ご褒美嫁として召喚されたのにガッカリされました。怒っていいよね?

香月ミツほ

文字の大きさ
11 / 17

⑪町デート という名のリサーチ

しおりを挟む
エルピディオを町デートに誘ってみた。

ぽっちゃりがもてはやされると聞いたけど、どの程度なのか実感したい。人気の役者がいればブロマイドとか見られるかも知れない。

町の人たちのぽっちゃりレベルも気になってきたし。

で、町に行くのに消極的なエルピディオに胴回りに布を巻き、ゆったりした服を着せる。シャープな顔立ちがダメらしいので含み綿をさせる。細い首が見えないよう、スカーフをまく。そしていつものローブを羽織って完成!!

「どう?」
「こ、これが私……?」

『これが私?』いただきました!!

まぁ、そこまで変わってないけどフェイスラインがまろやかになるだけで印象って変わるよね。

ってことで、デートだデートだー!!





エルピディオの家は町外れにあるので、町の中心部まで徒歩だと3時間。なかなかの距離がある。なので、ロバ車で行きます。ロバ車はジャコッペの家から借りた。

変装したエルピディオを見てすごく驚いていたのが面白かった。

ロバ車は小さな荷車で幌はない。
そして御者台(?)には2人並んで座れたのでよりデート感が増している。エルピディオが用意したクッションがなかなかいい感じだ。

「エルピディオ、このクッションいいな」
「良かった! バネ羊の毛は弾力があってへたりにくいから馬車のシートに最適なんだ。ベッドにも使われてるよ」
「そうだったのか。高いんじゃないのか?」
「そうだね、それなりに高級品だね。でもお嫁さんのためなら用意するでしょ?」
「お、おう。……ありがとな」
「えへへ……」

嫁入り道具ならぬ嫁取り道具か。

などとしょうもないことを考えながら道の両脇に広がる麦畑を眺めながら進む。

この麦が小麦なのか大麦なのか。

どうでもいいか。

押し固めただけの道だったのが石畳の道に合流する。私道と公道みたいな違いだろうか。道沿いにところどころまばらに木が生えていて、その近くには数軒の家があり、集落が作られている。

農作業している人を見かけたがぽっちゃりなのか中年太りなのか遠くからでは分からない。中年太りもマッチョも人気だそうだが……。





集落を2つほどを通り過ぎて町が見えてきた。
町を囲むような外壁はなく、たくさんの建物が密集している。高い塔は宗教施設だろうか。

検問とかはないらしい。

「ササは何か見たいものある?」
「朝市かな」
「朝市……、まだやってるかな……」

朝市へ行くなら夜明けと共に家を出るべきだった。のんびり起きてご飯を食べて、家を出て1時間くらいたっている。

終わってたら終わってたでいいや。




「やっぱりもう片付けてる……」
「しゃーない。あ、でも屋台があるな」
「そっちはまだ準備中だけど、もうお腹すいた?」
「いいや、後で食べるためのチェックだ」

中央通りはかなり広く、両脇に屋台が並ぶ。
朝市の売り物は野菜と肉が主で荷車の上に置いてそのまま販売していたようだ。多少売れ残った野菜や果物もあるが……。果物は買おう。

「エルピディオ、あの動物も売ってるの?」
「あぁ、あれは注文されたら乳を絞って売るんだよ」
「産直にも程がある!!」

でも興味があるので注文してみる。

煮沸とかしなくて平気なのかな?

「おっちゃん、1杯ちょうだい」
「なんだ、1杯だけか?」
「まだお腹いっぱいなんだ」
「はははっ、そうかそうか。まぁ2人でゆっくり飲んでくれ」

乳屋(?)のおっちゃんは愛想良く売ってくれた。

あれ?
そう言えばエルピディオは醜いって忌避されてたんじゃないの? おっちゃんは普通に対応してるよ。思い込み?

「こ、こんなに優しくされるなんて……!」

優しい……? 含み綿&腹巻き効果か。
屋台から少し離れてエルピディオに聞くと、今までは聞こえないふりされたり、追い払われたりして売ってもらえなかったらしい。ここの乳を飲んだら痩せました、なんて思われたら困るって店の人から気配が伝わってきてたんだと。

考えすぎ、とは言えないな。





ところで含み綿してたら飲み物飲めないか。

「あ、味はどう?」
「サッパリしてるかな。なかなか飲みやすいよ」

乳を出してくれたのはヤギサイズの茶色い牛で、濃厚ではないけど美味しかった。浄化魔法陣のおかげで煮沸は不要。あと香り付けに入れられた薬草の香りが爽やかだ。

浄化魔法陣の付与された箱に木のカップを返却し、ぶらぶらする。ロバ車は降りて引いてます。

「あ、ササ、私はここに薬を卸してるんだよ」
「おぉ、薬屋か」

小さなガラス窓のついた玄関ドアにつけられた小さなレリーフ。オレには読めない文字とガラス瓶とそれを囲む植物の絵が彫られている。

カラララン

「いらっしゃ……」
「こ、こんにちは……」

ドアベルを鳴らして扉を開けるとそこそこぽっちゃりした初老の紳士が驚いた顔でエルピディオを見ていた。

「驚いた。エルピディオかい? 魅力的になったね」
「そっ、その、これは……」
「うんうん。素敵だよ。で、そちらは……」
「あっ、はい! 彼は私の……、その……」

エルピディオは含み綿で整形メイクをしたみたいなものだから、嘘をついてる気分なのか? でもそんなことは構わず褒めてくれる薬屋さん。

そしてエルピディオがオレの説明に困ってるな。褒美嫁ではあるが先日までオレは嫌がっていた。内情を知らない人にいちいち言いふらす事ではないがオレの機嫌を損ねるかも、と心配するエルピディオにとって、これは説明が難しいだろう。

もう普通に褒美嫁と言っても構わないんだけどな。

「初めまして、ササです。エルピディオには世話になってます」
「ほぅ、噂の褒美嫁か。なかなか素敵な人だね」

穏やかに微笑む姿はとにかく人が良さそうだ。
明るい茶髪に明るい茶色の瞳でとにかく和やか。

「今日は今週の納品と、差し入れです」
「おぉ、ありがとう。届けてくれるなんて助かるよ。それに差し入れ?」
「ササの作ったクッキーというお菓子です。甘くて美味しいのでぜひ」

ジャコッペにも教えたけどオレの手作りを喜ぶエルピディオのためにちょこちょこ作っているズボラクッキー。それを世話になってるという薬屋さんにお裾分けしに来たのだ。

この薬屋さんはエルピディオの祖父の幼馴染で天涯孤独になったエルピディオをいつも気にかけてくれているという。

「それはありがたい。旦那と2人でいただくよ」





クッキーの香りにゆるゆる笑顔になった薬屋さんに暇を告げ、店を出るとエルピディオがため息をついた。

「はぁ……。魅力的になった、なんて言われちゃったけど、太れたわけじゃないんだよねぇ」
「オレは今のままのエルピディオがいいと思うぞ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、この姿での町の人の対応をみると複雑なんだ」

そうだよなぁ。
普段の反応を知らないけど、ジャコッペも初めは感じ悪かったもんな。それがこの姿になった途端に褒められたり愛想良くされたりしてまるで騙してるみたいな感じがするのだろう。

「エルピディオの薬で美的感覚が変わるかも知れないし、気長に待とうぜ」
「うん、そうだね」

とりあえず買い物くらいなら変装してくれば楽になりそうだな。

それから昼飯を食事処の奥の席で食べ、美人で有名な看板娘のいる雑貨屋を冷やかし、仕立て屋のトルソーのふとましさに驚く。本屋で見た姿絵で美人の定義(太り具合)がなかなか幅広いと感じた。結構、好みの太さにばらつきがあるらしい。

そんな1日を過ごして帰路に着いた。

2人分の米を購入して。

だって食べたいじゃん?
制限は1人あたりだったので2人で買った。1人あたり3kgくらいで大銀貨2枚。1ヶ月あたり2人分の食費が大銀貨6枚だそうなのでかなりの金額だと思う。

制限されなくてもそうそう買えないな。

今回は初デート記念だから!
前のピクニックはまだデートじゃなかったから、今回が初デートです!!

まだ気持ちはすれ違っているような気がしなくもないが。いや、すれ違ってはいない。オレはエルピディオに絆されていて、エルピディオはオレを好きだと分かっている。

……ただ、オレの気持ちをエルピディオがまともに受け取れていないだけだ。

いや、どうなのか。

分からん。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

猫の黒たんは騎士団長!?

ミクリ21
BL
ある日、青年はボロボロの黒猫を拾いました。 青年は猫に黒たんと名付け、可愛がりました。 だけどその猫は、実は………!?

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。 ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。 だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。 全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。 やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。

処理中です...