ある日の出来事(ギュンター、アイリス、ディングレーがメイン)

あーす。

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ムストレス派の糾弾と直接攻撃

第二の糾弾

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「アイリスに、言いたい事があるんだろう?」

アンリッシュはじっと見つめるアイリスの濃紺の瞳から顔を背け、そっとレッツァディンの横に寄ると小声で告げる。

「話が違うわ。どうして私がここでお話するの?」
レッツァディンが怒鳴る。
「奴が!お前は自分を取り巻いて無いと!
そう抜かすからだ!」

アンリッシュは顔を赤らめ、即答した。
「あら…!
勿論、取り巻いたりしていないわ!」

この言葉にレッツァディンは目を丸く、したし、アイリスは笑った。

誇り高い彼女の虚勢を見越すアイリスの策略に、オーガスタス始めローフィスもディングレーも呆れて、一番末席の年下の男を見つめる。

だが驚く長身の叔父を見上げ、小柄なアンリッシュはもどかしげにささやく。
「でも…!解るでしょう?!叔父様。
彼は私が側に居たんだから……!
私に声を掛けるべきだわ?違う?!」

レッツァディンはだが、眉間を寄せ唸った。
「それは奴に聞け!」

アイリスは直ぐ言葉を受けてささやく。
「…貴方がお側にいらっしゃった事に気づかず、本当に申し訳ありませんでした…。
その…とても大勢の女性がいらっしゃったので。
私の不始末をどうぞ、お許し下さるとそう、おっしゃって下さい」

ディングレーもギュンターもアイリスが、その茶番を大真面目に演ずる面の皮の厚さに呆れ、ローフィスはオーガスタスに肩をすくめて見せた。

がオーガスタスもディアヴォロスも、物の良くわかったアイリスの頼もしさに、庇護は必要無いな。と目を見交わし笑う。

アイリスの、本当にすまなそうな表情に、アンリッシュはそれでも頬を染めると、ぽそり。とつぶやく。
「では次の舞踏会では必ず私と踊ると。
そうお約束して頂かなくては」

だがアイリスは困惑しきって首を傾けた。
「けれど貴方は王族だ。
迂闊に触れぬ身分のお方。そうでしょう?
同じ一族のディングレー殿も、それは女性との接し方に、慎重でいらっしゃる」

ディングレーは俯き、内心つぶやく。
(『…いらっしゃる………?』)

アンリッシュの、顔が揺れた。
アイリスは言葉を続け、ギュンターは腕を組んだまま体を前へ、深く倒す。

「ましてや貴方は、ご婚約もまだの女性の御身。
迂闊に触れる事は許されない筈。
違いますか?」

アンリッシュは、自分の望み叶わずアイリスが約束を断る様子に、狼狽えきって首を振り、それでもレッツァディンに、アイリスに意見してくれるようその腕を掴み求め、覗うように長身の叔父を見上げる。

がレッツァディンは勿論、ディアヴォロス派の色男を追っかけるアンリッシュを恥知らずだと思っていたから、ついアイリスに同意した。
「自分の身分を、自覚すべきだ」

レッツァディンに見下ろされてそう告げられ、途端アンリッシュは瞳に涙を、滲ませた。

ギュンターはチラとそれが視界に入ると顔を下げ、ディングレーでさえ、熱烈にアイリスと過ごす一時を夢見るアンリッシュを、可哀相だと思って深い吐息を吐く。
が、アイリスは畳みかける。

「叔父君は正しい。
貴方は下賎の身分の者が気安く触れぬ、高貴なご身分です。
私等にその御手を取る栄誉を気楽にお与えにならず、どうかその身分に相応しい男性にそのお手を、お許し下さい」

ローフィスが覗うと、ノルンディルもレッツァディンも、謙(へりくだ)るアイリスに、大いに満足していた。

がアンリッシュには彼が、身分を理由に、丁寧な言葉で自分を拒絶したのだと、解っていて微かに、震えて俯いた。

ディアヴォロスがそんな彼女に同情し、そっとささやく。
「貴方の身分に相応しい、貴方が手を取って欲しいと望む男性は他にいないのか?」

アンリッシュはずっと焦がれてやまないディアヴォロスにそう言われ、遠い瞳をし、だが思わずそれを口にした。

「居ますわ。けれどそのお方は叔父がとても、嫌っていますの。
そのお方と踊り等踊ったら………。
そのお方はもっとひどく!叔父に嫌われそして……そしてきっと、酷い目に合わされます」

レッツァディンにはそれがディアヴォロスの事だと解り、年下のいとこを睨め付ける。
アイリスは自分を庇いそして…アンリッシュの気持ちを救おうとするディアヴォロスをつい、はらはらして見つめた。

がディアヴォロスはにっこり笑うと
「でも一度だけ。
そう貴方に乞われたらその男性はきっと、どれ程貴方の叔父に嫌われようが、必ず貴方の手を取ると思います」

レッツァディンはディアヴォロスのその大胆な発言に顔を揺らしたし、アイリスはつい、そうアンリッシュを誘うディアヴォロスを、目を見開いて見つめた。

オーガスタスもローフィスも…そしてディングレーもギュンターでさえもが、ムストレス派との対立が更に激しくなる彼らの長(おさ)の、その発言に顔を下げたものの、泣き出しそうなアンリッシュの気持ちが救われた事にほっと、安堵の吐息を漏らした。

アンリッシュはそう言った、長い間焦がれ続けたディアヴォロスの男らしく美しい顔を見つめ、微かに涙ぐみ、躊躇いながらささやいた。

「でも私…その男性にそう言われただけできっと…。
踊り等しなくても…………」

俯いてもう何も言えない彼女を見、レッツァディンは思い切りディアヴォロスを、その猛禽のような蒼の瞳で睨む。
アンリッシュは叔父の様子に気づき、慌ててそっと顔を上げて言葉を続けた。

「もうきっと、満足ですわ」
ディアヴォロスは微笑を送り、彼女にそっと、そしてとても優しく頷いた。




 アンリッシュが退席し、デーデダルデスもこれで話し合いが終わった。
と、ディアヴォロスとレッツァディンにそれぞれ頷き、会議の終了を告げる。
「告発は以上ですな?」

レッツァディンもノルンディルも種が切れた事を、不本意ながら認めざるを、得なかった。

まぜっかえす事は可能だ。
ララッツは思った。
アイリス同様詭弁を使って。
が…身内の不名誉をこれ以上、掻き回されたく無いレッツァディンを、敵に回してまでもする必要は無い。
だから…。

別の手を、使うしか無いだろう。
こちらの憂さを、晴らすには。


 一同が席を立ち、皆が庭に面した両開きの扉に進む中、ローフィスはオーガスタスの背に続いて戸口へと歩き、何げに振り向いた時、咄嗟にギュンターに近づくララッツを見付け、ギュンターの後ろに居るアイリスに鋭い視線を送る。

アイリスはローフィスの素早く促す視線に気づき、前のギュンターの様子に急いで視線を送る。

ララッツがギュンターの耳元で小声でささやく。
「ローランデが去った途端、准将婦人に乗り換えか?
お前はおおっぴらに愛している等とほざいていたが、実はローランデを愛してなんかいず、単に我々と喧嘩をする争いの種として抱いてたんだろう?」

ギュンターの、顔が揺れる。

「お前に散々慣らされた体だ。
今頃ローランデは北領地[シェンダー・ラーデン]で、別の男を作ってお前同様、楽しんでいる事だろうな?」

ギュンターがぎっ!と目を剥く。
アイリスは咄嗟に、ギュンターとララッツの間に、素早く割り込んだ。

自分の事はともかく、ローランデを侮辱されるとギュンターはキレる事を熟知したアイリスの機転で、その拳は割って入ったアイリスの腹に、深く突き刺さった。

周 囲はぎょっ!とし、フォルデモルドは火蓋を切ったララッツに続き、背後からローフィスの襟を掴み引き倒そうとし、オーガスタスが咄嗟に振り向いてフォルデ モルドの豪腕を掴み止め、左手でローフィスの腕を自分の方へと引くと、掴むフォルデモルドの腕をローフィスの襟から、きつく握って引き剥がした。


ノルンディルがララッツの背後からギュンターに殴りかかろうと殺気を送り、ディングレーが一歩前へ出、ノルンディルを激しく睨み付けてその歩を、止める。

ギュンターは殴った筈のララッツがその後ろに居て、拳をのめり込ませた相手がアイリスにすり代わり心底ぎょっ!とした。だがアイリスはずしん!と重い拳を思い切り腹に喰らい、一瞬理性がその痛みで消し飛んでつい、反射的に拳を振り上げた。

「…アイリス…!」
ディングレーはぎょっとして理性を飛ばすアイリスを見つめ、ノルンディルはアイリスが味方に振る拳に笑った。

顔を襲う鋭い一撃を、ギュンターはその反射神経でぎりぎりに避け、がアイリスの拳はギュンターの右肩に突き刺さった。

アイリスは拳に当たる感触にはっ!と顔を上げた。ギュンターは深く抉るアイリスの拳に顔を一瞬しかめ、が拳を手でゆっくりと払い退け、つぶやく。
「…丁度、凝っていた場所だ」

アイリスは顔を歪め、何か言おうとし、向こうではオーガスタスが、拳を振り上げようとするフォルデモルドに笑って告げていた。

「奴の後ろ襟に付いた虫は俺が、取る。
手を、引っ込めてくれないか?」

拳 を振り上げ殺気を飛ばす自分に向かい笑顔を見せるオーガスタスに、それでもフォルデモルドは拳をぶつけようとし、がオーガスタスの背後からディアヴォロス の射るような視線が突き刺さり、一瞬にして背筋が冷えて凍り付き、仕方成しにフォルデモルドは笑って促すオーガスタスに、何とか頷き返して拳を下げた。

ギュンターは痛みに顔を思い切りしかめる真正面のアイリスを見、咄嗟に横に並び肩を、抱き支える。

ララッツとノルンディルが、背を向けるギュンターに、迫ろうと歩を踏み出し、ディングレーが手を伸ばし割り入って、自らの背でギュンターとアイリスの背を庇い、顔だけ振り向いて二人に告げる。

「手を、貸してくれなくて結構だ。
ありがとう」

ララッツは一瞬の機会を阻まれて顔を歪め、ノルンディルは俯くと肩で大きく、吐息を吐いた。

ディングレーは二人の背を庇いながら、背後のララッツとノルンディルを自分の背で、牽制し続けた。



ローフィスの肩を抱いて背を向けるオーガスタスに、レッツァディンがざっ!と歩を踏み出し、良く訓練されたオーガスタスは咄嗟にその殺気に振り向く。

が、ディアヴォロスがオーガスタスの背へと一瞬で滑り込み、レッツァディンの真正面に顔を出すとレッツァディンはその拳をつい、いつも殴りたいと思っている男の顔に、振った。

思い切り腰を入れた拳がぶん…!と空を切り、見るとディアヴォロスはもう、オーガスタスの背を促し、とっくにその場から消えていた。

まるでその拳等気づかぬように背を向け、振り切った気配に振り向き、微笑んで別れを告げる。

「失礼する。
まだ私と配下との話し合いが終わってないので」

レッツァディンはそのすかした年下のいとこを激しく睨め付け、怒鳴りそうになった。
『戻って、自分の相手をしろ!』と。

が、その時先にアッサリアス婦人と准将が消えた扉から、とっくに退出した筈のデーデダルデスが顔を覗かせる。
「何か、問題でも?」

レッツァディンははっ!と我に返り、そう声を掛ける年上の右将軍重鎮の男に視線を振る。



そして…視線を戻した時、敵の姿は全て、掻き消えていた。



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