスフォルツァをボス。と認めたようで、最初アイリスを取り巻こうとした者達迄もが、スフォルツァに先に挨拶をし、その後、アイリスに会釈した。

だが当のスフォルツァ本人は。
アイリスの姿を目にした途端、そのグリン・グレーの瞳を輝かせる。

まるでその、愛しい人。
と見つめる瞳にアイリスは顔を下げたくなった。

が、耐えてとびきり可愛い微笑を返す。

まずい事にスフォルツァは、恋人を見つめるような熱い眼差しで見つめ返し、頷く。

どうやらこの後、情熱的な時間を過ごそう。
と言ってるようで、彼の可憐な恋人を決して無理させず、甘く結ばれる。

そんな思いと決意が、スフォルツァの全身から漂っていて、アイリスは椅子に座るわずかな間、顔を下げて思い切り眉間を寄せた。

ナプキンを取り上げると、確かに彼の気持ちは解った。
教練キャゼ』に入るとなると、今迄の自由は通用しない。

誰もがこの場で、出来れば恋人を作り、そうで無ければ一緒に欲望を発散させる相手を探し、楽しい毎日を夢見ている。

年頃のやりたい盛りの青年が、隔離同然に詰め込まれてちゃ、無理もない。

がアイリスは自分の事を棚上げし
『一体何人
“教練に入ってもう会えないから”
と故郷に待たせてるんだ』
そうスフォルツァをこっそり眺め、心の中で毒づいた。

視線に気づくスフォルツァは、即座にアイリスに、微笑みを送る。
アイリスはその微笑に微笑で応えたものの、自分も同様の道を辿って来たから、スフォルツァの手管がまるっと見通せた。

彼に全部与えたら、きっと早々飽きて、直ぐ浮気するに違いない。
今見せるスフォルツァは恋の始まりに胸ときめかせ、自分にその、愛しい人。と熱い視線を送るものの。

精力満々の彼が自分一人で、この先ずっと満足出来るとは思えない。

目論みは成功し、自分に集まる視線をスフォルツァに向けたのはいいが…。
その肝心の、スフォルツァに好意を持たれ過ぎた。

全校生徒に向けるアピールとしては、学年無差別の剣の練習試合で。
スフォルツァに負ける姿を披露してやれば、事は済む。

一年のボスはスフォルツァだと。
一気に全校生徒に知らしめる、いい機会だった。

そして深入りし過ぎず、スフォルツァの機嫌を取り続けること。
いずれスフォルツァは押し寄せる学年筆頭としての責任で、自分を構う暇も無くなる。

“最初は大変だが、その最初が肝心だ”

アイリスは自分に言い聞かせ、やり抜く事を心に決めた。

スフォルツァは相変わらず、女性達が思わず胸ときめかせるような、悪戯っぽく男らしい笑顔を、自分に向けていた。

アイリスは無邪気に見える程の笑顔を送り、無事女性達が、一時スフォルツァの感心を自分から引き剥がすことに成功するよう。

心の中で祈った。

それにもし、四人の女性達の、内一人が。
スフォルツァを誘惑することに成功したら。

自分はスフォルツァの、しとねを共に過ごす恋しい相手ではなく。
女性との仲を取り持った友人に、戻れる可能性だってある。

スフォルツァの、熱い眼差しに心では思い切り、引いてはいたが。
アイリスはこの後の企みの成功を確信し、思い切りにっこり。

微笑み返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...