アースルーリンドの騎士達 妖女ゼフィスの陰謀

あーす。

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10 逆転する明暗

舞踏会での対決

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 ニーシャは舞踏会の広間で、ナンタステ公が近寄り、耳打ちする言葉を聞いた。
「ゼフィスが来てる」
「どこ?」


ゼフィスは広間に入って間もなく、探す相手、ニーシャが向こうから、やって来るのを見た。
三人の貴公子を従えて。

ゼフィスは罠だったと確信し、けれど威圧ある迫力の、着飾ったニーシャに。
頭を上げて、つん!と顎を突き出し、言い放つ。

「…貴方の、甥ですって?
ご自身で出向けないから。
代わりに男に、サスベスを垂らし込ませるなんて!」

ニーシャは微笑む。
「そうよ?
貴方が堂々と。
私を乗り込ませて、貴方と私のどちらが上か。
サスベスに選ばせないから」

「それに…貴方の取り巻き達まで使って、私の足止めして時間稼ぎ?
随分、卑劣ね!」

ニーシャはぴしゃり!と言った。
「どちらがよ?
私の領地の、命を落とした護衛らや領民らに。
ひれ伏してわびて貰うわ!」

「あら。
襲撃命令を出したのは、ロスフォール大公。
私は彼の命を、サスベスに伝えただけ」

「それでも、貴方がいなければ彼らは生きてたわ」

ニーシャに冷たい瞳で見つめられ、ゼフィスはぐっ!と息を飲む。
「…だから?
弱い者は食われるのよ。
命を落として、当然だわ」

「あらそう。
なら貴方も直ね。
貴方が暗殺を命じたギュンターは、生きてる。
近衛の精鋭よ?
まあ…騎士だから女は殺さないでしょうけど。
けれどギュンターに惚れ込んでる女達に、ギュンターがあなたに暗殺されかけたと一言漏らせば。
今度、女達の差し向ける暗殺団に、追われるのは貴方の方。
私が手を汚す、必要も無く貴方を葬り去ってくれる」

ゼフィスは唇を噛んだ。
そして囁く。
「貴方自身で私と。
対決する気は、無いという訳ね?」

ニーシャは扇を振って笑う。
「対決?
何で?
…まさか剣で。
とかって言う訳じゃ、無いでしょうね?」
「剣でよ!
せめて貴方を殺せば…ロスフォール大公だってもしかしたら…………!」

ニーシャはジロリ…と、冷たい瞳でゼフィスを見た。
「ロスフォール大公は終わってるわ。
二度と。
以前の威光で人を傅かせることは出来ない。
命乞いで精一杯。
逃げ切れればいいけれど」

ゼフィスは腹を立てて、怒鳴りつけた。

「エルベス大公家がそうなるのも、直よ!!!」

「貴方の予言は、全く当てにならないわ。
それよりご自身の心配でも、なさったら?
そこの…アルザス公婦人。
それに、あちらのレイセル伯爵令嬢。
そして…「右の王家」のタニア姫。
貴方の命令でギュンターは命を落としかけたと聞いたら…彼女達、どうなさると思う?
特にアルザス公婦人の手下らは、酷い事も平気でする。
一生地下牢で惨めに暮らす覚悟が、要るかもね。
それですら…無傷でいられればの話だけど」

ゼフィスは悔しさに、唇を噛みしめる。

ニーシャはゼフィスを冷たく見つめ、囁く。
「では、ごきげんよう。
そうそう、銀髪の影の一族の、恨みも買っていらっしゃるようだから。
逃げ切れる事を祈ってますわ。
…当然、社交辞令ですけど。
貴方の生き残る道は…そうね。
せいぜいロスフォール大公を探し出して…彼の縋る大物に、精一杯取り入る事ね?
もしくは盗賊の娼婦にでも身を落として、彼らに匿って貰うか。
それでも…その盗賊が、逮捕されれば終わりだけど」

ゼフィスはその時、身が凍り付くのを感じた。

ニーシャの…言葉に縋るように、こんな場所にはいられない。
と、きびすを返す。

どこに逃げれば安全か。
もう、ゼフィスには分からなかった。

屋敷に戻ると、ロッドナットが。
ドレスを売った金を持って、待っていた。

「どこに行ってたんだ!
知り合いの公爵が、割といい値で買ってくれた!
愛人に送るんだろうが…。
ともかく、これだけあれば当座は…」
「ダメよ!
そんな事より………どこに逃げれば…私、助かるの?!」



ロッドナットは舞踏会での、ニーシャとの会話を聞いて、俯く。
そして、囁いた。
「髪を切り…顔を隠して男装するとかし…。
どこかの田舎でひっそり、暮らすしか無い。
俺が思いつくのは、そんな所だ。
それでも…腕の良い密偵には…嗅ぎつけられるかも………」

「…助けてくれる大物は、知らない?」
ロッドナットは、暗い表情でゼフィスを見る。

「そんな大物知ってたら…俺はもう少し、身分が上がってる」

ゼフィスはそれを聞いて、俯く。

「…ギュンターに…入れ込んでる女達は…本当に私に暗殺団を差し向けるかしら?」
「…タニア姫に知られたら…逮捕で死刑だろうな」

ゼフィスは瞬間、ぞっ…と身震いした。

「もし…ギュンター本人に、命乞いしたら?
近衛だし、左将軍補佐とも…親しいのよね?確か」

「…そんなコトしたら、銀髪の影の一族の城にでも送られる。
お前に苦しめられた銀髪の一族の部下らに、仕返しされるぞ」

ゼフィスは石つぶてを投げられた、女や少年ら。
乱暴に引きずった、いかつい部下の男らを思い浮かべ、ぞっ…とした。

「…じゃ…助かる道は…」
「極力隠れて…逃げ続けるしか無い」

「話の分かる…利口な盗賊って、知ってる?」
「…そんなツテは無い」

ロッドナットは力なく、金をゼフィスに渡し、そして背を向けた。

「…幾らか手間賃、抜いた?」

ゼフィスに聞かれ…ロッドナットは背を向けたまま、首を横に振った。

「餞別に…少しは俺の金も…上乗せたかったが…。
俺も金が無くてな。
手間賃貰わないのが、せいぜいの餞別だ」

ゼフィスは項垂れて、手元の金を見る。

「元気で」

ロッドナットは振り向かずそう告げて…部屋から、出て行った。

その後、ゼフィスはペーパーナイフを取り上げて髪を後ろで束ね、短く切り。
質素な服に着替え…金を持って明け方そっと、豪華な屋敷を後にした。
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