召喚農夫の田舎暮らし

香月ミツほ

文字の大きさ
18 / 32

領主夫人になる日まで4

しおりを挟む
翌日の広場は死屍累々だったらしい。

夜通し飲んでた人がそこここに……。
風邪ひかないでね?
まぁ、ぼくがベッドから出られたのは昼近くになってからで実際の惨状は知らないんだけど。

朝昼ご飯を食べて支度をして、今回来てくれた貴族の方々をお見送りする。お父さんやお兄さん達が一緒だからぼくはただ笑顔で立っていれば良い。みんなぼくに興味なさそうでとてもありがたい。それでも10人以上を見送るとそれなりに疲れて顔が強張った。

「疲れたのか?」
「顔が疲れました……」

上のお兄さんの質問に正直に答えると笑われた。

「スイ、この領地は辺境ですから、通常ならよほどのワイン好きかよほどの物好きしか来ません。安心して下さい」
「私達は慣れてるからできて当たり前なんだよ。スイは無理しなくて良いからね?」
「お前に期待することは豊作だ。頼んだぞ!」

お兄さん達、優しいなぁ。
そしてお父さん、人間に対する期待として間違ってない? まぁ良いか。

少し休んでからぼくの両親の泊まっている宿に向かう予定だ。

「ご両親はすぐに出発されるのですか?」
「そう言ってたよ。貴族の人達と同じ屋敷に泊まるのは嫌だとか言ってたけど、帰った後もここには泊まりたくないなんて! もう!」

りんちゃんに乗せてもらえないと家まで3日はかかるから急ぐのは分かるんだけど。お父さん達、りんちゃんに嫌われてるしなぁ。

「お父様達はなぜ、りんちゃんに乗せてもらえないのですか?」
「うん…… ぼくとりんちゃんが友達になったばかりの頃、おとーさんがりんちゃんをしつこく揶揄って……」
「それはまた……」
「しかも! りんちゃんのたてがみを引っこ抜いたりしたんだよ!」
「素材ですか」
「え?」
「麒麟のたてがみは素早さを上げる魔道具の素材の頂点ですからね」
「それで欲しがってたのかぁ。でもちゃんとお願いすればくれるのに勝手に取ろうとするから嫌われるんだよね!!」
「それにしても乗せてもらえないだけで済んで良かった方ですよ? 麒麟は怒らせると嵐を呼んで罰を与えると言われていますから」

りんちゃんはそんな事しないもん!

……多分。

今度聞いて見ようかなー、と考えていたら宿に着いた。 

「遅い!」
「そうかな?」
「こんな時間じゃつぎの町までに日が暮れるでしょ?」
「……あ! そっか。ごめんなさい」

りんちゃんに乗せてもらえないとなると、昼前にここを出なきゃいけないんだっけ。

「義父上、初夜が明けたばかりなのですから、仕方ないと思われませんか?」
「……本当にスイを可愛がれるのか?」
「おとーさん! どう言う意味!?」
「だってお前、親からしたらかわいいけど俺たちの残念なところ集めちゃった感じだろ?」

確かにそうだけど!
2人の地味な部分をチョイスしちゃったけど!!

「例え義父上と言えど聞き捨てなりません。スイの可愛らしさは世界一です!」
「そうだよね! うちのかわいいスイを好きになってくれてありがとう」

おかーさんが目に涙を溜めながらブリアンの手を握る。お父さんはいつもぼくに謝ってたけど、おかーさんはぼくをかわいいって言ってくれてた。

フォローしてるんだと思ってたけど、本気でそう思ってくれてたのか。

「おかーさん、ぼく、この顔に生まれて良かったよ。ありがとう」

ひしっと抱き合ってたらブリアンがやっぱり屋敷に泊まって欲しいと言いだし、ごちゃごちゃ言ってたおとーさんも説得されて泊まってくれることになった。

夕飯は久しぶりにおとーさん達と一緒だー!




えぇと……
お父さんとお母さんもお義父さんもお義兄さん達も義姉さん達もみんなで夕食。

そこに知らない人がいる。

「よ! オレはニール、ブリアンとセラドの兄だ。よろしくな!」

3番目のお義兄さんだった。

「はじめまして、スイです。よろしくお願いします」
「スイの父母です。よろしくお願いします」

出てくる料理はいつも通り美味しくて、お母さんは料理長を質問責めにしてた。(笑)おとーさんもおかーさんも全然緊張しないじゃないか!

客間に案内されてからは知らないけど、朝はめちゃくちゃご機嫌だった。よく眠れたのかな?

朝食を食べてから見送った。

「スイ、昨日聞いたんだけど、鋼蜘蛛の糸が手に入るんだって?」
「はい。魔力をあげると分けてくれるんです」
「オレにも貰える?」
「貰えると思いますよ。あ、一緒に行きます?」
「行く行く! お願いします!」

3番目のお義兄さんがそんな事を言った。冒険者だから素材を取ってくる依頼でもあったのかな?

あ、りんちゃんお義兄さん乗せてくれるかな? 

「もう行ける? すぐ行ける?」
「ぼくは大丈夫ですけど…… ブリアンは?」
「私も今日までお休みですから」

あとは……

「りんちゃーん! お願いがあるんだけどー!」

『スイ! スイ! 好き!』
「ぼくも好きだよ。でもどうしたの? いつもより楽しそうだね。」
『ワイン美味しかった! たくさん飲ませてくれた!』
「良かったね。でも、誰が?」
『知らないニンゲン!』

精霊獣(?)だから毒は効かないのかもしれないけどホイホイついて行くのはどうだろう?

「嫌なことされなかった?」
『気持ちいいこと教えてあげるって言ったのに気持ち良くなかった!』
「!! きっ、気持ちいいことって!?」
『スイじゃないと気持ち良くない。またブリアンと3人でしよう?』
「……良いよ。それで、この人も連れて鋼蜘蛛さんの所に行きたいんだけど運んでくれる?」
『この人……? あ、気持ち良くなかった人』

お義兄さん!?

「ニール兄上、こんな小さな子に手をお出しになられたんですか?」
「いや、人間じゃないだろ? だから見た目通りの年齢じゃないだろうし、仲良くなれたら良いな~って。……でも良くなかったのか……そうか……」

落ち込んじゃった。

「りんちゃん、この人も乗せてくれる?」
『2人しか乗れないから咥えて行くのでも良い?』
「……構わない」

しょんぼりと落ち込むお義兄さんだけど、りんちゃんの麒麟の姿を見たら元気になった。テクニックじゃなくて魔力量の問題なら仕方ないって。SSSクラスの神聖獣(だったっけ?)なら仕方ないって。

元気を取り戻したお義兄さんを連れて行って来ます!




「ユアりーん! こんにちはー!」

この前、鋼蜘蛛さんに「緑」を意味する名前をつけた。

『どうした? また糸が欲しいのか?』
「うん! 何度もごめんね?」
『なに、人間が獲物を持ってくる故、罠を仕掛ける必要がなくなった。スイに与える程度、造作もない』

ぎゅーっとハグして魔力を渡し、どれくらい必要なのかをニールさんに聞いて糸を出してもらった。

「助かったよ、ありがとう! ブリアン、良い嫁もらったな!」
「ちゃんと謝礼を請求しますから。」
「え? 要らな……「スイ、ダメですよ。」

身内でもきちんとしなきゃダメらしい。
ニールさんがムッとしてるけどぼくはブリアンが一番だからブリアンの意見に従います! 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

処理中です...