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楽しい食卓
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「あ、おれやります」
表には、あの時の青鹿毛の馬がいた。
馬の背には荷袋が二つ括り付けられていて、ルフスはそれを下ろしてやりながら、
「お前きれいだなあ」
なんて声を掛ける。
ディアはルフスから荷を受け取り、目を細めて微笑む。
「馬、というか動物好き?」
「家で牛を飼ってるんです。あと馬の世話とかもしたことあって」
「そう、じゃあ小屋が裏にあるから、この子のお世話も頼めるかしら」
「はい」
馬は大人しく、そしてとても利口だった。ルフスの促しに従って歩き、小屋に入っていく。
ルフスは小屋の傍に置かれた道具を使って丁寧にブラッシングをし、それを終えると、川に行きバケツで水を汲んできて、飼葉桶の中に入れた飼料と混ぜてやった。
馬はさっそく餌を食べ始め、それを嬉しそうに眺める。すると家の玄関の方から、ティランの呼ぶ声が聞こえてきた。ティランは両手で籠を持っていて、中には芋が五個ほど入っていた。
「おい、終わったんならこっちも手伝え」
ティランが川で土を洗い流した芋を、ルフスは慣れた手つきでナイフを操り皮を剥いていく。
家で手伝いをしていたルフスは難なくナイフも扱えたが、ティランの手つきは危なっかしく、役割分担は自然と決まった。
「おまえって本当、無駄に器用なやつやな」
「別に無駄でもないだろ。食事は生きるのに必要不可欠じゃん」
「必要不可欠なんて言葉、よう知っとったな」
「最近覚えたんだ」
ルフスは得意げに顎を上げて言い、ティランは冷めた視線を寄越した。
皮をすべて剝き終え、家の中に戻る。
ティランはさっさと椅子に座る。正面の席では、確かソロと呼ばれていた男性がラヴィを膝に乗せて、本を読み聞かせてやっていた。
ディアは台所で玉ねぎや人参やセロリといった野菜を細かく切っていて、ルフス達に気づくと言った。
「ありがとう二人共。そこ置いといてくれる?」
「はい、他になにか手伝うこととかありますか?」
「そうね。あ、テーブルの上、片してくれると助かるかな」
言われてみれば、使用済みのカップとポットがそのままだ。ルフスはまとめて調理台横に置かれた桶の中に入れてから、水で湿らせた布で順番に食器の汚れを拭きとる。
「わ、すごい! 助かるぅ!」
ディアは喜びの声を上げつつ、切った野菜を鍋にどんどん放り込んだ。
すべて入れ終わると鍋に蓋をし、今度は魚の切り身を一人分ずつ切り分ける。それに塩コショウを振りかけ馴染ませてから、乾いた布で水分を取り、表面にオイレフの実から取れた香りのよい油を薄く塗って、粗目のパン屑に刻んだ香草を混ぜた粉を全体につけていった。そうして下ごしらえを済ませた魚を、フライパンで焼き始める。すると、たちまち食欲をそそるいい匂いが部屋の中に満ちた。
ルフスは鼻を引くつかせて、ディアの隣に立つ。
「あ、すげぇいい匂い。うまそう」
「チーズ好き?」
「めちゃくちゃ好きです」
両面にしっかりと茶色の焦げ目がつけてから、皿に盛り付ける。
それだけでも十分おいしそうだったが、ディアはそこで荷袋の中から半月型の大きなチーズの塊を取り出してきて、かまどの火で溶かし、とろけた部分をナイフで削いで魚を置いた皿にたっぷりと落とした。
「できあがり。さ、あとスープも入れてくるから、そこのパン誰か切り分けて」
「はいっはい! パン用のナイフどこですか?」
「棚の引き出しの右側だっけ?」
ソロが本を閉じて言い、ディアがそうと返事をする。
ルフスはいそいそと刃の部分が波型になった長いナイフを取ってくると、豪快に切り分け始めた。
「は? でかすぎるやろ」
「え、人数分に分けちゃっていいかなって、ダメ?」
「いいよいいよ、好きなように切っちゃって。薄くしたのがいいなら、後で自分でやってもらったらいいから」
「ええと、五人でいいよな?」
「六人。奥にも一人おるやろ。ほれみろ、適当にするからひとつだけ大きさ違うやないか」
「あたし、はしっこ! その小さいのがいい!」
「あ、よかったー」
ルフスは胸を撫でおろす。
ディアがスープの入った器を盆に乗せて運んでくる。
椅子がひとつ足りなくて、ラヴィはソロの膝に座ったままだった。初め、ディアが自分の膝の上に来るよう呼んだが、ラヴィがそれを拒否した。
ソロの膝の上でにこにこと満足そうにしながら、主張する。
「ここでいいのー」
「ごめん、ソロ」
「いや、まあ別にいいんだけど」
「ソロさん、きょううちにお泊まりする? する?」
「しない」
「えー」
「ほら、食べないのか? いただきますして」
そんな和やかな光景に、ルフスは故郷での食卓を思い出して、懐かしくなり微笑む。
ルフスにも小さな弟が一人いて、食事ができてもなお遊びに夢中な幼子に対し母親がいつも優しく諭していたものだった。
「いただきます」
ラヴィと一緒に言って、食べ始める。
スープは鶏の出汁が使われていて、さいの目状に切った野菜がたくさん入っていた。粒コショウの辛さと僅かな酸味が効いていてとても美味しかった。魚料理の方はこれもまた、香草の香りがよく、衣がサクサクで、脂がのっていて美味しい。
「うまぁ―――!」
ルフスが言うと、ディアは小さく笑った。
隣ではティランが静かにパンを一口大にちぎって、口に放り込んでいる。それから正面の席ではソロがラヴィの為に、魚の皮を剥き、骨を取ってやっていた。
ルフスは口の中のものを、一生懸命飲み込んで言う。
「これ、あの、チーズのっけても、そのままでも美味しいです! あと、チーズじゃなくてもレモン汁とか、マスタードでも合うかも」
「あ、それおいしそう。今度やってみるね」
「うまいなー」
「ふふ」
美味い美味いと言って食べるルフスを、ディアは嬉しそうに眺める。
ルフスはその後スープを二杯おかわりした。
表には、あの時の青鹿毛の馬がいた。
馬の背には荷袋が二つ括り付けられていて、ルフスはそれを下ろしてやりながら、
「お前きれいだなあ」
なんて声を掛ける。
ディアはルフスから荷を受け取り、目を細めて微笑む。
「馬、というか動物好き?」
「家で牛を飼ってるんです。あと馬の世話とかもしたことあって」
「そう、じゃあ小屋が裏にあるから、この子のお世話も頼めるかしら」
「はい」
馬は大人しく、そしてとても利口だった。ルフスの促しに従って歩き、小屋に入っていく。
ルフスは小屋の傍に置かれた道具を使って丁寧にブラッシングをし、それを終えると、川に行きバケツで水を汲んできて、飼葉桶の中に入れた飼料と混ぜてやった。
馬はさっそく餌を食べ始め、それを嬉しそうに眺める。すると家の玄関の方から、ティランの呼ぶ声が聞こえてきた。ティランは両手で籠を持っていて、中には芋が五個ほど入っていた。
「おい、終わったんならこっちも手伝え」
ティランが川で土を洗い流した芋を、ルフスは慣れた手つきでナイフを操り皮を剥いていく。
家で手伝いをしていたルフスは難なくナイフも扱えたが、ティランの手つきは危なっかしく、役割分担は自然と決まった。
「おまえって本当、無駄に器用なやつやな」
「別に無駄でもないだろ。食事は生きるのに必要不可欠じゃん」
「必要不可欠なんて言葉、よう知っとったな」
「最近覚えたんだ」
ルフスは得意げに顎を上げて言い、ティランは冷めた視線を寄越した。
皮をすべて剝き終え、家の中に戻る。
ティランはさっさと椅子に座る。正面の席では、確かソロと呼ばれていた男性がラヴィを膝に乗せて、本を読み聞かせてやっていた。
ディアは台所で玉ねぎや人参やセロリといった野菜を細かく切っていて、ルフス達に気づくと言った。
「ありがとう二人共。そこ置いといてくれる?」
「はい、他になにか手伝うこととかありますか?」
「そうね。あ、テーブルの上、片してくれると助かるかな」
言われてみれば、使用済みのカップとポットがそのままだ。ルフスはまとめて調理台横に置かれた桶の中に入れてから、水で湿らせた布で順番に食器の汚れを拭きとる。
「わ、すごい! 助かるぅ!」
ディアは喜びの声を上げつつ、切った野菜を鍋にどんどん放り込んだ。
すべて入れ終わると鍋に蓋をし、今度は魚の切り身を一人分ずつ切り分ける。それに塩コショウを振りかけ馴染ませてから、乾いた布で水分を取り、表面にオイレフの実から取れた香りのよい油を薄く塗って、粗目のパン屑に刻んだ香草を混ぜた粉を全体につけていった。そうして下ごしらえを済ませた魚を、フライパンで焼き始める。すると、たちまち食欲をそそるいい匂いが部屋の中に満ちた。
ルフスは鼻を引くつかせて、ディアの隣に立つ。
「あ、すげぇいい匂い。うまそう」
「チーズ好き?」
「めちゃくちゃ好きです」
両面にしっかりと茶色の焦げ目がつけてから、皿に盛り付ける。
それだけでも十分おいしそうだったが、ディアはそこで荷袋の中から半月型の大きなチーズの塊を取り出してきて、かまどの火で溶かし、とろけた部分をナイフで削いで魚を置いた皿にたっぷりと落とした。
「できあがり。さ、あとスープも入れてくるから、そこのパン誰か切り分けて」
「はいっはい! パン用のナイフどこですか?」
「棚の引き出しの右側だっけ?」
ソロが本を閉じて言い、ディアがそうと返事をする。
ルフスはいそいそと刃の部分が波型になった長いナイフを取ってくると、豪快に切り分け始めた。
「は? でかすぎるやろ」
「え、人数分に分けちゃっていいかなって、ダメ?」
「いいよいいよ、好きなように切っちゃって。薄くしたのがいいなら、後で自分でやってもらったらいいから」
「ええと、五人でいいよな?」
「六人。奥にも一人おるやろ。ほれみろ、適当にするからひとつだけ大きさ違うやないか」
「あたし、はしっこ! その小さいのがいい!」
「あ、よかったー」
ルフスは胸を撫でおろす。
ディアがスープの入った器を盆に乗せて運んでくる。
椅子がひとつ足りなくて、ラヴィはソロの膝に座ったままだった。初め、ディアが自分の膝の上に来るよう呼んだが、ラヴィがそれを拒否した。
ソロの膝の上でにこにこと満足そうにしながら、主張する。
「ここでいいのー」
「ごめん、ソロ」
「いや、まあ別にいいんだけど」
「ソロさん、きょううちにお泊まりする? する?」
「しない」
「えー」
「ほら、食べないのか? いただきますして」
そんな和やかな光景に、ルフスは故郷での食卓を思い出して、懐かしくなり微笑む。
ルフスにも小さな弟が一人いて、食事ができてもなお遊びに夢中な幼子に対し母親がいつも優しく諭していたものだった。
「いただきます」
ラヴィと一緒に言って、食べ始める。
スープは鶏の出汁が使われていて、さいの目状に切った野菜がたくさん入っていた。粒コショウの辛さと僅かな酸味が効いていてとても美味しかった。魚料理の方はこれもまた、香草の香りがよく、衣がサクサクで、脂がのっていて美味しい。
「うまぁ―――!」
ルフスが言うと、ディアは小さく笑った。
隣ではティランが静かにパンを一口大にちぎって、口に放り込んでいる。それから正面の席ではソロがラヴィの為に、魚の皮を剥き、骨を取ってやっていた。
ルフスは口の中のものを、一生懸命飲み込んで言う。
「これ、あの、チーズのっけても、そのままでも美味しいです! あと、チーズじゃなくてもレモン汁とか、マスタードでも合うかも」
「あ、それおいしそう。今度やってみるね」
「うまいなー」
「ふふ」
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