この状況には、訳がある

兎田りん

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始まりは断罪の目撃から

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 儀式の間は召喚の時と同じ様に、部屋の中央にデカい魔法陣がある。
 王城の一室なだけあって広々としているのだろうが、中央の魔法陣とそこそこの数の魔術師&高位司祭がいるので入って早々「広いな!」とは思わなかった。
 おそらくこの部屋はそこそこの数の貴族を集めて会議するみたいな場所なのだろう。
 広さは、バスケットは余裕でできそうだけど、野球をするには狭いよね、ってくらい。天井を見た感じでの推測だから、本当の広さは判らないけど。
 
 召喚(今回は返還)の魔法陣は床に直描きじゃなくて、魔力を込めたカーペットみたいなものに描かれている。
 よく使う術式以外の魔法陣は床に直に書くことは無いのだそうだ。そりゃそうだな。いちいち消すのめんどくさいもの。
 召喚と返還は使う魔力の量も桁が違うから、目の前のカーペットも特別製なのだそうだ。詳しいことは召喚の前に説明されていたが、よくわからなかったので「魔力を込めて織ってあるから凄いんだぞ」くらいしか覚えてない。
 それ以前に魔法陣の違いがわからない。
 まあ、これから学んでいけばいいやつだろうから、今は判らなくていいと思いたい。

 儀式の最終調整も大詰めなのだろう。俺が魔術師長に魔導具を渡してしばらく経った頃、アリナ嬢がイケメン(宮廷魔術師に見える)に連れられてやってきた。
 アリナ嬢は豪華な椅子に座らされ、出番を待つ体制に入る。
 声をかけるなら、これが最後のチャンスになるだろう。

「アリナ様、(この姿では)はじめまして。ファルムファス・メロディアスです」
「やだ!カッコイイ!」
 挨拶しただけなのに凄く食いつかれた。容姿が整っているのは認めよう。今の俺は、創世神ラキアータ様好みの美少年だ。
 俺の本日の装いは、シャツにスラックスといシンプルに見えるがアーデルハイド殿下のおさがり(幼少期の服を残しても有り余るクローゼットに、案内された時軽く引いた)なので超高級な服装に、金髪のウイッグ(ショート)だ。ドレスじゃなくて心底良かった!今後も有事の際はこの服装がいいです。
 上質な服で男前度も上がっているのだろう。アリナ嬢の視線は俺に釘付けだ。モテる顔っていいな!
 だが、俺はその程度で浮かれるお子様ではない。魅了も効かないし。むしろする側だろう。
「貴女に亡き者扱いされたラスフェルムの弟、ファルムファスです」
 皮肉を込めてもう一度自己紹介を。ちなみにアリナ嬢に名を名乗ったのはこれが初めてだ。茶番の時も、その後も、名前どころか「私御子ですのよ」すら言ってない。聞かれもしなかったからな。
「こんなイケメンが?なんでシナリオにいないの?嘘でしょ?勿体ない!運営に通報しなきゃ!」
 アリナ嬢はガタン!と椅子から立ち、俺を色んな方向からジロジロ見つめてきた。
 落ち着きなさい。周りが困ってるじゃないか。通報はやめてさしあげろ。俺の名乗りを無駄にするな。そして無遠慮に見るな。減る。

「この後、元の世界に戻られるとのこと。生き長らえた身としましては、聖女様に一言ご挨拶をしておかねば、と参った次第です」
「はぁ、マジ攻略したい」
 聞け。
 13歳の少年の大半が使わないだろう言い回しをしたんだぞ。追加で皮肉も込めたのに、またスルーかよ!自分でも「なんかおかしいな」って思いながらも強行したのに、また無駄打ちか!

「そろそろ始めようか」
 魔術師長の一声で、各々が配置につく。
 最後まで会話にならなかったな。まともに返ってくるかは微妙だが、これも聞いておくか。
「アリナ様。戻られましたら、何歳のバースデーをお祝いしますか?」
 個人的に凄く気になっていた事だから、アリナ嬢にだけ聞こえればいい位の声量で聞いてみた。
 宮廷魔術師に促され魔法陣の中央に進めようとした歩を止めたアリナ嬢に届いたのだろこちらに首を傾けながら言った。
「ん、とー、11歳。かな?こっちに一年くらいいたし」
「「!!!」」
 俺と、偉い人達との話を切り上げて傍に来たアーデルハイド殿下がアリナ嬢の言葉に、自らの言葉を失う。
 …………マジ………?

 と…年下…だと…?……君はファルムファス君俺の肉体年齢より年下なのか!
 ………っあー…ガチお子様じゃないか。そりゃ「召喚された聖女様!」ってチヤホヤされたら調子に乗っちゃうわー…
 アーデルハイド殿下も「マジか…」って顔してる。
 弟が恋したのは就学(学園入学)前でした、って衝撃だもの。
 互いに成人済ならこの位の年齢差は許容範囲!って人もいるけど、この世界、俺の住むこの国では「貴族の恋愛は学園入学の年齢(12歳)から」というのが常識みたいなものだ。
 家や政治絡みの婚約はもっと早くから結ばれるのだが、恋愛から結ばれる婚約は双方若しくは片方が学園入学前だと「もう少し待てないの?恥ずかしいわねクスクス」みたいに言われる。
 これは、貴族として「余裕を見せろ」というより「衝動に任せて大丈夫か?よく考えろ」の方が強い。前世でも学生結婚ってあまりいい顔しない人いるし、そんなものだろう。
 しかし…俺とアーデルハイド殿下しか聞いていない状況(アリナ嬢のそばにいた宮廷魔術師は回答時の反応から、俺の質問は聞こえてない…はず)だったのは幸運でしたね!コレ、外に漏れたら陛下(というより王妃様の方が)激おこでしょ?
 ルーベンス殿下もマジへこみするかもしれない。いつかバレるかもしれないけど、俺からは言わないようにしよう。
 それにしても、まじやばい案件だった。聞かなきゃ良かった。
 アーデルハイド殿下は表情こそ「ザ、王太子」だけと、動揺が過ぎてウィー君を吸うのが止まらなくなってる。わかる。後で貸して。

 最後にとんでもない爆撃を受けた(なんとなく俺が投げたボールが、手榴弾に改造されて打ち返されたら気分)が、返還の儀式は無事に終了した。
 儀式の最中の記憶は直前の衝撃にかき消されて、全くと言っていいほど残ってない。
 気づいたら魔法陣の中心にいたアリナ嬢がいなくなっていて、周りの人達が「成功だ!」ってめちゃくちゃ喜んでいた。司祭様達は「やっと帰った!」という喜びだと思う。大変だったもんな。
 アーデルハイド殿下も俺と大体同じだった様で「いつ…終わった…?」ってウィー君吸いながら呟いていた。
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