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戦いの顛末
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ギュンターは四年猛者二人が交互に繰り出す早い拳を、紙一重で避け、交わしていた。
二年の猛者は案の定、スフォルツァの目前に飛び出し吠える。
「どいてそいつを渡せ!
俺の物だ!!」
スフォルツァが激しく睨め付け、どかないのを見、咄嗟にその顔面目がけて拳を振る。
スフォルツァは避けたつもりだったが、頬を掠る。
が腹立ち紛れに相手の腹を、一歩踏み込んで下から思い切り、がつん!と突き上げた。
が瞬時に今度はかなり深く、拳を頬に叩き込まれ、咄嗟背を後ろに泳がせ間を取ると、口の中から沸き上がる血を、ぺっ!と吐き出した。
直ぐ左横へと、豪腕の拳が降って来る。
が、スフォルツァはそれを避け、前へと身を進め、相手の懐へ入り込む。
再び腹へ、思い切り拳を振り込み、今度は一瞬で後ろに下がった。
さすがに今度は効いたのか、二年猛者は体を前に折り、腹を抑える。
スフォルツァは再び上る口の中の血溜まりを、ぺっ!と唾と共に吐き出し、猛者を睨み据えた。
三回目の拳を避けた所で右に寄る男目がけ、ギュンターは一瞬で身を屈め、右足を突き出した。
「おっ……と!
その手は喰わないぜ…。
お前とやった奴らに、ちゃんと聞いてるからな!!
手だけじゃなく、足も出る。と!」
左の男が振る拳を、咄嗟肘を曲げた腕を突き出してガードし、至近距離から蹴り上げる。
男は気づいて後ろに飛び退いたものの、股間にその足先が当たり、後ろに逃げて股間を押さえた。
「…えげつねぇな!面の割に!」
右横の男が、それを見て唸る。
ギュンターは怒って怒鳴り返す。
「避けなけりゃ、腿に当たってた!!!」
「…そりゃ無理だ。
普通は避けるもんだ」
そのとぼけた声に、喧嘩していた三人共が一斉に振り返る。
オーガスタスが赤毛を揺らし、笑っていた。
「どうする?今日も助っ人はいらないか?」
ギュンターは背後に顔を向け、つぶやく。
「奴には要る。あんたの加勢が」
ぎくっ!と身を屈め、腹を押さえていた二年の猛者が。
学校一喧嘩の強い、大柄なライオンに振り返る。
途端オーガスタスと、目が合う。
その鳶色の瞳は金に見え、ぎらりと鋭く輝くのに。
二年猛者は一瞬で、竦み上がった。
オーガスタスは直ぐ気づき、ぼやく。
「…相手にとっちゃ不足だが………」
ゆらり…と身を揺らし近寄るその大きな男を、二年の猛者は見つめたまま、怯えきって後ずさる。
スフォルツァは戦闘態勢に入る学校一喧嘩の強い男の、あまりの迫力に。
ごくり…!と唾を飲み込んだ。
が、オーガスタスがもう一歩前へと踏み出すと、猛者は震えながらまた一歩、後ろに下がる。
その様子にとうとう、オーガスタスは肩を竦めた。
「暴れたいか、ギュンター」
オーガスタスの助っ人を断る一学年下の、思い上がった編入生に。
目にもの見せようと四年猛者二人は、同時にギュンターに、襲いかかってる真っ最中で。
左右から交互に繰り出される鋭い拳を、背を反らして避け続けてるギュンターは、オーガスタスに怒鳴り返す。
「俺は今、忙しい!」
オーガスタスは二人の拳を、身を左右に俊敏に振って避け続けるギュンターを見つつ…肩を竦めた。
「物は相談だが、相手を交換しないか?
こいつ…俺を怖がってる」
スフォルツァが見てると、二年猛者は大きなその男が目前を塞ぐのに、怯えきって震ってた。
ギュンターがまた繰り出される拳を、顔を振って避けながら怒鳴る。
「ならさっさとそいつを沈め、加勢しろ!」
オーガスタスは肩を竦め、自分の相手を見つめる。
その金に光る鳶色の瞳が自分を見据えた途端、二年の猛者は足が竦み、必死で顔を横に、振った。
「…何だ?
何が言いたい?」
オーガスタスの問いに、猛者はそれでも首を横に振り続ける。
「声が…出ないのか?」
猛者はようやく、首を縦に振る。
その顔に気づくと、オーガスタスはぼそりとつぶやいた。
「何だ…見た顔だと思ったが…。
お前がまだやんちゃな一年坊主だった頃。
俺一回、お前を殴ったか?」
猛者は、うんうん。と首を縦に振る。
「そうか…。で、なんか歯を二本、折ったって?」
猛者は必死に、首を縦に振る。
スフォルツァは呆れた。
オーガスタスはすっかり戦意を解いていた。
なのに二年の猛者は、竦み上がったまま。
オーガスタスはとうとう両手を腰に当て、身を屈めて相手を覗き込む。
「どれ…。
ああ…そっちは抜けて…もう一本は、欠けてるな。
しみる?
そうだろう。
で?
…今度は、何本折ってもらいたい?」
そう尋ねた大きなライオンは、ニヤリと笑ったもんだから。
その猛者はとうとう脱兎の如く、背を向け駆け出した。
スフォルツァの目前でオーガスタスは、やれやれ。と片手で髪を梳き上げ、逃げ出す男の遠ざかる背を見つめた。
そしてギュンターへと視線を振る。
忙しく拳を避けてるギュンターの背後に立つと、告げる。
「…楽しそうだな。
俺も混ぜてくれ」
言った途端、左の男が繰り出そうとした拳を途中で止め、殴ろうとした相手の背後の、オーガスタスを目を見開き、見つめた。
左の男が動きを止めた途端、ギュンターは右の男の拳を避けて右肩を入れ込み、繰り出された拳のその腕を左手で握り引くと、バランスを崩す相手の顔面に、右拳を叩き込んだ。
四年の喧嘩自慢は、流石に背後に身を反らす。
が、頬を掠る。
握られた腕を振り払い、咄嗟に一歩下がって、切れた口から滴る血を、手の甲で拭う。
がその背後に立つ、オーガスタスの瞳が黄金にぎらりと光るのを目に、怒鳴る。
「てめぇ…!
ディアヴォロスがいた頃とは、訳が違うんだぞ!
今はグーデンの天下だと、解らぬ位馬鹿か!
俺を殴ったら、グーデンは黙って無い!!!」
ギュンターが背後に振り向くと、オーガスタスは笑った。
「試すか?」
ギュンターが視線を前に戻すと、四年の猛者二人は動揺しきった。
互いに顔を、見合わせる。
そして…戦意を解くとオーガスタスを睨み据え…背を向け去り始める。
内の一人は、振り向きギュンターに言った。
「お前との決着は、いずれ付ける」
ギュンターがその様子に呆れ、ぼそりとつぶやく。
「…今付けられない程、オーガスタスが怖いのか?」
二人同時に振り向くと、ぎっ!とそう言うギュンターを睨んだ。
が戻って来る気配無く、二人は背を向け去って行く。
ギュンターはつい、背後に立つオーガスタスに振り向く。
「…どれだけ思い知らせたんだ?
戦ってもないのに相手が逃げ出すなんて、そりゃよっぽど酷く殴ったんだろう?」
オーガスタスは振り向くギュンターに肩を竦めた。
「奴らはさほど、殴って無い。
今はとっくに卒業した、上級生らは思い切り殴ったが」
ギュンターが顔を揺らす。
「そいつらを、血祭りにでも上げたのか?」
オーガスタスは朗らかに笑った。
「まあ…たくさん血は、出てたな」
二年の猛者は案の定、スフォルツァの目前に飛び出し吠える。
「どいてそいつを渡せ!
俺の物だ!!」
スフォルツァが激しく睨め付け、どかないのを見、咄嗟にその顔面目がけて拳を振る。
スフォルツァは避けたつもりだったが、頬を掠る。
が腹立ち紛れに相手の腹を、一歩踏み込んで下から思い切り、がつん!と突き上げた。
が瞬時に今度はかなり深く、拳を頬に叩き込まれ、咄嗟背を後ろに泳がせ間を取ると、口の中から沸き上がる血を、ぺっ!と吐き出した。
直ぐ左横へと、豪腕の拳が降って来る。
が、スフォルツァはそれを避け、前へと身を進め、相手の懐へ入り込む。
再び腹へ、思い切り拳を振り込み、今度は一瞬で後ろに下がった。
さすがに今度は効いたのか、二年猛者は体を前に折り、腹を抑える。
スフォルツァは再び上る口の中の血溜まりを、ぺっ!と唾と共に吐き出し、猛者を睨み据えた。
三回目の拳を避けた所で右に寄る男目がけ、ギュンターは一瞬で身を屈め、右足を突き出した。
「おっ……と!
その手は喰わないぜ…。
お前とやった奴らに、ちゃんと聞いてるからな!!
手だけじゃなく、足も出る。と!」
左の男が振る拳を、咄嗟肘を曲げた腕を突き出してガードし、至近距離から蹴り上げる。
男は気づいて後ろに飛び退いたものの、股間にその足先が当たり、後ろに逃げて股間を押さえた。
「…えげつねぇな!面の割に!」
右横の男が、それを見て唸る。
ギュンターは怒って怒鳴り返す。
「避けなけりゃ、腿に当たってた!!!」
「…そりゃ無理だ。
普通は避けるもんだ」
そのとぼけた声に、喧嘩していた三人共が一斉に振り返る。
オーガスタスが赤毛を揺らし、笑っていた。
「どうする?今日も助っ人はいらないか?」
ギュンターは背後に顔を向け、つぶやく。
「奴には要る。あんたの加勢が」
ぎくっ!と身を屈め、腹を押さえていた二年の猛者が。
学校一喧嘩の強い、大柄なライオンに振り返る。
途端オーガスタスと、目が合う。
その鳶色の瞳は金に見え、ぎらりと鋭く輝くのに。
二年猛者は一瞬で、竦み上がった。
オーガスタスは直ぐ気づき、ぼやく。
「…相手にとっちゃ不足だが………」
ゆらり…と身を揺らし近寄るその大きな男を、二年の猛者は見つめたまま、怯えきって後ずさる。
スフォルツァは戦闘態勢に入る学校一喧嘩の強い男の、あまりの迫力に。
ごくり…!と唾を飲み込んだ。
が、オーガスタスがもう一歩前へと踏み出すと、猛者は震えながらまた一歩、後ろに下がる。
その様子にとうとう、オーガスタスは肩を竦めた。
「暴れたいか、ギュンター」
オーガスタスの助っ人を断る一学年下の、思い上がった編入生に。
目にもの見せようと四年猛者二人は、同時にギュンターに、襲いかかってる真っ最中で。
左右から交互に繰り出される鋭い拳を、背を反らして避け続けてるギュンターは、オーガスタスに怒鳴り返す。
「俺は今、忙しい!」
オーガスタスは二人の拳を、身を左右に俊敏に振って避け続けるギュンターを見つつ…肩を竦めた。
「物は相談だが、相手を交換しないか?
こいつ…俺を怖がってる」
スフォルツァが見てると、二年猛者は大きなその男が目前を塞ぐのに、怯えきって震ってた。
ギュンターがまた繰り出される拳を、顔を振って避けながら怒鳴る。
「ならさっさとそいつを沈め、加勢しろ!」
オーガスタスは肩を竦め、自分の相手を見つめる。
その金に光る鳶色の瞳が自分を見据えた途端、二年の猛者は足が竦み、必死で顔を横に、振った。
「…何だ?
何が言いたい?」
オーガスタスの問いに、猛者はそれでも首を横に振り続ける。
「声が…出ないのか?」
猛者はようやく、首を縦に振る。
その顔に気づくと、オーガスタスはぼそりとつぶやいた。
「何だ…見た顔だと思ったが…。
お前がまだやんちゃな一年坊主だった頃。
俺一回、お前を殴ったか?」
猛者は、うんうん。と首を縦に振る。
「そうか…。で、なんか歯を二本、折ったって?」
猛者は必死に、首を縦に振る。
スフォルツァは呆れた。
オーガスタスはすっかり戦意を解いていた。
なのに二年の猛者は、竦み上がったまま。
オーガスタスはとうとう両手を腰に当て、身を屈めて相手を覗き込む。
「どれ…。
ああ…そっちは抜けて…もう一本は、欠けてるな。
しみる?
そうだろう。
で?
…今度は、何本折ってもらいたい?」
そう尋ねた大きなライオンは、ニヤリと笑ったもんだから。
その猛者はとうとう脱兎の如く、背を向け駆け出した。
スフォルツァの目前でオーガスタスは、やれやれ。と片手で髪を梳き上げ、逃げ出す男の遠ざかる背を見つめた。
そしてギュンターへと視線を振る。
忙しく拳を避けてるギュンターの背後に立つと、告げる。
「…楽しそうだな。
俺も混ぜてくれ」
言った途端、左の男が繰り出そうとした拳を途中で止め、殴ろうとした相手の背後の、オーガスタスを目を見開き、見つめた。
左の男が動きを止めた途端、ギュンターは右の男の拳を避けて右肩を入れ込み、繰り出された拳のその腕を左手で握り引くと、バランスを崩す相手の顔面に、右拳を叩き込んだ。
四年の喧嘩自慢は、流石に背後に身を反らす。
が、頬を掠る。
握られた腕を振り払い、咄嗟に一歩下がって、切れた口から滴る血を、手の甲で拭う。
がその背後に立つ、オーガスタスの瞳が黄金にぎらりと光るのを目に、怒鳴る。
「てめぇ…!
ディアヴォロスがいた頃とは、訳が違うんだぞ!
今はグーデンの天下だと、解らぬ位馬鹿か!
俺を殴ったら、グーデンは黙って無い!!!」
ギュンターが背後に振り向くと、オーガスタスは笑った。
「試すか?」
ギュンターが視線を前に戻すと、四年の猛者二人は動揺しきった。
互いに顔を、見合わせる。
そして…戦意を解くとオーガスタスを睨み据え…背を向け去り始める。
内の一人は、振り向きギュンターに言った。
「お前との決着は、いずれ付ける」
ギュンターがその様子に呆れ、ぼそりとつぶやく。
「…今付けられない程、オーガスタスが怖いのか?」
二人同時に振り向くと、ぎっ!とそう言うギュンターを睨んだ。
が戻って来る気配無く、二人は背を向け去って行く。
ギュンターはつい、背後に立つオーガスタスに振り向く。
「…どれだけ思い知らせたんだ?
戦ってもないのに相手が逃げ出すなんて、そりゃよっぽど酷く殴ったんだろう?」
オーガスタスは振り向くギュンターに肩を竦めた。
「奴らはさほど、殴って無い。
今はとっくに卒業した、上級生らは思い切り殴ったが」
ギュンターが顔を揺らす。
「そいつらを、血祭りにでも上げたのか?」
オーガスタスは朗らかに笑った。
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