人形の冒涜(ぼうとく) 

あーす。

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可愛いピンクの薔薇の棘

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扉を開けてレイファスを中へ通した時、心臓のバク付きは最高潮。
けど、部屋へ入るなりレイファスは寝台に寄り…上に置かれた寝間着を手に取ると突然。

…やっぱり突然服を脱ぎだして、ファントレイユは顔が真っ赤で燃えているように感じて必死で、顔を下げた。

動く気配が消えて顔、上げると、脱いだ衣服が床の絨毯に散らばりレイファスは…もう、布団の中で、寝息を立てていた。

ファントレイユは暫く…暫くそこから、動けなかった。
やっと…すーすーと寝息が耳に入って、ファントレイユはそっと…室内へと歩き出し、レイファスの衣服を…そっ…と床から拾い上げる。

はっ…として取り落とし、けど…。
レイファスの家では多分、自分がしなくっても女中が…するんだろう。
そう思って…シャツを取り上げて畳み、椅子の上にそっと…置いた。
他の散らばる服を次々取り上げると、いい香りがする。

薔薇の香り。
レイファスのようなピンクの薔薇を連想させる。

ファントレイユは今迄一度も味わった事が無い程楽しい、衣服を畳み終えてそっ…と、レイファスとは反対側の寝台横へ来て…自分の寝間着を手に取る。

脱いだものは洋服箪笥の、中の釣るしにかけて、振り向く。
レイファスは…ぐっすり、眠ってる様子だった。

ファントレイユは寝台に潜り込むと…横の寝台端で眠る、愛くるしい明るい栗毛の巻き毛の天使の寝顔に
「お休み」
と告げて布団に潜り込んだ。

………やっぱりずっと眠れなくて、今日一日の事とレイファスの姿がぐるぐると頭の中に浮かび続け…ようやく、うとうととしたのは、窓の外が白んだ頃だった……………。


人の起きる気配で目が、覚める。
夜に成るとよく熱が出たけど…レイファスが居たせいか、熱は出てなかった。
ほっ…とした途端、レイファスが寝台の上に乗る。
何をするのかと思った途端衣服をたくし上げて…。

条件反射だった。
女中のマリーアンの水浴びを覗いた時…見ようと思って見た訳じゃなかったけど…マリーアンが、きゃっ!と叫びその後も凄く、恥ずかしそうで………。

それ以来、女の人の裸は、見ないようにした。

ゼイブンは
「餓鬼の頃だけだぞ。
大人になったら、ねんごろにならないと見られない。
女が油断して平気で脱いで見せてくれる、今の内に堪能しとけ!」
と言ったけど………。

マリーアンの裸を見た後、彼女は暫く顔合わせるだけでそれは恥ずかしそうで………。
だから二度と、見ないよう気遣った。

他の女性の時も、顔背けたら…
「ファントレイユは紳士ね!」
と褒められた。

庭の…片隅のちょっと離れた…周囲は生け垣の覆いがある噴水で、熱い夏はよく、女性が水浴びしていた。

男性はその周囲をウロつくだけで、セフィリアは厳しく罰してた………。
下働きの、ちょっとだけ年上の子とか、子供は容赦されてたから、みんなは
「誰が一番胸がデカいか」
を口々に言い合ってるのを聞いたけど………。

本当は
「女性は恥ずかしいから、そんな事言っちゃ駄目だよ」
と言いたかった。
だけど、お屋敷のお坊ちゃん。
でちょっとした事で直ぐ、熱を出す。
と腫れ物扱いで、そんな事言ったらますます、口も聞いて貰えなくなる。
そう思ったから、我慢した。

レイファスが、すっかり脱ぐ前に顔下げるのに間に合った。
と、ほっとした途端…夜中ずっと起きてたせいか、重い眠気にのし掛かられ暖かな布団が心地良くて…意識が無くなり、気づくと眠っていた。

起きてから朝食の間…ファントレイユはまだ覚めぬ眠気で始終、ぼーーーっ。としていた。

レイファスに、通りかかる度に足を踏まれたけど…。
昨日踏まれた同じ場所でやっぱり痛かったけど…。

それすら直ぐ忘れる程、頭が眠気でぼんやりしていて、何を口にしたのかさえ、覚えてなかった。

けど食卓でレイファスが突然、言った。
「僕、お祖父様との約束を忘れてた。
今日だったんだ」

そして
「お祖父様は僕が行けば問題ないから。
アリシャはもう少し、ここに居たら?」

そう言った時…ファントレイユは失恋した事無かったけど、きっとこんな気持ちだ。
と思える程、一気に眠気がふっ飛び…心が、涙で満たされた。

結局…レイファスを引き留める手段は母であるアリシャにも無くて…会話の行方を見守ったけど、結局レイファスは帰る事になって、溜息が洩れた。

庭番のズンデが女中のアノーラが好きで…彼女が大切にしてる薔薇を、悪戯っ子のロドリンがしょっ中手折るので、ずっと何時間も、見張っていた時の事が思い浮かぶ。

ズンデは飲まず食わずで六点鐘(時間)もそこに居て…どうしてそんな事が出来るの?
って聞いたら、アノーラの微笑む顔が浮かべば、何でも無いんだ。
と言っていた。
今、ファントレイユはズンデの気持ちが、凄く解った。

レイファスが居たら…熱出しそうになりながら必死で出さないように。と大変だったけど…それを我慢する事なんて、居なくなっちゃう事に比べたら、何でも無い事なんだ。

そう、思い知ったから。

ピンクの、それは可愛らしい綺麗な薔薇が消えて行く。
考えただけで凄く空虚な気がして、ファントレイユは心からがっかりした。

だから玄関脇で馬車にレイファスが乗り込む前、横を過ぎる時声もかけられなかったけど…レイファスの方から、寄って話しかけてくれた。
「僕。
って普通、男の子が使う言葉だと思わない?」

ファントレイユはそれでも言葉をかけてくれる事が嬉しかっから、そのまま言い返した。
「粋な女の子は男の子の服装してる時
“僕”って自分の事、言うんだよね?」

素敵な女の子。
そう…褒めたつもりだったけど…伝わらなかったみたいだった。
だって途端、がつん!
とレイファスの足が…散々踏まれた足先に、振り下ろされたから。

「………………………」
凄く、痛かったけど、飛び上がる程痛かったけど…。
ファントレイユは我慢した。

だって、最後の最後だった。
ここで
「痛い~!」
なんて喚いたら…レイファスにもう一生、男と思って貰えなくなる。

顔を、上げたかった。馬車のからから鳴る音を聞いて。

…けど…痛みを我慢するので精一杯で…遠ざかる馬車の中のレイファスを、見られなかった。

その馬車の、姿がすっかり消えた頃だった。
やっと、ファントレイユが顔を、上げられたのは。

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