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こっちも仲直り
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町から外れた場所に建てられた小さな社。
手入れはされているものの、常駐している人間はいないらしい。扉は固く閉ざされ、灯りはなく、窓ガラスを通して見る内側は暗かった。
ソロとシオンは建物の裏で話している。ディアとラータは社の正面に回り、その壁に背を預けて腰かける。二人の間には奇妙に距離があった。
どちらもが今朝のことを、まだ引きずっていた。
時間の経過と共に怒りは薄れていったが、気まずさだけが残った。
ソロの話が早く終わらないかなと思う。
シオンはこれからどうするだろう。納得しないまま連れてきてしまった。怒っているだろうか。あっさり諦めてしまった自分を軽蔑しているだろうか。嫌われたかもしれない。
それは嫌だ。
でも扉のことは諦めてもらわないと困る。
隣でラータが視線を上下に行き来させて、気まずそうに言った。
「宝石は、見つからなかったの?」
「うん……でも、取り返さなくちゃ」
普通に話しかけられたから、ディアも普通に、けれどどこかぎこちなく答える。
会話が続かない。
ラータは、同じように居心地が悪いのだろうか。多分そうなんだろうな。
朝のことを思い返すとやっぱり、ラータの物言いはきつく、腹が立つけれど的は射ていて、それはそれでまた胸の中がもやもやする。
最初に会った時もそうだった。無遠慮で厳しかった。
ディアはラータのそんなところが苦手で嫌いだ。
それでも助けてくれる。気遣いがないのかといわれれば、そういうわけでもない。
なす術がなく困っていた時、助けてくれたのはラータだった。
今だって、なんだかんだ言いながら協力してくれている。
お礼言わなくちゃ。
朝のことは別にして、親切にしてもらったなら自分もちゃんと返さなくちゃいけない。
そう思うのに、上手く切り出せない。照れくささや何かめんどくさい感情が邪魔をする。
ラトメリアでソロに叱られた時は、素直に謝ることだってできたのに。
おかしいな、なんでだろう。
ぐずぐずしている間に、ラータが先に言った。
「あの、今朝はごめん。言い過ぎた」
ディアは驚いて息を呑む。
「僕思ったことをそのまま口に出しちゃうからさ。怒る人もいるし、きついって言われることもあって……」
ラータは悄然としていて、迷いながら話しているように見えた。
ディアが言う。
「ラータが言ってたことは、その通りだったと思うよ。でもなんか、やっぱり言い方がきついなって思うし、もやもやする」
「うん、ごめん」
「だから、わたしもつい意地になっちゃったの。ごめん色々言って。あと、ありがとう。おかげでシオンさん連れ戻すことができた」
「うん……」
ディアは抱えた膝に顎を乗せ、前を見据える。
今は月が陰っていてあたりが暗く、先が見えない。
「ラータは」
「うん」
「たとえ世界が壊れるってわかっていても、やりたいことってある?」
ラータは目を瞠り、僅かに考えてから首を横に振った。
「どうかな、わかんない。今はまだそれだけ惹かれるものがないってだけかもしれない」
そうか。
そうかもしれない。ディアも、今回は上手く諦めることができただけで、ひょっとしたらこれから先、それだけ惹かれるものに出会うかもしれない。
その時はわからない。
たとえば他の誰かから、狂ってると言われても諦めきれないことがあるかもしれない。
「だから今は、僕らはそれダメだよって言う側でいいんじゃないのかな。とりあえず」
「え」
「君にとってシオンさんは大切な仲間なんだろうけど、何て言ったらいいかな」
んーと唸って、ラータは目を閉じる。
「そうだな、君が大切に思うものは他にもあるんじゃないの? たとえば家族とか友達とか、人じゃなくてもいい、生まれ住んだ土地や好きな場所とか」
「家族はもういないけど、友達なら一人」
「それならさ、仮にシオンさんの意思を尊重して、扉開いてそれが原因でその友達が傷ついたりしたらどう思う? 嫌じゃない?」
想像する。
フェルディリカが傷つき倒れ、突然動かなくなる。冷たく固くなって、人形のようになる。
この世界から、消えていなくなってしまう。
ディアは大きく体を震わせ、深く呼吸をした。
「うん……うん嫌だ」
「それを回避するには、シオンさんを止めるしかない。シオンさんからしたら、そりゃ気分は良くないだろうけど」
「だよね、あー絶対自分勝手な子って思われてる。言い出しっぺはわたしなのに、今度はやめようとか」
ディアは膝の頭に額を擦りつけて嘆く。
「うん。でもそれはまた別の問題だよ。そもそもさ、それってシオンさんもディアも無事で生きてることが前提の話じゃない。死んじゃったら、嫌われただのなんだのもないんだからさ。ついでに言うと、シオンさんがどう思ってるかはシオンさんしかわかんないよ。ここで勝手に思い込んで勝手にショック受けててもどうしようもなくない?」
「それは、そうだけど……」
「ソロさんの話が終わったら、君も話しに行ってきなよ。不安なら僕も一緒に行くからさ」
「ラータがやさしい」
「なんだよ、僕ってそんなにきついイメージしかないの?」
目を丸くするディアに、ラータは少し傷ついたようだった。
案外気にしているんだなと思って、ディアはすぐに謝る。
「ちがうの、ごめん。ラータってさ、言葉がきついだけなんだよね。だって最初に会った時も、雨の中濡れるのも構わず出てきてくれたし、気遣ってくれたりもしたでしょ。ラータはやさしいよ」
「いやだってそれは、なんか」
ラータは照れているらしく、しどろもどろになって言う。
「あまり何もかんがえてなかったっていうか」
「だから、やさしいんだよ」
「え、うん、ありがとう、え、どういうこと?」
「見返りとか損得とか考えなかったってことでしょ」
「……それは、まあ」
「え、何かあったの?」
目を泳がせるラータを振り向いて、ディアは目を瞬く。
「いや、だってどう見ても君、訳ありだっただろ。それにその目の色」
「あ、これ? クレピスキュルからは異世界の人の血を引いてるんだろうって言われたけど」
「そうなんだ」
「うん、珍しかったから気になった?」
「……まあそんなとこ」
ラータは頷き、それから尋ねた。
ラータの緑の瞳が、ディアの瞳の深いところを覗き込んでくる。
「ディアって東の大陸から来たんだよね?」
「そうだよ」
「生まれも?」
「多分」
「お父さんとかお母さんって、ディアと目の色同じだった?」
「ううん、お母さんは緑色だったよ。髪はわたしと同じ黒で。そっかラータと同じだね」
「東の方じゃ緑の目も珍しいよね。黒か茶が一般的だっけ」
大したことでもないようにディアは言うが、ラータは真面目な顔で思案している。
髪も目も、肌の色も、旅の中で色々と見てきた。
ディアの赤色の瞳は、稀有の目で見られることも何度もあったけれど、世界はもっと多くの色に溢れている。
だからそういうものだと思っていた。
クレピスキュルから異世界の人間が同じ瞳の色をしていたと聞いて、驚きはしたが、そういうこともあるのだなと、その程度に思うだけだった。
「ディアのお母さんってさ、ひょっとしてトルトゥガ出身だったりしない?」
「わかんない。お母さんあまりそういう話、しなかったから」
「じゃあお父さんは?」
「わたしが物心ついた時にはいなかったから。お母さんの話では、お父さんは私が生まれる前に病気で死んじゃったって聞いたけど……」
「そっか」
話しながら、ディアは当惑する。
それに気づいて、ラータがあっと声を上げた。
「別に大したことじゃないんだけどさ。トルトゥガ、僕の故郷だけど、そこは僕と同じ髪と目の色をした人ばかりだから。君のお母さんもそうなのかなって思っただけなんだ。それに」
言いかけたラータの視線がふと動いて、ディアもつられて振り返る。
建物の角からシオンが現れて、その後ろからはソロがついてきていた。ディアが立ち上がる。
「シオンさん」
「話し中だったかな、悪いね」
シオンはディアとラータの顔を交互に見て言う。
ラータはいいえと小さく首を横に振り、それきり黙った。
「ディア、君にも迷惑をかけたね。ごめん。あの状況のなか、一人にしてしまって心細かっただろう」
「シオンさん、怒ってないの?」
「怒る? 俺が君に? どうして?」
「だってわたしが言い出したことなのに、シオンさんはそれに協力してくれてたのに、わたしの方が先に諦めたりして」
シオンは不思議そうに見つめ、しばらくして言った。
「そりゃ、どうしてそんな簡単に諦められるんだろうって思いはしたけど、少なくとも怒ってはないよ」
「本当に?」
「うん」
「よかった……」
腹の底からみたいな息を吐き出し、ディアはようやく笑みを見せた。
見上げる先で、シオンもにこにこしている。
「それでね。ソロさんと話し合った結果、俺ももうしばらく諦めないことに決めたからさ」
「え?」
「あちら側の世界に行く方法」
ディアが凍り付く。
その反応を予想していたシオンは吹き出し、それから付け加えた。
「ただし安心安全に」
ディアは力が抜けたように破顔した。
「シオンさん、もー!」
「そういうわけだからさ、今度はディアが俺に協力してくれる?」
「当たり前じゃない」
シオンが微笑んで、手を差し出す。その手を取って握り、ディアは大きく頷いた。
ソロが言う。
「なあ、けどその前に、あいつらが世界ぶっ壊したらなんにもなんねえよ」
「そうだ宝石。あれ鍵なんでしょ、なければ扉は開けないよね。どこかで隙見て取り戻せないかな」
「それもそうだけど、姫さん達の方はどうなってんだろうな。お偉い方々の話はうまくいってんのかね」
ディアとソロが期待を込めた眼差しで同時にラータを見やる。
「え、僕わかんないよ」
ラータはびくりと肩を跳ねさせ、慌てて顔の前で手を振った。
魔王と契約してるから情報が共有されるとか、そういうわけでもないらしい。
シオンだけが事情を飲み込めていない顔をしていて、ソロが経緯を説明する。
「そっちの方は任せてて大丈夫と思うけど。国王へ直に話を通すとか、寧ろ俺たちではどうしようもないしね。それなら俺たちは万一の時を考えて、彼らが強引に扉を開かないように手を打つくらいしか、あ、なんかむず痒いな。むず痒いって言うかいたたまれない気分」
「そりゃまあしゃあねぇわな。せいぜい気まずい思いでもしとけ」
「面白がってるでしょう、趣味悪いですね」
「シュミ悪いっていうならその服の方がよっぽどシュミ悪いだろ。いつまで着てんだよ」
「荷物まるごと置いてきちゃったんですから、仕方ないじゃないですか」
不快そうに言われて、シオンはひとまず胸元の徽章を外してポケットに突っ込む。
「取りに戻るわけにもいかないしな。向こうもさすがに警戒してんだろ」
「別にいいですよ。取りに戻るほどのものでもありませんから」
「お前の荷物じゃなくて宝石の話だよ」
ソロが冷たい視線を向けて言う。
シオンは面食らった顔をし、その後で何か言いかけてやめた。
手入れはされているものの、常駐している人間はいないらしい。扉は固く閉ざされ、灯りはなく、窓ガラスを通して見る内側は暗かった。
ソロとシオンは建物の裏で話している。ディアとラータは社の正面に回り、その壁に背を預けて腰かける。二人の間には奇妙に距離があった。
どちらもが今朝のことを、まだ引きずっていた。
時間の経過と共に怒りは薄れていったが、気まずさだけが残った。
ソロの話が早く終わらないかなと思う。
シオンはこれからどうするだろう。納得しないまま連れてきてしまった。怒っているだろうか。あっさり諦めてしまった自分を軽蔑しているだろうか。嫌われたかもしれない。
それは嫌だ。
でも扉のことは諦めてもらわないと困る。
隣でラータが視線を上下に行き来させて、気まずそうに言った。
「宝石は、見つからなかったの?」
「うん……でも、取り返さなくちゃ」
普通に話しかけられたから、ディアも普通に、けれどどこかぎこちなく答える。
会話が続かない。
ラータは、同じように居心地が悪いのだろうか。多分そうなんだろうな。
朝のことを思い返すとやっぱり、ラータの物言いはきつく、腹が立つけれど的は射ていて、それはそれでまた胸の中がもやもやする。
最初に会った時もそうだった。無遠慮で厳しかった。
ディアはラータのそんなところが苦手で嫌いだ。
それでも助けてくれる。気遣いがないのかといわれれば、そういうわけでもない。
なす術がなく困っていた時、助けてくれたのはラータだった。
今だって、なんだかんだ言いながら協力してくれている。
お礼言わなくちゃ。
朝のことは別にして、親切にしてもらったなら自分もちゃんと返さなくちゃいけない。
そう思うのに、上手く切り出せない。照れくささや何かめんどくさい感情が邪魔をする。
ラトメリアでソロに叱られた時は、素直に謝ることだってできたのに。
おかしいな、なんでだろう。
ぐずぐずしている間に、ラータが先に言った。
「あの、今朝はごめん。言い過ぎた」
ディアは驚いて息を呑む。
「僕思ったことをそのまま口に出しちゃうからさ。怒る人もいるし、きついって言われることもあって……」
ラータは悄然としていて、迷いながら話しているように見えた。
ディアが言う。
「ラータが言ってたことは、その通りだったと思うよ。でもなんか、やっぱり言い方がきついなって思うし、もやもやする」
「うん、ごめん」
「だから、わたしもつい意地になっちゃったの。ごめん色々言って。あと、ありがとう。おかげでシオンさん連れ戻すことができた」
「うん……」
ディアは抱えた膝に顎を乗せ、前を見据える。
今は月が陰っていてあたりが暗く、先が見えない。
「ラータは」
「うん」
「たとえ世界が壊れるってわかっていても、やりたいことってある?」
ラータは目を瞠り、僅かに考えてから首を横に振った。
「どうかな、わかんない。今はまだそれだけ惹かれるものがないってだけかもしれない」
そうか。
そうかもしれない。ディアも、今回は上手く諦めることができただけで、ひょっとしたらこれから先、それだけ惹かれるものに出会うかもしれない。
その時はわからない。
たとえば他の誰かから、狂ってると言われても諦めきれないことがあるかもしれない。
「だから今は、僕らはそれダメだよって言う側でいいんじゃないのかな。とりあえず」
「え」
「君にとってシオンさんは大切な仲間なんだろうけど、何て言ったらいいかな」
んーと唸って、ラータは目を閉じる。
「そうだな、君が大切に思うものは他にもあるんじゃないの? たとえば家族とか友達とか、人じゃなくてもいい、生まれ住んだ土地や好きな場所とか」
「家族はもういないけど、友達なら一人」
「それならさ、仮にシオンさんの意思を尊重して、扉開いてそれが原因でその友達が傷ついたりしたらどう思う? 嫌じゃない?」
想像する。
フェルディリカが傷つき倒れ、突然動かなくなる。冷たく固くなって、人形のようになる。
この世界から、消えていなくなってしまう。
ディアは大きく体を震わせ、深く呼吸をした。
「うん……うん嫌だ」
「それを回避するには、シオンさんを止めるしかない。シオンさんからしたら、そりゃ気分は良くないだろうけど」
「だよね、あー絶対自分勝手な子って思われてる。言い出しっぺはわたしなのに、今度はやめようとか」
ディアは膝の頭に額を擦りつけて嘆く。
「うん。でもそれはまた別の問題だよ。そもそもさ、それってシオンさんもディアも無事で生きてることが前提の話じゃない。死んじゃったら、嫌われただのなんだのもないんだからさ。ついでに言うと、シオンさんがどう思ってるかはシオンさんしかわかんないよ。ここで勝手に思い込んで勝手にショック受けててもどうしようもなくない?」
「それは、そうだけど……」
「ソロさんの話が終わったら、君も話しに行ってきなよ。不安なら僕も一緒に行くからさ」
「ラータがやさしい」
「なんだよ、僕ってそんなにきついイメージしかないの?」
目を丸くするディアに、ラータは少し傷ついたようだった。
案外気にしているんだなと思って、ディアはすぐに謝る。
「ちがうの、ごめん。ラータってさ、言葉がきついだけなんだよね。だって最初に会った時も、雨の中濡れるのも構わず出てきてくれたし、気遣ってくれたりもしたでしょ。ラータはやさしいよ」
「いやだってそれは、なんか」
ラータは照れているらしく、しどろもどろになって言う。
「あまり何もかんがえてなかったっていうか」
「だから、やさしいんだよ」
「え、うん、ありがとう、え、どういうこと?」
「見返りとか損得とか考えなかったってことでしょ」
「……それは、まあ」
「え、何かあったの?」
目を泳がせるラータを振り向いて、ディアは目を瞬く。
「いや、だってどう見ても君、訳ありだっただろ。それにその目の色」
「あ、これ? クレピスキュルからは異世界の人の血を引いてるんだろうって言われたけど」
「そうなんだ」
「うん、珍しかったから気になった?」
「……まあそんなとこ」
ラータは頷き、それから尋ねた。
ラータの緑の瞳が、ディアの瞳の深いところを覗き込んでくる。
「ディアって東の大陸から来たんだよね?」
「そうだよ」
「生まれも?」
「多分」
「お父さんとかお母さんって、ディアと目の色同じだった?」
「ううん、お母さんは緑色だったよ。髪はわたしと同じ黒で。そっかラータと同じだね」
「東の方じゃ緑の目も珍しいよね。黒か茶が一般的だっけ」
大したことでもないようにディアは言うが、ラータは真面目な顔で思案している。
髪も目も、肌の色も、旅の中で色々と見てきた。
ディアの赤色の瞳は、稀有の目で見られることも何度もあったけれど、世界はもっと多くの色に溢れている。
だからそういうものだと思っていた。
クレピスキュルから異世界の人間が同じ瞳の色をしていたと聞いて、驚きはしたが、そういうこともあるのだなと、その程度に思うだけだった。
「ディアのお母さんってさ、ひょっとしてトルトゥガ出身だったりしない?」
「わかんない。お母さんあまりそういう話、しなかったから」
「じゃあお父さんは?」
「わたしが物心ついた時にはいなかったから。お母さんの話では、お父さんは私が生まれる前に病気で死んじゃったって聞いたけど……」
「そっか」
話しながら、ディアは当惑する。
それに気づいて、ラータがあっと声を上げた。
「別に大したことじゃないんだけどさ。トルトゥガ、僕の故郷だけど、そこは僕と同じ髪と目の色をした人ばかりだから。君のお母さんもそうなのかなって思っただけなんだ。それに」
言いかけたラータの視線がふと動いて、ディアもつられて振り返る。
建物の角からシオンが現れて、その後ろからはソロがついてきていた。ディアが立ち上がる。
「シオンさん」
「話し中だったかな、悪いね」
シオンはディアとラータの顔を交互に見て言う。
ラータはいいえと小さく首を横に振り、それきり黙った。
「ディア、君にも迷惑をかけたね。ごめん。あの状況のなか、一人にしてしまって心細かっただろう」
「シオンさん、怒ってないの?」
「怒る? 俺が君に? どうして?」
「だってわたしが言い出したことなのに、シオンさんはそれに協力してくれてたのに、わたしの方が先に諦めたりして」
シオンは不思議そうに見つめ、しばらくして言った。
「そりゃ、どうしてそんな簡単に諦められるんだろうって思いはしたけど、少なくとも怒ってはないよ」
「本当に?」
「うん」
「よかった……」
腹の底からみたいな息を吐き出し、ディアはようやく笑みを見せた。
見上げる先で、シオンもにこにこしている。
「それでね。ソロさんと話し合った結果、俺ももうしばらく諦めないことに決めたからさ」
「え?」
「あちら側の世界に行く方法」
ディアが凍り付く。
その反応を予想していたシオンは吹き出し、それから付け加えた。
「ただし安心安全に」
ディアは力が抜けたように破顔した。
「シオンさん、もー!」
「そういうわけだからさ、今度はディアが俺に協力してくれる?」
「当たり前じゃない」
シオンが微笑んで、手を差し出す。その手を取って握り、ディアは大きく頷いた。
ソロが言う。
「なあ、けどその前に、あいつらが世界ぶっ壊したらなんにもなんねえよ」
「そうだ宝石。あれ鍵なんでしょ、なければ扉は開けないよね。どこかで隙見て取り戻せないかな」
「それもそうだけど、姫さん達の方はどうなってんだろうな。お偉い方々の話はうまくいってんのかね」
ディアとソロが期待を込めた眼差しで同時にラータを見やる。
「え、僕わかんないよ」
ラータはびくりと肩を跳ねさせ、慌てて顔の前で手を振った。
魔王と契約してるから情報が共有されるとか、そういうわけでもないらしい。
シオンだけが事情を飲み込めていない顔をしていて、ソロが経緯を説明する。
「そっちの方は任せてて大丈夫と思うけど。国王へ直に話を通すとか、寧ろ俺たちではどうしようもないしね。それなら俺たちは万一の時を考えて、彼らが強引に扉を開かないように手を打つくらいしか、あ、なんかむず痒いな。むず痒いって言うかいたたまれない気分」
「そりゃまあしゃあねぇわな。せいぜい気まずい思いでもしとけ」
「面白がってるでしょう、趣味悪いですね」
「シュミ悪いっていうならその服の方がよっぽどシュミ悪いだろ。いつまで着てんだよ」
「荷物まるごと置いてきちゃったんですから、仕方ないじゃないですか」
不快そうに言われて、シオンはひとまず胸元の徽章を外してポケットに突っ込む。
「取りに戻るわけにもいかないしな。向こうもさすがに警戒してんだろ」
「別にいいですよ。取りに戻るほどのものでもありませんから」
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