アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

文字の大きさ
57 / 101
8 失墜するゼフィスとロスフォール大公

ロスフォール大公を避け続けるゼフィスと、ラデュークを探すロスフォール大公

しおりを挟む
 ロスフォール大公邸では、大公がいらいらと室内を歩き回ってた。

「どういう事だ!
なぜ、ラデュークの行方も!
ゼフィスとの連絡役、ディドロや…果てはナーダまで連絡が取れない!!!」

が。
探し回った部下達は、互いを見回し、返答出来る者はいない。

「ええい!!!
“デュカス”(大公の、秘密部隊)には連絡が取れないのか!!!
奴らを出動させ、至急ラデュークを連れて来いと!!!
命じろ!」

部下達は大慌てで、秘密部隊の副長の家へと、駆け出した。

「ゼフィスに使者を出して、問い正せ!
襲撃計画はいつ、再開されるのかと!」

屋敷からは、連絡に出る使者達が、慌ただしく駆け出していた。

レスルの部下はその様子に笑うと、素早く屋敷に忍び込む。
目当てはラデューク私室にある、多分全ての奪った荷の貯蔵倉の地図。
大公邸はラデューク不在で、皆浮き足だっていて、警備は緩みまくり。

「(…楽勝!)」

部下は地図を直ぐ、ラデュークの机の上から見つけると、丸めて懐に入れ。
またこっそり、邸内を抜け出した。





 ゼフィスは大公に与えられた、美しい邸宅の一室に、全てカーテンで覆って閉じこもった。

「ゼフィス様!また大公からの、使者がおいでです!
襲撃計画の、次第について!」

どんどん!と戸を叩かれても怒鳴り返す。

「いいから、追い返して!
さっさとするのよ!!!
…通して良いのは!
影の一族の使者だけよ!!!」

爪を噛み。
ソファにかけ。
身を沈め込ませて目を、閉じる。

浮かぶのは、サスベスの上から刺し貫いていた…あの、若者…!

「(…でも、髪の色は明るい…。
いいえ!髪なんて、染められる…!
ニーシャじゃないのは、間違いない!
エルベス大公…いえ違うわ!
彼よりうんと…若かった…)」

ゼフィスはその事ばかりに囚われ。
今だラデュークが、自分を脅しに来ない幸運に、気づかなかった。

「(…もう…サスベスは正気に戻るはず…。
私の姿を、見たんだから!
今頃、濃密な…あの時を思い出して…。
使者を私に、遣わすはず。
そう…今あの、吊り橋を渡ってるわ!
きっと!
絶対!!!)」

けれど夜のとばりがおり、すっかり暗くなっても。
訪れるのは大公の使者のみ…。

その都度、ゼフィスは飛び上がらんばかりに、ソファから腰を浮かしかけ…。
影の一族の使者じゃないと分かると。
また座って、叫ぶ。

「通して良いのは“影の一族の使者だけ”
って言ったでしょ?!
耳はどうしたの?!
あんた耳無し?!持ってないの?!!!!」

侍従に罵声を浴びせかけ、ひたすら待ち続けた。

もう…もう、サスベスは心変わりするのよ。
私を思い出し、恋しがって。

そう、私の。
………女の、濃密な快感を。

「(与えてあげられるのは、あたし、だけなのよ!!!
見てなさい…。
サスベスは再び私を欲し!
呼び戻されたら…!!!
まず私にこれほどの恥をかかせたあの青年の、手足を切り落として痛みに泣き叫ぶ姿を思い切り笑ってやる!!!
…そして苦しみ抜いた最期に、首を落としてやるんだから!!!
私の…この手で!!!)」

ゼフィスは手にかかる剣の重みと…首を跳ねる爽快感を思い浮かべ、歓喜に震えた。

「(そして…そう。
石を投げた女も…子供も!
刃向った、部下共も!!!
仲間の手で全員、公開処刑させてやる…!!!

城の広場で縛って並ばせ…。
泣き叫び命乞いをする声に満ちあふれ、集まる民の気の毒げな視線もものともせず…!

みせしめに、全ての首を跳ねるのよ!
首は…そうね。

あの…!若者の、ばらばらになった、手と足。
それと銅。
首を広場にならべ。
その後ろに一列に並べてやる!
腐るまで!
朽ちるまで!!!

私への反抗が、どれ程愚かか!!!
奴らが、思い知るまで!!!)」

ゼフィスの…気味悪く甲高い笑い声が、室内に響く。

侍従と使者は、顔を見合わせた。
「狂われ…てる?!
もしや…」

使者は沈痛な面持ちで、顔を下げる。
「…首尾は…この様子では、多分失敗…。
が、幸いなのは今、大公が必死で探しているのは、ラデュークの行方…。
ラデュークが戻れば…ゼフィスの処罰を命じられるさ」

侍従は頷く。
「ではこの邸宅も…直また主を失う訳ですね」

使者は頷き返し、二人はまだ響く。
不気味なゼフィスの笑い声を後に、長い廊下を歩き去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...