【不定期更新】ラッキースケベに憧れて 〜明るく楽しい異世界生活〜

香月ミツほ

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27.ゆるふわマルタさん

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さて、不味くて有名らしい粉薬の改良!

そういえばユピピアではどうやって飲んでるんだろう? 手紙で質問してみようかな。ナゼール院長とかヴァルターなら知ってるか。聞けばよかった。

あ、ナゼール院長は知らないみたいだったっけ。

さぁ、取り出だしたるは以前作った水飴。
ジャムの空き瓶に入れてあるので、スプーンで掬って粉薬に混ぜる。

1包にひと雫垂らして練る。
水飴が多過ぎた。
粉薬を追加。まだ水飴が多い。

粉薬を追加して練ってを繰り返してようやくちょうどいい硬さになった。おはじき半分の水飴に粉薬5包。5等分だな。目分量で5つに分け、ふと思い出す。

砂糖は高い。

糖衣錠じゃダメだな。
オブラート……、は上手くできる気がしないのでお薬ゼリー。市販品はトロトロのジュレだったけど、糖衣錠に近づけるならグミ?

メイド頭のカマリエラに相談すると寒天のようなものがあるという。硬さの調整をしながらチャレンジ!



結果。
ジュレは超簡単にできた。グミ……、は型が要る。でも確か片栗粉を凹ませて作る何かがあったはず! と考えて先端にボールがついたようなマドラーでくぼみをつけて寒天もどきを入れ、丸薬を入れて固まるのをまった。

なんかでかい。それに日持ちもしないらしい。

2~3日でカビるのか……。

加熱しすぎると固まらなくなるから熱消毒ができないし、浄化魔法では滅菌はできない。

どうしたものか。

明日、ナゼール院長に相談だな。



*******



ユピピアに行っている間に庭師が麦を萌やしてくれていたので乾燥できた分をゴリゴリする。時代劇で見たことのある円盤に棒が刺さってるような道具、薬研やげんがあった。

初めて使った。
それに名前も知らなかったのにちゃんと翻訳されてるのが不思議。まぁ、いいや。

それにしても……。

疲れる。

「手伝いましょうか?」
「いいの? 仕事は?」
「タカラ様のお世話も仕事のうちです」

使用人のセルヴォが手伝いを申し出てくれた。ありがたい。

セルヴォとはたまに一緒に神殿に行くけど、礼拝して寄進したら帰るのでそこまで交流は持てていない。でも歳も近いので気さくに話せる友人に近い存在だ。

「パン屋の女の子とはどう?」
「……彼女は果物屋の息子の嫁になりました」
「そうなんだ。カフェの店員さんは?」
「フラれました……」
「露店の……」
「聞かないで!!」

なんかごめん。

「そういえばベイセルのお客さんのモーゼスって知ってる?」
「あぁ、旦那様の友達だろ? 確か帝国に留学してたときに知り合ったとか聞いたな」
「留学?」
「あぁ。たいていの貴族は1年くらい帝国に留学するんだ。戦争を回避するために友好を築くとかなんとか」
「人質?」
「どうなんだろうな? 平民には関係ないから知らん」

支配層が代わろうが生活は変わらない、って。そうなのかな?

徳用ホットケーキミックスくらいの袋いっぱいの粉ができたので終了。次は芋を適当に切って水に晒し、アク抜きをする。あとは茹でて潰してドロドロにしたら麦芽を加えて保温。

作って良かったマイ七輪!!

桶の内側に粘土を貼りつけて乾かし、横に空気の通り道を作った物だけど。五徳も乗せられる。

今は保温したいだけだから他の場所で焼いてもらった石を入れて冷めにくくして、五徳を外して鍋を蓋にした。

火事の心配もなく、保温ができるスグレモノ!

あ、保温用なら空気穴要らなかったな。まぁいいや。この国、赤道に近いからずっと暖かくて過ごしやすく、暖房がない。常春。

だからカビ易いのかも!

なのに何故サトウキビがないのか。
ユピピアは赤道直下だけど標高が高いから涼しかった。アーシクナーンは少し北だけど砂漠の国らしいから暑いんだろうな。

せっかくだから世界旅行とかしてみたいけど、ベイセルは師団長だしなぁ。無理かな?

よし! 胡散臭くない行商人と仲良くなって話を聞かせてもらおう。

そして定番の米探しだ!



*******



「これ、どう思います?」

今日は治療院へ来ています。
寒天もどきを絡めた丸薬。当然だけどまだ
カビてない。表面が少し乾いたものの、つやつやしたそれを見せると、ナゼール院長は楽しそうに微笑んだ。

「匂いはなく、色が少し鮮やかになっていますね。試してみてもいいですか?」
「もちろん!」

部屋に用意された水差しからコップに水を注ぎ、丸薬を1つ口に入れる。口内で少し転がし、不味さがないのを確かめてから水で流し込んだ。

「ぅ、これは……、飲みやすいような飲みにくいような……。けれど有用ですね。もっと小さいといいですね」
「確かに大きかったですね。あとすぐカビてしまうらしいんですよ」
「カビですか。麝香草を入れるのはどうでしょう?」
「麝香草?」
「薬や食べ物が痛みにくくなります」

殺菌作用とかかな。どんな草なのか分からないけど、院長が勧めてくれるなら試さなくては。

帰って家でやろうと思ったら調剤処を紹介された。

以前、ベイセルのところまで送ってくれた見習いくんに案内されて調剤処に行く。そこは治療院の裏庭を抜けたところにあった。中庭を挟んで、というべき?

渡り廊下もあるけど回り道になるので、天気のいい日は庭を通るのが近道。

きれいに整地された石畳と花壇。
花壇には小さな可愛らしい花が咲いている。ハーブかな? 詳しい人なら地球の植物との違いが判るんだろうけどオレには分からない。

クズ芋も色が少し違うだけでほぼじゃがいもだった。

こまけぇことはいいんだよ!
やりたいことを周りに相談して安全に楽しく引っ掻き回す。巡り巡って世界を変える。

気がする。



調剤処には15人くらいいて、それぞれ個室があるらしい。混ざっちゃいけない薬もあるからだって。その中の1番偉い人に紹介された。ストロベリーブロンドの長い三つ編み、アースカラーの瞳のゆるふわ美人。

「調剤士長のマルタです~」
「異世界人のタカラです」
「「いせかいじん!?」」

あれ?
マルタさんはともかく見習いくんも知らなかった? え、秘密じゃないよね?

話してみると単純に『異世界』が認知されていないだけだった。こっちでは異世界とかパラレルワールドとかの物語がない。なるほど!!

「とにかく~、遠いところから来た、ということですね~」
「はい。それで味が悪くて飲みにくい粉薬を飲みやすくしたいのです」
「興味深いのですが、ぼくは治療院へ戻ります」

おっと、見習いくんは戻って仕事だった。
オレ達は彼を見送り、糖衣錠について話をする。そして寒天もどきにたどり着いたこと。

「確かに砂糖は高いので悩みますね~。それより一般化するなら結晶草が使えるかも~」
「結晶草……、ですか?」
「はい~。煮汁を冷まして砂糖菓子を包むのですが~、乾燥させるとたくさんの小さな結晶をまぶしたようになります~。無味無臭ですが見た目がキラキラしているので~、菓子の装飾に使われます~」

マルタさんはのんびりした口調がぴったりな見た目のお姉さん。それはともかく、結晶草か。

「さっそく試してみましょう~」
「はい!!」

実験なのでユピピアの粉薬ではなく、この国で採れる近縁種を使う。味が穏やかな分、効果も弱いそうだ。ユピピアの粉薬も治療院には置いているそうだけど。

持ってきた水飴で練る。
程よい硬さになったら放置して少し乾燥。そして分けてもらった結晶草を指示通りに煮出して濾して粘液を作った。トロッとしてる。

あ、水魔法って空気中の水分を集めるんだったよね。ならこの粘液の中の水分を取り出したらどうなるんだろう?

ちょっと実験!!

粘液を絡めた丸薬を片栗粉を敷いたバットに並べ、手を翳して蒸気が立ち上るイメージで水分を取り出した。

丸薬ははつるりとした透明な膜でコーティングされた。

「成功!?」
「す、すごいです。水魔法のこんな使い方があったなんて!!」

驚きでマルタさんの口調が変わってる。
もしかして寒天もどきでもこのやり方ならカビないんじゃない?

薬効が変質していないか確認をして、大丈夫ならこのまま製品化するそうだ。

オレは世界を変える!

……変えていいんだよね?
まぁ、なるようになるだろう。
大したことしてないし。
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