この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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「私が聖女であることを妬んだのね!だからこの晴れの舞台を台無しにしようとしているのでしょう?」
 それはアリナ嬢、貴女です。
「私が彼らと心を通わせたのは、神の示した運命なのよ!悪魔のようなあなた方に理解できるわけもないわ!」
 口を開いたかと思えば、一方的によくわからないことを言い始めたな。
 悪魔と言われる筋合いはないが、今の言い分を理解できないのは確かだ。

 創世神ラキアータ様がそんな頭の悪そうな神託を下すはずないだろ。暇を持て余してるときならまだしも、今は乗っ取り被害の確認&解消に意識が向いてるんだから。
 あ、そうか。これが乗っ取り被害の実害部分か。俺ごときに言いくるめられるとは、随分お粗末だな。

 酷いわ酷いわ、と泣きまくるアリナ嬢には愉快な仲間たちもどうなだめたらいいか判らず、狼狽えている。
 これはもう、こちらから畳み掛けて終わらせるしかないな。早く帰りたいし。

「ルーベンス殿下」
「な、何だ?お前に構う暇はないぞ」
 そのための提案です。
「話にならないので、解散しましょう」
「「「「「……………は?」」」」」

 何だよ、ギャラリー込で「なんですって?」みたいな反応するなよ。俺は早く帰ってこの装備を脱ぎ去りたいんだ。
 まあ、ギャラリー的には途中で切られる形になるから「最後まで見せろよ」って気分になるのは解る。
 せめてエンドロールが終わるまでは席を立ちたくないもんな。人によって異なるだろうが、俺は映画はエンドロールを最後まで見切った後、場内が明るくなるまで座っていたい派なんだ。いや、これは関係ないな。

「このまま無かったことにするつもりか?」
「こんな騒ぎを起こしていだだいたのですもの。無かったことにはなりませんよ?」
 無かったことになんてしてたまるか!
「まあ、元々話になんてなっていなかったのですが、聖女様がその調子ではどうにもならないでしょう?」
 つい、と閉じた扇子をアリナ嬢に向ける。「そうね…」「あれじゃあね…」と、義姉上とリネット嬢がこちらをチラチラ見ながらひそひそしているのが聞こえる。
 悲劇のヒロイン(笑)にどっぷり浸かっている状態のやつに、何を言ってもとどかないんだから、仕切り直しを提案してもいいだろう?

「こちらとしても、言われなき罪を問われるなんて時間の無駄なのですのよ」
「言われなき罪だと?よくもそんなことを!」
 おや、メガネが沸騰した。これは余計なことを言ってしまったな。
「貴様らがアリナを虐めるから、この状況になったのだろう!」
「単なる自滅、では?」
 シェアレフィーエ嬢がポロッと口を滑らせ、あっ!と口元を隠した。あらあらうふふ、と微笑むのかわいい。そして、全くもってその通りです。

「シェアレフィーエ、貴女はもっと賢いと思っていたのに…くだらないいじめに加わるとは情けない」
 シェアレフィーエ嬢のかわいらしさに、メガネが勢いづいてしまった。
 その言葉、丸ごとお返ししますね。
「先程も述べましたが、証拠はございますか?」
「ではなぜアリナが泣かなければならないのだ!」
「それは聖女様ご自身にお尋ねくださいませ。わたくしも知りたいですわ」
 ギャラリーも頷いている。
 会話にならないの辛い!マジ解散したい!
「全く、マーロル公爵令息がここまで話の通じない方だとは思いませんでしたわ」
「何だと?」
「今日のこの日を楽しみにしていた卒業生や参加されている皆様の気持ちを踏みにじる、このような行いを恥ずかしげもなくできるなんて、情けないですわ」
 ショーとしても落第点です。
「なっ…!アリナだけでなく我々までも侮辱するというのか!」
 侮辱はしてませんが、多少小馬鹿にはしています。
「こちらは何度も「やっていない」「確たる証拠を出してから言うべき」と申し上げております。それを無視して侮辱だと仰るのでしたら、それこそわたくしたちを侮辱しているのと同義ですわよ!」
 同じ事何度も言わせんな。早く帰らせろ。

「私達がいつ聖女様を害したのか、覚えていらっしゃいますか?」
 すい、と前に出たのはレイチェル嬢。
 そういえば嫌がらせの内容は聞いたが、いつやったのかは聞いてないな。足りない部分をさり気なくフォローしてくれるとか、頼もしすぎる。レイチェル嬢ありがとう。
 時期が判れば反論もしやすい。アリナ嬢に関わらないように教授陣を巻き込んで勉強会とかやってた時期と被ってたらいいな。
「僕達のいない隙を狙ってあれこれやっているじゃないか」
「そんな暇、ございませんわ」
 レイチェル嬢の言葉にメイジが反応する。そうだよ。アリナ嬢を四六時中見張るとかめんどくさいからしないよ。何言ってんだメイジ。レイチェル嬢、もっと強く言ってやってください。
「卒業試験前も窓から鉢を投げつけたじゃないか」
「じゃないか、ではございません。そもそも、私達が鉢を投げつけるなんて野蛮な行いをするとお思いですか?」
「アリナはされたと言っている」
「どなたにですの?」
「君達だろう」
「どなたにですの?」
「君た…」
「どなたにですの?」
 メイジがレイチェル嬢に押されている。まあ、ツッコミどころ満載だから当然だ。
 もうこの二人はそのままでいいだろう。

「試験前でしたら、わたくしたちは放課後に調査に出ていましたわね」
「そうそう。お父様のお仕事をお手伝いしましたよね」
 アイローチェ様とリネット嬢が試験前のこちらの動きを話している。
 興奮しているアリナ嬢と愉快な仲間たちには聞こえていないようだが、一部のギャラリーには聞こえたようで囲む輪が僅かに狭くなった。

 俺が囲みの動きに気づいたその時、
「待ち長いから来てしまったよ」
 ホールの扉が結構な勢いで開き、何故かウィー君を肩に乗せたアーデルハイド殿下が悠々と会場入りしてきた。
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