21 / 67
楽しい食卓
しおりを挟む
「あ、おれやります」
表には、あの時の青鹿毛の馬がいた。
馬の背には荷袋が二つ括り付けられていて、ルフスはそれを下ろしてやりながら、
「お前きれいだなあ」
なんて声を掛ける。
ディアはルフスから荷を受け取り、目を細めて微笑む。
「馬、というか動物好き?」
「家で牛を飼ってるんです。あと馬の世話とかもしたことあって」
「そう、じゃあ小屋が裏にあるから、この子のお世話も頼めるかしら」
「はい」
馬は大人しく、そしてとても利口だった。ルフスの促しに従って歩き、小屋に入っていく。
ルフスは小屋の傍に置かれた道具を使って丁寧にブラッシングをし、それを終えると、川に行きバケツで水を汲んできて、飼葉桶の中に入れた飼料と混ぜてやった。
馬はさっそく餌を食べ始め、それを嬉しそうに眺める。すると家の玄関の方から、ティランの呼ぶ声が聞こえてきた。ティランは両手で籠を持っていて、中には芋が五個ほど入っていた。
「おい、終わったんならこっちも手伝え」
ティランが川で土を洗い流した芋を、ルフスは慣れた手つきでナイフを操り皮を剥いていく。
家で手伝いをしていたルフスは難なくナイフも扱えたが、ティランの手つきは危なっかしく、役割分担は自然と決まった。
「おまえって本当、無駄に器用なやつやな」
「別に無駄でもないだろ。食事は生きるのに必要不可欠じゃん」
「必要不可欠なんて言葉、よう知っとったな」
「最近覚えたんだ」
ルフスは得意げに顎を上げて言い、ティランは冷めた視線を寄越した。
皮をすべて剝き終え、家の中に戻る。
ティランはさっさと椅子に座る。正面の席では、確かソロと呼ばれていた男性がラヴィを膝に乗せて、本を読み聞かせてやっていた。
ディアは台所で玉ねぎや人参やセロリといった野菜を細かく切っていて、ルフス達に気づくと言った。
「ありがとう二人共。そこ置いといてくれる?」
「はい、他になにか手伝うこととかありますか?」
「そうね。あ、テーブルの上、片してくれると助かるかな」
言われてみれば、使用済みのカップとポットがそのままだ。ルフスはまとめて調理台横に置かれた桶の中に入れてから、水で湿らせた布で順番に食器の汚れを拭きとる。
「わ、すごい! 助かるぅ!」
ディアは喜びの声を上げつつ、切った野菜を鍋にどんどん放り込んだ。
すべて入れ終わると鍋に蓋をし、今度は魚の切り身を一人分ずつ切り分ける。それに塩コショウを振りかけ馴染ませてから、乾いた布で水分を取り、表面にオイレフの実から取れた香りのよい油を薄く塗って、粗目のパン屑に刻んだ香草を混ぜた粉を全体につけていった。そうして下ごしらえを済ませた魚を、フライパンで焼き始める。すると、たちまち食欲をそそるいい匂いが部屋の中に満ちた。
ルフスは鼻を引くつかせて、ディアの隣に立つ。
「あ、すげぇいい匂い。うまそう」
「チーズ好き?」
「めちゃくちゃ好きです」
両面にしっかりと茶色の焦げ目がつけてから、皿に盛り付ける。
それだけでも十分おいしそうだったが、ディアはそこで荷袋の中から半月型の大きなチーズの塊を取り出してきて、かまどの火で溶かし、とろけた部分をナイフで削いで魚を置いた皿にたっぷりと落とした。
「できあがり。さ、あとスープも入れてくるから、そこのパン誰か切り分けて」
「はいっはい! パン用のナイフどこですか?」
「棚の引き出しの右側だっけ?」
ソロが本を閉じて言い、ディアがそうと返事をする。
ルフスはいそいそと刃の部分が波型になった長いナイフを取ってくると、豪快に切り分け始めた。
「は? でかすぎるやろ」
「え、人数分に分けちゃっていいかなって、ダメ?」
「いいよいいよ、好きなように切っちゃって。薄くしたのがいいなら、後で自分でやってもらったらいいから」
「ええと、五人でいいよな?」
「六人。奥にも一人おるやろ。ほれみろ、適当にするからひとつだけ大きさ違うやないか」
「あたし、はしっこ! その小さいのがいい!」
「あ、よかったー」
ルフスは胸を撫でおろす。
ディアがスープの入った器を盆に乗せて運んでくる。
椅子がひとつ足りなくて、ラヴィはソロの膝に座ったままだった。初め、ディアが自分の膝の上に来るよう呼んだが、ラヴィがそれを拒否した。
ソロの膝の上でにこにこと満足そうにしながら、主張する。
「ここでいいのー」
「ごめん、ソロ」
「いや、まあ別にいいんだけど」
「ソロさん、きょううちにお泊まりする? する?」
「しない」
「えー」
「ほら、食べないのか? いただきますして」
そんな和やかな光景に、ルフスは故郷での食卓を思い出して、懐かしくなり微笑む。
ルフスにも小さな弟が一人いて、食事ができてもなお遊びに夢中な幼子に対し母親がいつも優しく諭していたものだった。
「いただきます」
ラヴィと一緒に言って、食べ始める。
スープは鶏の出汁が使われていて、さいの目状に切った野菜がたくさん入っていた。粒コショウの辛さと僅かな酸味が効いていてとても美味しかった。魚料理の方はこれもまた、香草の香りがよく、衣がサクサクで、脂がのっていて美味しい。
「うまぁ―――!」
ルフスが言うと、ディアは小さく笑った。
隣ではティランが静かにパンを一口大にちぎって、口に放り込んでいる。それから正面の席ではソロがラヴィの為に、魚の皮を剥き、骨を取ってやっていた。
ルフスは口の中のものを、一生懸命飲み込んで言う。
「これ、あの、チーズのっけても、そのままでも美味しいです! あと、チーズじゃなくてもレモン汁とか、マスタードでも合うかも」
「あ、それおいしそう。今度やってみるね」
「うまいなー」
「ふふ」
美味い美味いと言って食べるルフスを、ディアは嬉しそうに眺める。
ルフスはその後スープを二杯おかわりした。
表には、あの時の青鹿毛の馬がいた。
馬の背には荷袋が二つ括り付けられていて、ルフスはそれを下ろしてやりながら、
「お前きれいだなあ」
なんて声を掛ける。
ディアはルフスから荷を受け取り、目を細めて微笑む。
「馬、というか動物好き?」
「家で牛を飼ってるんです。あと馬の世話とかもしたことあって」
「そう、じゃあ小屋が裏にあるから、この子のお世話も頼めるかしら」
「はい」
馬は大人しく、そしてとても利口だった。ルフスの促しに従って歩き、小屋に入っていく。
ルフスは小屋の傍に置かれた道具を使って丁寧にブラッシングをし、それを終えると、川に行きバケツで水を汲んできて、飼葉桶の中に入れた飼料と混ぜてやった。
馬はさっそく餌を食べ始め、それを嬉しそうに眺める。すると家の玄関の方から、ティランの呼ぶ声が聞こえてきた。ティランは両手で籠を持っていて、中には芋が五個ほど入っていた。
「おい、終わったんならこっちも手伝え」
ティランが川で土を洗い流した芋を、ルフスは慣れた手つきでナイフを操り皮を剥いていく。
家で手伝いをしていたルフスは難なくナイフも扱えたが、ティランの手つきは危なっかしく、役割分担は自然と決まった。
「おまえって本当、無駄に器用なやつやな」
「別に無駄でもないだろ。食事は生きるのに必要不可欠じゃん」
「必要不可欠なんて言葉、よう知っとったな」
「最近覚えたんだ」
ルフスは得意げに顎を上げて言い、ティランは冷めた視線を寄越した。
皮をすべて剝き終え、家の中に戻る。
ティランはさっさと椅子に座る。正面の席では、確かソロと呼ばれていた男性がラヴィを膝に乗せて、本を読み聞かせてやっていた。
ディアは台所で玉ねぎや人参やセロリといった野菜を細かく切っていて、ルフス達に気づくと言った。
「ありがとう二人共。そこ置いといてくれる?」
「はい、他になにか手伝うこととかありますか?」
「そうね。あ、テーブルの上、片してくれると助かるかな」
言われてみれば、使用済みのカップとポットがそのままだ。ルフスはまとめて調理台横に置かれた桶の中に入れてから、水で湿らせた布で順番に食器の汚れを拭きとる。
「わ、すごい! 助かるぅ!」
ディアは喜びの声を上げつつ、切った野菜を鍋にどんどん放り込んだ。
すべて入れ終わると鍋に蓋をし、今度は魚の切り身を一人分ずつ切り分ける。それに塩コショウを振りかけ馴染ませてから、乾いた布で水分を取り、表面にオイレフの実から取れた香りのよい油を薄く塗って、粗目のパン屑に刻んだ香草を混ぜた粉を全体につけていった。そうして下ごしらえを済ませた魚を、フライパンで焼き始める。すると、たちまち食欲をそそるいい匂いが部屋の中に満ちた。
ルフスは鼻を引くつかせて、ディアの隣に立つ。
「あ、すげぇいい匂い。うまそう」
「チーズ好き?」
「めちゃくちゃ好きです」
両面にしっかりと茶色の焦げ目がつけてから、皿に盛り付ける。
それだけでも十分おいしそうだったが、ディアはそこで荷袋の中から半月型の大きなチーズの塊を取り出してきて、かまどの火で溶かし、とろけた部分をナイフで削いで魚を置いた皿にたっぷりと落とした。
「できあがり。さ、あとスープも入れてくるから、そこのパン誰か切り分けて」
「はいっはい! パン用のナイフどこですか?」
「棚の引き出しの右側だっけ?」
ソロが本を閉じて言い、ディアがそうと返事をする。
ルフスはいそいそと刃の部分が波型になった長いナイフを取ってくると、豪快に切り分け始めた。
「は? でかすぎるやろ」
「え、人数分に分けちゃっていいかなって、ダメ?」
「いいよいいよ、好きなように切っちゃって。薄くしたのがいいなら、後で自分でやってもらったらいいから」
「ええと、五人でいいよな?」
「六人。奥にも一人おるやろ。ほれみろ、適当にするからひとつだけ大きさ違うやないか」
「あたし、はしっこ! その小さいのがいい!」
「あ、よかったー」
ルフスは胸を撫でおろす。
ディアがスープの入った器を盆に乗せて運んでくる。
椅子がひとつ足りなくて、ラヴィはソロの膝に座ったままだった。初め、ディアが自分の膝の上に来るよう呼んだが、ラヴィがそれを拒否した。
ソロの膝の上でにこにこと満足そうにしながら、主張する。
「ここでいいのー」
「ごめん、ソロ」
「いや、まあ別にいいんだけど」
「ソロさん、きょううちにお泊まりする? する?」
「しない」
「えー」
「ほら、食べないのか? いただきますして」
そんな和やかな光景に、ルフスは故郷での食卓を思い出して、懐かしくなり微笑む。
ルフスにも小さな弟が一人いて、食事ができてもなお遊びに夢中な幼子に対し母親がいつも優しく諭していたものだった。
「いただきます」
ラヴィと一緒に言って、食べ始める。
スープは鶏の出汁が使われていて、さいの目状に切った野菜がたくさん入っていた。粒コショウの辛さと僅かな酸味が効いていてとても美味しかった。魚料理の方はこれもまた、香草の香りがよく、衣がサクサクで、脂がのっていて美味しい。
「うまぁ―――!」
ルフスが言うと、ディアは小さく笑った。
隣ではティランが静かにパンを一口大にちぎって、口に放り込んでいる。それから正面の席ではソロがラヴィの為に、魚の皮を剥き、骨を取ってやっていた。
ルフスは口の中のものを、一生懸命飲み込んで言う。
「これ、あの、チーズのっけても、そのままでも美味しいです! あと、チーズじゃなくてもレモン汁とか、マスタードでも合うかも」
「あ、それおいしそう。今度やってみるね」
「うまいなー」
「ふふ」
美味い美味いと言って食べるルフスを、ディアは嬉しそうに眺める。
ルフスはその後スープを二杯おかわりした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる