いばら姫

伊崎夢玖

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妊娠・出産

第五十三話

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二か月後。
桃の体調が崩れ、定期受診している病院で診察を受ける。
『おめでとうございます。ご懐妊です』
「……………っ!」
「……………っ!」
『予定日は二月下旬くらいですね』
それからいろいろ主治医に聞いて二人は診察室を後にした。
「ありがとうございました」
病院からの帰りの保の運転は今まで以上に安全運転だった。
「ねぇ、保さん…学校どうしようか?」
「桃は復学したいんだろ?」
「できたら…」
「それなら休学しておけばいい」
「学費…」
「そんな小さなこと気にするな」
「でも…」
「桃はこれから大きな仕事があるんだぞ?学校のことは気にしなくていい」
「ありがとう」
それからは大変な毎日が待ち受けていた。
桃は結構悪阻のひどい体質だったようで、ひたすら吐いてばかりいた。
少し食べられそうな時に消化のいいものを口にしても、吐き気が来ると全て戻してしまう。
なかなか食べられずにいたため、何度か入退院を繰り返した。
口から入れられないので、点滴で栄養を摂取している桃。
それを隣で手を繋いで見守る保。
高校の時の妊娠事件の時を思い出した保は少し胸が苦しくなった。
(俺が代わってやれたらいいんだけど…)
そう思っても代わってやれるわけもなく、虚しい思いだけが胸を支配した。
学校への通学には電車を使っていたが、お腹が目立ってくる頃からは保が毎日送迎した。
毎日の時間割はもちろん、休講や補講までも把握し、徹底して桃のサポートに尽くした。
社会で産休に入る三十四週頃になると、学校にも休学届を提出し、ゆっくり出産ができる準備を始めた。
ベビー用品は、保が少しずつ買ってきては桃に呆れられた。
でも、そんな空気感が二人は好きだった。
臨月になり、桃も母になる貫禄が出てきたのか、少し落ち着いてきた。
「保さん、パパになるんだから、もう少し落ち着いて」
「でも、そろそろ産まれる頃だろ?」
「予定ではね。早まったり、遅れたりもするんだし」
「だから落ち着いていられるかっ!」
「こんなのでパパになれるのかな…心配だよ…」
「桃が落ち着きすぎてるんだっ!」
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