墜ちた英雄が隠居したが...

キリ

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剣神と兄

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 私は生れながらに縛られていた。

私の生まれたヴァイオレット家は代々、優れた剣士を輩出してきた家系だった。そして、その中でも私は歴代最高峰と言われるほどの才覚を持って世に落とされた。
 その才覚を最初に見出したのは父だった。父は当初男に生まれてこなかった私に対してどこか嫌悪感を示していたが、私に剣の才能が有り余るほどあるとわかった途端、掌を返して私に高等教育を施していった。
 他の同年代の子が行っている学校には通わせてもらえず、家に隔離するような形で専属の家庭教師を雇い、一般教養や勉学を学んで行った。そして、剣の修行は勉学の時間をはるかに上回る時間と過酷さを持って私を苦しめ続けた。
 自由時間は無いに等しく、毎日毎日私によっては拷問のような修行と勉学の毎日。私だって普通の女の子みたいに、お花を愛でたかった、お人形で遊びたかった、そして、恋をしてみたかった。
 でも、私にあるのは剣を振ることとペンを握ることだけ。
 もうこんな日々はうんざりだった。

 月日は流れ13歳になった私は剣の修行に明け暮れていた。
 あれほど嫌がっていたことも、ある程度心が成熟してきたためか、特に自分の境遇が苦痛に感じなくなっていた。
 これが自分の使命だし、両親に喜んでもらうためだと、自分に言い聞かせながら過ごしていた。
 度重なる修練の果て、私はガスポート帝国の帝国騎士団の名誉騎士になっていた。
 就任してからの一番の功績は12神獣の一角を倒したということだろう。そして、皇帝陛下から「剣神」の称号を授かった。こんなに軽く言ってしまっているが、それはとてつもないことだ。
私の他に、
・獣人連盟国のルーイン・ガルデル
・エルフの里[イシュタル]のアリサ・イシュタル
・星民の国[オリオン]のクラーク・サミュエル
 そして最後に、私たち帝国の隣国に位置する、
・ウラジーミル王国のグレイ・フォールン
 なぜこんな話を切り出したかというと、今からこの人物に会うからだ。
 私は今、ウラジーミン王国へ向かうための馬車の中にいる。
 現皇帝は彼に会うことが私が変わるきっかけになるという。なぜ、半世紀以上も生きている現皇帝がたった14年しか生きていない少年のことをここまで信頼しているのだろうか、私に分からない。

--------------------------------------

 唐突なことで申し訳ないが、私たちはくだんのグレイ・フォールンと決闘することとなった。
 ことの発端は、帝国騎士団と王国騎士団がどちらが強いかという議論だった。
 特に何の変哲も無い会話から始まったウラジーミル王との議論は激しくなっていく一方で、ついに堪え切れなくなったこちらの騎士の一人が騎士団というよりも王を侮辱するような発言をしてしまったのだ。

 やれ、そちらの騎士団は礼節がなってないとか。
 やれ、自分たちの騎士団の方が稼ぎがいいなど。
 次第に稚拙になっていく騎士は、こちらの騎士団長の方がそちらよりも上だとまで言ってしまった。すると、先程までこちらが何を言おうと大人の対応をしてきた、ウラジーミル王の顔が初めて変化した。そして王は、ならば戦ってみるがよい、と言うと、決闘の準備を始めたのであった。
 そんなこんなで、現在に戻る。

「どうした!、かかってこないのか!?」

 喧嘩をふっかけた騎士(副団長)がフォールン団長を挑発しているが、向こう側は意にも介していないようだ。
 膠着状態というわけでもなく、一向に始まらない決闘の中で、彼は後ろ頭を書きながら、あくびを一つこぼした。

「き、きさまぁ……」

 緊張感のない彼の仕草に、真面目症な気のある副団長は癇に障ったらしくどんどん不機嫌になっていく。

「いいだろう………貴様がそのつもりなら、こっちから行かせてもらう!」

 副団長の怒号とともに、他の騎士たちが彼ににじり寄っていく。
 というよりも、そもそもでこれは決闘とは言えない。決闘とは一対一で正々堂々やるべきものだ。しかし、今回のものはそれではない、向こうが一人にもかかわらず、こちらは私も含めて12人もいる、とても、公平とは言えない。
 だから私は、初めは参加しないつもりだ。 彼がどれだけ強いと言っても、私よりは弱いはずだし、数の不公平というのは私は好きではない。

「はあっ!」

 副団長が気合とともに彼に大剣を振り下ろす、私から見ても隙が限りなく少ない一撃だ。
 おそらく彼はかわせないだろうと、タカをくくったが、その予想はあっさり覆されてしまった。

「ぐっ、くっ……」

 誰もが決まったと思った直後、彼は先程まで攻めていたはずの副団長の首筋に剣を当てていた。
 場が静まり返る中、私自身も目を疑ったが、私の網膜はさっきの一部始終を余すことなく記憶していた。
 彼は副団長の振り下ろされた大剣に垂直に構えた長剣を触れた瞬間に弧を描くようにして回転させ、受け流し、そのまま勢いを利用して逆手に持ち替えて副団長の首筋に刃を当てたのだ。
 私が呆気にとられていると、彼が初めて口を開いた。

「……傍観決め込んでないでさっさと来い。おもりしてやるよ、団長殿」

 その言葉に少し頭にきた私は、素早く抜剣すると、一息に距離を詰め、斬りかかる。
 先程の副団長でさえ受け止められないであろう一撃を、まるで息をするかのごとくたやすく受け止められる。だが、先程の攻防を見ていた私は驚くそぶりを見せず、次の行動に移行する。
 相手の剣と鍔迫り合いをしている自分の剣を下に滑らせ、腰を低く構えて突きを放つが、それさえもかわされる。
 
「ふっ!」

 ステップを踏み距離を取ると、再び接近し連撃を放つ。
 
 斬る、斬る、斬る、もう何十回も彼に打ち込んでいるが、ことごとくかわされる。思えばこんなにも歯が立たない相手は初めてかもしれない。
 私にとって人とは脆い生き物、私自身も人だが、それほどまでに力の差が私と人との間には存在していた。
 だがどうだ、今目の前にいる相手は私という埒外の存在を前にしても全く動じていない。それどころか、まるで子供をあしらうみたいに私を扱っている。
 だから少しだけ彼に甘えてみよう、

 私は彼に向かって全力をぶつける決心をした。

「はあああああ!」

 生まれて初めて人に振るう自らの全力。もはや剣を振るう腕はかすれて見え、剣は光の線とかしていた。
 
 だが、それでもなお届かない。自分の全てを賭けてもなお届かない存在、なんて心地が良いことだろう。
 彼になら預けられる私の全てを、受け止めてほしい私の溢れる想いを。

「ああああああ!」

 どんどん加速する。彼に想いを乗せて振るえば振るうほど、私は力が増していくことを感じた。
 他の騎士達は呆然として介入することもできない。だが、それでよかった。この幸せなひと時を彼とだけ分かち合いたかった。
 夢中になって打ち込んでいると、急に剣が停止した。
 驚いて、彼の方を見ると、彼は私を見て薄く微笑んでいた。

「やっといい顔になったな」

 その言葉とともに、私の剣は中に飛ばされた。
 彼が剣を鞘にしまうと、私は今までの疲れが出てきたためか、地面に座り込んでしまった。

「歓迎しよう、ミランダ・ヴァイオレット」

 彼を手を差し伸べ、私を起こした。何か返事をしなければと思うが、興奮のあまり言葉が出てこない。

「ありがとうございます。ええ…と、なんと呼べばいいでしょうか?」

 彼は少し困ったような顔をしたが、すぐに口を開いた。

「好きに呼べ」

 ならばなんと呼べばいいだろうか。
グレイ、これでは馴れ馴れしいか。
フォールンさん、これでは堅苦しすぎる。

 後は何があるだろうか、後一つ選択肢があるが、それはとても気恥ずかしい。
 だが、どうしても彼には私にとってのそういう存在になって欲しいという気持ちがあった。
 恥をしのんで、私は言った。

「それでは………………」

--------------------------------------

 コツコツと足音が響く中、私は薄っすら目を開いた。
 懐かしい夢を見ていた気がする。なぜ今になってこれを思い出したのかは分からない。
 できれば思い出したくなかった。なぜなら、彼はもう死んでいる。
 部屋で事務作業をしている時に、その報告はきた。ウラジーミル王国からの手紙だったので、なんだろうと思い封を開けた。
 その内容を見てしばし呆然とした。悪い冗談だと思い、すぐに王国に向かった。
 だが、そこでさらに現実を認めさせられた。
 そこには棺の中で目を瞑る彼の姿があった。私は泣いた、棺にすがりついて泣いた、父親が病死した時よりも泣いただろう。そして、涙が枯れはててしまった。
 だからこそ信じられなかった。今私をおぶって道を歩いている人は彼にそっくり、いや、彼そのものだった。

「………これは、夢?」

 私の問いに彼らしきものは答えた。

「………そうだな、夢だ」

 そう、これはきっと夢だ。なら、彼に甘えてもいいだろう。きっと許されるはずだ。
 私は背負われながら、自分の頬を彼の背中に密着させた。かすかな心臓の鼓動が聞こえる、なんて落ち着くんだろう。

「……私負けちゃった。あんな小さな子供に…………」

 私は拗ねるような口調で彼に愚痴をこぼした。

「お前は昔から自分の力を過信しすぎると言っただろう。今回を教訓にするんだな」

 いつも通りの彼だ。そっけないけど、すごく心がこもっている。
 なんて、現実味のある夢だろうか。

「……この夢、覚めなければいいのに」

 私は背中に顔を埋めるようにして言った。

「何を言ってる。お前は向こうに戻れ、お前を待ってる奴がいるだろう」

 そうだった。向こうに残してきたものがあるのだった。
 確かにあいつは私なしでは心配だ。

「目を瞑れ、次に目を覚ます頃には、夢から覚めてる」

 言われた通り私は目を瞑ることにした。このまま彼と一緒に居られるなら、ずっとここに居てもいいが、やはり、あいつも心配だ。
 
「………おやすみなさい、お兄様」

 そう言って、私は兄に別れを告げた。


 

 

 

 

 
 


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