若き騎士達の危険な日常

あーす。

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逃げ回る獲物

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 けれど教室が見えて来た、手前の木の茂みで。
ディングレーの目前に四年のシャンクが姿を現す。

「…ローズベルタを、可愛がったって?」

ヤッケルもシェイルもが。
長身でゴツい金髪の…顔に傷作った男が凄く凶暴そうで、震え上がった。

ディングレーはまだ二年。
四年は流石に、ディングレーより遙かに体格が良かった。

が、ディングレーは睨み据えて言う。

「…だから何だ?
お前が普段可愛がってるローズベルタを、俺が別のやり方で可愛がったから、文句か?
言っとくが、俺は掘ってないぜ。
押し倒しても、突っ込んでもいない。
お前と違ってな!!!」

ディングレーは…さっきよりももっと凄まじい迫力で怒鳴り…ヤッケルを手で押し退け
『逃げろ』と後ろに押しやる。

ヤッケルは直ぐ気づいて、シェイルの肩を抱いて後ろに向かって走り出す。

が、アルシャノンが突然茂みから姿を見せ、ヤッケルとシェイルは二手に分かれて横をすり抜けようとした。

シェイルが腕を掴まれ、掴むアルシャノンの足を、ヤッケルが蹴りつける。

蹴られて思わず腕を放したアルシャノンは、ヤッケルに振り向く。
「てめぇ…!」
振り向くアルシャノンから、ヤッケルは足を使って逃げる。
アルシャノンは振り向いた隙にシェイルの姿が消えていて、思いっきり舌打ち、探し回った。

ディングレーはシャンクと殴り合い、デカい相手でも一歩も引かない。
ヤッケルは内心
「(格好いい!)」とその男らしさに見惚れたけど、シェイルがどこに逃げたか見失って、アルシャノンより先に見つけようと、木々の間を探し回った。

シェイルは…木々の間に姿を隠した後、茂みを伝って行く内に、どんどん教室から離れて行って不安になった。

突然少し広い草地に出て、そこに寝転んでいた、グレーがかった明るい栗毛の…年上のかなりな美少年を見つけ、問う。
「どこ…か逃げ場は?!」

「……に…逃げ場?!」
その年上の美少年は、首を振って周囲を見
「お前、追われてんの?!」
と聞く。

叫んだのがまずかったのか。
直ぐ、がさっっ!
と音がして、茂みをかき分け、アルシャノンが姿を現す。

「…ヨォ、ゼイブン…。
綺麗どころがお揃いだな?
二人して俺に、突っ込まれてヨがりたいか?」



ゼイブンは顔を苦く歪める。
「アルシャノン…あんたまだ、俺の事諦めてないのか?
この美貌はな!
ムサい野郎のタメにあるんじゃない!
オンナを喜ばせるタメに存在してる!!!」

シェイルは…こんな場なのに、言い返してるゼイブンの言葉の内容がふざけてて、ついゼイブンに振り向いた。

アルシャノンはかなりな美少年のゼイブンを見て、笑う。
「てめぇがバリバリのオンナ好きって噂は聞いてる。
だが…気が変わるぜ?
俺に掘られたら」

ゼイブンはまだ、言い返す。
シェイルの腕を引き、身を起こして起き上がると同時に、自分に引き寄せながら。

「評判、聞いてないのかあんた。
すんげぇ、乱暴で。
二度と男はゴメンだ。
ってくらい、最悪だって。
されたみんなが、言ってるぜ。
そういうの、何て言うか知ってるか?」

シェイルはゼイブンに腕を掴まれ、アルシャノンを見るけど…。
アルシャノンは可愛い愛玩犬が二匹、内一匹の可愛い小型犬に吠えられてる。
程度に思ってて、ニヤついて聞いてる。

「突っ込むだけの、テクなしの最低ヤローって言うんだぜ?
ちっとは自分も、楽しくしよう。
って考え、ナイのか?
相手を泣いて喚かせて、嫌がってるの犯すのが楽しい、ヘンタイ野郎の癖して!!!
いかにも上手い、みたいなツラはよせ。
あ、オーガスタス!!!」

最後の“オーガスタス”を大声で叫び、アルシャノンが一気に殺気だって振り向くと同時。

ゼイブンはシェイルの腕を掴んで、反対方向に走り出す。
「足、早いか?掴まったら最悪だ。かっ飛ぶぞ!!!」
シェイルは頷き、必死で走った。

ゼイブンは低めの茂みの間を、すり抜けて走る。

背後、アルシャノンのやっぱ茂み掻き分ける激しい音が聞こえ、シェイルも必死に走ったけど、少し先を行くゼイブンは、真っ直ぐ行かずに蛇行して、どんどん深くなる茂みの間を行く。

「そこだ!!!」

ゼイブンが、突如目前にあるレンガの壁の向こうを指し、シェイルは…背後、アルシャノンの長い腕が背を捕まえようとするのを、必死で避けて駆け込む。

直ぐ、出た先の階段を駆け上がって中へ逃げ込み様、ゼイブンが大声で叫ぶ。
「ディングレーが危ない!!!」

…そこは二年宿舎で…。
駆け込んだ後、ゼイブンとシェイルは止まり、アルシャノンが扉を開けて中へ駆け込んだ時。
だだっ広い食堂横の二階階段。
大貴族宿舎の入り口から、ディングレーの取り巻き大貴族らが、一斉に駆け下りて来る。

アルシャノンがシェイルを捕まえようと腕を伸ばし、ゼイブンは寸ででシェイルを引っ張り、逃し。
その間に二年大貴族らが、シェイルを掴み損ねバランスを崩して必死で踏みとどまるアルシャノンの、前に立ち塞がって怒鳴る。

「狼藉者!!!」
「出て行け!!!」

ゼイブンは大貴族らの背後にシェイルを引っ張り、シェイルは大貴族らの背に、一緒に庇われる格好になった、ゼイブンを見た。
軽い息切れと共に
『やった、逃げ切った!』
と、ブルー・グレーの瞳を輝かせていた。

アルシャノンは小柄とは言え、五人の二年大貴族らに取り囲まれ…ちっ!と舌打つ。

一人相手なら簡単にふっ飛ばせる。
が、腕に覚えのある大貴族。
多人数では厄介極まりない。

とうとうアルシャノンは、悔しげに背を向け、扉を閉め様叫ぶ。
「ゼイブン!
この次会ったら逃がさないぜ!
尻の穴、よーく洗って待ってろ!
よがり狂わせてやるからな!!!」

凄い侮蔑の言葉を捨て台詞で言われ…シェイルはゼイブンを、悲しくなって見上げた、その時。
ゼイブンは大声で言い返す。

「テク無しが、大口叩くな!!!
てめぇの臭い一物でよがり狂うのは、演技が上手なグーデンの愛玩だけだろ?!!!!
てめぇこそ、もっとテク磨いて出直して来い!!!
どんな相手も、お前なんて二度と嫌で顔も見たくないと!
えっちがど下手な、超最低ランクに入れてんだからな!!!」

どっっっ!!!

食堂に居た平貴族らがそれを聞いて、一斉に笑う。

アルシャノンは、ジロリ…と振り向いて睨む。

「さっさと出て行け!!!」
「ど下手!!!」
「テク無し!!!」

次々に、ゼイブンの言葉を借りて言葉のつぶてを投げつける平貴族達。

シェイルは…呆けて、ゼイブンを見た。

しかし扉が閉まってアルシャノンが出て行くと、大貴族の一人。
端正な顔立ちの気品溢れるデルアンダーが、困り顔で振り向く。

「…我々としても、騎士として立ち向かった以上。
出来ればスベタでは無く。
貴婦人を庇いたいものだ」

ゼイブンは即座に却下した。

「貴婦人なんて優雅にしてて、あの狂犬に万が一突っ込まれたら。
あんた、責任取ってくれるのか?」

デルアンダーが、見つめるゼイブンから顔を背け、ゼイブンは頷く。
「そうだろう?
あんただって、俺に逃げ切って欲しいはずだ。
俺に
『てめぇのせいであいつにケツホられたから、体で責任取れ』
と迫られたら、困るだろう?」

横の、金に近い栗毛の女顔、テスアッソンが俯く。
「…顔だけで性格を別の奴に入れ替えない限り…ゼイブンは抱けない」
「無理だ」
「顔だけでも無理だ。
この顔と性格がもう、刷り込まれてるから、絶対勃たない」

ゼイブンは、腕組みしておもむろに頷く。
「それが、狙いだ」

そしてシェイルに振り向く。
「お前も、可愛い子ちゃんなんてしてたら。
ヤられ放題だぞ?
ここで生き抜きたかったら、いかに相手にソノ気を無くさせるか。
研究し尽くせ」

デルアンダーもテスアッソンも他の大貴族達も。
こんな貴重な、可憐そのものの可愛い子ちゃんに、心からゼイブンみたいに、なって欲しく無い。
と言い出せず…悲しげに俯いた。


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