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1章 転生勇者は追放される
プロローグ:覚醒
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アルスが16歳の誕生日を迎えた、冷え込む夜のことだった。
寒村の古ぼけたベッドで眠りに落ちたアルスの意識は、唐突に現実を切り離され、白銀の光が満ちる精神世界へと引きずり込まれた。
足元には波紋ひとつない水面が広がり、頭上には無数の星々が、まるで意思を持つかのように瞬いている。
「……また、この景色か」
アルスは呟いた。幼い頃から幾度となく見てきた馴染みのある断片的な夢。
巨大な魔王と対峙する己の背中。民衆の歓喜。そして、死の直前に感じた魂が磨り減るような虚無感。
『——ようやく、器が整ったようですね』
凛とした、けれどどこか残酷なまでに無機質な声が響いた。
光の渦の中から姿を現したのは、人の形を模した巨大で神々しい「何か」だった。その存在感だけで空間が歪み、アルスの魂が消し飛ばされそうなほどの威圧感が押し寄せる。
『かつての勇者よ。あなたの魂は再びこの世に生を受けました。世界は再び混迷を迎えようとしています。神の慈悲として、あなたに前世の資質——「勇者」を返還しましょう』
「待て……急にそんなことを言われても——」
アルスの拒絶は届かなかった。神と呼ばれた存在が指先を向けると、膨大な、あまりに膨大な黄金の熱流が彼の胸の内へと流し込まれた。
『今世でも力を振るいなさい。強き魂は、同時に強い魔を惹きつける。それがあなたの宿命(ギフト)です』
「……っ、が、あああああああッ!!」
魂を直接焼かれるような白銀の奔流。
アルスの背中に、かつての勇者の証である「聖痕」が刻まれ、同時に彼の魔力の波長が、世界の理を書き換えるほどの高周波へと変質していく。
翌朝。
窓から差し込む冬の陽光がアルスの瞼を叩いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
跳ね起きると同時に、アルスは自分の異変に気づいた。
身体が、重い。いや、逆だ。全身に満ち溢れる魔力が、あまりに濃密すぎて、空気が泥のように粘りついて感じられるのだ。
指先を少し動かすだけで、大気が微かに震える。視界は驚くほどクリアになり、壁の向こうを歩く虫の足音さえも聞き取ることができた。
(……夢じゃ、なかったのか)
鏡を見ると、そこには昨日までの冴えない農家の息子ではなく、鋭い眼光を宿した一人の戦士の顔があった。
身体の奥底から戦いを求める本能が疼いている。
「力を振え、か。……勝手な話だ」
(宿命だって……?強き魂は、同時に強い魔を惹きつけるなんて酷い)
アルスは自嘲気味に笑った。だが、この力を持ったまま、この狭い村で一生を終えることは不可能であることも理解していた。
何もしなくても、この魔力の匂いに惹きつけられた「何か」が、いずれこの村を襲うだろう。
「行くしかない、か。……誰にも迷惑をかけない場所へ」
「ごめん、父さん、母さん……王都に行ってくる」
彼は、物置に眠っていた錆びついた鉄剣を一本手に取ると、両親への置き手紙を書き、簡素な荷物をまとめて家を出た。
目指すは、王都の冒険者ギルド。
寒村の古ぼけたベッドで眠りに落ちたアルスの意識は、唐突に現実を切り離され、白銀の光が満ちる精神世界へと引きずり込まれた。
足元には波紋ひとつない水面が広がり、頭上には無数の星々が、まるで意思を持つかのように瞬いている。
「……また、この景色か」
アルスは呟いた。幼い頃から幾度となく見てきた馴染みのある断片的な夢。
巨大な魔王と対峙する己の背中。民衆の歓喜。そして、死の直前に感じた魂が磨り減るような虚無感。
『——ようやく、器が整ったようですね』
凛とした、けれどどこか残酷なまでに無機質な声が響いた。
光の渦の中から姿を現したのは、人の形を模した巨大で神々しい「何か」だった。その存在感だけで空間が歪み、アルスの魂が消し飛ばされそうなほどの威圧感が押し寄せる。
『かつての勇者よ。あなたの魂は再びこの世に生を受けました。世界は再び混迷を迎えようとしています。神の慈悲として、あなたに前世の資質——「勇者」を返還しましょう』
「待て……急にそんなことを言われても——」
アルスの拒絶は届かなかった。神と呼ばれた存在が指先を向けると、膨大な、あまりに膨大な黄金の熱流が彼の胸の内へと流し込まれた。
『今世でも力を振るいなさい。強き魂は、同時に強い魔を惹きつける。それがあなたの宿命(ギフト)です』
「……っ、が、あああああああッ!!」
魂を直接焼かれるような白銀の奔流。
アルスの背中に、かつての勇者の証である「聖痕」が刻まれ、同時に彼の魔力の波長が、世界の理を書き換えるほどの高周波へと変質していく。
翌朝。
窓から差し込む冬の陽光がアルスの瞼を叩いた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
跳ね起きると同時に、アルスは自分の異変に気づいた。
身体が、重い。いや、逆だ。全身に満ち溢れる魔力が、あまりに濃密すぎて、空気が泥のように粘りついて感じられるのだ。
指先を少し動かすだけで、大気が微かに震える。視界は驚くほどクリアになり、壁の向こうを歩く虫の足音さえも聞き取ることができた。
(……夢じゃ、なかったのか)
鏡を見ると、そこには昨日までの冴えない農家の息子ではなく、鋭い眼光を宿した一人の戦士の顔があった。
身体の奥底から戦いを求める本能が疼いている。
「力を振え、か。……勝手な話だ」
(宿命だって……?強き魂は、同時に強い魔を惹きつけるなんて酷い)
アルスは自嘲気味に笑った。だが、この力を持ったまま、この狭い村で一生を終えることは不可能であることも理解していた。
何もしなくても、この魔力の匂いに惹きつけられた「何か」が、いずれこの村を襲うだろう。
「行くしかない、か。……誰にも迷惑をかけない場所へ」
「ごめん、父さん、母さん……王都に行ってくる」
彼は、物置に眠っていた錆びついた鉄剣を一本手に取ると、両親への置き手紙を書き、簡素な荷物をまとめて家を出た。
目指すは、王都の冒険者ギルド。
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