若き騎士達の危険な日常

あーす。

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新たな伝説

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 ヤッケルは歯を食い縛る。
ローの剣は変幻自在。

あっちから来るかと思えば、くるりと背に回し入れ、視界から消えたかと思った途端、突然下から。
またくるりと回って斜め横、くるくる回って真上からと。
次々に襲い来るけど全然どっから来るか、訳解んないのでカンでかろうじて避けてる有様。

が。
ヤッケルとて、身軽が身上しんじょう
更にたくさんの弟らに、ひっきりなしに飛びかかられていたから、気配で避けるのは得意。

ローは間合いに曲芸のように、くるりと剣回しを入れる。
来るかと思えば間を取り、くるりが二回、三回と入る時もあり…。

ヤッケルは
「(三回まわす!)」
と信じ、突っ込んで行くと、二回で回すのを止め、突きを喰らわすから…。
吹っ飛んで、横に避ける。

迂闊にバランスを崩すと、ガンガン突き刺して来るから、ヤッケルは腹を引っ込め、背を反り返し…。

見ていた者がくす…と笑う程、剣の試合と言うより、曲芸。

とうとう上級が
「お前ら組んで、見世物小屋で食っていけるぜ!」
「曲芸なら、凄く見応えあるもんな!」
と叫ぶありさま。

ヤッケルは内心
「(糞!!!
人ごとだと思って…!)」
と思いっきり腹が立つが、悠長に腹立ててたら、勝負は決まる。

剣を振り入れる間もなく、剣を喰らいまくるから、ヤッケルも避けまくり…。
気づくと凄く端っこまで来て、もう少しで二年最前列で座ってる、ディングレーの膝の上に乗るところだった。

ディングレーの真ん前で、首を左右に振って突いて来る剣を避けるので、ディングレーは今にも膝の上に、すとん!と腰下ろしそうなヤッケルの、背を押そうと肘を曲げた両手を、ヤッケルの背の後ろで彷徨さまよわせてた。

ついにローが、思いっきりヤッケルの顔目がけて剣を突き、ヤッケルがさっ!!!と避けるので、後ろのディングレーの顔に突き刺さりそうになり…。
ディングレーは咄嗟、顔を傾け避ける。
その時とうとうヤッケルは、避けた拍子にすとん!!!とディングレーの太ももの上に、腰を落とした。

そして両足突き出して、目の前のローの腹を蹴り飛ばす。

どっっっ!!!

ディングレーは反動で自分にのし掛かるヤッケルの背を何とか両手で押し止め、ローが後ろに吹っ飛んで間が空くと直ぐ、ヤッケルの背を押し出した。

ヤッケルは押されて飛び、床に着地すると一声ディングレーに
「感謝!」
と叫んで、床に転がるローに、剣を突き刺す。

二度、転がる先に刺すが、思いっきり刺したりしたら床に突き刺さり、剣先が折れる。

それが目当てで、ローはまだ起き上がらず転がってると読んだヤッケルは、刺すのを諦め、それをローに教えるため、剣を肩に担いだ。

ローはその場に立ち竦み、剣を肩に担ぐヤッケルを見て転がるのを止め、見上げた後、ため息と共に起き上がる。

ローが膝を伸ばす間にもう、ヤッケルは突きを入れ、ローはバランスを崩しながらも横に飛んで避け、直ぐ剣を、振って来る。

「(…普通、斜め上から来るだろう?!)」

だが飛んで来た剣は、斜め下から掬うように振り入れられ、ヤッケルは横に飛んで避けた。

が、シェイルの剣先が飛ぶ音が聞こえ…暫く後、歓声と拍手。

チラ…と見ると、シェイルが一年席へと戻っていく姿。

「(…負けたか…)」

その時。
突如剣が飛び来て、ヤッケルの頬を掠る。
瞬間、いつもの習慣で無意識に顔を横に向け、避けたから…掠った程度で済んだ。
ヤッケルはかっか来て怒鳴る。
「てめぇ!
寸止めが普通だろう?!」
が、ローは気にする様子も無く言い返す。
「…避けると思った。
実際、お前避けたじゃ無いか!」

言いながらもう、剣を振って来る。
しかも腹へと。
ヤッケルは後ろに吹っ飛ぶ。

がそこは…四年席最前列で、最上級生の体のデカい、大貴族の膝の上にお尻ごと着地し…。
背を抱き止められた途端、顔に剣を、突きつけられた。

「……………………………」

ヤッケルは背後から四年に抱かれ、身動き取れない状態で剣を顔に突きつけられて、暫く目前の、剣先を眺めた。

後、怒りまくる。
「こんな負けって、あるか!!!」

が、どっっっ!!!と場内は笑いで満ちる。

「『教練キャゼ』の歴史でも、初めてだぜ!!!」
「語り継いでやるから、それで納得しろ!!!」
「新しい伝説残したと思え!!!」

はやし立てる上級生らに、腹立ち紛れに怒鳴る。
「嬉しく、無い!!!」

ヤッケルはまだ目前に突きつけられてる剣を払い退け、四年の膝の上から、怒りに満ちて立ち上がった。

ヤッケルが講師を見ると、講師は情けない顔で頷くから。

ヤッケルは頷き返し、ぷんぷん怒りながら去り始める。

拍手が湧くので、振り向いて
「イヤミか!!!」
と怒鳴りつけると、どっ!!!と笑いが湧く。

一年席の、シェイルの横にどすん!!!と腰下ろす。
暫く腹を立てていた。
が、シェイルが静かなので横を見る。

シェイルは顔を背けてるので、顔を覗き込むと、笑っていた。
「お前まで、笑うな!!!」

ヤッケルは怒鳴ったが、シェイルは笑いながら
「無理…」
とそれだけ言って、笑い続けた。


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