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ベルミオン
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ルフスは気が付くと、闇の中にいた。
一緒にいたはずの山吹はいない。
直前のことは、しっかりと記憶にある。
砂埃舞う荒野を進んだ先に見えてきた大穴。穴というよりは、まるで大地にできた切り傷のような、裂け目という呼び方の方がしっくりくる気がした。
見渡せる場所に目的の剣は見当たらず、山吹も詳しくはわからないと言う。
探し歩くうちに、何か音が聞こえた。
震え鳴り響く音は、波のごとく何度も押し寄せてきた。
ルフス殿?
近くにいるはずの山吹の声がなぜか遠く聞こえた。
音の方向へ歩くうちに、声が混じっていることに気付いた。
なんと言っているのかまではわからなかった。
耳慣れない響きの言葉。平淡で、でも謳っているかのようでもあって、そうだ、まるで。
ラータ。
あの人の魔法の詠唱で聞いた不思議な言葉に似ている。
そう思った瞬間、ぐらっと身体が揺らいだ。
ルフス殿!
驚いたような声。悲鳴に近い。
そんな大きな声出せるんだな。
そう思って。見上げた先に山吹がいて、その姿はあっという間に遠ざかっていった。
そうだ。
つまりここは大穴の中、地の底ということだ。
その割に体は無事らしい。痛いところもなく、ちゃんと動く。
音は今もずっと聞こえている。
地上で聞いた時よりもはっきりと。
呼ばれている。
相変わらず理解できない言語ではあるけれど、なぜだかそんな気がした。
足元さえ見えない暗さだったが、ルフスに恐れはなかった。
声の方向へ、また歩き始める。
まるで月と星のない夜のようだ。
暗闇を厭う者は多い。大抵のひとは暗闇に対して不安と恐怖を抱く。
けれどルフスはそうではない。昔からだ。
夜の闇は命ある者に静かで穏やかな眠りを与えてくれる。その深い黒色で包み込み、心と体を癒し、慈しんでくれる。
だから今も、ルフスは穏やかな気持ちだった。
一歩、また一歩と足を進める。
やがて見えてきたのは、薄く弱い光だった。
剣だ。
それは、山吹から渡された複製品と全く同じ形状をしていた。
ルフスは躊躇いがちに柄に触れ、握る。
すると、まるで紙が水を吸うように、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。
剣が全てを教えてくれる。
五百年前、英雄と呼ばれた王と共に戦った剣は、本当はそれよりももっと昔、遠い過去に作られたものだった。王の前にもこの剣の使い手はいて、彼もまた英雄であった。闇を断ち、退け、人々を救った。
その名は、ベルミオン。
山吹から聞いた剣の名でもある。
彼はその光の力で世界に光をもたらし、邪悪なる者は消滅した。
それから長きにわたって世界は平和だった。
そして五百年前、再び邪悪なる者が現れ、世界は危機に見舞われた。彼の王もまた剣を手に戦った。だが狡猾なそいつは、王の弱みにつけこみ出し抜いて、彼を窮地に追い込んだ。
王の婚約者である姫君を影で唆し、憑りついて器とその魔力を得ていたのだ。
王は残る力全てを使って、姫君ごとそいつを封印した。
苦渋の決断であった。
今度こそ、あいつを打ち破る覚悟はできたのか。
不意にそんな問いかけがなされた。
ルフスは内心ドキリとするが、迷いは一瞬で吹き飛ぶ。
自信なんてまだないけれど。
それでもやると決めた。
「ああ、だからどうか力を貸してくれ」
与えられた役目を果たすことも。ティランを助け出すことも。自分で考えて、自分で決めた。
もう流されるばかりではない。
頼りなくても、自信を持てなくても、それでも自分の足で立っていたいから。
自分の意思で前に進みたいから。
強がりだって構わない。
みっともなく転んでも。
ただ自分を恥じるような人間にはなりたくないと、そう思う。
柄を強く握れば、それはルフスの手にしっくりと馴染んだ。
頭上に掲げ、その名を呼ぶ。
「べルミオン」
呼応するように剣が大きく震え、微弱だった光がどんどん強くなる。
剣がルフスに語りかけてくる。
さあ、思う存分に我を振るうがいい。
闇を切り裂き、その光で道をさし示すのだ。
ルフスは内に響く声に従って、輝く刀身を振り下ろした。
一緒にいたはずの山吹はいない。
直前のことは、しっかりと記憶にある。
砂埃舞う荒野を進んだ先に見えてきた大穴。穴というよりは、まるで大地にできた切り傷のような、裂け目という呼び方の方がしっくりくる気がした。
見渡せる場所に目的の剣は見当たらず、山吹も詳しくはわからないと言う。
探し歩くうちに、何か音が聞こえた。
震え鳴り響く音は、波のごとく何度も押し寄せてきた。
ルフス殿?
近くにいるはずの山吹の声がなぜか遠く聞こえた。
音の方向へ歩くうちに、声が混じっていることに気付いた。
なんと言っているのかまではわからなかった。
耳慣れない響きの言葉。平淡で、でも謳っているかのようでもあって、そうだ、まるで。
ラータ。
あの人の魔法の詠唱で聞いた不思議な言葉に似ている。
そう思った瞬間、ぐらっと身体が揺らいだ。
ルフス殿!
驚いたような声。悲鳴に近い。
そんな大きな声出せるんだな。
そう思って。見上げた先に山吹がいて、その姿はあっという間に遠ざかっていった。
そうだ。
つまりここは大穴の中、地の底ということだ。
その割に体は無事らしい。痛いところもなく、ちゃんと動く。
音は今もずっと聞こえている。
地上で聞いた時よりもはっきりと。
呼ばれている。
相変わらず理解できない言語ではあるけれど、なぜだかそんな気がした。
足元さえ見えない暗さだったが、ルフスに恐れはなかった。
声の方向へ、また歩き始める。
まるで月と星のない夜のようだ。
暗闇を厭う者は多い。大抵のひとは暗闇に対して不安と恐怖を抱く。
けれどルフスはそうではない。昔からだ。
夜の闇は命ある者に静かで穏やかな眠りを与えてくれる。その深い黒色で包み込み、心と体を癒し、慈しんでくれる。
だから今も、ルフスは穏やかな気持ちだった。
一歩、また一歩と足を進める。
やがて見えてきたのは、薄く弱い光だった。
剣だ。
それは、山吹から渡された複製品と全く同じ形状をしていた。
ルフスは躊躇いがちに柄に触れ、握る。
すると、まるで紙が水を吸うように、頭の中に様々な情報が流れ込んできた。
剣が全てを教えてくれる。
五百年前、英雄と呼ばれた王と共に戦った剣は、本当はそれよりももっと昔、遠い過去に作られたものだった。王の前にもこの剣の使い手はいて、彼もまた英雄であった。闇を断ち、退け、人々を救った。
その名は、ベルミオン。
山吹から聞いた剣の名でもある。
彼はその光の力で世界に光をもたらし、邪悪なる者は消滅した。
それから長きにわたって世界は平和だった。
そして五百年前、再び邪悪なる者が現れ、世界は危機に見舞われた。彼の王もまた剣を手に戦った。だが狡猾なそいつは、王の弱みにつけこみ出し抜いて、彼を窮地に追い込んだ。
王の婚約者である姫君を影で唆し、憑りついて器とその魔力を得ていたのだ。
王は残る力全てを使って、姫君ごとそいつを封印した。
苦渋の決断であった。
今度こそ、あいつを打ち破る覚悟はできたのか。
不意にそんな問いかけがなされた。
ルフスは内心ドキリとするが、迷いは一瞬で吹き飛ぶ。
自信なんてまだないけれど。
それでもやると決めた。
「ああ、だからどうか力を貸してくれ」
与えられた役目を果たすことも。ティランを助け出すことも。自分で考えて、自分で決めた。
もう流されるばかりではない。
頼りなくても、自信を持てなくても、それでも自分の足で立っていたいから。
自分の意思で前に進みたいから。
強がりだって構わない。
みっともなく転んでも。
ただ自分を恥じるような人間にはなりたくないと、そう思う。
柄を強く握れば、それはルフスの手にしっくりと馴染んだ。
頭上に掲げ、その名を呼ぶ。
「べルミオン」
呼応するように剣が大きく震え、微弱だった光がどんどん強くなる。
剣がルフスに語りかけてくる。
さあ、思う存分に我を振るうがいい。
闇を切り裂き、その光で道をさし示すのだ。
ルフスは内に響く声に従って、輝く刀身を振り下ろした。
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