この状況には、訳がある

兎田りん

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愛だけで生きていけると思うなよ

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「やあやあ、待たせてしまったね」
「メルネちゃん、先日は素敵なドレスをありがとう」
 メルネ嬢のセールストークが始まろうかという時、ハロルド様とレニフェル様が揃って部屋に入ってきた。
 普通に入ってきたな。城は我が家か。いや、王族の皆様には我が家だったな。俺達が(呼び出された)お客様だったわ。
 アーデルハイド殿下を筆頭に俺たちは立ち上がり、(俺とメルネ嬢は)頭を下げて(定型文な)挨拶をする。国の主一族王弟親子に敬意を表するのは国民として当然ですよね。
 アーデルハイド殿下が入ってきた時にはメルネ嬢だけ頭を下げていた。俺は…しなくていいと前に本人から言われていたんだ。決して忘れていたわけじゃないぞ。
 アーデルハイド殿下はどう思っているか知らないし聞くつもりもないが、俺は「二人は友達」かと問われたら、違うと答える。
 俺はほら、ウィー君との出会いサポーターだから。いや、その関係もよく判らないな。

「叔父上」
 アーデルハイド殿下、アルカイックスマイルの下に「もう来たのか」という気持ちを滲ませないで下さい?
 早く済ませて早々に撤収しましょうよ。俺今日学園で宿題出されてるんです。
「随分鮮やかな所でお茶会をしているね。仲間に加えてくれるかな?」
 言うのが早いか座るのが早いか、という。
 そして即座に御二方の前に紅茶が供される。出来る侍女さん、良い仕事ぶりです。
 ああ、アーデルハイド殿下の疲労度が上がってる…

「随分と、お疲れのようですね」
 甘いものでもどうぞ、とハロルド様に菓子を勧めると「ありがとう」と笑顔でタルトを頬張った。まるで少年の様だ。
 レニフェル様はもう気持ちがドレスの群れに向いているようで、メルネ嬢と話し込み始めている。会話の途中でこちらをチラチラ見るのは(してる話が気になるから)止めて下さいね?
 俺に関係ない話をして下さい。と、願いだけはかけておきますね。

「ここの所文書仕事が立て込んでいてね」
「それは自業自得では?」
 ハロルド様のボヤきにアーデルハイド殿下が容赦ない。まあ、俺を呼び出したあの話を聞いた後だから順当な反応だと思うけど。
「少年、甥っ子が手厳しい」
「そこで私に話を降らないでください」
「ファルム君が「私」って言うの新鮮でいいね」
 ティータイムにウザ絡みするの止めてください。紅茶にアルコール入ってないよね?
「疲れた素振りなんて兄上にも見せた事ないのになぁ」
「確かに叔父上は「のらりくらり」という言葉が良く似合う動きをされますからね」
「少年、甥っ子が辛辣」
「何故その下りを繰り返すんですか」
 天丼は忘れた頃にやるのが効果的だと俺は思うんです。

「叔父上のお疲れに、会って間もないファルム君が気付くの凄いね。っていう流れだよ。あと、父はたまに気づいてると思います」
「マジ?時々いい蜂蜜の差し入れ来る理由わかった…さす兄…長年の付き合い…」
 蜂蜜お好きなんですね。あ、お疲れに気づいた理由?
「いやだって、アイコンが…」
「「あいこん?」」
 見えたものをそのまま口走った瞬間、猛烈な違和感が俺を襲った。
 初耳の単語に反応した王族の存在が一気に吹っ飛ぶ。
「……ん?………え?……アイ…コン?」
 俺、今、なんて言った…?
 いやいやいや!ちょっと待って!なんか嫌な汗ドパッと出たー!
 なんだアイコンって!おかしいよね?幻覚か?いや、思い返すと朝からなんか見えてた気がする。見えてたけど「当たり前」のものとして気にしてなかった。
 ちょうスルーしてたけど、ちゃんと認識したらよく考えなくてもおかしいのもわかった!なんだこの現象!
 アーデルハイド殿下とハロルド様の頭上に名前と顔っぽいマークがあって、表情(に見えるもの)と色が「疲労状態」と「疲労レベル」を表してるとかなんで分かるの?

 見回したら視界の範囲にいる全員の頭上に見える。
 どうしようこれずっと見えるの正直困る…オンオフ……………できてしまったな。
 頑張ればもっと細かい情報とか出せそう………いや、今はやめておこう。できてしまった時の心労が半端なさそうだし。

 これ絶対神様ラキアータ様が付けた新しいスキルで、説明(面倒くさがって)スキップしたやつでしょう?「新しいのあげる」っていうのは聞いてたけど、ちゃんと「明日から発動するからね」ってせめて前夜までに実装予告してよ!突然のアップデートはユーザー大困惑だよ!
 俺新しいソフトの説明書は(覚えるかは別の話として)一読したい派なんだよ!
 新型ハードになる度に薄くなり、やがて「詳しくはWeb公式HPで」になってしまったゲームの説明書に対する俺のノスタルジックな感情を返して。攻略本もレトロゲームの方が面白かった記憶がある。あ、これはあくまで個人の感想です。
 せめて新機能の「使い方ハウツー」とか用意して欲しいですよ?
 今までも多分言わずにあれこれ追加してるんだろうな…とは薄々感じていたけど、視覚に影響するやつは流石に告知くださいお願いします。

 ああ、そういえばここは王城で、王族に挟まれてのお茶会中だったな…

「ファ、ファルム君、大丈夫かい?」
「凄い汗だよ」
 アーデルハイド殿下とハロルド様が気遣って下さるのは非常に有難いんですが…
「だいじょばない…です…」
 王族に囲まれるプレッシャーなんてそよ風レベルでの精神へのダイレクトアタックが凄い。俺のメンタルはヘトヘトだぁ…
「よし。もう今日は解散しよう」
 ありがとうございますアーデルハイド殿下。ハロルド様への応対がめんどくさいという思いが透けていますが、今はとても…助かります…
「わかった。来月のメロメ国の外交に同行させる方向で進めておくよ」
「それは嫌です…」
 ハロルド様が聞き逃せない一言を吐いたので無意識でお断りしてしまった。
 後悔はしていない。厄介事の気配しかしないもの!
「聞き逃さずに断れる君が好き」
 アーデルハイド殿下、いい笑顔しないで下さい。
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