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10 逆転する明暗
レスルのサービスとラデュークのその後
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エルベス大公は、食堂の続き間の窓から、エラインが。
新たな従者、ロットバルトを連れて、領地見回りに出かける為、馬車に乗り込む姿を見た。
ロットバルトは大変目端が利くので、真っ当な人間としてやっていけるのなら。
領地を一つ、任せるつもりだと、エラインは出がけにロットバルトに聞かれぬよう、耳打ちしていった。
「(ロットバルトが真面目に務めるなら。
侯爵も夢じゃ無いな…)」
(現在は一番身分の低い子爵)
エルベスが微笑んでティーカップを片手に、お茶を飲んでると。
間もなくもう一人の姉、ニーシャが男装して現れるのを見、目を見開く。
「こんな昼間から男装?
…どこにお出かけなんです?」
ニーシャはジロリ。とそう問う弟大公を見、寄って来ると小声で囁く。
「…アドラフレンが。
ギュンターの見舞いと事後報告も兼ねて。
近衛宿舎に出向く情報を得たから、こっそりついて行くの」
「…アドラフレンの了承、取ってないんですか?」
ニーシャは寄せた顔を離し、弟をじっ…と見て、言い切る。
「アドラフレンが女の夢の園。
近衛宿舎にそうそう、私を招くと思って?」
エルベスは聞いた途端、顔を下げた。
「…無いでしょうね」
ニーシャはふい。と背を向けると
「だからアドラフレンの動向を探らせる、スパイが必要なのよ」
とうそぶく。
「…アドラフレン殿の近くにスパイって…。
あちらは、本職ですよ?
とっくに素性、バレてませんか?」
「バレてるわよ。
私に緊急で連絡取りたい時に便利だからって。
クビにしないだけで」
エルベスはそれを聞いて、顔を下げた。
が、上げて問う。
「なぜ、小声なんです?」
ニーシャはまた、寄って来て囁く。
「…だってお母様。
結局アドラフレンからロスフォールのお宝、取り上げられなかったから。
持ち主が判明し次第、宝を返す作業で忙しいじゃない?
手伝うはずのエラインは、まだ領民達の見回りや事後処理で、出かけっぱなしだし」
「…つまり母様の手伝いをバックレる…と」
ニーシャは頷く。
「この間、左将軍官邸で見かけた、すっごーーーくいい男ぐらい、モノにしたいし。
体が、イイの。
鍛えてて。
しかも美男なのに、硬派」
エルベスはそれを聞いて、顔を下げた。
「その男の人生を、くれぐれも破滅に追い込まないで下さいよ」
ニーシャは目を見開く。
「私がつまみ食いした程度で。
破滅になんか、向かわないわ?(嘘)」
そして窓の外で従者が手招きするのを見て
「いくわ。
お母様には、内緒」
と言って、足音を忍ばせ、こっそり掃き出し窓を開けて出て行った。
エルベスは間もなく
「お願いよ!
誰か手伝って頂戴!」
と叫ぶ母の声を聞き、有能で美男な部下達を慌てて招集すると、母大公の元に行って手伝うよう、命じた。
がその時、母や姉たちの眼鏡にかなう、大公付き専用美男従者部隊の一人が、室内に入って来ると、にっこり微笑んでエルベスに報告する。
「レスルへの支払いは、全て終わりました。
あちらに満足そうに、微笑まれましたよ」
エルベスは頷く。
「母様も姉様も、働きいかんによっては、値切る算段だったからね」
従者はその言葉に笑った後、一礼してエルベスの目前から下がった。
エルベスは待機している使者らの列に振り向くと、使者からの羊皮紙を受け取り、目を通す。
その羊皮紙には、ロスフォールのその後がしたためられていた。
「(…ドローネン大公爵の元へ…?
しかし結局、粗末な小屋しか与えられず、ありったけの財産を持って…崖を超えて他国へ亡命…。
途中、崖の外の密林で、盗賊に襲われ…絶命………)」
エルベスは、顔を上げてその羊皮紙を手渡した、使者を見る。
地味な服装のその男は、ウィンクして告げた。
「値切られなかったので。
アフターサービスです」
エルベスは微笑んで男に告げる。
「こちらも、大変助かってありがたいから。
ちょうど君の所に届けようと思ってた、荷馬車を引いて行ってくれるかい?
取り戻した、特産の果実酒と砂糖漬けのスモモと…多分色々、母が乗せていたから。
みんなで食べてくれると嬉しい」
レスルの部下の一人は、帽子に手をやり、少し上げて顔を覗かせ、微笑む。
「では喜んで、頂戴致します」
エルベスは侍従に荷馬車への案内を頼み、レスルの部下は侍従の後について消えた。
ナグルスは左将軍補佐の隠密部隊配下の一人に案内され、あてがわれた宿舎で。
囚人広間よりやって来て、合流した仲間達と、与えられた仕事について話しあっていた。
崖近くの、洞窟内に潜む盗賊の居場所の特定。
但し洞窟は入り組んでいて、迷うと出られなくなるので、地図をもらい、地の利を習得すべし。
と命を受けて。
扉が開き、なにげに振り向き…入って来た人物を見て、ナグルスが目を見開く。
「ラデューク…殿…」
ラデュークはかつての部下に、一つ、頷く。
「仕事について…言付かってきた。
『急がなくて良いから、君達の上司の、お披露目の式に出るように』と」
「なんの…披露目です?」
部下の一人がそう尋ねる。
が、ナグルスは頷いて言った。
「…大公爵に…成られる、その披露目ですよね?」
ラデュークは頷く。
母の容態が落ち着き、左将軍に呼び出され、王都より東の、亡き父、ラダデュークの居城に案内され…。
そこで、祖母に会った。
優しい皺の、白髪混じりの黒髪の…とても上品な貴婦人は、彼を見るなり涙を浮かべ、両手広げ、抱きしめて言った。
「息子が…あなたの事を、知っていたら………」
ラデュークは、そのふくよかで優しい感触に、思わず目頭が熱くなる。
祖母は抱きしめたまま、告げる。
「けど…あなたのお母様の気持ちも、私…分かるの。
息子を愛していないから…そんな自分が、息子をもっと悲しませると…会うのを避けていらしたんでしょう?
私も幾度も…あなたのお母様を忘れるよう、言ったの…。
でも息子にとっては…ただ一度の、恋だったのね………」
ラデュークはとうとう…涙を頬に伝わせた。
祖母はやっと、顔を上げてラデュークを見る。
「ああ…なんて似ているの…。
でも息子はあなたより…もっと、儚げだったけど…。
でも、面差しはそっくり…」
ラデュークは掠れた声で、やっと言った。
「でも俺の母は…身分も何も無い、女中だ。
その息子の俺は、大公爵には、ふさわしくない…」
祖母はラデュークを見つめ、微笑んだ。
「私…あなたのお母様を見ているの。
とても凛として…誰とも違って、特別だったの。
彼女が給仕し、下がる度…私息子に、言ったのよ?
『あのお嬢さんが、とても好きなのね』
息子は俯いて…遠い目をしていた。
だから言ったの。
『どうしてもお嫁さんにしたいのなら…身分なんて、幾らでもどうにでも出来る。
あのお嬢さんなら…貴族になっても立派にやっていけるわ』」
そう言って、ラデュークを見た。
「とても心根の強い…けれど誠実な…。
誰とも違う、美しさを纏ってた。
息子はとっくに知っていた。
けど私も、調べさせたの。
亡くなったあなたの祖母は、没落貴族の出…。
元は、由緒正しい家柄だったの。
お祖父様は芸術が大好きで…けれど騙されて、贋作を山程買い込み…それで財産を失ったのよ」
ラデュークは、目を見開いた。
「…失意で…そして粗末な小屋の貧乏生活に耐えられず、まだ幼いあなたのお母様を残し、体を壊して亡くなってしまった。
おばあさまは…あなたのお母様の為、一生懸命働いて…。
けどお嬢様だったから…心労が祟って、伏せってしまって。
それであたなのお母様は、息子の城に、女中として住み込んだの。
お給料が、とても良かったから」
ラデュークは幼い頃、微かに覚えている、祖母を思い出した。
とても…やせ細って…けれどとても品があって。
悲しげで…けれど自分を見ると、嬉しそうで…。
物心つく以前に…病で亡くなった。
母の握られた手の温もりを、覚えてる。
粗末な木の飾りの下に埋められた、盛り上がる土を見つめ、母は言ったっけ。
『とうとう…私達、二人きりになっちゃったわね…』
その母も、自分が14になった頃、体を壊した…。
俺を教練(王立騎士養成学校)に入れようと、働きづめに働いて、とても給料の高い、剣の講師の元に通わせてくれて…。
結局、それ以上は通えず、母の期待に報いたいと、必死に自己流で剣を覚え…。
けれど母の代わりに働かなくては成らず、教練には行けなかった。
会う度、すまないと…母は自分に告げ、俺はいつも笑って
『大丈夫』と…。
祖母は微笑んで、言った。
「大公爵になる、資格があるの。
あなたの家柄は…古くからの旧家。
ちゃんと…貴族なの」
ラデュークは微かに震えた。
「息子は…知っていたの。
あなたのお母様が三歳の時、一緒に遊んだことを。
屋敷が近所で…とても仲良かったのに、でも突然…屋敷から居なくなってしまったって…」
ラデュークは、愕然とした。
「…では父は…母のことを知って…」
祖母は、頷いた。
「その時から…ずっと恋してたんでしょうね…。
あんまり長い間、思い続けて…もう…他の人は…考えられなかったのかもしれないわ」
祖母はそういって…とうとう、泣き伏した。
そこまで思い返し、ラデュークはナグルスを見つめ返す。
ナグルスは感慨深げに囁く。
「では大公爵様だ。
もう迂闊に…声がかけられないご身分だ」
ラデュークは、笑った。
「身分はそうだが…仕事では単なる上司だ」
ナグルスは目を見開き、呻く。
「仕事を…されるおつもりで?」
ラデュークは頷く。
「左将軍の、お役に立ちたい」
かつてのデュカスのメンバー達は、ラデュークの言葉に揃って、頷いた。
「ここに居ない者達は、殆どが今では囚人。
あなたのお陰で、ここにいられる。
私も、あなたのお役に立ちたい」
ナグルスがそういうと、他も揃って首を縦に振った。
新たな従者、ロットバルトを連れて、領地見回りに出かける為、馬車に乗り込む姿を見た。
ロットバルトは大変目端が利くので、真っ当な人間としてやっていけるのなら。
領地を一つ、任せるつもりだと、エラインは出がけにロットバルトに聞かれぬよう、耳打ちしていった。
「(ロットバルトが真面目に務めるなら。
侯爵も夢じゃ無いな…)」
(現在は一番身分の低い子爵)
エルベスが微笑んでティーカップを片手に、お茶を飲んでると。
間もなくもう一人の姉、ニーシャが男装して現れるのを見、目を見開く。
「こんな昼間から男装?
…どこにお出かけなんです?」
ニーシャはジロリ。とそう問う弟大公を見、寄って来ると小声で囁く。
「…アドラフレンが。
ギュンターの見舞いと事後報告も兼ねて。
近衛宿舎に出向く情報を得たから、こっそりついて行くの」
「…アドラフレンの了承、取ってないんですか?」
ニーシャは寄せた顔を離し、弟をじっ…と見て、言い切る。
「アドラフレンが女の夢の園。
近衛宿舎にそうそう、私を招くと思って?」
エルベスは聞いた途端、顔を下げた。
「…無いでしょうね」
ニーシャはふい。と背を向けると
「だからアドラフレンの動向を探らせる、スパイが必要なのよ」
とうそぶく。
「…アドラフレン殿の近くにスパイって…。
あちらは、本職ですよ?
とっくに素性、バレてませんか?」
「バレてるわよ。
私に緊急で連絡取りたい時に便利だからって。
クビにしないだけで」
エルベスはそれを聞いて、顔を下げた。
が、上げて問う。
「なぜ、小声なんです?」
ニーシャはまた、寄って来て囁く。
「…だってお母様。
結局アドラフレンからロスフォールのお宝、取り上げられなかったから。
持ち主が判明し次第、宝を返す作業で忙しいじゃない?
手伝うはずのエラインは、まだ領民達の見回りや事後処理で、出かけっぱなしだし」
「…つまり母様の手伝いをバックレる…と」
ニーシャは頷く。
「この間、左将軍官邸で見かけた、すっごーーーくいい男ぐらい、モノにしたいし。
体が、イイの。
鍛えてて。
しかも美男なのに、硬派」
エルベスはそれを聞いて、顔を下げた。
「その男の人生を、くれぐれも破滅に追い込まないで下さいよ」
ニーシャは目を見開く。
「私がつまみ食いした程度で。
破滅になんか、向かわないわ?(嘘)」
そして窓の外で従者が手招きするのを見て
「いくわ。
お母様には、内緒」
と言って、足音を忍ばせ、こっそり掃き出し窓を開けて出て行った。
エルベスは間もなく
「お願いよ!
誰か手伝って頂戴!」
と叫ぶ母の声を聞き、有能で美男な部下達を慌てて招集すると、母大公の元に行って手伝うよう、命じた。
がその時、母や姉たちの眼鏡にかなう、大公付き専用美男従者部隊の一人が、室内に入って来ると、にっこり微笑んでエルベスに報告する。
「レスルへの支払いは、全て終わりました。
あちらに満足そうに、微笑まれましたよ」
エルベスは頷く。
「母様も姉様も、働きいかんによっては、値切る算段だったからね」
従者はその言葉に笑った後、一礼してエルベスの目前から下がった。
エルベスは待機している使者らの列に振り向くと、使者からの羊皮紙を受け取り、目を通す。
その羊皮紙には、ロスフォールのその後がしたためられていた。
「(…ドローネン大公爵の元へ…?
しかし結局、粗末な小屋しか与えられず、ありったけの財産を持って…崖を超えて他国へ亡命…。
途中、崖の外の密林で、盗賊に襲われ…絶命………)」
エルベスは、顔を上げてその羊皮紙を手渡した、使者を見る。
地味な服装のその男は、ウィンクして告げた。
「値切られなかったので。
アフターサービスです」
エルベスは微笑んで男に告げる。
「こちらも、大変助かってありがたいから。
ちょうど君の所に届けようと思ってた、荷馬車を引いて行ってくれるかい?
取り戻した、特産の果実酒と砂糖漬けのスモモと…多分色々、母が乗せていたから。
みんなで食べてくれると嬉しい」
レスルの部下の一人は、帽子に手をやり、少し上げて顔を覗かせ、微笑む。
「では喜んで、頂戴致します」
エルベスは侍従に荷馬車への案内を頼み、レスルの部下は侍従の後について消えた。
ナグルスは左将軍補佐の隠密部隊配下の一人に案内され、あてがわれた宿舎で。
囚人広間よりやって来て、合流した仲間達と、与えられた仕事について話しあっていた。
崖近くの、洞窟内に潜む盗賊の居場所の特定。
但し洞窟は入り組んでいて、迷うと出られなくなるので、地図をもらい、地の利を習得すべし。
と命を受けて。
扉が開き、なにげに振り向き…入って来た人物を見て、ナグルスが目を見開く。
「ラデューク…殿…」
ラデュークはかつての部下に、一つ、頷く。
「仕事について…言付かってきた。
『急がなくて良いから、君達の上司の、お披露目の式に出るように』と」
「なんの…披露目です?」
部下の一人がそう尋ねる。
が、ナグルスは頷いて言った。
「…大公爵に…成られる、その披露目ですよね?」
ラデュークは頷く。
母の容態が落ち着き、左将軍に呼び出され、王都より東の、亡き父、ラダデュークの居城に案内され…。
そこで、祖母に会った。
優しい皺の、白髪混じりの黒髪の…とても上品な貴婦人は、彼を見るなり涙を浮かべ、両手広げ、抱きしめて言った。
「息子が…あなたの事を、知っていたら………」
ラデュークは、そのふくよかで優しい感触に、思わず目頭が熱くなる。
祖母は抱きしめたまま、告げる。
「けど…あなたのお母様の気持ちも、私…分かるの。
息子を愛していないから…そんな自分が、息子をもっと悲しませると…会うのを避けていらしたんでしょう?
私も幾度も…あなたのお母様を忘れるよう、言ったの…。
でも息子にとっては…ただ一度の、恋だったのね………」
ラデュークはとうとう…涙を頬に伝わせた。
祖母はやっと、顔を上げてラデュークを見る。
「ああ…なんて似ているの…。
でも息子はあなたより…もっと、儚げだったけど…。
でも、面差しはそっくり…」
ラデュークは掠れた声で、やっと言った。
「でも俺の母は…身分も何も無い、女中だ。
その息子の俺は、大公爵には、ふさわしくない…」
祖母はラデュークを見つめ、微笑んだ。
「私…あなたのお母様を見ているの。
とても凛として…誰とも違って、特別だったの。
彼女が給仕し、下がる度…私息子に、言ったのよ?
『あのお嬢さんが、とても好きなのね』
息子は俯いて…遠い目をしていた。
だから言ったの。
『どうしてもお嫁さんにしたいのなら…身分なんて、幾らでもどうにでも出来る。
あのお嬢さんなら…貴族になっても立派にやっていけるわ』」
そう言って、ラデュークを見た。
「とても心根の強い…けれど誠実な…。
誰とも違う、美しさを纏ってた。
息子はとっくに知っていた。
けど私も、調べさせたの。
亡くなったあなたの祖母は、没落貴族の出…。
元は、由緒正しい家柄だったの。
お祖父様は芸術が大好きで…けれど騙されて、贋作を山程買い込み…それで財産を失ったのよ」
ラデュークは、目を見開いた。
「…失意で…そして粗末な小屋の貧乏生活に耐えられず、まだ幼いあなたのお母様を残し、体を壊して亡くなってしまった。
おばあさまは…あなたのお母様の為、一生懸命働いて…。
けどお嬢様だったから…心労が祟って、伏せってしまって。
それであたなのお母様は、息子の城に、女中として住み込んだの。
お給料が、とても良かったから」
ラデュークは幼い頃、微かに覚えている、祖母を思い出した。
とても…やせ細って…けれどとても品があって。
悲しげで…けれど自分を見ると、嬉しそうで…。
物心つく以前に…病で亡くなった。
母の握られた手の温もりを、覚えてる。
粗末な木の飾りの下に埋められた、盛り上がる土を見つめ、母は言ったっけ。
『とうとう…私達、二人きりになっちゃったわね…』
その母も、自分が14になった頃、体を壊した…。
俺を教練(王立騎士養成学校)に入れようと、働きづめに働いて、とても給料の高い、剣の講師の元に通わせてくれて…。
結局、それ以上は通えず、母の期待に報いたいと、必死に自己流で剣を覚え…。
けれど母の代わりに働かなくては成らず、教練には行けなかった。
会う度、すまないと…母は自分に告げ、俺はいつも笑って
『大丈夫』と…。
祖母は微笑んで、言った。
「大公爵になる、資格があるの。
あなたの家柄は…古くからの旧家。
ちゃんと…貴族なの」
ラデュークは微かに震えた。
「息子は…知っていたの。
あなたのお母様が三歳の時、一緒に遊んだことを。
屋敷が近所で…とても仲良かったのに、でも突然…屋敷から居なくなってしまったって…」
ラデュークは、愕然とした。
「…では父は…母のことを知って…」
祖母は、頷いた。
「その時から…ずっと恋してたんでしょうね…。
あんまり長い間、思い続けて…もう…他の人は…考えられなかったのかもしれないわ」
祖母はそういって…とうとう、泣き伏した。
そこまで思い返し、ラデュークはナグルスを見つめ返す。
ナグルスは感慨深げに囁く。
「では大公爵様だ。
もう迂闊に…声がかけられないご身分だ」
ラデュークは、笑った。
「身分はそうだが…仕事では単なる上司だ」
ナグルスは目を見開き、呻く。
「仕事を…されるおつもりで?」
ラデュークは頷く。
「左将軍の、お役に立ちたい」
かつてのデュカスのメンバー達は、ラデュークの言葉に揃って、頷いた。
「ここに居ない者達は、殆どが今では囚人。
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縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
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