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第三章
宴の夜
しおりを挟むその日の夜アレクシス主催のもと英雄ライルの帰還とこれから英雄となるソフィアを祝って盛大な宴が開かれていた。またアレクシス呼びかけによりソフィアの計画に賛同してくれるという近隣の貴族や諸侯達も集まっていた。
そんな中ソフィアは会場の端でジュースの入ったグラスを持ってどうしたら良いかわからずにしている。
元々こういうパーティーなどの経験がないのだ。
レティシアに無理矢理着させられたとても綺麗なドレスも自分に似合っているか分からない。
何人かの貴族や騎士にダンスに誘われたがなかなかはいと言えずに断ってしまった。
なのでこうしてちびちびとジュースを飲んでいるのだが、それにしてもライルの姿が見えない。
てっきりアレクシスの所にいるのかと思ったがアレクシスは会場の真ん中で貴族の女性達と話をしている。
レティシアはというとこれもまた貴族の男性らと談笑中だ。
ソフィアがキョロキョロとライルを探しているとまた男性に声をかけられる。
「どうかなさいましたかお嬢さん? 」
「あ、いえ、なんでもありませ、あ! 」
ソフィアは男性の方を振り向く。するとそこには、
「ライル! 」
黒髪の少年が立っていた。
「よっソフィア、楽しんでいるか? 」
「はい、ですが私こういうのは慣れてなくて…ライルは今までどこに? 」
「ん?ああ着替えに手こずってた、なにしろ久し振りの制服だしな 」
ソフィアはライルの着ている服を見る。
白地に黒のラインが入った制服。
「これはエルザーク帝国の大佐用の軍服ですよね、とても似合っています」
「はは、ありがと。ソフィアもそのドレスよく似合ってるよ 」
「あ、ありがとうございます 」
ライルに似合ってると言われ思わずソフィアは顔が赤くなる。
するとライルは続ける。
「だけどソフィアあんまり隅っこにいるなよ、今ここにいる人は君の計画に賛同してくれた人達だから今のうちに仲良くなっとかないと 」
「う、そ、そうですね。言い出したのは私ですね。……分かりました頑張ってみます 」
ソフィアはそう言うとレティシアがいる輪の中に入っていく。
ライルはそれを見届けると会場の端にあるソファに腰掛ける。それからぼんやりと会場内を見渡す。
するといつの間にかアレクシスが近くに来ていてそのアレクシスが皮肉げに言う。
「ソフィアにはあんなこと言っておいてお前こそ隅っこにいるじゃないか 」
「苦手なんだよこういうの 」
「そう言ってくれるな、今回のメインはお前とソフィアなんだぞ 」
「脱走兵一人帰って来ただけで大袈裟な …」
アレクシスは自虐するライルをクスッと笑う。
「まだ直ってないんだな、自分を馬鹿にする癖 」
「……事実だからなぁ 」
「今は違うだろ、魔王を倒した英雄だ。俺はお前を正しく評価している、アルノルト元皇帝だって評価していた。評価していないのは一部のバルドル側の人間だけだ 」
アレクシスの言っている事は事実だ。でなければライルのような一般人が本来大佐になる事は出来ないのだ。それだけの力をライルは持っている筈なのだが、しかしライルの表情は暗い。
「……何も変わってないよ。いくら強くなろうがお前はグレバラン公爵家の次男で俺は帝国から追われる重犯罪人の親父の息子だ。それは何も変わらない 」
「大海賊『海蛇』のリーダーキャプテン・シュビレヴラウか……だが父親とはもう何年も会ってないんだろ? 」
「ああ、七歳の頃からだから十一年会ってない 」
「だったら気にする事ないじゃないか 」
「そう簡単に行くか……まあ努力はするよ 」
ライルはそういうなりソファから立ち上がるとパーティー会場の出口に向かって歩いて行く。
「いっそのこともう忘れたらどうだ? 」
出口に向かうライルの背中にアレクシスは声をかける。
ライルはそれに後ろ手で手を振ると会場を後にする。
「忘れる、ね…… 」
アレクシスの言葉が頭に残る。もう何度も父親の事は忘れようとした、しかしそれはライルには出来なかった。何故なら目を閉じるだけで小さい頃の記憶が蘇ってくるからだ。
剣を鞘から抜く時に、剣で人を斬る時に嫌でも思い出すからだ。
自分に一番最初に剣を教えた師匠の顔が—————。
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