緋の英雄王 白銀の賢者

冴木黒

文字の大きさ
22 / 67

元人間の魔族

しおりを挟む
 全員が食べ終わる頃に、奥の扉が開いた。
 現れたラータは、何かびっしりと文字を書き込んだ紙束を持っていた。

「できたよ、さっそくやってみようか? 表出る? あれ?」

 いつの間にみたいな顔で固まるラータに、ディアがにっこり笑いかけた。

「なんでもいいけど。先、食べてくれる?」
「あ、ハイ……」

 ソロが眠そうに目をこするラヴィを抱えて、椅子から立ち上がり、そこにラータが座る。ソロはディアに断りを入れ、右手側の扉を開けて、その奥に消えた。
 ディアがスープの残りと魚料理を盛りつけた皿をラータの前に置く。
 ラータは急いでそれらを食べ、最後は水で胃に流し込んでいた。口元を拭って言う。

「さて、お待たせしてごめん。とりあえずティラン、君にかけられた魔法の解除魔法の術式が完成したよ。解くのは今日でも明日でもいいけど、どうする?」
「明日にしたら? もう遅いし。あなた達、よかったら泊まっていく? ちょっと狭いけど、布団ならあるからそれでいいなら」

 ディアが食器を片付けながら言った。
 ルフスはティランを振り向いて尋ねる。

「どうする?」
「あー……まあそうやな」

 ティランは少し考えて、頷く。
 ラータが腰を上げ、思い出したように言った。

「それじゃ、ちょっと向こうの部屋を片づけてくるよ。そうだ、ディア。ソロさんに後で話があって、帰るの待っててもらえるように言ってくれる?」

 ソロの方が先に戻ってきて、ディアがラータの言葉を伝えると、空いた椅子に座った。
 ティランが頬杖をついたまま、目を細めて不躾にソロを見た。
 その向こうでは、ディアが汚れを拭った皿を棚にしまっていて、カチャカチャと小さく音がする。

「あんた、人間やないな?」

 ルフスは驚き、目を丸くする。
 ソロは挑発的な笑みを浮かべた。

「なんでそう思う?」
「理論や原理どうこうなく、魔法を使えるのは魔に属する者だけや。見た目には全然わからんけど、ひょっとして魔族か?」
「へえ、よく知ってんじゃねぇか。でも惜しいな。半分だけ正解だ」
「半分?」
「うん、めんどくせぇから説明はラータから聞いてくれ」
「あん?」

 言って、ティランが眉を跳ね上げる。
 その時ちょうどラータがやってきて、ソロは立ち上がった。

「ソロさん、お待たせしてしまってすみません。実はちょっとお願いがありまして」

 ラータはルフスを一瞥し、ソロも同じように目線を動かした。
 そうして何故かルフスの呪いについて説明をした。

「そういうわけなんで、ソロさんにはこの世界の魔王に協力を仰いでほしいんです。魔王なら神様方にも多少は顔が利くでしょうし」
「つってもあいつならともかく、オレがまずここの魔王に相手にされないだろ」
「それは大丈夫でしょう、何せソロさんはあちら側の魔王の最も近しい存在なわけですし」
「わかった。まあやるだけやってみるわ」

 ソロはひとつ息を吐き出す。

「そうそう、クレピスキュルから言伝あずかってんだ。お前たちも、たまには顔見せろとさ」
「あーはい。いろいろ落ち着いたらそのうちに」

 ラータが言い終えるのと同時に、ソロが消えた。現れた時とは反対に、体が光となり、金の粒となって散る感じだった。
 それまで黙って聞いていたティランが口を開いた。

「伝手って言うてたのは、今の男のことか?」
「うん、ソロさん。彼はこの世界の魔族の間でも顔が知れてるからね」
「魔族かって訊いたら、半分正解やち言うとったけど。どういう意味かはあんたに聞けとさ」
「あっちの部屋、ふとんの用意しておくわね」

 ディアが言い、ラータが出てきた部屋に入る。
 ラータが声を投げる。

「ありがとう、君もそれが終わったら休んで」

 ラータは椅子を引いて座って、なんだったっけと呟く。それから言う。

「ええと。ソロさんだけどね、彼は元人間なんだよね。で、今は魔族みたいなもんで、だから半分正解ってこと」
「元人間の魔族?」
「うん。あちら側の、僕たちが元々いた世界の魔王に魅入られてね。それで」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 話についていけず、ティランは途中で思わず口を出す。
 魔族の中には元は動物や植物であったものがいるから、別にそれが人間だったと言われても別にそれほど意外でもない。引っかかるのはその後だ。

「元々いた世界って……」

 ラータはテーブルの上で両掌を上に向けて、説明する。

「僕やディア、ソロさんが生まれ住んでいた、この世界とは別の世界。まあ簡単に言ってしまうと、世界っていうのは実はたくさんあってさ。君たちと、僕たちが今存在しているこの世界以外にたくさんね。それでまあ、その僕らが元いた世界での魔王とソロさんは懇意の仲、ていうかぶっちゃけちゃうと、そういう関係なわけで、魔王はソロさんの願いを叶えソロさんもその代償に魔王の願いを聞き入れて、魔族に近い存在になったって経緯でね。もう少し詳しく聞きたいっていうのなら話すのは別に構わないんだけど、これが結構長くてさ。どうする?」

 開いた手の指を組んで、肘をつき、ラータはそこに顎を乗せて問いかける。
 ティランは挑むように笑った。

「ますます興味深いな。あんたさえ構わんのなら、夜話に聞かせてもらおうやないか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...