異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato

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奴隷はいかがですか?

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「は?なにこれ。ここ、どこ?」

 高橋 すみれは思わずそう呟いて、辺り一面の草原を見回した。どこをどう見ても、360度回転してみても、やはり草原。少なくとも菫にはピクニックに来た記憶はなかった。
 菫の記憶の最後は、急な休日出勤のために電車に乗ろうとした駅のホームだ。その日は久々に丸々1日休みで、お気に入りの洋服で買い物やらお洒落なカフェやらに行こうと意気込んでいた。使う機会もなく貯め込んでいた(といっても安月給なので大した貯蓄はないが)お金もたっぷり十万円程下ろし、折角だから良いものを買って良い処に入り、ストレスを発散するつもりだった。
 結果的に会社からの電話でその予定は取り潰しとなったし、既に外に出てしまっていた菫はそのお気に入りの洋服で会社へ向かう羽目になったわけだが。
 現代社会の闇とも言えるブラック会社に就職してしまっていた菫は、もう慣例となった休日出勤に溜め息を吐きながら、駅のホームで電車を待っていた、筈である。残念なことに、そこから先の記憶がない。いや、辛うじて言えば、誰かに後ろからぶつかられて体勢を崩してしまったような気がする。もしかしたら、それで駅のホームに落ちてそのままお陀仏――となったのだろうか。
 菫の予想通りならあまりに呆気ない最期である。社会人3年目、プライベートの欠片も楽しめない現状に、このまま会社での待遇が変わらなければいっそ転職してしまおうかと考えていた。大学生活までは友人とも遊んでいたし彼氏もいたしでそれなりに楽しんでいたが、社会人になってからは休日がなさすぎて友人とは会えなかったし、高校からなんとなく惰性で付き合っていた彼氏とも疎遠になり自然消滅。両親は早くに亡くしていたし兄弟もいなかったから、本当に命を落としたのであれば無縁仏のような扱いになるのだろうか。

 ある種現実逃避をしながら、それでもこのままこうしているわけには行かないと菫は鞄を持ってひとまず歩き始めた。これが夢なのか、それとも大学時代にハマって読んだ異世界転生(いや、この場合菫自身が来たため異世界転移になるか)とやらなのか、それともあまりのストレスを癒したくて無意識の内に草原に来てしまったのかは定かではないが、もし夢ではなかった場合にこんな草原のど真ん中で一夜を過ごすというのは怖すぎる。パニックながらも、菫はどこか冷静であった。




 暫く歩くと、それまでただひたすら草原だったのが道のような何か(舗装されていないが、草ではなく砂利が一本道のようになっている)を発見した。これ幸いとその道に沿って歩いていると、後ろから馬の蹄の音とがしゃがしゃとした音が聞こえ、漸く菫は後ろを振り返った。後ろから来たのは、荷馬車(実物を見たことがあるわけではないが、恐らく間違いないだろう)であった。

「おや、こんな処でどうなさったんで?」

 馬を引いていた男が、菫へと声を掛ける。その言葉が日本語であることに僅かばかり安心した菫は、それでもテンパって「旅の途中で」と答えた。男は「そうでしたか。道理で、変わった格好をしてらっしゃる」と返したので、強ち間違った返答でもなかったのだろう。本当であれば改めて「気付いたら草原にいてどうしたら良いか分からないので助けてください」と説明し保護を求めるべきなのかもしれないが、菫の読んだ異世界転移ものの話の中にはそれで騙されて娼婦落ちしたヒロインの物語等もあったので、ちょっと怖かったのだ。
 男は菫と話をするためか一度馬を止め、まるで値踏みするかのように菫を頭のてっぺんから足先までじっくりと見つめた。もしかしたら、このまま攫われて娼婦や奴隷になってしまうのかもしれない。背筋がぞわりとした。が、男は予想外ににこりと微笑むと、「もし宜しければですが、奴隷はいかがですか?」と問うてきた。

「奴隷を?」
「ええ。異国の貴族殿のお忍び旅とお見受けします。お一人でいらっしゃるのだから腕は立つのでしょうが、何かあった時の盾にでもどうです?今日は元冒険者を売りにこの先の街へ行こうとしていたので、使えるモノばかりですよ。見目の良いのも揃ってます。奴隷契約すれば、主人の意に背いた行動はできませんしねえ」
「元冒険者……」

 男の言葉で漸くここが日本――というより地球ではないのだろうことが分かった菫は、唐突に心細さが増した。明らかに力のなさそうな菫に対して「腕が立つ」と予想したからには、非力な人間でも戦える手段――テンプレでいうと魔法だろうか――はあるのだろうが、実際に菫に使えるかどうかは分からない。勘違いしてくれているのは都合がいいが、それなら猶更その手段について男に聞くことはリスクが高すぎるのでできない。
 生まれてからずっと日本で生きてきた菫には「奴隷」を買うことについて正直かなり抵抗があるが、男の言葉通りであれば、主人に逆らうことができない奴隷というのは今の菫にとってかなり強力な味方となるだろう。しかも、元冒険者なのであればそれこそ菫なんかよりも「腕が立つ」筈だ。

 そこまで考えて、はたと我に返る。――奴隷って、いったいいくらするのだろう。
 人を一人買うのだから、安い筈がない。菫は自分の持っている鞄に視線を送った。記憶の通りであれば恐らく財布には十万円と少し入っているわけだが、十万円で人が買えるとは思えないし、そもそもこの世界の通貨が円であるという保証もない。

「……奴隷を見せてもらって、それぞれの値段を聞いてから考えます」

 ひとまずお金のことは後にして(逃げとも言う)、菫は奴隷を見せてもらうこととした。





 まず初めに見たのは、菫のように華奢な女性3人だった。魔法が使えるという彼女らは、どこか日本人に似た顔つきをしており親近感を覚えた。

「美しいでしょう?値は張りますが、見目も良く魔法も使える目玉商品です。それぞれ九万エンペルですね」
「へえ……」

 へえ、と物知り顔で頷いてみたが、九万エンペルとは一体。そしてやはりこの世界には魔法があるらしい。しかし、奴隷とはいえ人を「商品」と言うのが大変気持ち悪い。あと、日本人顔なので親近感はあるが、正直美しいとまで言えるかどうかといえば(失礼ではあるが)そこまででもない気がする。
 様々な考えを飛ばしつつもまずはお金だと「手持ちがあったかな」と確認するふりをして、菫は鞄から財布を取り出した。革の大して高くはない財布だが、横から覗き見た男――奴隷商人が「鞄もそうですが、財布も随分と薄くて精巧な作りですね。お高そうだ」と言うのでもしかしたら物作りなどはこちらの世界よりも地球の方が優れているのかもしれない。最悪物を売ってその場を凌ごう。
 そんなことを考えながら革財布を開いてみると、何故かお札入れに入っていた筈の一万円札十枚は薄くて見慣れないカードのようなもの十枚に差し変わっていた。恐らく千円札も二枚入っていたと思うが、それも少しサイズの小さいこれまたカードのようなものになっている。いや、本当に何故。

「おや、十万二千エンペルお持ちですか」

 その言葉に、菫は「円=エンペル」の数式を脳内にインプットした。覚えやすくて何よりであるが、変にエンペルともじるくらいならそのまま円にしてくれても良かったのにと思わないではいられなかった。
 ひとまず値が張るという奴隷が自分の手持ち内で買えることには安心したしあまりの安さに驚きはしたが、冷静に考えれば今ここで全財産の殆どを使ってしまうというのは宜しくない。街に行ったら泊まる場所を探さなくてはならないし、食べ物だって買わなくてはいけない。そもそも所持金で奴隷が買えるからといって、物価自体が円よりも安いのかただ単に奴隷自体の価値が低いのかが分からない。
 エンペルの正しい価値が分かるまで、そして収入を得る手段を確保するまでは出来る限り浪費すべきじゃない。魔法の使える日本人顔の女性が傍にいてくれたら確かに心強いが、とりあえずは保留だ。

「他は?」
「こちらはどうでしょう。先程の商品達よりも魔法の腕は落ちますが、見目は良いので夜の相手も兼ねるのであれば悪くはないでしょう。勿論奴隷相手は気持ち悪いという方も多いので、価値は人それぞれでしょうが」
「なるほど」
「それぞれ七万エンペルになります」

 ――夜の、とは果たしてセックスという意味で良いのだろうか。詳しく聞けないまま、目の前に出された男性二人を見る。不細工とは言わないが、またしてもあっさりな日本顔である。もしかしたら、この世界には結構日本顔が多いのかもしれない。見目が良いのが揃っていると言っていたから少しばかりイケメン等も期待してしまっていたが、奴隷という性質上特徴のない日本人のような顔でも見目の良い部類になるということなのかもしれない。いや、いいじゃないか、親近感。最高である。
 こちらの男性二人も魔法が使えるとのことで良かったが、所持金の半分以上なので一度保留とした。



 それ以降も何人か奴隷を見せられた。八十歳くらいの人もいたし、十数歳にしか見えない子供もいた。皆それぞれ奴隷ということもあってか元冒険者とはいえ細身だったが、それぞれ多かれ少なかれ魔法を使えるらしかった。紹介された中で一番安かったのは八十歳くらいの男性で、一万五百エンペル。
 ちなみに、小銭入れの中の五百円玉や百円玉、十円玉も何故か丸ではなく四角いコインになっていた。色合いは殆ど元のものと変わらないので覚えやすいのが救いである。

 奴隷を見せてもらい、色々と考えた。本当ならば最安値の奴隷にしたいところだが、なかなかの高齢で何かあった時には心許ない。勿論魔法は使えるとのことだが、正直がっつり戦闘するには物足りないレベルらしい。何かあった時のことを考えると、少し奮発してでももっと頼りになる人を買った方が良いのかもしれない。
 そう思ってぐるりと荷馬車内を見回すと、端の方で隠れるようにして蹲る大柄な人が見えた。体育座りの姿勢で額を膝に押し付けているので顔は見えないが、体格からして男だ。腕や足、背中、首の筋肉が大変雄々しくて良い。菫は筋肉フェチではない(筋肉の名称などはさっぱりである)が、筋肉のある男らしく包み込んでくれそうな人が大層好みである。
 藍色の髪は肩くらいまであるが、適当にぶっつりと切られたような印象を受ける。上半身は裸で何も身に着けておらず、下半身はズボンと言って良いのか腰布と言ったら良いのか、正直あまり良い物ではないのをとりあえず巻いているといった様相だ。布自体あまり清潔とは思えない。
 先程紹介された奴隷の中にはいなかった筈だ。けれども、従業員と言うにはあまりにみすぼらしい恰好をさせられているように思う。

「あの人は?」

 行儀が悪いながらにその男性を指さすと、一瞬きょとりとした奴隷商人は苦虫を嚙み潰したような表情で「アレですか」と呟いた。

「アレは正直売り物にならんので、どこかで捨て置こうと思ってたんですよ」
「売り物にならないっていうのは、どうしてです?」
「とにかく見目が悪くてね、見られたもんじゃないんです。そんなのを売ったらウチの評判にも関わりますし…。拾いもんで元値はなかったんですが、正直食事代だけかかるんでウチとしちゃあ邪魔で」

 人に対し邪魔とはなんだと憤りを感じたものの、商人という利益を追求する職業柄仕方がないのだと菫はなんとかその感情を飲み込んだ。「じゃあ、あの人は魔法とかは使えないんですね」と当たり障りのない(かどうかは分からない)言葉を続けると、奴隷商人からは予想外に「いいや、使えますよ」という言葉が返ってきた。

「え、使えるんですか?」
「元冒険者ですからね、ある程度の戦闘は問題ないと思いますが」
「それなのにどうして奴隷に…」
「どうやらどこかのお貴族様の不興を買ったようで、冒険者ライセンスを剥奪されてるんです。そうなると普通に仕事には就けないんで、こうして奴隷になったんですがね。この見目じゃあ、奴隷としたって売れないんで処分です」

 処分。先程の「捨て置く」という言葉も正直気になっていたのだが、いよいよ雲行きが怪しい。もしかすると、この体育座りの男性はお貴族様とやらの不興を買ったというだけの理由で(実際とても悪いことをしたのかもしれないが)仕事を奪われ、他の仕事にも就けず、奴隷としても売られず、命を終えようとしているのだろうか。流石にスルーできない。
 他の奴隷は見目が良いらしいから買い手は菫以外にもあるだろうが、奴隷商人の話だとこの男は菫が何もしなければ処分される。そんなの、後味が悪すぎる。

「あの人、いくらですか」

 菫は特に正義感が強いわけではないが、かといって目の前で命を落とそうとしている人間を見捨てられる程割り切った考え方をすることは出来ない。一種のエゴから、男を買うことを決意した。








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