この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「………という事がありまして」
「まあ!それは見たかったですわ」
「わたくしもついて行けばよかったと後悔しております」
「次回がありましたらお声がけ下さいませ!」
「伯父様から年甲斐もなくはしゃぎ倒したお手紙を戴きましたわ。成人まで待つようにお返事しておきますね」

 遠征から戻った数日後、聖女被害者の会定例報告と称したお茶会が行われた。要は俺をとり囲む会(事情聴取)である。
 ご令嬢方は瘴気の浄化が何事もなく(はなかったが)行われたことに喜び、御子装備の感想発表に大いに沸いた。どちらかというと、浄化報告よりも装備の感想の方が盛り上がった。それはもう、俺が引くほどに。いや、割と最初から引いてたな。
 浄化のアレコレとか追求されたら色々とボロが出そうだから助かるけれども。

 ラウレスタ様におかれましては、姪っ子にはしゃいだお手紙を出さず、俺の成人を待つこともなく、しっかりと地に足のついた嫁を迎えて頂きたいものである。迎えには、来ないで!

 俺のいない間の学園は、嫌がらせのネタを作るためにご令嬢方に接触しようと学園内を徘徊したアリナ嬢が警邏に捕まって「聖女ですわよ!」を盛大にかましたり、ルーベンス殿下と愉快な仲間たちが自分たちの世界を作り上げて周りをドン引きさせたりと色々ヤバかったらしい。
 ご令嬢方は予め決めていた避難場所で優雅にお茶や学習会を楽しみ、卒業・進級試験にの準備が予定より早く終わりそうなことに喜んでいた。

「帰還した日に兄上が訪ねて来たので、話をしましたよ」
「ラス様が?」
「ええ、随分とお疲れでした」
 情報共有として兄上とした話も要点のみ(全部話すと俺の心が死ぬ)伝えると、義姉上の表情が少し柔らかくなった。少しは心の曇りが晴れただろうか。
「まぁ、ラスフェルム様はマトモなのね。羨ましいですわ」
「ええ、まぁ。アレでまともかと言われましたら困るところではあるのですが…」
 ブラコンに拍車がかかっているのよね?という視線を送ってくるのはやめてくださいその通りですから。
「素晴らしい兄弟愛ですわね」
「ファルム様が極悪魔王とか、世も末ですわよ」
 兄上の話を皮切りに、わたくしの婚約者は…と、瞬く間に愉快な仲間たちの愚痴大会が開催された。
 いいだろう。愚痴ぐらい聞いてやるから心ゆくまで話すがいい。俺の着せ替えショーより心労が少ないからな!

 愚痴大会が一息ついた頃、レイチェル嬢が新たな話題を切り出した。
「皆様はご存知かしら。薬草学のラブレ教授が管理されている薬の森に、魔物がいるのが見つかったらしいのです」
 薬の森とは学園の端にある広い森のことで、ラブレ教授が森の手前に薬草園を作り、ついでに管理している森のことだ。
 ラブレ教授が言うには「どうせ森にも採取に行くし」だそうだ。

「魔物が?それは知りませんでしたわ」
「ここ数日、警備が騒がしいと思っていましたが、魔物だったなんて」
 王都には要人が集まっているという事もあり、魔物避けの結界がガッツリ張り巡らせてあり、警備もしっかりしているのでモンスターが侵入する隙はない。と言われている。令嬢方の信じられないという反応は当然だろう。

「自然に入ってくるのは無理なはずなので、持ち込まれた、と考えるのが妥当でしょうね」
 大きさと数にもよりますが、と俺の感想を言うと、
「その方がしっくりきますわね」
 と、納得してくれた。
「お父様に調査をお願いしてみますわ」
 アイローチェ様とリネット嬢は父君が軍に所属しているので、手を回してくれるらしい。親の権力が使えるのって素晴らしいね!

 メロディアス家うちの父上は書記官だから、警備の調査は専門外なんだよね。王都の出入り記録とかなら調べてもらえそうだけど。一応直近2ヶ月分くらいを取り寄せてもらおう。

「いきなり調査隊を派遣するのは物々しいですから、わたくし達で現地を確認しましょう。ファルム様、よろしいですわね」
「は?」
 義姉上?何を?
「面白そうですわ!」
 シェアレフィーエ嬢?
「ラブレ教授に先触れを出しましょう!」
「ちよ!まっ………!」
 またしても止める間もなく解散し、あっという間に段取りをつけてしまったご令嬢方。
 翌日の放課後にラブレ教授と面会できるようになってしまった。
 普段は優雅なお嬢様なのに、行動力が凄い!しかも動きが速い!

 そして当然のように俺を仲間に入れるのやめてもらっていいですか。


「ははは!君たち行動力あり過ぎだろ!」
 薬草学研究室の応接エリアに集結した俺たちを見て、ラブレ教授が高らかに笑い飛ばした。
 ですよねー。もっと言ってやって下さい。
「学園の敷地に魔物がいるとか、一大事ですわよ!もっと真剣に捉えて下さいませ!」
 アイローチェ様が真剣な眼差しで応える。アイローチェ様は学生の安全を第一に考えているので、熱くなる気持ちは解るがとりあえず落ち着いて欲しい。

「当面の対応として、薬草園を含む森周辺の学生の立ち入りは制限をかけてはいるよ。どうしても採取が必要な時は、僕や騎士部の教授が同行する事になっている。でも、行動力の塊な君たちが調査してくれるなんて助かるなぁ」
 あ、俺らが調査に入るのは確定なんですね。
「森で確認されたのはホーンラビット、額から角が一本生えたうさぎ型の魔物だ。魔物学のアルバ教授に確認したら温厚な種族らしいけど、こっちから仕掛けたら群れで反撃してくるそうだから、学生にとっては危ない部類には入るね。報告では一体だけど、群れの習性があるなら他の個体もいるかもしれない。まぁ、僕的には侵入ルートが判ってから潰したいんだよね。お肉美味しいって聞いたし」
 若草色の髪を揺らしながら軽やかにラブレ教授が笑う。お肉の臭みを消すにはね、と続いたあたりから薬草の話が早口で展開されはじめた。
 好きな分野を語る時活性化するタイプですね。気持ちはよく分かります。

 アイローチェ様が、「あ、ええ、お肉、美味しいわ、ね」とよく分からない顔で応接ソファに座った。かわいい。
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