アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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8 失墜するゼフィスとロスフォール大公

回復過程で空腹を必死に訴えるギュンター

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「マジか?」

ヤッケルは近衛隊長宿舎で扉を開け、出て来たディングレーに要件を伝えた途端、返されたセリフに言葉を詰まらせる。



思わず、かつての一級年上。
王族として学年一の実力者と名を馳せた、黒髪のディングレーを。
顔を上げてマジマジと見た。



よく観察すると。
王立騎士養成学校『教練』時代、男らしさの権化。
身分高い騎士らに取り巻かれ、その頂点に相応しい、気品を兼ね備えた迫力満点の男らしさ。
硬派で、いつも厳しい雰囲気を醸しだし、迂闊に側に寄れない程の、圧倒的な存在感。

…は綺麗に消えていて…。
どっかの風来騎士のように見え、ヤッケルは目を、まん丸にした。

「…………近衛に入隊してから、砕けた?」
「………………………」

ヤッケルの質問に、ディングレーが言い淀んでると。
背後からローフィスが姿を現す。
「どうした?」
その声にディングレーは振り向き、訳の分からない状況下での助っ人、ローフィスの姿を目にし、途端表情を緩める。
「ああ」

ヤッケルは、ローフィスに視線を移す。

が、ディングレーが先に言った。
「こいつが、ディンダーデンの代わりに、ギュンターを差し向けろと」
「銀髪の影の一族の…元に?」

ローフィスの問いに、ディングレーが頷くのを見て。
ヤッケルは、ローフィスの前に立って問う。

「あんた…彼の事、凄く甘やかしてないか?」
「彼?」

言った後。
ヤッケルが自分を見つめたまま。
ディングレーの方にクイ。と顎を上げるので、呟く。

「…ディングレー?
………そうか?」

「教練(王立騎士養成学校)時代のが、まだ。
王族の威厳、あったぞ?」
「…取り巻きのデルアンダーらが、左将軍特別部隊に配属され、離れてるから。
王族と持ち上げてた奴らの、監視の目が無くて。
普段威張らなくても良くて、ダレきってて。
思いっきり、気を抜いてるだけだろう?」

ヤッケルはその意見に、顔を下げた。
自分ですら、格好いい。と見惚れていた男の…正体というか、実情をバラされて。
かなりショックで、がっくり来たので。

思わず俯き、小声で呟く。
「…気を抜いてると、王族の威厳、無いのか?」

ヤッケルに問われ、ローフィスは横に並ぶディングレーを見ると。
ディングレーは無言で、俯いてた。

が。
下げた顔を、上げて怒鳴る。
「“王族”し続けるのは、かなり大変なんだぞ!!!」

「………………………………………………」

ヤッケルが、完全沈黙に陥ったところで…。
ローフィスは顔を下げて呟く。

「アイリスの思惑は分かる。
暗殺集団差し向けられてるギュンター自身が、頭領垂らし込めば。
暗殺計画は、自動的に消滅。
…だろう?」

「ギュンター、発てそう?」
ヤッケルに聞かれ、ローフィスとディングレーは顔を見合わす。

「…発てるように、する」

ローフィスの回答に、ヤッケルはにっこり笑った。



 ギュンターは、目を開けた。

最近は、あんまりしつこく食事…いや、肉を寄越せと要求すると…。
出された食べ物に、ディアヴォロスの薬が混ぜられていて…。

「?苦い?」

と思った途端…寝ている。

一度はそのまま放置され続けていたので。
目覚めた時、スプーンを片手に握ったまま。
皿の乗ったトレーを腹の上に乗せ…寝入っていた。

丁度、扉が開いたので、顔を向ける。

ローフィスが。
また、トレイ片手に入って来た。



トレイの皿の上に、肉の乗ってるのを見て。
ギュンターは、頬の少し削げた…けれど衰えない美貌のすまし顔を、ローフィスに向けて問う。

「…どうした?」
「そろそろいいかなと思って」
「とぼけるな。
またどうせ、その肉にもディアヴォロスの薬が、混ざってるんだろう?」

ローフィスは、肩を竦める。
「いいから食え。
だが言っておく。
吐き気や腹が痛かったら。
黙ってないでちゃんと俺に言え。
嘘をつかず。
お前、嘘言わなきゃ成らなくなると、無言でやり過ごすだろう?」

ギュンターは、ため息を吐いた。
「さっさとくれ。
待てを言われた犬みたいに、ヨダレが出そうだ」

ローフィスは背をクッションにもたせかけるギュンターの横のテーブルに、トレイを置こう進み出た。
テーブルの前まで来た時。
ふ…とギュンターが、思い出したように問う。

「…寝てる間…ローランデが、来たか?」
「来るなと。言ってある」
それを聞いた途端。
ギュンターは一気に歯を剥き、怒鳴る。

「なぜ?!」

睨み付けるギュンターに、ローフィスはため息交じりに言い返す。
「寝てる間なら安全だが。
万一お前が起きてると…。
ローランデの貞操が、危険だから」

「ぐ…う゛…」

ギュンターが、言い返そうとして言葉にならず。
ローフィスはそれを見て、またため息を吐いた。

「…やっぱり…ローランデを見たら、肉の時同様。
飛びかかって、がっつくんだろう?」
「肉とローランデを、一緒にするな!!!」
「…でも、する」

また、ギュンターはぐっ!と、言葉を詰まらせた。

「食えるようなら、食べさせてもいい頃だから。
吐かないようなら、好きなだけ食わせる」

ギュンターはそれを聞いて。
初めて、眉を下げて、泣き言を呟いた。
「腹の皮と背の皮が、くっつきそうな程腹ペコだ………」

ローフィスは、目だけ見開いた。
なんか凄く、可愛く見えたから。

「…一応、柔らかく煮込んだ野菜のごった煮は…定期的に食わせてる……筈だ」

ギュンターはまだ。
泣きそうな顔で、怒鳴る。
「あんなもんは!
前菜にすら、ならない!
健康な時なら、1分で消化してるし、剣を一振りできる程度の栄養だ!」

「(…つまり普段道理、稼働する為には。
全然、栄養が足りないと………)」

ローフィスはトレイをテーブルの上に置くのを止め、ギュンターの目の前に差し出す。
自分の、1食分。
ゆでた野菜の他に、かなり分厚い肉が、切り分けられて山盛り、皿に乗ってる。

「ともかく、く………………」

ローフィスが、言ってる間にもう。
ギュンターは肉をフォークで突き刺し、高速で口に掻き込んでいて…。

ローフィスは、絶句した。

「(初めて、この男の泣きそうな表情を目にし、意外に可愛いのにびっくりしたが…。
セリフが可愛くなさ過ぎ。
更に今は………これか………。
………………………………。
だんだん言う事聞かない、野犬飼ってる気分に成ってきた………)」

惚けて見てると、所要時間5分で。
ギュンターは完食し終わった。

空の皿を差し出され、ローフィスはギュンターを、見る。
ギュンターも、ローフィスを…半ば睨んで、見る。

ディングレーが扉を開けた時。
ギュンターはローフィスへ、皿を差し出し、睨み。
ローフィスはじっ…と。
そんなギュンターを、ただ、見ていた。

「(…ど…どういう状況なんだ?)」

ディングレーは暫く見ていたが。
その間、二人は動かない。

「(…ギュンターの方は……分かったぞ。
“さっさとおかわり寄越せ!”
だ)」

ディングレーは理解出来て、ちょっとほっとした。
けれどローフィスは、微動だにせず。
頬の少し削げた、ギュンターの睨み顔をじっ…と見てる。

「(…なんで、動かないんだ?)」

ディングレーまでもが。
ローフィスの様子を伺う。

ギュンターは皿を差し出したまま。
ローフィスを睨み続け…。
やっと、その前ローフィスに言われたことを思い出し、囁いた。

「…腹は別に、何ともない。
むしろ元気いっぱい。
もし俺の腹が口を聞いたら。
“食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ!”
と、言い続けてるのを聞くだろう」

ローフィスは静かに、言い返す。
「お前、毒で腹が壊れててもそう言うだろう?」
「あの時とは、全然違う。
腹が壊れてた時は、脳が。
“食わないと体が保たない!”
と言っていた。
その前に、食った物全部。
吐いた後だったしな」

ディングレーはつい戸口の付近で呆けて、尋ねた。
「お前の脳とか腹って。
口きくのか?」

ギュンターは、視線をディングレーに振り。
真顔でしっかり、頷いた。

ディングレーは美貌の真顔でギュンターに見つめられ、思わず顔を背けた。
「(…もう俺こいつのダチ、止めたい………)」

ローフィスはとうとう、顔を下げてディングレーに振り向くと
「…追加の食事を、持ってきてやれ」
と呻いた。

ディングレーは暫く。
言われた言葉が頭に入って来ず。
呆けてそこに、立っていた。

が、寝台の上のギュンターが
「腹が減って、死にそうだ!!!」
と叫ぶ声で。

弾かれたように室内を駆け出し、厨房の扉へ、突進した。
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