AT LONG LAST

伊崎夢玖

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第一章

side一縷 ⑲

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蒼とメールをしなくなって3年。
俺は異例の早さで主任になった。
今まで必死で仕事をやった。
残業のしすぎで倒れそうになったこともあった。
おかげで2週間の有給休暇を取ることができた。
普通に考えたら長すぎる有給で許可されないし、周りからはブーイングものだが、幸い周りからはゆっくり休んでくれと言われた。
そんなにひどい有り様だったのだろうか...。
この頃になると、何で蒼からのメールが減ったのか分かってきた。
蒼なりに誰にも文句を言わせないだけの実力を手に入れたかったのだろう。
留学を教えてくれた日、蒼は自立したいと言っていた。
敢えて知らない土地に身を置き、自分自身に苦行を強いる。
俺が近くにいたら、すぐ甘えてしまうから海外を選択してまで。
そこまでして手に入れたかった力。
今の俺なら、少しは分かる。
蒼から誘われた日、本当は蒼を俺のものにしたかった。
あの日蒼の全てが欲しかった。
でも、俺には蒼も俺自身も守れるだけの力がなかった。
力が欲しい。あの日以来何度も思ったことだ。
蒼が近くにいないだけで、弱気になって、なるべく蒼のことを考えないようにしていたから、今頃になってやっと蒼の思いを理解することができた。
遅すぎる。あまりにも遅すぎる。
こんなかっこ悪い俺だけど、今なら会いに行ってもいいだろう。
最近買った蒼への土産を胸ポケットに仕舞って、昨日あらかじめ予約していた飛行機に乗って蒼の元に向かった。
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