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7、幼馴染は彼女とキスがしたい
しおりを挟む「どうしたの、フレドくん。……こんなところに連れて来て」
生徒達の憩いの場である、中庭の大きな木の下───僕はルーチェをそこに連れて来た。
攻略対象の好感度がマックスになって全てのイベントを終えると、その木の下で告白イベントが起こるという。
そこで二人は想いを通じ合わせてキスをする。そうして二人は結ばれるのだ。
──でも、それが何だっていうんだ。
「皆に勘違いされちゃうよ」
ルーチェは心配そうにキョロキョロと辺りを窺っていた。
相変わらず彼女は僕をヒロインだと思っているらしい。
自分には何の関係もないと思い込んでいるその様子に、僕は彼女に対しては珍しくムッとした。
「ルーチェ」
名を呼べば、そのローズピンクの瞳がこちらを向く。
「僕は告白しようと思う」
「えっ、今日!?」
「今日、今まさにここで」
「今ここで!?」
ギョッとしたルーチェは、先程よりもくまなく周囲を窺った。
木の裏まで確認して、それでも今この場に居るのが自分と僕の二人だけなのだと理解した彼女は、そっと近付いてきて声を顰める。
「何? 私は何をすれば良いの? 歌か何かでムードを盛り上げれば良いのかな? それとも、祝福のダンスでも踊れば良い?」
果たして、そんな不自然過ぎるムード作りを頼む人は、この世に存在するのだろうか。
でも歌とダンスは後で是非とも見せて欲しい。心のアルバムに保存する予定なので。
「……あー、でもやっぱり駄目だよ。折角の告白なのに、第三者の女の子が立ち会うのは。ちょっと無いと思うよ。初めてのチューをするのに、第三者の立ち合いは色々と台無しだし、私もちょっと流石に気まずい……」
だからキスはしないってば。
そもそも想いが通じ合った二人と、それをかぶり付きで見守る幼馴染なんて、そんな謎のシチュエーションでキスしたいと誰が思うんだ。
いや、そもそも僕が想ってるのは君だけだけどね!?
そんな事を心の中で思いつつも、僕は気付いていた。
ブリッツの言った通りだったのだ。
彼女は……ルーチェはこの木の下で僕が誰かとキスをすると信じて疑っていないようだったが、別に嬉しそうじゃない。
────今にも泣きそうな顔をしていた。
本当は嫌だけど既に諦めているし、僕が誰かと想いを通じ合わせる様子を目にしたくないから、今すぐにこの場を離れたい。
長い付き合いだ。
何で今まで判らなかったんだろうって悔しくなるぐらいに、ルーチェが思ってる事なんて手に取るように分かった。
もう、居ても立ってもいられなかった。
ヒロインなんて知るものか。
攻略対象なんて知るものか。
僕が手を取りたいと思うのは、ずっと一生一緒に居たいと思うのは、目の前に居るこの愛しい人だけなのに。
だから、僕は言った。言ってやった。
ルーチェがもう勘違いしないように、僕の想いが率直に届くように、校内全体に轟く程までに大きな声で叫んだ。
「僕が好きなのは君だから、君とキスがしたいんだけど!!!!!」
***
【登場人物紹介】
フレド・エスターシュ
伯爵子息。兄が一人いる。
幼馴染のルーチェを溺愛していて、その愛情は偏執的とも言える。
ヤンデレ一歩手前で、彼女のためならば何でも出来る。
彼女の婿になるために色々と努力し、確実に外堀を埋めているが、その想いはルーチェ本人にだけは伝わっていない。
彼がよくドジを踏むのはうっかりではなく、ある種のバグみたいなものである。
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