転生勇者のやり直し

すもも太郎

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1章 転生勇者は追放される

第三話:泥にまみれた守護者、遅すぎた福音

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轟音と共に地下室の壁が崩れ、土煙の中から這い出した銀色の巨躯——『銀鱗の骸王』は、激闘の末にアルスが放った最後の一撃、アルスの膨大な魔力が込められた折れた黒鉄の棒による渾身の刺突に怯んだ。

「ギ、ギギィィッ……!」

魔物の硬質な甲殻を貫くことは叶わなかったが、その凄まじい魔力の衝撃波は内臓を揺さぶりコアを損傷させた。地下の主たる魔物は初めて出会う「天敵」の気配に本能的な恐怖を感じたのか、深手を負いながらも再び地底の闇へと逃亡していった。

ズズズズズズ・・・・

静寂が戻る。アルスの肩は激しく上下し、掌からは血が滴っていた。

「……逃げたか。仕留めきれなかったな」

「……どうして」

背後で蹲っていた少女が掠れた声で呟いた。

「どうして、あんな化け物相手に……私を置いて逃げなかったの?」

アルスは返事をせず、血を拭った手を差し伸べた。

「仕事だからな。……立てるか」

その後、アルスは約束通り少女を裏ギルドへ連れ戻した。
「商品」に傷がなかったことに安堵した隻眼の受付男は鼻を鳴らして1枚の金貨をカウンターに放った。

「やるじゃないか、小僧、だが報酬は初回だからこれだけだ」

「……構わない。それと、今夜だけでいい。どこか寝る場所を貸してくれ」

「ふん、贅沢を言うな。裏の馬小屋なら空いてるぜ。馬のクソの臭いに耐えられるならな」

アルスは文句ひとつ言わず、その汚れた藁の上で身体を丸めた。
かつて魔王を討伐し、天蓋付きのベッドで眠った勇者の魂。それが今、王都の片隅で馬の体温だけを頼りに夜露をしのいでいる。
だが彼を襲うのは怒りではなく、深い虚脱感だった。

翌朝。
太陽が王都の白亜の壁を照らし始めた頃、冒険者ギルド『琥珀の杯』に一人の男が足を踏み入れた。

身に纏うのは、一分の隙もない濃紺の官服。胸元には王宮魔導調査部の紋章が刻まれている。
その男、特級調査官のゼノスは神経質そうに眼鏡を指で押し上げると、受付の女性に冷徹な声をかけた。

「一週間ほど前から、この管区で異常な高密度の魔力反応が観測されている。……事前調査によるとアルスという名の冒険者らしいが、彼は今どこか?」

受付嬢は、王宮からのやや高圧的な賓客に顔を強張らせながらも、小馬鹿にしたような笑みを漏らした。

「ああ、あの『嘘つきアルス』ですか? 彼は昨日、虚言癖と無能を理由にクビになりましたよ」

「……今、なんと言った?」

ゼノスの目が険しくなり声が氷点下まで下がった。
受付嬢は震え上がり、隣にいたギルドマスターも慌てて割って入る。

「い、いや、事実なんです、調査官殿! あいつは『キング・ベヒーモスに襲われた』だの『古代龍を見た』だの、注目を浴びたい一心でデタラメを吐いては依頼を失敗し続けていたんですよ。そんなクズを置いておくわけには……」

「……ふぅ、愚か者共が」

ゼノスが冷徹に吐き捨てた言葉にギルド内が静まり返る。
彼は懐から、魔力分布を記した精密な魔導図(チャート)を取り出しカウンターにそっと置いた。

「この一週間、王都周辺に現れた特A級魔物の反応は、すべてこのアルスの座標と一致している。……彼の虚言ではないと理解してもらえたかな?」

「な……っ!?」

ギルドマスターと受付嬢が絶句する中、ゼノスは魔道図をそっと懐にしまった。

「それで、彼は今どこにおるのだ?」
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