召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

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領主夫人になる日まで4

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翌日の広場は死屍累々だったらしい。

夜通し飲んでた人がそこここに……。
風邪ひかないでね?
まぁ、ぼくがベッドから出られたのは昼近くになってからで実際の惨状は知らないんだけど。

朝昼ご飯を食べて支度をして、今回来てくれた貴族の方々をお見送りする。お父さんやお兄さん達が一緒だからぼくはただ笑顔で立っていれば良い。みんなぼくに興味なさそうでとてもありがたい。それでも10人以上を見送るとそれなりに疲れて顔が強張った。

「疲れたのか?」
「顔が疲れました……」

上のお兄さんの質問に正直に答えると笑われた。

「スイ、この領地は辺境ですから、通常ならよほどのワイン好きかよほどの物好きしか来ません。安心して下さい」
「私達は慣れてるからできて当たり前なんだよ。スイは無理しなくて良いからね?」
「お前に期待することは豊作だ。頼んだぞ!」

お兄さん達、優しいなぁ。
そしてお父さん、人間に対する期待として間違ってない? まぁ良いか。

少し休んでからぼくの両親の泊まっている宿に向かう予定だ。

「ご両親はすぐに出発されるのですか?」
「そう言ってたよ。貴族の人達と同じ屋敷に泊まるのは嫌だとか言ってたけど、帰った後もここには泊まりたくないなんて! もう!」

りんちゃんに乗せてもらえないと家まで3日はかかるから急ぐのは分かるんだけど。お父さん達、りんちゃんに嫌われてるしなぁ。

「お父様達はなぜ、りんちゃんに乗せてもらえないのですか?」
「うん…… ぼくとりんちゃんが友達になったばかりの頃、おとーさんがりんちゃんをしつこく揶揄って……」
「それはまた……」
「しかも! りんちゃんのたてがみを引っこ抜いたりしたんだよ!」
「素材ですか」
「え?」
「麒麟のたてがみは素早さを上げる魔道具の素材の頂点ですからね」
「それで欲しがってたのかぁ。でもちゃんとお願いすればくれるのに勝手に取ろうとするから嫌われるんだよね!!」
「それにしても乗せてもらえないだけで済んで良かった方ですよ? 麒麟は怒らせると嵐を呼んで罰を与えると言われていますから」

りんちゃんはそんな事しないもん!

……多分。

今度聞いて見ようかなー、と考えていたら宿に着いた。 

「遅い!」
「そうかな?」
「こんな時間じゃつぎの町までに日が暮れるでしょ?」
「……あ! そっか。ごめんなさい」

りんちゃんに乗せてもらえないとなると、昼前にここを出なきゃいけないんだっけ。

「義父上、初夜が明けたばかりなのですから、仕方ないと思われませんか?」
「……本当にスイを可愛がれるのか?」
「おとーさん! どう言う意味!?」
「だってお前、親からしたらかわいいけど俺たちの残念なところ集めちゃった感じだろ?」

確かにそうだけど!
2人の地味な部分をチョイスしちゃったけど!!

「例え義父上と言えど聞き捨てなりません。スイの可愛らしさは世界一です!」
「そうだよね! うちのかわいいスイを好きになってくれてありがとう」

おかーさんが目に涙を溜めながらブリアンの手を握る。お父さんはいつもぼくに謝ってたけど、おかーさんはぼくをかわいいって言ってくれてた。

フォローしてるんだと思ってたけど、本気でそう思ってくれてたのか。

「おかーさん、ぼく、この顔に生まれて良かったよ。ありがとう」

ひしっと抱き合ってたらブリアンがやっぱり屋敷に泊まって欲しいと言いだし、ごちゃごちゃ言ってたおとーさんも説得されて泊まってくれることになった。

夕飯は久しぶりにおとーさん達と一緒だー!




えぇと……
お父さんとお母さんもお義父さんもお義兄さん達も義姉さん達もみんなで夕食。

そこに知らない人がいる。

「よ! オレはニール、ブリアンとセラドの兄だ。よろしくな!」

3番目のお義兄さんだった。

「はじめまして、スイです。よろしくお願いします」
「スイの父母です。よろしくお願いします」

出てくる料理はいつも通り美味しくて、お母さんは料理長を質問責めにしてた。(笑)おとーさんもおかーさんも全然緊張しないじゃないか!

客間に案内されてからは知らないけど、朝はめちゃくちゃご機嫌だった。よく眠れたのかな?

朝食を食べてから見送った。

「スイ、昨日聞いたんだけど、鋼蜘蛛の糸が手に入るんだって?」
「はい。魔力をあげると分けてくれるんです」
「オレにも貰える?」
「貰えると思いますよ。あ、一緒に行きます?」
「行く行く! お願いします!」

3番目のお義兄さんがそんな事を言った。冒険者だから素材を取ってくる依頼でもあったのかな?

あ、りんちゃんお義兄さん乗せてくれるかな? 

「もう行ける? すぐ行ける?」
「ぼくは大丈夫ですけど…… ブリアンは?」
「私も今日までお休みですから」

あとは……

「りんちゃーん! お願いがあるんだけどー!」

『スイ! スイ! 好き!』
「ぼくも好きだよ。でもどうしたの? いつもより楽しそうだね。」
『ワイン美味しかった! たくさん飲ませてくれた!』
「良かったね。でも、誰が?」
『知らないニンゲン!』

精霊獣(?)だから毒は効かないのかもしれないけどホイホイついて行くのはどうだろう?

「嫌なことされなかった?」
『気持ちいいこと教えてあげるって言ったのに気持ち良くなかった!』
「!! きっ、気持ちいいことって!?」
『スイじゃないと気持ち良くない。またブリアンと3人でしよう?』
「……良いよ。それで、この人も連れて鋼蜘蛛さんの所に行きたいんだけど運んでくれる?」
『この人……? あ、気持ち良くなかった人』

お義兄さん!?

「ニール兄上、こんな小さな子に手をお出しになられたんですか?」
「いや、人間じゃないだろ? だから見た目通りの年齢じゃないだろうし、仲良くなれたら良いな~って。……でも良くなかったのか……そうか……」

落ち込んじゃった。

「りんちゃん、この人も乗せてくれる?」
『2人しか乗れないから咥えて行くのでも良い?』
「……構わない」

しょんぼりと落ち込むお義兄さんだけど、りんちゃんの麒麟の姿を見たら元気になった。テクニックじゃなくて魔力量の問題なら仕方ないって。SSSクラスの神聖獣(だったっけ?)なら仕方ないって。

元気を取り戻したお義兄さんを連れて行って来ます!




「ユアりーん! こんにちはー!」

この前、鋼蜘蛛さんに「緑」を意味する名前をつけた。

『どうした? また糸が欲しいのか?』
「うん! 何度もごめんね?」
『なに、人間が獲物を持ってくる故、罠を仕掛ける必要がなくなった。スイに与える程度、造作もない』

ぎゅーっとハグして魔力を渡し、どれくらい必要なのかをニールさんに聞いて糸を出してもらった。

「助かったよ、ありがとう! ブリアン、良い嫁もらったな!」
「ちゃんと謝礼を請求しますから。」
「え? 要らな……「スイ、ダメですよ。」

身内でもきちんとしなきゃダメらしい。
ニールさんがムッとしてるけどぼくはブリアンが一番だからブリアンの意見に従います! 
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