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華麗なる蝶の舞い
しおりを挟むこの対戦で会場中の注目を浴びたのは、シェイル。
今度の相手ノーラッドは、真剣に剣を振り込む。
シェイルも振られる剣を避け、華麗に足を使って翻弄し、相手のペースを崩す。
滑るような足捌きで、ふわりと避けるシェイルは麗しくすら見え、見物してる者ら全ては、滅多に見られない美しい少年剣士の、舞踏のような軽やかな身のこなしに、見とれた。
が。
どうしても勝ちたいノーラッドは、幾度も幾度も隙をうかがい、仕留めようと鋭い突きで襲いかかる。
シェイルはその度、恐れもせずにぎりぎりで交わし、ふわっと避ける。
ノーラッドは捕らえられずにいきり立つが、シェイルに焦りは微塵も無い。
「牙を剥く狼と、めちゃ綺麗な蝶の対戦みたいだな」
「…なかなか凄いぜ。
あの可愛い子ちゃん」
三年の悪友らの言葉に、オーガスタスは横のローフィスを見る。
ローフィスは腕組みし、俯き加減で目線だけ上げて、シェイルの戦う姿を見つめてる。
「…やるな」
オーガスタスの言葉に、唸りながら返答する。
「…ディングレーが練習相手で、ずっと剣交えてたら。
あの野郎程度の突きじゃ、怖がらなくて当たり前。
…俺、散々ディングレーに“シェイル相手には、加減して剣を振れ”
って言い含めたのに、あの野郎!」
オーガスタスはため息交じりに肩すくめる。
「お前それ、ディングレーへの八つ当たりだって、分かってる?」
聞くとローフィスは、無言で頷く。
なのでオーガスタスは、問うた。
「シェイルは勝つと思うか?
ここで勝ったら、学年トップ4に入れる」
ローフィスは、ため息交じりに言った。
「対戦相手がナメて勝とうと、かっかし続けてたら…隙も出来て勝てるだろうが…。
相手は玄人。
ガキの頃から訓練積みまくってる。
冷静さを取り戻されたら…」
「無理か?」
ローフィスはそこで、頷いた。
シェイルが避ける度、会場からため息が漏れる。
とびきりの美しい少年が、剣を持って華麗に踊ってるように見えたから。
「勝ち負けは、どーでもいいから…」
「ずっと見ていたいよな。
ここ、ムサい男だらけだし」
「凄い目の保養だ」
あちこちから同様の呟きが漏れる。
ノーラッドは華麗に避けるシェイル相手に、どんどん鋭さを増し
“これは避けられるか?!
これは?!”
とばかり、際どい場所へと剣を振り込み、シェイルはしなやかに上体を反らし、体を横に思い切り倒しながら、避けた。
が、避けるばかりでは無く、相手が剣を振り切って出来た隙に、鋭く剣を突き入れる。
おおっ!!!
「…油断成らないぞ!!!
あの超美形!!!」
「相手も良く避けた!」
ノーラッドは寸でで決められかけ、慌てて避けて、冷や汗を頬に垂らす。
シェイルを見つめ…真顔で剣を握り直し、相対した。
「…ヤバいな」
オーガスタスが呟くと、ローフィスも頷いた。
「本気に、させた。
相手は本当の実力、見せてくるぞ」
ノーラッドはもう、逃げるシェイルを追うのを止める。
剣を軽く振る。
シェイルが逃げた方へと咄嗟剣を戻して振り切る。
シェイルは避けた筈の剣が再度襲い来るのにはっ!として、一気に下に、身を沈めた。
「間に合った!」
「どっちも、やるな!」
がノーラッドの剣は直ぐ、沈むシェイルめがけて振り下ろされる。
シェイルは直ぐ、横に滑る。
くるりと身を返すと、剣を振り切ったノーラッドの背後に回り、上から思い切り、振り下ろす!
ノーラッドは上体捻って振り向き、剣を当てて防ぐ。
が、直ぐ剣を外すと、横に滑るシェイルへと、思い切り振り切る。
シェイルは今度、腹を斬られそうになって後ろに跳ね飛んだ。
ノーラッドが追う。
また囮の剣を軽く振り入れ…避けて横に滑るシェイルの身に、思いっきり剣を突き入れる。
今度…シェイルは逃げ切れず、真っ直ぐ襲い来る剣に、剣をぶつけ当てた。
カンっ!
止められるはずだった。
通常の、剣なら。
が、『教練』の試合用の剣は脆く…当てたシェイルの細い剣の、剣先が折れて飛ぶ。
会場の皆は一斉に
あ~あ!!!
の声を揃わせた。
シェイルは落ちた剣先を見つめ、顔を上げてノーラッドを見る。
ノーラッドは真顔で、戦い甲斐のある相手とシェイルを見つめ、一つ、頷いた。
シェイルも頷き返し…そっ…とまだ戦ってる、ヤッケルやフィンスを見、講師に頷かれて一年の席へと、戻って行った。
ローフィスがそれを見て、顔を下げて一つ、吐息を吐き出す。
「良く戦った…。
そうだろ?」
オーガスタスに言われ、ローフィスは頬染めた。
「…いや。
昨夜お前に薬もらって爆睡して、正解だと思って」
「そっちか」
言われてローフィスは、まだ少し赤く頬染めて、思い切り頷いた。
が暫くして、負けて中央を去り始めるシェイルに、拍手が湧く。
「良く戦った!」
「剣が折れて負けるのは、勇者の印だぞ!!!」
ぱちぱちぱち。
シェイルは振り向く。
不思議な物を見るように。
自分に声援を送る四方の階段状の椅子に座る男らが、立ち上がって拍手してる様を。
少し…頬を染めて、まだ息を切らしながら。
さざめく拍手に包まれる感覚に、少し戸惑い、けれど少し、嬉しそうに…。
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